作:G5
―― 北の森 ――
少女が呪文を唱え終わると空中に巨大な炎の槍を出現させて大樹目掛けて打ちぬく。
轟々と燃え上がる沼だが炎が消えることはなく、よほどの高密度のエネルギーだということがうかがえる。
「これで沼を焼くからそれに驚いて出てきた奴を、貴方が仕留める。いいわね」
「分かった」
もう一人の少女は手に余るほどの大きな斧を構えて神経を研ぎ澄まさせる。
夜の静寂の中、轟々と燃える沼とカエルたちの逃げ惑う泣き声以外の音は聞こえない。
フードの少女は大呪文の影響か少し疲れていたが、他の動物たちに被害が及ばないように魔力の調節をするので精いっぱいだ。
「おかしい、奴が出て来ないなんて。一体どこにいやが―――」
斧を構えた少女の声が不自然に途切れ、おかしいと思って振り返るとそこには身の丈5メートルはあるであろう大きなカエルがいた。
カエルのお腹には卵のような丸い球体がくっついており、その中には今飲み込まれた少女がうずくまるように眠っていた。
「・・・どうして」
少女は魔力を練りあげる。
「どうしてお姉ちゃんばかり狙うの!!」
少女は一気に練っていた魔力を解放して魔術を発動する。
「砕氷塵(グレイ・バス―――」
少女が唱えようとしていたのは全てを凍らせる絶対零度の呪文。
これならカエルを行動不能にして姉を助けられる。はずだった。
しかしその呪文が最後まで唱えられることはなかった。
見ると複数のカエルが足元に集まってきていてその内の一匹のカエルの舌が少女の口を押さえて喋らせない。
他のカエルも彼女の足や手を押さえて身動きを封じる。
そして身動きの取れない少女を大蛙の舌が絡め捕る。
少女は抵抗する暇もなくそのまま大蛙の口の中に収まってしまった。
少女が飲み込まれる前に見たのは先に飲み込まれてすでに変質の始まっていた姉。ルーの姿だった。
飲み込まれていく少女達は森の前で声をかけた幼い少女達本人だった。
彼女達は悲しい過去を自分たちの手で変えるためにやってきていたのだが、悲しいことにそれは過去をなぞる結果にしかならなかった。
少女達はあの時、お使いの帰りにこの森を通り、そしてこのカエルに食べられた。
カエルは少女達をまず大人しそうに後ろを歩いていたルカから飲み込んでそれに恐怖しているルーを続いて飲み込んだ。
飲み込まれた少女達はカエルのお腹の卵の中でゆっくりと精気を吸い取られて、抜け殻となった身体は光沢を持って輝く真珠に変わっていた。
やがて全ての精気を吸い取ったカエルは沼地の脇の茂みに彼女達を生み、やがて数年で少女は新たなカエルとして生まれる予定だった。
少女達が目覚めたのはそれから数年後だった。
冒険者に助けられた少女達は元の身体に戻すための研究機関でその身体に柔らかみを取り戻す日を待った。
そして元に戻った少女達が気がついたのは街のギルドのベッドの上だった。
すでにあれから数十年が経過していた。
彼女達を助けた冒険者の所属していたギルドこそ、先に紹介した国家直属の特殊なギルド。
アーガイムである。
彼女達は身寄りがすでになかったためギルドで育ち、そして、過去の彼女達を助けるべくこの時代にやってきた。
だが彼女達は負けた。
やがて彼女達は昔と同じように真珠となって、助けに来る仲間か冒険者が来るまで長い時を過ごすことになる。
それまでにカエルとして生まれるていなけらばだが。
それでも少女達は過去の自分たちを救うことは出来た。
自分たちではないにしても、母親との幸せな人生が彼女達には待っている。
それだけが彼女達の唯一の救いなのかもしれない・・・
終わり