が行さんHPがHDDクラッシュで更新不能になったのでとりあえずここに置いてみます。
なお、内容は今までテキストで発表していたものと同じです
ではどうぞ。


呪縛の戦士メイア
第1話 石の瞳と村娘

作者:flap

 かつて、この地には光と希望があふれていた。そう、あの日までは…
 あの日、何が起こったのかすら知るものは誰もいない。ただその日からこの地の中心である城の周りには暗雲がたちこめ、地には魔物が跋扈し、そして城を治めていた女王をはじめ、城と近傍にいた者は行方知れずとなり、何が起こったのか確かめるために城に向かった者も同様に二度と帰って来ることは無かった。
 ただあの日、何物かが女王の元を訪れ、女王を弑して城を奪ったのだという噂がどこからともなく囁かれるようになり、人々はそのすべての元凶であろう謎の存在を「魔王」と呼ぶようになった。

 そして、10年が過ぎた


「助けてっ!」
 荒れた街道を一人の娘が必死に駆けている、彼女を追うのは極彩色の羽根を持つ大きな鶏。もっとも、大きいと言っても尋常な大きさではない、人の背丈ほどの大きさで、顔は農家に飼われているような鶏では絶対にお目にかかれないような凶相、しかも蛇のような長い尻尾まである。これはコカトリスと呼ばれる魔物で、この化け物の恐ろしい点はその嘴で、触られた生き物はたちまちのうちに石に変えられてしまう。なればこそ娘も必死に逃げているわけだ。
 しかし、ただの娘と魔物では体力が違う、へとへとに疲れ果てた娘は足元の小石につまづいて転んでしまう。このまま魔物に襲われては娘は小石どころか石像と化してしまう、娘はもうすでに石と化したかのように迫ってくる魔物をなすすべもなく見つめていた。  しかし次の瞬間、轟音が鳴り響いたかと思うと魔物は脇へと弾き飛ばされる。
「お嬢さんっ!下がって!」
 娘が慌てて声の方を向くと道の反対側から煙を上げる燧石銃を片手に叫ぶ少年と剣を構えた女性が駆けて来るのが見えた。娘がはっとしている間に女性は置きあがろうとしている魔物に襲いかかり、目にも止まらぬ早業で魔物に切りつける、突如魔物は身をひねり新たな敵に嘴を突き出す。触れた者は皆石と化すコカトリスの嘴、しかし女性は恐れる様子も無くそれを左手で払いのけ、しかもその身に何かが起こる気配も無い、今までありえなかった事態に狼狽したかのように一瞬動きを止めた魔物だが、次の瞬間には倒れこんだままこの戦いを見守っていた娘の方へと向きを変える。女性がそれを止めようとすばやく魔物の尻尾を掴むと魔物は首を巡らせて彼女を睨み付ける。
 次の瞬間、あたかも魔物が自らの魔力をその身に受けてしまったかのように突如石に変わっていく。恐慌を起こしぶさまな鳴き声を上げながら石と化していく魔物は完全に石に変わった瞬間に剣の一振りで粉微塵にに打ち砕かれた。

「大丈夫?」
魔物を屠った女性が娘の方を向くと、娘はおびえたように後ずさりする。
「あーあ、メイアのせいですっかり怯えちゃってるよ。だから人前であれをやるのはやめた方がいいって言ってるのに」
いつのまにか近づいた少年が口を尖らせると、メイアと呼ばれた女性も言い返す。
「今のは仕方ないでしょう、それに加護というものはあなたが思っているほど都合のいいものじゃないのよ」
 それを無視して少年は震えながらへたり込んでいる娘に手を差し伸べる。
「お嬢さん、怪我はない?」
 娘はその手を見つめながらおずおずと尋ねる。
「あなた…だれ?」
「ぼくはアレニア、君の名前は?」
「…アイシャ」
 アイシャはアレニアの手を取ってようやく立ち上がるが、メイアが近づくと恐怖のためかびくっと震えて目を合わさぬよう慌ててうつむく。
「この人はメイア。ほら、顔見ても大丈夫だって。この人が魔法使うのは魔物相手の時だけなんだから」
「本当に大丈夫なの?」
「それはずっといっしょに旅してきたぼくが保証するよ。ね、メイア」
「ええ、私たちに危害を加えない限りはね」
「そんな事言うから怖がられるんだってば…」
「ねえアレニア。私達のような稼業はね、怖がられるくらいで丁度いいのよ。よく覚えておきなさい。…ところでアイシャさんはどこの村から来たの?」
「この道を少し行ったところです」
「それじゃ私達と同じ方向ね、また魔物が出たら困るからそこまで送ってあげるわ」
「…」
「どうしたの?」
「…お礼、言い忘れてましたね。…ありがとうございます」

