石獣退魔聖戦 第四話 石獣の脅威

作:牧師


純白の聖女の霧愛と美鈴が石獣に敗れて三日後。

祓い衆の巫女達と、純白の聖女のメンバーが社務所の一室に集っていた。
集ったのは祓い衆の桜宮天音、清音姉妹、神島結衣、高清水優菜、絹川光の五人と、
純白の聖女側の神代杏樹、和崎樹里、クリス・ウッドの三人だった。
杏樹は祓い衆との共闘に苦悩したらしく、その表情は憔悴していた。
「此処はお互いの持っている情報を全て公開して石獣に対する対策を練りましょう」
天音は杏樹達に現時点で祓い衆が知りうる全ての石獣に関する情報を告げた。
「蜘蛛型の石獣にイソギンチャク型の石獣・・・、能力や強さは良くわかったわ。
 青い触手を使う蜘蛛型の石獣が詩音を石に変えたのね」
杏樹は瞳に復讐の炎を滾らせ、一言だけ呟いた。
「では私達の持つ情報を・・・」
怒りで震える杏樹に変わり、クリスが石獣に関する情報を話し始めた。
その中には純白の聖女側が、天音達祓い衆には極秘にして来た話も含まれていた。
「棺型石獣と人型石獣の存在にそんな秘密が・・・」
棺型石獣、再生速度や攻撃方法だけでも脅威だったがクリスの話では、石獣が選んだ
一人の女性を棺中央に取り込み、時間をかけて石獣に変える能力がある事がわかった。
「それが棺型石獣の真の脅威と、人型の石獣が生まれる秘密か・・・」
天音の表情が曇る、良く見れば背中が少し震えていたかもしれない。
その後、双方の持つ武器の情報や犠牲者の話をして会議を終えた。
「そういえば杏樹、水晶像に変えられたのは美鈴さんだったかしら?彼女助かるわよ」
天音が発した言葉に、杏樹は驚き天音にその眼を向けた。
「今すぐは無理だけど、魂を吸い尽くされては無いから。この護符を額に張りなさい
 少しずつ精気を回収して、体に精気が完全に貯まったら元の姿に戻れるわ」
杏樹は受け取った護符を、大事そうに両手で胸に抱え、大聖堂に走り去っていった。
クリスと樹里は天音に丁寧に礼を述べると、杏樹の後を追い大聖堂に戻った。


祓い衆と純白の聖女の会議から二日後。
大学の茶道サークルの茶室。

日本庭園に造られた茶室を結界内に取り込み、石獣が床から姿を現した。
女性の悲鳴と茶器の砕ける音が茶室内に響いた。
「いやぁあ、気持ち悪い!!」
「こっちに来ないでください!!」
女性達は茶碗や茶杓などを、床から現われたイソギンチャク型の石獣に投げ付けるが、
石獣は意にも介さず、触手を茶室内に伸ばし、次々に女性達を吊り上げて行く。
「いゃあぁぁっ」
女性が着た鶯色の着物を引き裂き、帯を取り除き足袋も脱がし一人一人裸にして行く。
そして女性を自らの上に持って来ると大きく口を開いた。
「いやっ、いやっ、い・・・ゴフッ」
石獣は抵抗する女性を一飲みにし、体内で女性の魂を融かし、魂を吸いはじめた。
「美奈子が食べられ・・・。いやーっ!!美奈子!!お願い美奈子を食べないで!!」
女性が飲み込まれた友人の名前を叫び続ける。
やがて石獣は動きを一瞬止めると、魂を吸い尽くし石像に変えた美奈子を吐き出した。
「良かった、美奈子大丈夫?え・・・」
吐き出された友人の姿に一瞬安堵したが、その異変にやがて気が付いた。
「石・・・?美奈子が・・・石に・・・、きゃあぁぁぁっ」
女性は友人の後を追う様にイソギンチャク型の石獣に飲み込まれて行った。
「わ・・・私も食べられたの?」
石獣の体内から無数の白い触手が吸い付き始め、白い煙を上げ石に変わって行く。
指や胸がパキパキと硬化する音を響かせながら、硬く冷たい灰色の石に変化を始める。
「石に・・・、美奈子もこうして石にされたの!!んっ、ふわぁぁっつ」
黄色い触手が胎内にピンクの霧を噴射し、女性に快楽を与え魂を融かし始めた。
「いいっ、気持ち良い!!あ・・・融け・・・ちゃ・・・う」
透明な触手が女性の口に差し込まれ、キラキラと金色に輝く魂を吸い上げて行く。
『気持ち良い、あ・・・感覚が・・・消え・・る・・・』
女性も友人と同じ様に魂を吸い尽くされ石像に変えられる。
石像に変えた女性を吐き出し、女性を飲み込み咀嚼しては石に変えていき、
次々に八人の女性の魂を石獣は飲み干して行った。
石獣が床に消えると、茶室にドロドロの粘液に塗れた裸の女性達の石像が転がっていた。
彼女達は一様に快楽の表情を浮かべて居た。

