作:G5
私がこの迷路に連れて来られたのは数時間前のことだ。
ここがなんなのか分からなかったし、今でもわからない。
ただ一つ分かることは、一歩間違えればそれは死を意味することだけだった。
歩いている途中で見つけた落とし穴やその中で石となった女性達。
なんとか一階をクリアして、2階に進めたが、そこにも犠牲者の山が築かれていた。
「ひどいものね、私もいつかは・・・」
ダメよ、弱気になっちゃ。
絶対この迷路をクリアして元の生活に帰るのよ。
遥は改めて気持ちを切り替え、先を進んだ。
しばらく歩くと目の前に宝箱が現れた。
壁ぎわにひっそりとたたずむその箱からは怪しい気配が漂よっていた。
「罠・・・?」
罠かもしれない。
そう思ったが、今の私にはなんの情報もない。
今この場で最も重用なのは情報を得ること・・なら・・・
遥は宝箱にそっと近づき、慎重に箱を開けた。
箱の中には銀色の銃が入っていた。
装飾は得になく、女の私でも扱えるものだった。
「銃・・・?どうしてこんなものが?」
一体なんのための武器か分からないが持っておいて損はないだろう。
これ以上ここに居ても何もなさそうだ。
この場を後にしようと振り向いた。
「・・・・・ひっ」
そこに居たのは体調3mくらいの大きなヘビだった。
ヘビは私に狙いを定めてじっとこっちを見つめている。
私はとっさに今手に入れた銃をヘビに向けて
バァンッ
撃った。
一体これがどういうものか分からないが、銃なら多少の威力はあるだろう。
ひるめば逃げるすきが出来るはず・・・
しかし遥の予想は裏切られた。
ヘビは銃弾を受け、動くことはなかった。
「これは・・・」
ヘビはガラスになっていた。
透き通るそのガラスのヘビは奥が見えるほど純度が高く、美しかった。
「そうか・・・この銃・・・ふふふ、これがあれば迷宮なんて楽勝じゃない」
遥は笑みを浮かべて笑っていた。
この銃さえあればモンスターは怖くない。
あとは罠だけ・・・
遥の頭から恐怖が消えた。
しばらく進むとまた宝箱があった。
今度は躊躇せず、すぐに開けた。
中に入っていたのは破れた紙ともう一枚、文字が書いてある紙だった。
この紙は魔法の地図の一部です。
地図は全部で3枚。
完成すればあなたをゴールへと導くでしょう。
・・・こんな都合のいいことがあるだろうか
罠を抜けることを考えていたらこうも簡単に見つかるなんて・・・
「これがあれば迷宮はクリアしたも同然。
残る紙は2枚、何としてでも見つけなければ。
遥はひとまず2階を探索したが予想以上に広く、見つけることが出来なかった。遥は諦めて、とりあえず先へ進むことにした。
3階の階段は予想より簡単に見つかった。
モンスターにも特に会わなかったので、銃を使うこともなかった。
「おかしいわね、ここまでモンスターがいないなんて・・・まさか誰かが・・」
私みたいな武器でモンスターを倒してる?
それならそれで結構。
モンスターがいなくなるなら私にも都合がいい。
とりあえず上に行こう。そう考え遥は3階へ進む。
3階は一本道で通路の奥には階段も見えてる。
モンスターもいなさそうだし、罠も見当たらない。だが・・・・
「この状況自体がいかにも罠っぽいのよね〜」
とりあえず様子見ってとこかしら。
遥は階段のある部屋で様子を伺うことにした。
しばらくすると、一人の女の子が上がってきた。
「ふぅ、やっと3階か・・・あれ」
少女はこちらに気がつくと急に顔を明るくしてこちらに近寄ってきた。
「うわ〜やっと別の人に会えました〜会うもの全部石像で心細かったんです」
何なんだろうこの娘は・・・?