 そして二人はアイシャを連れて、村へと向かった。ところがそこで見たものは黒山の人だかり。
「こんなことをする魔物がこの村にも現れるなんて…」
「宿屋のおかみさん、いい人だったのに」
「むごいことじゃ…」
「去年父親が死んだばかりなのにこんなことになるなんてアイシャちゃんも可愛そうに…」
 村人が口々に言い合う中、その中心にあるものを見たアイシャは駆け寄るとすがり付いて泣き出した。そこにあったのは何かに驚きつつ立ちすくんだポーズの美しい女性の石像。いや、魔物によって石に変えられたアイシャの母その人であった。
「この人もさっきのコカトリスに襲われたのかな?」
 アレニアがメイアに尋ねるとメイアは目を閉じその像をそっと掌で撫でて答えた。
「これはバジリスクね…こんな村に石化獣が2匹も出るなんて」
 そしてその頃になると周りの村人も二人の存在に気づきはじめる。
「あら、旅の人がいるわ」
「女と子供か、その割にはずいぶん強そうだな」
「なあ、退治屋とかならいいけど…まさか人買いってことはないだろうな」
「しっ、聞こえるぞ」
「もしかしてアイシャが連れてきたの?」
 村人たちが口々に噂する中、村の顔役とおぼしき男が二人に近づいてきた。
「さぞや名のある退治師とお見受けしましたが」
「名はともかく腕の方はあるつもりですよ」
 答えたのはアレニアだ。
「旅の途中で申し訳ないが、このようなことをする魔物がこの村に現れて我々はたいへん困っている。手を貸してはいただけないだろうか」
「うーん、こちらも急ぎの旅ですから…礼金にもよりますね…」
「金ならここに金貨10枚、女王の時代の混ぜ物のない正真正銘の金ですよ」
「でも人をこんな風にする魔物、確かに一度倒したことはありますがとてもやっかいな相手でしたよ。20枚は頂きたいですね」
「そんな殺生な…、この村も他の村と同じように「あの日」からは食うにも事欠くありさまです…せめて12枚で」
「こちらは命がけなんですよ。18枚は頂かないと割に合いません」
「命がかかってるのは我々も同じです…14枚なら…」
「いや、16枚」
「15枚で」
「15枚と銀で60」
「アレニアさん、15枚とこの村にいる間の宿代でお願いします」
 脇からの声にアレニアと男がそろってそちらを向くとアイシャが訴えるような目つきでアレニアを見つめる。
「しかしおまえ一人でどうやって…」
「いえ、宿屋はわたし一人でなんとかしてみせます」
 アレニアが横目でメイアを見るとメイアも諦めたように軽く首を縦に動かす。
「ええ、それじゃ15枚と宿代で引きうけましょう。それと三分の一…いや、6枚は前金でお願いしますね」
 かくして二人はしばらくこの村でバジリスク狩りをすることとなった。

 バジリスクとは8本足を持ち極彩色をした大きな蜥蜴の魔物で、目を合わせた者を石に変える魔力を持ち「石の加護」を身につけたメイアはともかくアレニアには非常に厄介な相手だ。今回の仕事、アレニアは最初からメイアをあてにしていたしメイアもそのつもりでいた。それでも別な魔物が現れないとも限らないので二人は連れ立って村近くの山野をバジリスクの姿を求めて歩き回ったが一日目、二日目とまったく収穫は無かった。
 そして宿屋に戻ると、アイシャと、さらに彼女だけで手が足りないときは近所に住むアイシャの友人のエルミという娘が世話をしてくれる。おとなしいアイシャと元気なエルミの両方に二人は好意を抱いた。ただ、メイアは時にアイシャが何か妙にアレニアを気にしたり、あるいはひどく辛そうにしていることに気づいたが、よく田舎者が旅人に抱くかなわぬ恋だと思って下手に口出ししないことにした。

