作:牧師
人口二百人にも満たない寂れた漁村、魚鱗石村(ぎょりんせきむら)。
村の西側の海岸に連なる岩が魚の鱗のように見えるために、この名がついたといわれている。
この村の沖には小さな島が幾つか存在し、村にある小船を使えば島に渡ることが出来た。
そこは釣り人達の間で、大型のヒラマサや真鯛などが釣れる穴場として有名な場所でもある。
ある冬の日、浜辺で二人の若い女性が小船の前で、十分程前から銀髪の男性と話し込んでいた。
女性の名前は若狭綾(わかさあや)と伊佐木桜(いさきさくら)。
フィッシングサークルに所属する大学の二年生だった。
「お願いします、あの船を少しでいいから貸して欲しいんです」
綾と桜は防寒着に身を包み、ライフジャケットを着け、磯ブーツを履き、手には釣り専用手袋をはめて、
大きなバッカンや玉網などを持ち、完全装備で何処から見ても釣り人にしか見えなかった。
「あんたら釣り人が捨てていったゴミや糸で、こっちはえらい迷惑しとるんだ。とっととけぇったけぇった」
銀髪の男は綾達に向ってぶっきらぼうにそう言うと、急ぎ足で村に帰ろうとした。
その時、村からもう一人、白髪の老人が歩いてきて銀髪の男と暫く言葉を交わした。
銀髪の男は少し表情を曇らせ、一言二言白髪の老人に何かを言い返していたが、老人の言葉に小さく頷き、
苦虫を噛み潰したような表情をし、彩達の元に歩いてきた。
「榊の爺さんがあんたらに船を貸してやれってよ、手漕ぎだが構わんか?」
島までは目と鼻の先の距離で、女性が船を漕いでも十分と掛からない。
綾達は喜び、荷物を浜の簡易桟橋に繋いであった小船に積み込み始めた。
「はよう…帰って来いよ」
男は綾達にギリギリ聞こえる小さな声で最後にそう呟き、彩達が無事に島に着くまで見守っていた。
島に着いた綾達が驚いたのは、大量に捨てられているテグスの量だった。
他にも弁当箱、網の無くなった玉網、帽子や長靴、ペットボトルなどが無数に散乱していた。
「あのおじさんが釣り人を嫌うのも仕方ないか…、帰る時に少しでも持って帰ろう…」
綾達が島について二時間も経つ頃には、六十センチ級の真鯛が二人合わせて四匹も釣り上げられていた。
二人で釣り上げた真鯛は小さい物も数えると、何匹釣り上げたか数えられない程だった。
「凄い、こんなに釣れるなんて…。きゃっ、また来た…。桜、玉網玉網!!」
この時はあたりの無かった桜が急いで玉網を手に取り、この日五匹目となる大物をすくい上げた。
「ホントに凄い穴場だよね、人が来ないのが不思議…キャッ!!」
釣り糸が絡まりお祭りになる事を避けようと、少し離れようとした桜が何かに足を取られて尻餅を突いた。
桜が足を取られたのは、磯に捨てられていた少し傷んだクーラーボックスだった。
「いった〜い、もう!!誰よこんな所にクーラーボックスを捨てて…え?」
桜が辺りを注意して良く見ると、岩陰に捨ててあると思っていたテグスの先には竿が着いたまま放置され、
その先には真新しいリールが着いたままだった。
それだけではなく、ライフジャケットや磯ブーツ等まで脱ぎ捨ててあった。
「これって…こんな物まで捨てて行く訳が無いよね?これ…なに?」
桜がライフジャケットや磯ブーツの側に近づいた時、その先に石で出来た人の手の彫刻を見つけた。
側に落ちていた折れた竿の先で、手の周りの海草や貝殻を取り除くと、女性の石像の半身が出てきた。
女性の石像は髪を振り乱し、潤んだ瞳や、半開きになった口元がリアルに表現されていた。
良く見れば口の中や髪の毛の一本一本まで丁寧に掘り込んであり、驚いた事に防寒具まで着込んでいた。
「服?どうして石像に服なんて着せて…、ひっ、つ…冷たいっ、きゃあぁぁっ…んぶっぅ」
女性の石像の横に座り込んでいた桜の足に、いつの間にか太い蛸の足が絡みつき、更に海から伸びた蛸の足は、
桜の頭や腕、胴に巻きつき、桜の身体をゆっくりと空中に持ち上げた。
「どうしたの桜?大きな声出して?えっ…な…何?」
振り向いた綾が見たのは、巨大な蛸の足に五十センチ程空中に持ち上げられた桜の姿だった。
