お化け屋敷

作:牧師


「きゃあ」
遊園地のお化け屋敷で、飛び出して来た作り物のミイラに夏美は驚いた。
「こんな子供だましに驚くなんて、夏美は怖がりだな」
友達の優子は怖がる夏美を、楽しそうに眺めていた。
「まあそこが夏美さんの良い所ですわ、きゃっ」
そう言いながらミナミも、突然鳴り響く雷音に悲鳴を上げる。
「ミナミも人の事は言えないじゃない、やっと出口が見えてきた」
目に涙を浮かべ怖がっていた夏美は、出口が見えた事を喜んだ。
「もう終わり?物足りなかったよね」
一人優子だけは、平気な顔で不満そうにいった。
外に出ると夏の日差しがやけに眩しかった。
薄暗いお化け屋敷から出てきたことが、眩しさに拍車をかけているのだろう。
「どうでしたかな?」
お化け屋敷の係員なのか、シルクハットを被った、背の低いおじいさんが、
三人に話しかけてきた。
「怖かったです。こんなに怖いお化け屋敷初めてです」
夏美が感想を言うと、おじいさんは満足そうに頷いた。
「まあまあですかね?もう少し音だけでなく、仕掛けに凝って欲しかったですわ」
「そうそう、だからここはあまり人気ないんじゃない?他にお客いないでしょ?」
ミナミと優子は少し不満そうに言った。確かに周りには誰も人が居なかった。
「ふむ、では特別にこのDVDを差し上げよう、恐ろしい映像が満載じゃよ」
おじいさんは一枚のDVDを取り出すと、三人の前に差し出した。
「え?いいの?サンキュウ」
優子が嬉しそうにそのDVDを受け取ると、夏美は少し泣きそうだった。
「怖いのはもう良いよ、見るなら二人で見てよね」
「夏美さんはもう少し、怖いものになれた方が良いですわ、
 帰ったら一緒に見ましょうね」
夏美の反応を楽しむように、ミナミと優子はクスクスと笑っていた。

「あのお化け屋敷、遊園地の地図に載ってない気がする」
ミナミの家に着いた夏美がパンフレットを見て、その事に気が付いた。
「だから他に誰も居なかったんですね。発見した人だけ楽しめる、
 秘密のアトラクションなのかもしれませんね」
シャッと音を立てミナミがカーテンを閉める。少し部屋が暗くなった。
「怖いビデオを観る時は、部屋を暗くしないと面白くないよね」
優子もミナミとは別の窓のカーテンを閉める、部屋はさらに暗くなって行く。
「ここまでやらなくても良いよ、観るなら早く観ようよ」
部屋を暗くしただけで、夏美は目に涙を浮かべていた。
「それでは鑑賞会を始めましょう、はい、スタートです」
ミナミがDVDの再生ボタンを押すと、テレビに怪しい魔法陣が浮かび、
音楽が流れ、映像が始まる。
「きゃああっ!!」
最初に映ったのはミイラ男の映像だった。
遊園地の時のようにただ飛び出すのではなく、棺桶から這い出してうごめく姿が
リアルに演出されていた。
「凄い凄い。遊園地のミイラとはレベルが違うな」
「本当ですね、無料で貰ったのは、悪いような気もしますわ」
次に画面に映されたのは狼男だった、顔が人から狼に変わっていく姿は
作り物とは思えない迫力だった。
「まるでハリウッド映画のワンシーンみたいですね、凄い技術ですわ」
ミナミが感心して呟いたが、夏美も、優子も画面に釘付けになっていた。
続いて、ドラキュラ、ゾンビ、フランケンシュタイン、ドラゴンと
定番の怪物が次々に画面に映る。
「今のドラゴンも凄い迫力。まるで本物みたいだ・・・」
始めは面白がっていた優子も、その迫力に圧倒されていた。
「次は何だろう?」
画面が切り替わる、夏美は怯えた表情で、ミナミと優子はワクワクした表情で、
映し出されたものを直視した。
「あ・・・」
三人の目に飛び込んできたのは、蛇の生えた頭の映像だった。
それがゆっくり夏美たちの方に向くと、彼女達の体は灰色の石へと変化していった。
部屋にはパキパキと、三人の体が服ごと石になって行く音だけが響いていた。

「この夏美と言うお嬢ちゃんには、少し悪い気がするがな」
三人の石像の前に立っていたのは、お化け屋敷で優子にDVDを渡した老人だった。
「このお嬢さん方は、これでも恐ろしくなかったのかのう?」
ワクワクした表情のまま石になった、優子とミナミの表情を見て老人はそう感じた。
「まあ良い、DVDは返して貰うとするか。次は誰が受け取る事やら」
DVDを取り出すと老人は煙に巻かれて消えていった。
三人の石像も一緒に消え、部屋には誰も残らなかった。

数日後、遊園地のお化け屋敷には、新しい部屋が出来ていた。
そこには作り物のメデューサの前で、石像に姿を変えた夏美たちが展示されていた。
この遊園地にお化け屋敷は、本来存在しないのだが・・・。
偶然、迷い込んだ二人組みの女の子が、またお化け屋敷に足を運ぶ。
彼女達の運命を知るものはまだ居ない。


戻る