 そして三日目も何も起こらぬまま暮れかけてきて二人は村に戻ろうとしていた、道の脇の畑では農家の娘が二人畑仕事をしている。ふと見てみるとアイシャとエルミだ。アレニアが声をかけるとアイシャはエルミの家の畑が魔物に荒らされてしまったので手伝っていると答え、エルミは少々恥ずかしそうにうつむく。
 実際「あの日」以来明らかに農民の暮らしは厳しくなってきていた。城を覆う暗雲が広がっているのか畑の実りがかつてより少ない一方で領主に納める年貢は年々上がって行く。領主同士の揉め事が増え、魔物がかつて以上に跋扈しているのに今まで揉め事を収めていた女王の法廷も魔物を退治していた女王の騎士団も存在せず、金で兵を集めさらには退治屋を雇わなければならない領主も大変なのだろうが、だからといって年貢を奪われる農民には何の慰めにもならない。さらに魔物に畑を荒らされてしまってはもはや暮らしていくことすらままならぬであろう。
「ところで畑を荒らした魔物はどうなったの?」
 ふと気になったアレニアが尋ねる
「それがまだ見つからないの。それになんだかいつも荒らされてるような…」
 それを聞いたメイアが畑に足を踏み入れて剣を抜き荒らされてなぎ倒された麦と泥の固まりを突くと、その中に何か手応えを感じる。
「アレニア!二人を連れて逃げて!魔物はこんなところに巣を作ってたわ!」
「分かった、魔物は頼む!こっちに逃げるぞ!」
アレニアは手を取り合って震えている二人の娘の手を引いて走り出す。と、少し行った所で突然エルミの歩みが止まった。
「どうした、早く!」
「あ…、あれ。…見ちゃ駄目!」
 エルミが叫ぶと同時にアレニアとアイシャも道の上にいる極彩色の魔物を見つけて慌てて目をそらす。エルミを見ると足の方から少しずつ石と化してきている。
「アイシャ、エルミ、目を閉じるんだ!メイア、こっちにもいる!」
 アレニアは呼んだがメイアは最初に見つけた方の魔物に剣を振るって戦っている途中だ。バジリスクはその瞳を別としても毒の牙を持つ手ごわい魔物でこちらに来る余裕はない。幸い燧石銃には火薬も弾も入れているものの相手を見られないのでは狙いがつけられない。それでもアレニアは目を閉じ、銃の打ち金を起こして魔物のいる辺りに向ける、魔物がじりじりと近づいてくる気配が目を閉じても伝わってくる。
 エルミの体は少しづつ石になっていく。このままじゃ…意を決したエルミは、銃を構えたまま何もできないアレニアに声をかける。
「退治屋さん、狙いは私がつけるわ。」
「え、でも」
 慌ててエルミの方を向くと、もう腰まで石になっている。
「お願い、私がまだ生身のうちに」
「分かった。これで見える?」
 エルミの意図を察してアレニアは銃がエルミに見えるように持ち直す。
「もう少し上」
「わかった」
 エルミの言う通りに少しづつ銃の向きを変える。
「そしてちょっと右…そこ!」
 アレニアはエルミの言う通りに銃を動かし、引金を引く、狙いはあやまたず弾丸は魔物の眉間を貫く。しかし、エルミの石化は魔物を倒しても止まらない。
「エルミ、すまない。僕のせいでこんなことに」
「いえ、退治屋さん…、私のかたきを…討ってくれて…あ・・・り・・・」
 すべて言い終わる前にエルミは完全に石と化してしまった。唯一の救いは彼女の石と化した顔に安堵の表情を浮かべていたことであった。
「エルミ!…ああ…こんなの…いやっ!」
 ようやく目を開けたアイシャはエルミの身に何が起こったのか知ると泣き崩れてしまう。
 巣にいたほうの魔物を倒したメイアは手に黒い玉を何個か持ってこちらの方に来ると、もう一匹の死体を横目で見て後悔したようにつぶやいた。
「巣を見つけたときにつがいだと気づいていれば…」
 メイアが持つ黒い玉は魔物の卵であった。

