一人ぼっちの末に・・・

作:デュール


「はぁ・・・」
少年はため息をつきながら廃墟の神殿の外で歩いている。
彼の名前は『リース・リリス』14歳という若さでありながらもかなりの腕の剣士である。
数年前に両親は魔物についての研究のせいで姉が魔物に連れ去られ、両親は彼の目の前で殺されてしまい、彼にまつわる噂といえば悪いものばかりであった。そんな目で見られ、一人ぼっちでも彼は挫けず今日まで戦い抜いていた。



そんなある日、姉についての情報がある・・・が信用度はかなりの低さであった。
それでも彼は信じて情報通りに廃墟の神殿へと足を運んだ。
しかし、廃墟の神殿なのでかなりの広さであり、しかも廃墟の神殿は魔物の住処であり連続の戦闘で疲労が溜まっていた。
「むぅ・・・何でこんなに多いんだろう・・・」
魔物の返り血を浴びながらも奥へ奥へと進む。

ちょうど25匹目を狩ったところだろうか、進むたびに置かれている石像が多くなっていく
「何で途中から石像が置かれているんだろう?不気味だなぁ・・・」
そう言いながら奥へと進む、途中数種類の魔物が現れたが、今は亡き両親が残した資料などで全てを知り尽くしているので難なく狩る。
「ふぅ・・・連続の戦闘だから辛いよ・・・」
疲労が溜まった状態でも魔物を狩りながら進むリース

45匹目ぐらいだったろうか、大量にある石像の中にどこかで見たような石像が飾られてあった。
「あ・・・れ・・・?」
その石像は女性をかたどった石像である、外見的に16歳ぐらいである。
「うーん・・・」
リースは一生懸命考え出すが、今の自分には分からなかった。
振り返ようとした瞬間、誰かが手で彼の口を押さえる。
「むぐっ・・・・」
突然の奇襲に慌てながらも無理やり離す、そして腰にあった剣を手に戦闘体制に入った。・・・
つもりであった、戦闘体制までは入ったが動けなかった。
「ふふ・・・引っかかったわね?」
目の前には女性でもあり・・・魔物でもあった。
その正体はメデューサであったが彼の見た資料にはなかったようで彼女の存在自体知ってはいなかった。
「あっ・・・ま・・・・魔物・・・?」
怯えながらもやっとリースは口が開いた。
「そうよ、私の名前はメデューサのメイよ」
「メデューサ・・・?そんな魔物いたのか?」
リースはそう言うと一瞬胸の高鳴りを感じた。
「えっ・・・?」
今まで動けなかったのが今では動けるようになっている。
彼はチャンスと思い彼女に攻撃を仕掛けるが、足が思うように動けない。
「あっ・・・れ・・・?」
恐る恐る足を見ると今まで動けたと思った足が灰色に染まっている。
一般的に石化と呼ばれる状態異常、彼は始めてそれにかかっている。
「そ・・・そんな、石化だなんて・・・」
メイは微笑みながら彼に寄る。
寄ることにより彼の石化の波は広がっていく
「さっきの高鳴り、あれは私の石化の眼光よ」
「うっ・・・」
剣で攻撃しようにも既に剣を持つ片腕は灰色に染まりつくしていた。
「あなた男の子とは思えない可愛さねぇ」
愛でるようにリースに抱き寄せるメイ、彼の混乱と恐怖は最高潮に達した。
「うぅ・・・お姉ちゃんに会えないまま石になっちゃうの・・・」
強気から弱気になり下がるリース、メイは『姉』という言葉が気がかりとなり彼から離し聞いてみる。
「そのお姉さんは誰?詳しく聞いてみたいわね、まぁ聞いたところであなたを石化させるには変わりないけど」
下半身と剣を持った片腕が石化したまま灰色の侵食が止まる。
意外な行動にリースは戸惑うが、数秒後口を開く
「どうせ石になるから話すよ・・・僕のお姉ちゃんは数年前魔物に連れ去られたんだ・・・」
「へぇ・・・どんなお姉さんだったの?」
その問いにリースは顔を下げ、悲しい表情をして
「とてもやさしかった・・・」
その一言の後に再び顔を上げる。
「今思い出したけど、後ろの石像・・・昔のお姉ちゃんみたい・・・」
さっき彼がまじまじと見ていた石像だった。
その石像にメイは真剣な表情となり
「その石像・・・もしかしたらあなたのお姉さんかもしれない」
「えっ・・・」
リースが驚きの声を上げる。

彼女が言うには数年前自分たち魔物の研究をしている夫婦を強襲したらしく、口止めのために夫婦を殺し、一人の姉を石化させてここに置いていた。
しかしリースの存在は誰も知らなかった。

その真実にリースはただ呆然としているだけでしかなかった。
「そ・・・そんな・・・・これがお姉ちゃんだったなんて・・・」
悲しみにくれるリースを横目にメイは彼に抱きつく
「あなた、噂では嫌われてるんでしょ?」
「・・・・そうだよ」
今日で二度目のため息、彼はいろいろの疲労でかなり疲れきっていた。
「なら、お姉さんと一緒に石化しちゃおうよ」
「・・・・断っても石にするんでしょ?」
「もちろん♪」
お茶目に反応するメイ、リースはもう諦めきっていた。
再度石化が始まる、色があった片腕も灰色に染まりぴくりとも動かなくなる。
「それにしても本当に可愛いわね、どう育ったらこんな可愛くなれるの?」
「知らないよ、そんなこと・・・」
束の間の会話でも石化は進む。
胸まで石化すると少々苦しい表情をする。
「くっ・・・」
「心臓までも石化してるけど、これに耐えたら後は楽よ」
身体は全て石化し、残るは頭となった頃に同時にリースは最後の言葉を放つ
「お姉ちゃ・・・・ん・・・・・」
そう言うと幸せそうな笑顔を作りながら涙を流す。
(僕・・・幸せだ・・・よ・・・ね・・・・)
思考も鈍くなり、瞳も石化しヒビが入る。
そして頭まで達し彼は動かなくなった。
「ふふっ・・・姉弟揃って可愛いわ」
そう言うと過去に石像と化した姉と、今石像と化した弟を軽々と抱えボロボロの神殿へと入っていった。



「リース・リリス・・・彼の名前なのね・・・」
彼が石化したまた数年後石化した姉弟を今でも大切にしている。
「リースは本当にかわいそうな子ね」
あの時石化した後でも朽ち果てず、メイ自身が姉弟の石像を手入れをしている。
そして今日、初めて彼らの名前を知る事となった。
「でも、もう苦しまなくて良いわよ、あなた達は私の手中にあるのだから」
そして彼の石像を抱き寄せる、メイは石化する直後の彼のような笑顔を漏らす。

一人ぼっちの末にやっと姉との再開、そして一人の魔物によって永遠を手に入れてしまった姉弟。
彼にとって幸せかどうか定かではない・・・


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