同時刻、高等体育館。

この日は割り当てによりバスケットボール部が体育館を使用している。
キュッキュッとシューズ独特の音が体育館に響いていた。
「そこ、無駄なお喋りをしない。週に一度しか体育館を使用出来ないのよ」
外での練習が難しいシュートなどの練習を行っていた。
「真面目にやらなかったら明日のランニングは覚悟しなさい」
部長の亜麻埼爾奈(アマサキニナ)は少ない部員達に叱咤の声をかけた。
『七人しか居ない弱小部だから、週に一度しか使えないなんて厳しいわ・・・』
一般的には人気が無い部ではないが、この学院では余り人気が無かった。
ダンダンとボールをドリブルする音、バシュッとネットを揺らす音が響いている。
突然空間が揺れ、辺りが暗くなった。
「何?停電?え・・・」
爾奈は辺りが暗くなった原因が停電と考え、視線を天井に向け絶句した。
そこには得体の知れない何かが張り付き、無数の赤茶色の触手を伸ばしていた。
「アレは・・・何?」
天井に張り付いたスライム型石獣はウネウネと無数の触手を動かしていた。
そして触手の動きをピタリと止め、次の瞬間、触手が爾奈達に一斉に襲い掛かった
「んっ、ちゅぷ」
「亜麻埼せん・・・んんんっっ」
少女達の口を赤茶色の触手が塞ぎ、口内をヌメヌメした粘液で侵して行く、
そして触手は胴体に巻き付き、爾奈達を天井に吊り上げて行った。
『口の中が生臭くて気持ち悪い。これは何なの・・・』
『夢なら覚めて、気持ち・・・悪い・・・』
何人かの生徒の手足を十字に大きく開いた触手が飲み込み、精気を貪り石に変えた。
『手足の感覚が・・・、食べられちゃったの?いやぁぁぁっ』
少女は感覚が無くなった事で石に変えられたと思わず、消化されたと思っていた。
スライム型石獣は一人の少女を手繰り寄せ、ズブズブと自らの体に埋め込み始めた。
『何が起きてるの?生暖かくて気持ち悪い・・・、ひっ、はぁぁああん』
石獣は自分に埋め込んだ少女の胎内に、黄色い触手を忍ばせ、ピンクの霧を噴射した。
『あ・・・気持ち良い、心が蕩ける・・・融けちゃう、こんなの初めて・・・』
石獣は少女の口から赤茶色の触手を引き抜き、代わりに透明な触手を差し込んだ。
そしてキラキラと金色に輝く魂を吸い上げ、少女の体を灰色の石に変えていく。
『ふ・・・芙美が石に変えられて行く。やめて私から芙美を奪わないで!!』
爾奈は一緒にバスケ部を立ち上げてくれた最愛の友が目の前で魂を吸い尽くされ
石に変えられていくのを、黙って見守る事しか出来なかった。
『消える・・・あ・・・』
芙美はバスケの為ショーカットにした髪を靡かし、両手足を広げ、体を反り返した姿で
体を灰色の冷たい石に変えた。
スライム型の石獣は体内に石像に変えた芙美を残したまま、天井を離れ床に着地した。
そしてゆっくりと爾奈を体内に埋め込んでいく。
『芙美・・・。』
スライム型石獣の中で爾奈は石に変えられた芙美と再会した。
爾奈の手が石に変わった芙美の手に触れると、硬く冷たい感触が伝わってきた。
『うわぁぁぁん』
見間違いでも夢でもなく、自らの手で最愛の友人芙美が石に変わった事実を確認し、
爾奈は悲しみで涙が止まらなかった。
『え、ふぁぁぁっ』
爾奈の胎内に黄色い触手が潜り込み、ピンクの霧を噴射していた。
『いやっ、芙美を奪った・・・に感じ・・・。気持ちい・・・。あぁぁ蕩けちゃう!!』
爾奈の意思と反して、魂の融かされる快楽の波に押し流されていく。
口に透明な触手を差し込まれ、キラキラと金色に輝く魂を吸い上げられて行く。
『消える・・・、私・・・芙美と同じ様に石に変わるのね・・・』
〈爾奈・・・〉
『芙美・・・、私たち・・・ずっと一緒に・・・』
スライム型の石獣の中で二人の魂は融合して行った。
石獣は二人の石像を体外に押し出すと、次の少女に狙いを定めた。
「結界破壊!!」
体育館の入り口の結界を薙刀で切り裂き、祓い衆の巫女優菜、美月、梓の三人が現われた。
「間に合わなかったの?」
「優菜お姉ちゃん、まだ助かる人がいるよっ」
空中に吊り上げられた五人の少女は、手足を石に変えられていただけだった。
「朱雀火炎符」
梓が四聖獣の護符から蒼い炎に包まれた朱雀を召喚した。
「朱雀!!触手を焼き払って!!」
蒼い炎の朱雀はその翼でスライム型の石獣から伸びる赤茶色の触手をすべて焼き払い、
吊り上げられた少女達を解放していった。
「玄武結界陣」
美月が玄武の護符を使い、石獣の動きを封じ込めた。
「コイツは明確な形を持たない不死の石獣。封じ込めるしか無いわ。梓、封印の壷を」
優菜は梓から小さな土色の壷を受け取り、石獣に向け投げた。
「石獣よ小さな壷の中で永遠に封じられなさい。封魔結界!!」
石獣の四方を聖獣が取り囲む、その中心に封印の壷が輝きながら浮いていた。
次の瞬間、輝きが消えると同時に石獣の姿は消え去った。
「封印完了・・・」
石獣を封じ込んだ優菜は肩で息をし、苦しそうな表情をしていた。
三人は天音に連絡をし、手足を石に変えられた少女達を秘密裏に宗家に送り、
治療の手配を整えたのだった。

茶道部の少女達の他に、学院の生徒が此処数週間で数十人の行方不明者を出している事が
天音達に伝わるのは更に数日後だった。

つづく


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