凍りついた聖夜

作:デュール


「お姉ちゃん、もうすぐクリスマスだね?」
暖炉に薪を投げ込みながら笑顔で言う少年に対し、少し悲しい表情をする女性。
「えぇ・・・・そうね」
「お姉ちゃん?何で悲しい顔をしてるの?僕は元気だよ?」
その表情に少年は心配して彼女に近寄る。
少年の様子にすぐ立ち直る女性。
「あ・・・ごめんね、大丈夫よ」
「よかった、何かあったかと思ったよ」
また笑顔になる少年、つられて女性も笑顔になる。
10歳前後の少年の名は『涼太』、そして18歳ぐらいの女性の名は『冬』
外見的には仲の良い姉弟である。
しかし、涼太とは全くの血の繋がっていない他人であった。
それでも彼女は涼太を本当の弟のように可愛がり、山奥の一軒家で一緒に暮らしている。
「さて、出かけてくるわね?」
「うん」
冬は立ち上がるとリュックのみの軽装で出入り口に歩いていき、涼太もその後についていく。
「じゃ、行って来るわね」
「気をつけてね、お姉ちゃん」
そう言うと冬はドアを開けて出かけていく、涼太は姉の出かけを確認するとリビングに戻り本を読み始める。
「うー・・・ん・・・」
しかし数時間後には椅子にもたれかけたまま涼太は眠ってしまう。


「あなたは男なのよ?だから生きてちゃ駄目なのよ」
「男なんてみんないなくなっちゃえばいいのよ」
少女達は口々にそう言うとバットや棒切れを持ち少年を襲う。
「いやぁっ」
少年は必死に逃げるが、こけてしまう。
「さぁ、覚悟は良い?」
「男に生まれてきたあなた自身を恨むことね?」
そして無抵抗の涼太に向かってバットや棒切れで殴り始める。
「はぐっ・・・・ひぎゃっ・・・」
少年の悲痛の叫びにもかかわらず少女達は彼を叩きつける。
「ぁ・・・ぅ・・・」
そしてとどめのバットが振り下ろされようとした。
必死で目を瞑り腕で防御する。
そして衝撃が来るはずだったが、衝撃が来なかった。
「・・・・・え?」
恐る恐る目を開くとバットも今まで血の気のあった少女達も青白く固まっていた。
唯一動ける女性が青白くなった少女達を割って出てくる。
「酷い怪我・・・・大丈夫?」
しかしさっきまでの虐待を受けてしまったのだから少年はもちろん拒否をする。
「心配しないで、あの子達の仲間じゃない・・・・信じて?」
女性は手を差し伸べる、少年はしばらく考えると弱弱しい声で。
「お姉さんは・・・優しくして・・・くれるの?」
その質問に女性は微笑みながら。
「えぇ、むしろあなたを苛めるような女から守ってあげる・・・・それだけは保障するわ」
そう言うと少年は少し微笑み差し伸べられた手をつかむ。


「ぁ・・・れ・・・?」
涼太はいつの間にか眠っていた、涙を流しながら。
「また・・・・あのときの夢・・・・」
そう呟くといきなり泣きたい気分になってきた。
「うっ・・・どうして・・・どうして・・・」
その後に冬が帰ってくるが、涼太の泣いている姿に慌ててしまう。
「ど・・・・どうしたの?」
「ご・・・ごめんね・・・また・・・・夢を・・・」
その言葉に冬は涼太を抱きしめて。
「また・・・見たのね・・・大丈夫、私と一緒にいれば安心よ」
「うん・・・」
ようやく泣き止んだ涼太、そして冬は笑顔で彼の頭を撫でる。
「じゃ、ご飯にしよっか?」
そう言うとリュックの中から食料を出す。
「わぁ・・・お姉ちゃん今日は豪華だね〜」
「そりゃそうよ、クリスマスなのよ?涼太だって言ってたじゃない?」
「あはは、そうだね」
さっきまでの泣き顔から笑顔に変わる涼太。