急にテンションが上がったこの娘についていけず、うろたえてしまう遥。
待てよ、この娘を使えば・・・
遥はなにか思い付くとその少女に語りかけた。
「私も一人で心細かったのよ、会えてうれしいわ。」
少女に会わせて話をする遥。
何度か話す内に打ち解けることに成功した。
「それでこの先に進むべきか迷ってるのよ」
さりげなく話を振ってみる。
「それならちょっと見てきましょうか?運動神経には自信があります。」
これは願ってもないことだった。
「ほんとに?じゃあお願い出来るかしら?」
私は極力心の内を顔にださないように返事をした。
少女は笑顔を向けると通路へ向かって行った。
遥さんに出会えて本当によかった。
いままで一人でモンスターから逃げてきた彼女は人に会えたことで安心していた。
もう一人にはなりたくない。
そう思った彼女は遥の役に立ちたかった。
通路は人二人くらいは通れるほどには広く、歩くには申し分なかった。
「大丈夫みたいですよ・・・」
そう言って振り返ろうとしたとき、
ポチッ
何かを踏んでしまった。
ヤバイッ
そう直感した。
周りが白い霧に包まれていく。
臭いからこれが蝋だと気が付いたときにはもう腰からしたが動かなくなっていた。
「遥さん、助けて・・・」
私は遥さんに助けを求めた。
しかし遥さんの反応は予想外だった。
遥さんは銃口をこちらに向けていた。
「悪いわね、あなたを助けるリスクをおってまで助ける義理はないわ。ここのトラップも分かったしあなたはもう用済み。最後に私の実験に協力してもらうわ」「実・・験・・・?」
何を言っているのかわからない。
「そう、実験。私の銃は撃ったものをガラスにすることが出来るの、それでこれが人間に効くのか、そういう実験。」
私は途中から何を言っているのか分からなくなったが、ただ一つ分かることは私は助からない。ということ。
「じゃあね、お嬢ちゃん。バイバイ」
そういって遥さんは銃を撃った。
私に当たった弾は当たった部分からガラスになっていき、すでに蝋で覆われた部分は浸蝕されなかったが、それでも身体をガラスの波が襲っていく。
「・・・・」
あぁ、私はここで終わるのか。
でも一人寂しくいくよりはいい・・か・な・・・
最期に涙を流して少女はガラスとなった。
ガラスとなった少女をさらに蝋が包んでガラスが蝋に包まれた像が生まれた。
ところどころ蝋が剥がれガラスの肌が見えていた。
それはどこか神々しささえ感じたという。
少女が固まったのを見届けた私はため息をついた。
蝋の霧はこちらの部屋には入って来なかったので、私は難を逃れていた。
「まったく、人を撃つのがこんなに気分が悪いことなんて・・・」
少し疲れたので、壁に寄り掛かって休もうとした。その時、
ゴゴゴッ
と地鳴りが聞こえ、通路が動き始めた。動いた通路が消え、また別の通路が現れた。
その通路にはいままでの犠牲者であろう蝋人形が無造作に並んでいた。
その中にはあの少女の姿もあった。
どういう原理かは分からないけど、これがこの通路の仕掛けね。
通路の動く時間から見るともう一本通路があると見るのが妥当か・・・
しばらくすると遥の予想通りもう一本の道が現れた。
その道に罠はなさそうで、おそらくこれが安全な道だろう。
が念のためもう一周待つことにしよう。
そう考え、壁に寄り掛かって時が来るのを待っていた。
しばらくするとまた一人の少女が上がってきた。
少女はそのまま歩きだそうとする。
このまま見過ごすのもいいが、この子、使えそうね。
「待ちなさい」
私は声をかけた。
ひとまず彼女を呼び止め、この通路の仕掛けを教えた。
彼女はさっき見た蝋人形たちを見ると
驚愕していた。
どうやらこれらが犠牲者だと知らずにここまで来たらしい。
まったく・・・どうやったらここまできずかずに来れるのやら・・・
ここでパニックになられても困る。仕方ない・・・
「まあ落ち着きな、知らなかったなら無理もないが、これが今の私たちの現実だ。前を向きな。」
こんなものか・・・・
ひとまずこれで落ち着いたようだ。
とりあえず少女に自己紹介をした。
雫というようだ。
安全な通路が回って来たので先を急ぐ。
4階につき私たちはしばらく迷路を進んだ。
すると目の前にまた宝箱があった。
「あ、見てください遥さん。宝箱がありますよ、開けてみますね」
雫が宝箱に近づく。
もしあれに地図が入っていればこれで2枚目・・・
「なんなんでしょうかこれ?私ももう一枚もっているんですけど・・・」
そういいながら箱から出したのは破れた地図ともう一つ
彼女のポケットから出てきたもう一枚の紙。
まさか・・・彼女が・・・
思うより先に手が動き、私は銃を構えそして
ドンッ
撃った。
雫は困惑している。自分がなにをされたのか分からないようだった。
「えっ・・・どうしたんですか・・・遥さん?」
「まさかあなたが持っていたなんてね・・・クスクスクス・・・ラッキーだわ。もう一枚も見つけてくれるんだから」
「どうしたんですか・・・遥さん・・・その銃は?」
「この銃は迷宮で見つけたの。本来はモンスター用みたいだけど人にも使えるのよ?