途中で桜の声が聞こえなくなったのは、桜の形の良い小さな口に、赤黒く太い蛸の足が潜り込み、
口の中をウネウネとかき回していたからだった。
蛸の足は口だけではなく、器用に桜のライフジャケットを引き剥がすと、防寒着のチャックを強引に下ろし、
その隙間から桜の胸の谷間や下腹部に他の足を潜り込ませて、足の先や吸盤を使い丁寧に撫で回していた。
少し桜色に染まった桜の柔肌に、吸盤を軽く吸い付かせては引き剥がし、何度かそれを繰り返すと、
足の先と足についた柔らかい襞で胸を包み込んで揉み解し、更に敏感になった乳首に吸盤を吸い付けて刺激した。
『こ…こんな異常な状態なのに私…、感じて…、すっごくきもちイイッ、イ…イッちゃいそう』
巨大な蛸の足は、女性を快楽に誘う事に長けていた、それだけでなく、まるで赤ん坊でも抱かかえるかのように、
桜の頭を優しく足で支え、桜の身体に負担が掛からないように気を使っているようにも見えた。
桜が小さく体を震わせて、軽く絶頂に達した瞬間、蠢く蛸の足により着ていた防寒具が脱げ落ちて、
その下から美しい裸体が姿を現した。
桜色に染まった胸や顔とは対照的に、両手足は灰色に変色し、蛸の足が幾ら撒きついても指一本動かなかった。
『手が…石に?ああぁっ、さっきの石像、アレってまさか…!!やっ、ひゃあああぁぁん』
桜は先ほど見た石像の正体が、自分と同じ様にこの蛸に襲われた女性の成れの果てだという事に気がついた。
しかし、桜が逃げ様と幾らもがいても蛸の足から逃れる事は出来ず、抵抗した事により一層蛸の陵辱が熾烈を極めた。
吸盤の奥や、足の先から半透明な白い液体を滲ませて、それを桜の口内や胸などに塗り、襞で揉み解していた。
人を襲い石像に変える蛸が存在する筈も無い、蛸の正体は淫獣だった。
淫獣とは、淫は陰に通じ、陰は闇と同意、この世ならざる闇より産み落とされ生態は殆どが謎に包まれる獣。
様々な生き物の姿を模し、その殆どが、人間など精神的に進化した生物を特殊な能力で快楽に誘い精気を奪う事、
吸精した対象を石等に(結果的に)変える能力を持つ事、高い再生能力と催淫能力を持つ事位しかわかってはいない。
「さ…桜を放せ!!」
綾は近くに捨ててあった、玉網の残骸を手に取り、その鉄の輪で何度も蛸型淫獣の足を激しく打ち付けた。
しかし、そんな物で蛸型淫獣に傷をつけられる筈も無く、むしろ蛸型淫獣に目を引き付ける結果となった。
岩陰から僅かに蛸型淫獣の頭が覗き、そこから直径五十センチ程もあるの巨大な漏斗が現れた。
蛸型淫獣は漏斗を玉網を振りかざす綾に向けると、勢い良く真っ黒な墨を噴き付けて、綾の全身を黒く染め上げた。
「す…墨を…、あっ…熱いっ!!どうしてこんな…あああっ」
綾に噴き付けられた蛸型淫獣の墨は即座に効果を表した。
蛸型淫獣の墨には強力な催淫効果があり、ライフジャケットや防寒着を貫通し、綾の全身に甘美な刺激を走らせた。
綾が僅かに身体を震わせるだけで、硬く尖った乳首が下着に擦れ、乳首が擦れる度に軽い絶頂に引き上げられる。
やがて綾は理性を奪われ、甘美な刺激の虜になっていった。
防寒着の上から秘所を激しく愛撫していた綾は、先程まで蛸型淫獣を打ち付けていた玉網を手に取り、
その柄の先を強引に何度も防寒着越しに膣口に押し込み、齎させる快楽を貪っていた。
「あ…あああっ、イヤッ、手が…動かない、もっと!!もっと気持ちよくなりたいのにぃっ!!」
綾の両手、両足が冷たい灰色の石に変わり、右手は玉網の柄を握り、その柄を膣口に押し付けたまま、
左手はライフジャケットの下に潜り込み、防寒着越しに胸を揉みしだいた格好のままで、その形を留めていた。
綾は両手が石に変わったことより、動かなくなった事で快楽を得られない事の方に嘆き悲しんだ。
髪を振り乱し、瞳を潤ませて、口からは舌を覗かせ、先程桜が見た石像の女性と同じ姿を晒していた。
桜は腰を捻り、僅かに身体を動かして石になった両手に胸や淫核を擦り付けて快楽を得ようとしていた。
その時、蛸型淫獣は二度目の墨を綾の全真に噴き付けた。