そして晩飯が済み、テレビを見てる二人。
そして冬は少し戸惑っていたが、決心をし涼太に話しかける。
「ねぇ、涼太・・・」
「ん?なぁにお姉ちゃん?」
冬は立ち上がり、椅子に座っている涼太に近づく。
「ちょっと来てくれないかな?」
「うん、いいよ?」
そう言うと涼太は椅子から降り、冬の後についていく。
今まで涼太が入れなかったドア、容易に入らせないためか厳重にしてある。
「ねぇ、お姉ちゃん今から何やるの?」
「それは・・・来てから分かるわ・・・」
そう言う冬の表情はドアを潜り抜け歩くにつれ悲しい表情になっていく。
ドアから入って2〜3分ぐらいで歩いていると、鉄製の扉が姿を現す。
どうやら機械式で開くようで、冬は器用に操作をする。
そして鉄製のドアは横にスライドし開く、それと同時に白い煙が漏れ出す。
「・・・・え?」
涼太は目を疑う、それは紛れも無く冷凍庫だった。
彼が驚いたのは冷凍庫の事ではなく、その中身に驚く。
青白い人型が多数置かれていた。
その光景に涼太は中に入ってしまい、置かれているものを確認する。
「・・・・冷たい」
一つのものを触ると冷たさを感じた。
「お・・・・お姉ちゃん・・・・これって?」
「これは氷像・・・元は涼太と同じ人なのよ・・・」
冬の言葉にさらに驚く涼太、よく見れば涼太と同い年くらいの少年だった。
さらに、全てを受け入れるかのように笑顔のまま冷たく固まっている。
「じゃあ・・・この子凍りついて・・・どうしてこんな事を?」
「私、本当は雪女なの・・・出来ればこんな事したくは無かったけど・・・」
「ゆ・・・雪女・・・」
後ずさりしようとした涼太、しかし足が思うように動かなかった。
「あ・・・あれ・・・?」
涼太は足元を見ると足が青白く固まっていた。
「ぼ・・・僕も・・・」
「涼太・・なんで男の子ばかり凍り付いてるのか分かる?」
「え・・・・?」
涼太は今までの記憶を探る、そして思い出したかのようにさびしい気持ちになる。
しかし彼の凍結は止まらず腰まで侵食している。
「お姉ちゃん・・・僕と同じ男の子を・・・」
「ごめんね・・・こんな世の中じゃなかったら、もっと別の出会いをしていたかもしれない・・・」
血が繋がらなくても最愛の弟を凍らす事に抵抗を感じる冬、しかし涼太は恐怖もせず拒否もせずに笑顔で受け入れようとする。
「凍った子達の気持ちが分かった気がする・・・」
「え・・・涼太?」
「お姉ちゃんのためなら・・・僕凍り付いても良いよ」
涼太は凍結の侵食に痛みを感じるが、それさえも我慢して冬を笑顔で迎える。
「例えおねえちゃんの欲望でも、喜んでコレクションの一つになるよ」
「もぅ・・・馬鹿ね」
既に涙があふれる冬、凍り付いていく涼太に近づき抱きつく。
「もし・・・・あんな世の中じゃなくなったら、絶対元に戻してあげる」
「うん・・・でも、凍ったままの方がいいか・・・な?」
涼太のちょっとした冗談に微笑む冬。
「もぅ、ホントにそのまま飾っちゃうわよ?」
「あはは・・・うっ・・・」
涼太は苦痛の表情になるが、再度笑顔に戻る。
「涼太・・・」
「もう、胸まで凍り付いちゃった・・・」
暖かそうな服さえも容赦なく凍り付き、氷像の一部と化す。
「ねぇ・・・お姉ちゃん」
「何?涼太?」
首まで凍りついた頃に力を振り絞り、はっきりと言葉を紡ぐ。
「姉ちゃ・・・ん・・・と出会・・・えて・・・よ・・・か・・・・」
笑顔のまま涼太の凍結は完了した。
所々に氷柱が出来ており、温かそうな笑顔も冷たく凍っていた。
凍った涼太から離れ、ついには涙を流す冬
「ごめんね・・・・絶対戻してあげるから・・・それまで待ってて・・・」
そう言うと鉄製の扉を閉じる。
義姉への思いを信じたまま氷に彫像と化した少年達を置いて・・・



リビングを通り抜け、玄関に差し掛かったところあるものを見つける。
「あら?」
玄関にて少年が一人倒れていた。
「あっ・・・酷い怪我!」
「ぁ・・・ぅ・・・」
集団に殴り倒されたのか、かなり酷い怪我だった。
冬は急いで少年を保護し、ベッドに寝かせた。
色々と手当てをし、一命を取り留めた少年。
「ぅ・・・ん・・・」
「あ、気がついた?」
虚ろな瞳を冬に向けて言い出す。
「ここ・・・どこ?」
「ここは私の家よ、私はあなたの味方よ、安心して」
「そう・・・」
少年は再び目を閉じ、深い眠りについた。
「さて・・・」
冬は立ち上がり、部屋から去る。
(また・・・か・・・)
今後自分自身がやることに罪悪感を感じるながら冬はリビングに戻る。
また一人罪の無い少年は、苦しい十字架を背負った雪女の手によって氷像にされるだろう。
一つの幸せと、一つの罪悪感とともに・・・

おわり


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