撃たれたものをガラスのように透き通らせることができるの・・・
あなたを撃ったのは偶然、あなたが私の探していたものをあなたが見つけて
あなたが持っていた・・・それだけよ」
「えっガラス・・・?」
意味が分からない。そういう顔をしている。
「いや、なにこれ・・・助けて・・助けて遥さん!」
「ごめんね雫ちゃん。もう私に止めることはできないの・・・ごめんね」
そういいながら私は雫から2枚の紙を奪った。
「そうそう、最後に教えてあげる。この紙は全部で3枚あってね、合わせると地図になるの。今いる階の地図と罠の位置が分かるのよ。」
「あ・・・あ、くる・し・・い・・・」
私は雫に軽くウィンクをするとさっさと歩いて行った。
もう彼女に用はない。
これで私はゴールにたどり着ける。
「これで地図は完成っと」
遥は雫から奪った2枚の紙を自分の紙にくっつけた。
不思議なことにくっつけた紙は破れ目が消え、1枚の紙になった。
くっついた地図が光ったと思うと、このフロアの地図が浮かび上がった。
「すごい・・・これがあれば迷路なんて・・・」
楽勝だ
そう思った時後ろから
「待て!」
声がした。
振り返るとそこには少女が立っていた。ツインテールの藍色の髪で巫女服を着ていた。
その手にはラクロスで使うラケットが握られていた。
「あなたですね、雫をガラスの像にしたのは・・・」
「そうだとしたら・・?」
この娘は雫の友達かなにかかしら・・・
「よくも雫を・・・許さない!」
少女は激昂した。私は銃を構え、臨戦態勢をとった。
「私は竜宮寺 琴音(りゅうぐうじ ことね)。竜宮流薙刀術師範。我が友の敵、ここで晴らせてもらう。」
そういって突っ込んでくる琴音。
遥は銃を撃つが、全てラケットに弾かれる。
「!?」
そんな・・・銃が聞かない。焦りですきを作ってしまった遥に一足飛びで迫る琴音。ラケットが振り上げられ、銃が弾かれる。
「くっ」
銃を拾おうとする遥をラケットで組み伏せる琴音。
勝負は一瞬で決まった。
「くっ、まさかこんな形で負けるなんてね・・・」
「殺しはしません。ただその地図だけは奪わせて貰います。」
そういって手を伸ばす琴音に隠していた香水を顔にかける遥。
「くっ」
とっさのことに目を抑える琴音。
そのすきを遥は見逃さない。
琴音の腹を蹴って逃走する遥。
「ふん、油断大敵だよ」
「待てっ・・・」
振り返ることなく走り去る遥。
あんなと戦ってたら勝ち目なんてない、さっさとここを抜けないと・・・
遥は逃げながら地図を見て階段を目指す。
よし・・・もう少し・・・
遥は階段があるであろう角を曲がる。
・・・・えっ・・
確かに階段はあった。だが、それは階段の前に立ち塞がった。
遥の前に現れたのはヘビのしっぽをもつ大きなニワトリ。
コカトリスであった。
遥は突然の出来事に動くことが出来ず、立ちすくんでしまった。
「そうだ銃・・・」
銃口を向けようと銃を探すも銃がない。「しまっ・・・」
後悔より先にコカトリスと目があってしまった。
遥は逃げる間もなく石像となった。
のけ反った格好に恐怖に顔を引きつらせ、いままでの妖しい笑みはカケラもなかった。
コカトリスが近づく。
彼女の石像をくちばしでくわえ、そして・・・
広い迷宮内に石の砕ける音が響く・・・
相澤 遥・・・記録:4階
琴音に敗退後コカトリスの瞳に射ぬかれ石化
コカトリスに食われる・・・