 魔物がつがいで現れ、しかも村の畑に巣を作っていたという事実に村人は仰天し、エルミの両親は娘が石にされたと聞いて非常に口惜しがった。それでも礼金は滞り無く支払われ、メイアとアレニアは一晩泊まって翌朝この村を発つことにした。
 そしてその晩、突然アイシャは思いつめた様子で宿のアレニアの部屋に入ってきた。
「ねえ、アレニアくん」
「どうしたの、アイシャ」
「ね、これを見て…」
「ああっ!?、ちょっと待てってば!?」
アレニアが止める間もなくアイシャは服をはだけ始める。アイシャが胸を露わにしたのを見てすっかり真っ赤になったアレニアだが、アイシャが胸のふくらみの上の方を指で示すとさらに顔色を変える。
「これは、まさか…魔王の烙印!?」
「やっぱりアレニアくんにはわかるのね…そう…これが現れてから魔物がこの村…いや、私を襲うように…母さんもエルミもみんな私のせいで…」
 そこまで喋るとアイシャは泣き出してしまった。アレニアは彼女をなだめながらも胸の奇妙なあざのようなものをもう一度確認する。

 魔王の烙印、これも「あの日」以来この地を襲った悲劇の一つだ。犠牲者の体に妖しい文様が現れると、魔物に襲われて美しくも無残な最後を迎える事になる。そしてそれが起こるのは美しい乙女ばかりのため、人々の間では「魔王」が娘を生贄にするためにしていることだと信じられていた。そして、この文様にいくつかの決まった「形式」があり犠牲者はそれに応じた最後を迎えるということが幾多の犠牲者を観察した結果明らかになった。
 そして、アイシャの胸に現れた文様は彼女の最後が石に変えられることだということを示していた。

「ね、だから私はもう誰かが私の巻き添えになるのを見たくないの…それならいっそのことメイアさんの魔法で…」
 アイシャはしゃくりあげながら喋りつづけたが、突然アレニアを真剣なまなざしで見上げるとこう続けた。
「でも、私…アレニアくんのこと好きになっちゃったみたいだから…最後の思い出にアレニアくんに…」
 そこまで言うとアイシャはいきなり抱き着こうとする。思ってもいなかったことに慌てたアレニアはアイシャを押しとどめながら慌てて今までメイアにも隠していたことを告げる。
「ちょっ…ちょっと、アイシャっ。ぼく、本当は女の子なんだよ」
「それでも…それでもいい。これが最後だし…それにアレニアくんの事本当に好きなの」
 アイシャに気圧されてアレニアが力を緩めるとアイシャは目を閉じて唇を重ねる、そしてアレニアはアイシャを柔らかく抱きしめるのだった。

「確かに「魔王の烙印」ね。分かったわ、あなたが望む通り楽にしてあげるわ。」
「はい、メイアさん。お願いします」
「ちょっ…ちょっと!二人とも本気なの!?」
 その後、アレニアはアイシャを連れてメイアの部屋を訪れた。アレニアはメイアならアイシャを思いとどまらせる事が出来るものとばかり思っていたが、メイアはアイシャの体に浮かぶ文様を見ると、アイシャの頼み通りに彼女を石化させようとしたからアレニアはすっかり慌ててしまった。
「ずっと石になった時の姿が残るから綺麗な格好をした方がいいわよ」
「いえ、このままでいいです…ただ、できればアレニアくんに抱いてもらいながら…」
「あら、アレニアもすみに置けないわね」
「メイア!そんなんじゃないってば!」
「あらあら、そんなに照れなくても…。それじゃそこに立って、そうね…アレニアは後ろからの方がいいわ…そう。あ、石になったら重くなるから体を真っ直ぐにして」
「アイシャ、エルミのように本当に石になるんだよ!元に戻れないんだよ!」
「アイシャさん。アレニアが言う通り一度石化したらもう戻れないわ。それでもいいのね」
「はい。この烙印があるかぎりいつかはそうなるのだから…今ここでアレニアくんに見守られながら石になれれば」
「アイシャ…」
「それじゃ始めるわよ。巻き添えにならないようにアレニアは目を閉じて。さあ、アイシャ、私の目を見るのよ」

