魔法少女達のその後 プリンセスユミ

作:牧師


ルピナが水晶男爵を倒し、二年が経っていた。
精霊化が進んだルピナは混乱を避ける為、妖精界で暮らしはじめ、街に襲い来る
人型魔族をプリムの情報でユミが一人で倒し続けていた。

「それで終わりか?このエリアの魔法少女も、たいした事は無いな」
ユミの目の前で鎧に身を包んだ魔族の男が、余裕の表情で見下していた。
「まだ・・・、戦えますわ、マジカルブラスター」
少女の手の平から眩しい光りの帯が放たれた。
魔族は盾を構え、光の帯をユミ目掛けて弾き返す。
「きゃあぁあ」
ユミは自ら放った魔法に吹き飛ばされ、地面を転がった。
「水晶男爵を倒したうちの一人と聞いていたが、聞き間違いか?弱すぎだ」
魔族の男の名はクレリユース、騎士格の魔族だった。
「勝てるならこの少女達を返してやると言っておるのだ、力の出し惜しみは無しだぞ」
クレリユースの後ろには驚きや困惑の表情で、色とりどりの宝石像や石像に変えられた
数十名のクラスメイトが並んでいた。
「皆は私が助けて見せます、マジカルスーパーノヴァ!!」
全ての力を集約して放つユミが使える最強の魔法だった。
ユミの前に光り輝く球が現われ、輝きを増すと一気に弾け、辺りを白く染め上げた。
「はぁ・・・はぁ・・・。これが駄目なら・・・もう・・・。お願い倒していて」
光が晴れると、そこには無傷のクレリユースの姿が現われた。
「今のは目くらましか?追加で何か来るかと構えていたが、拍子抜けだ」
ユミは圧倒的な力を見せ付けられ、恐怖でガクガクと膝が震えていた。
「私にも皆を守る力が欲しい・・・」
神界の指輪の力を引き出しているユミには、現在の力が最大だった。
「よく戦った方だ、他のエリアの魔法少女とやらは話にもならなかったのだからな」
クレリユースはユミの前に四箇所で、十人の魔法少女達を宝石像に変えていた。
「では宝石に変えてやる、その紅いドレスより紅い、輝くルビーに変わるが良い」
クレリユースは床に座り込み力無く項垂れたユミに手を翳し、真紅の光で全身を照らした。
「体が・・・赤く透き通って・・・、ルビーに・・・皆・・・ごめんなさい・・・」
瞳から零れる涙が、次々にルビーの粒に変わり床に跳ね返りコンコンと音を立てていた。
長い金色の髪も、小さな王冠も、真っ赤なドレスに以上に紅く透き通っていく。
肩に掛かっていた髪の毛の束の一部が、急な重量増加の為、勢いをつけ肩から滑り落ちた。
豊かな胸も白く長い足も、硬く冷たい真紅に輝くルビーに変わって行った。
『ルピナちゃんごめんなさい、私だけではこの街を守れませんでしたわ』
最後に一際大きな涙が、ユミの瞳から零れ落ち、大粒のルビーに変わり床で跳ね返った。
ユミの大きな瞳が真紅に染まり、輝くルビーへ変化してその光を完全に消した。

「では次のエリアに向かうか、魔界の指示とはいえ弱者を甚振るのは性に遭わんわい」
その時ひずみが激しく揺れ、一人の男が姿を現す。
身長は百九十センチ、やや細身の体からは凄まじいほどの気迫が伝わってくる。
身に鎧も纏わず、剣などを持つ訳でも無く、構えも無くクレリユースに歩み寄ってきた。
「この周辺の魔法少女達を襲っているのは貴殿か?気配から高位の魔族と見受けるが
 弱いもの虐めをして楽しいのか?」
男は涼やかな表情で話しかける。
しかしその全身から発する力はクレリユースでさえ畏怖していた。
「わたしの名はクレリユース、魔界の騎士格を持つものだ。貴殿の名を聞いておこうか」
クレリユースは男に名乗り、男にも名を名乗るよう促がした。
「俺の名前は鳳神、鳳神輝樹(オオガミコウキ)だ」
「約束して貰おうクレリユース、俺が勝つか貴殿が敗北を認めたなら、この少女は勿論
 この周辺で石に変えた少女達も元に戻すと。魔界の騎士なら約束は違えまい」
輝樹はクレリユースに堂々と言い渡す、クレリユースもその態度が気に入り快諾した。
「良かろう、このクレリユース、一度交わした約束は違える事無し。行くぞ!!」
クレリユースは二メートルはある巨大な剣を軽々と操り、輝樹に斬りかかった。
輝樹は素手のまま、斬撃を次々にかわし、クレリユースの隙を突き一瞬で懐に飛び込むと力を込めた掌でクレリユースを弾き飛ばす。
「なにっ!!」
クレリユースは驚愕したが、後ろに一回転し、即座に体勢を整え、輝樹に向け剣を構えた。
「流石に魔界の騎士。この程度では音を上げないか」
輝樹の体が一瞬、光り輝くとクレリユースの視界から完全に消えた。
時間も光速も超え、刹那の時間にクレリユースの体に数十発の拳を叩きつけ、宙に浮かせる
輝樹は更に空中で蹴り飛ばし、クレリユースの巨体がユミの近くに吹き飛ばされた。
「ぐはっ、時間と空間を超えた攻撃か!!」
流石に騎士格のクレリユースは、輝樹のこの一撃で自らが勝てない事を悟った。
「ワシの力では勝てぬか、これほどの男がこんな所に居るとはな・・・」
クレリユースは盾と剣を投げ捨て、ユミ達に掛けた魔法を解き、少女達を解放していった。
「輝樹、これで約束は守った、さあこの首を取るが良い」
輝樹はクレリユースの肩に手を置くと、静かに話しかけた。
「誓ってくれるか?この世界で人を手に掛けないと。誓って貰えるならこの世界に留まるも
 魔界に帰るのも自由にしてもらって良い」
輝樹の言葉に元に戻ったユミが抗議の声を上げる。
「納得いきませんわ、この人は魔族ですのよ。此処で倒して置くべきです」
ユミが残り少ない力を振り絞り、手に光球を生み出すと、輝樹はユミに近づき頬を張った。
「いい加減にしろ。魔族も親族も人間も妖精も住む世界と常識が違うだけの同じ生き物だ、
 考えや常識が違うなら話し合えば良い、俺が振るうのは殺す為の力では無く、
 話し合うための力だ」
輝樹はユミからクレリユースに視線を移し、再び話しかけた。
「無礼を許して欲しい。先ほどの答えも聞いて置きたいのだが」
輝樹の態度にクレリユースはある事を心に決めた。
「輝樹殿、貴殿の態度このクレリユース感銘を受けた、以後人には手を出さない事を誓おう」
光りの輪がクレリユースの体を包み、その体を魔界に移動させ始めた。
「輝樹殿もう逢う事も無かろう」
そう言い残し、クレリユースは魔界に帰っていった。
「先ほどはすまなかったな、感情にまかせ、頬を張ってしまったが痛くなかったか?」
輝樹はユミに優しく微笑み、その手を取った。
「お・・・女の子の顔に手を上げたのですから、きちんと責任を取って下さいね」
顔を真っ赤にし、ユミは輝樹にそう話しかけた。

ユミにとってルピナに代わる、新しいパートナーの誕生した瞬間だった。


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