Medusa's Throne ああ、もうどれくらいこうしているのだろうか…  古代の玉座に捕らえられ、手足の指の先からじりじりと石と化してゆく…  もし石と化した場所に触れれば玉座と同じように冷たくざらっとした感触がするのだろうが、手はすでに両方とも石と化してしまい確かめることはできない。足を包むサンダルも足とともに石と化してしまっている。石に変わっている間はしびれるような感触を感じていたが、もう手にも足にもまったく感覚すらない。  そのままそれが胴体や頭にまでまで進んでいき、私は頭の天辺からかかとまで冷たい石くれと化してしまう…変わっていくときはそう思っていたのだがいつのまにか変容は止まってしまった。腿と二の腕は半ば石、半ば生身の奇妙な色合いのまま…。  そしてそれからずっと…恐らくは一週間ほど私はずっとこのまま玉座から一歩も動くことなく座りつづけていた。  奇妙なことに腹が減ることも用をもよおすこともない。ただ息を止めると苦しいし、しばらく経つと眠気を感じ、そのうち座ったままで眠ってしまい、そしてまた目が覚めるので私そのものが人と石の半ばの状態なのだろう。  先ほど恐らくは一週間と言ったが、正確な時間は分からない。正体の分からない、恐らくは魔法…私を石に変えかけているような…と思われる光が常に上から照らされていて昼も夜も分からない。もしかしたら数時間しか経ってないのかも知れないし、あるいは何週間、何ヶ月…もしかしたら何年も過ぎているのかもしれない。  そこから目を下に向けると私と丁度向かい合うようにもう一つ、私が座っているのと同じようなものと思われる玉座があり、そこには私と同じようなサンダルを履き帽子をかぶった、恐怖したような表情の少女の像があった。  目は大きく見開かれ口は少し開いたままで、首は少しうつむき加減、目が石になっているので瞳が何を見ていたのか分からないが首の加減を考えると下目使いで自分の手を見つめていたか、さもなければ目の前に誰かがいて上目でその人を見つめていたのかもしれない。  何にせよ私と違って途中で止まることなく石に変わってしまったことだけは確かだ…  そんな事を考えているうちにまた睡魔が私を襲ってくる、始めは眠っている間に何かが起こったらと思ってできるだけ我慢をしていたが、今では何の抵抗も無く眠りに落ちていく…  ……夢の中ではいつのまにか私は完全に石像と化していて、逆に目の前の少女が先ほどの私のように半ば人、半ば石の姿でじっと座っている… 「ねえ、石になるってどんな気分…?」  何度も私が彼女に呟いた言葉を彼女が私と同じように呟く。もちろん私の時がそうであったように答えはまったく無い…  …やがて私の石像は石に変わるときとまったく逆の過程をたどって生身へと戻って行く。私は立ちあがって彼女を見下ろすと、彼女も上目遣いに私の方を見、そして互いに見詰め合う。少女が私に何かを言おうとした瞬間、夢は終わりを告げた…  夢を終わらせたのはどこからともなく響いてくる足音。私が石に変わり始めてから始めて感じる人の気配。 「誰か…!」  私の叫びを聞いたかどうかは分からぬが足音は間違い無くこちらに近づいてくる…。  助けて…。もしそれがかなわぬならせめて私も…… おわり