 アイシャはまっすぐに立って胸の前で祈るように手を組み、アレニアは後ろからその手の上に自分の手を重ねて抱きしめる。
 メイアはアイシャの瞳を真っ直ぐ見つめながら自らの力に対する心の抑えを少しづつ緩めていく。自分の力なのになぜその時々によって石の色や種類が変わるのかも、なぜ足から石になるのかも、なぜ服まで一緒に石になるのかも分からないのは我ながら情けない…ふとそんな事がメイアの脳裏に浮かぶ。
 アイシャは穏やかな表情を浮かべたままでじっと動かず少しづつ白っぽい石へと変わってゆく。と、首を巡らせて後ろから彼女を抱きしめるアレニアにふと語りかける。
「ね、アレニアくん。わたしエルミのことがちょっと羨ましかった、アレニアくんと一緒に戦えたのだから。でもさっきも今こうしてアレニアくんに抱いてもらえるんだからそんな事言っちゃいけないね」
 そう言うとアイシャはまた前を向いて少し目を細めて軽くうつむく。最後に何か言おうとしたのかわずかに唇を動かしたところで唇が固まってしまう、瞳が周りに飲みこまれていくように白く色あせていく。
 アイシャが最後に見たのはメイアが静かに見守っている姿だった。アレニアの姿は見えなかったが体に伝わってくる温もりはそれ以上に嬉しかった。そしてアイシャはその温もりの中で静かに長い長い眠りへと落ちていった…

「…ほかに方法は無かったの?」
 アレニアは石像と化したアイシャの温もりが無くなるまでしばらく抱きしめていたが、そっと手を離すとメイアに向かってそう呟く。しばらくの沈黙の後メイアは答える。
「ねえ、アレニア。烙印を背負って生きるというのはとても辛いことよ。むしろこうして眠っていた方がいいのかも知れないわ」
「でも…」
 またしばらくの沈黙の後、メイアは今度は決然と言う。
「アレニア、すぐ荷物をまとめて。夜のうちに出発するわよ」
「え、どうして」
「私達にはまだやらなきゃならないことがたくさんあるわ。それにこれ、誰が見ても仕事をしくじったように見えるじゃない、ばれたら面倒よ」
「わかった、すぐ支度する」
 アレニアはアイシャの像の前に立って「さよなら」と小さく呟くと自分の部屋に戻っていった。

 そして次の日、錬金術の都へと向かう街道を二人は前夜の疲れをこらえながら歩むのであった。


エピローグ
ニ週間後、村の宿屋にて。

一人の美しい女が宿屋に入ってくる。

「やあいらっしゃい。こりゃまた別嬪なお客さんだね、いやいやお世辞ではなく本当さ」
「…ところで前来たときにいたおかみさんはどこ行ったかって?話せば長い話になるんだけど魔物に襲われて石にされちまってね。それで退治屋を雇ったのはいいけどあいつら人の足元見て15枚もぼったくりやがる」
「…え、それでうまく行ったのか?それが退治の最中に農家の娘が一人石にされたし、2匹も退治したからもう大丈夫だと思って礼金出したらその晩にもう一匹出てこの宿屋の娘までやられちまって退治屋の方は金持って夜逃げしちまった、まったくこの村の女が綺麗な方から3人やられちまって勿体無いったらありゃしない、それでこの宿屋の後継ぎを決める寄り合いがまた大もめだったんだが、結局退治屋に直接金を渡した俺がここにこうしているわけさ」
「…その一匹はまだその辺うろついてるのかって?はは、それが傑作でおたくの来た方の道に変な石がごろごろ転がってただろ、どうもそれが奴の慣れの果てらしいんだ。ま、天罰って所だな…」
「…え、それで石にされた3人はどこにいるって?とりあえず葬式はやったけど運ぶのが面倒なんで聖堂に置きっぱなしにしてる。そのうち埋めてやらなきゃならんな」
「…え、欲しいって?まさかあんた人買いかい…え?石像を買うのに何かやましいことがあるのか?参ったね、こりゃ。そうだねえ、宿屋は一応俺のものだから前のおかみさんと娘の像はその値段で売ってもいい、もう一つはそこの3件めだからそっちに行っとくれ。…まあこの前「今年はとうとう人買いの世話にならんと冬が越せん」とかぼやいてたから大丈夫なんじゃないか?」
「…おっと、くれぐれもこっそりやってくれよ。この宿屋は人買いと手組んでるなんて言われちゃたまらんからな」
「…なんだ、もう行くのか。せっかくだから泊まって行けよ、安くしとくからさ」


作者ノート

 彫刻家セリアをほっぽり出しての新シリーズ、セリアさんの復讐が怖いです^^;;
 今度はメインキャラが二人なので掛け合いだの何だので字数を稼げるのが楽でした。
 ちなみに退治屋というのはこの世界での「冒険者」にあたる称号です。この辺のしょうもない設定は色々あるのですがそのうち出てくると思います。
 最後に美少年ファンの皆様へ。…いくら私でも「アレニア君」で許してもらえるとは思ってませんのでご安心を^^;;