全身を真っ黒に染め上げた墨が波で洗い流されると、そこには石像に変わりはてた綾が横たわっていた。
露出している部分は顔と指先だけだったが、桜には淫靡な表情で灰色の染まった綾の顔がはっきりと見えた。
蛸型淫獣は綾が完全に石像に変わった後、再び桜をその足で陵辱し始めた。
愛液と粘液、そして自らが出した半透明な白い液体で濡れた下着を引きちぎり、その下の割れ目に足の先を這わせた。
まるで指先で何かを探るように桜の秘所を撫でていた蛸型淫獣は、トロトロと銀色の愛液を滴らせ、
大きく口を開けた膣口にその足の先を宛がうと、少しずつ足をうねらせながらその最深部まで貫いた。
『す…すごい、中で吸盤が凄い所に当たって…、ああああっ、冷たいっ!!出てる、何かがでてるぅ!!』
足の先から出ていた半透明な白い液体を、墨を噴き付ける様に激しく撒き散らしていた。
白い半透明な液体と愛液が絡み合い、蛸型淫獣の足が暴れる度にプチュプチュと無数の小さな泡を膣口から生み出した。
泡だったその液体は桜の灰色の石に変わった足を伝わり、ポタポタと海の中へと落ちていった。
桜の丸みを帯びた形の良いピンク色の臀部が、冷たく固い灰色の石へと変わり始めた。
それと同時に、脇腹、両肩、髪の毛の先も灰色の石へと変わり始めていた。
肩や脇腹が石に変わった事により、筋肉が無理な方向に引っ張られる度に、桜には激痛が走っている筈だったが、
桜の表情はむしろ恍惚とし、微塵も痛みを感じている様には見えなかった。
『ひゃあああん、またイッ…、だめぇっ、とまらなひぃぃぃっ!!』
次の瞬間、激しく鼓動を打っていた心臓も、全身を駆け巡っていた血液も、虚空をみつめていた瞳さえも、
桜が激しい絶頂に達した瞬間、一瞬の内に灰色の石へと変わった。
蛸型淫獣はなおも石に変わった桜の膣内を、足の先でかき回していたが、やがてゆっくりとその足を引き抜き、
桜の石像を抱えたまま、海中へと姿を消した。
海の底には桜と同じ様に海底に引き込まれた石像が無数に積み重なり、漁礁となっていた。
そして磯には防寒着を着たままの姿で自慰に耽る、綾の石像が残されていた。
翌日、小船は村人の漁船に曳航され、再び村の簡易桟橋へと戻されていた。
漁船を操っていたのは昨日綾達に小船を貸した銀髪の男だった。
「こがんことになるから、さっさとけぇれって言ったのによ…」
男は暗い表情で、綾の石像にそっと花束を捧げていた。
「海神様に今月も贄を捧げたおかげで暫くは大漁が続く、皆、漁に出るぞ」
白髪の老人が村の集会所でこの村の漁師を集め、満面の笑みを浮かべながら言い放った。
蛸型淫獣の効果の為か、生贄に捧げた後暫くは大漁が続き、魚の成長も著しく良くなっていた。
それ故にこの村では大昔から蛸型淫獣を海神と崇め、年に十人程度の女性を生贄として捧げていた。
無数にある小島のうち、目の前の小さな島が生贄を捧げる為の島であり、女性の釣り人が少人数で来ると、
その島に降ろし、蛸型淫獣の生贄にしていた。
無論、釣り客ばかりでなく、村の娘がその島に渡り犠牲になる事もある。
銀髪の男は娘の一人をその不幸な事故で石像に変えられ、娘と同い年位の女性が来ると、強引に帰らせたりしていた。
数ヵ月後、釣り人が三人、男に船を貸してくれる様に頼んでいた。
しつこく頼む三人に、男は一層不機嫌な顔になり、ぶっきらぼうに言葉を叩き付けた。
「あんたら釣り人が捨てていったゴミや糸で、こっちはえらい迷惑しとるんだ。とっととけぇったけぇった」
ゴミや糸は捨てられていた訳でなく、残されていった物でその事を男も十分に知っている。
つまり、生贄に捧げられて石像に変えられないうちに帰れと忠告してくれているのだ。
三人の客は姉妹で来たのか大学生位の女性二人に中学生位の娘が一人。
白髪の男が生贄としては申し分のないこの三人の女性を、むざむざ見逃す筈も無かった。
「よぉ、ええじゃないか船を貸してやれ」
村長であり、淫獣を海神と崇める榊に言われ、銀髪の男は仕方なく簡易桟橋にある船を三人に貸す事にした。
こうして女性達は自らの意思で島へと渡る、これから自らの身に何が起きるのかも知らずに…。