作:G5
〜 あらすじ 〜
2月14日、
因幡 てゐはお仕置きを受けた。
彼女がある人物に渡した薬が某屋敷を中心に多数の犠牲者を出したのである。
それを聞いた 永遠亭の医師 八意 永琳はただちに因幡 てゐを捕縛。
犠牲となった館の人々の救助に向かった。
そこへ捕縛を逃れた因幡 てゐが逆襲に出るも、偶然居合わせた霧雨 魔理沙の協力により返り打ちに遭う。
その結果、彼女は犠牲者と同じ目に遭い、この異変は解決された。
(なお、この異変解決に赤い脇巫女は関与せず)
文々。新聞
そして月は流れて3月初め、異変のほとぼりも冷めた頃、再び彼女が動きだす……
―― 永遠亭 ――
「ねぇ鈴仙、てゐ知らない? 頼みたいことがあるんだけど……」
永遠亭の主、蓬莱山 輝夜が従者のウサギを呼んだ。
「いえ姫様、私は見てませんよ?」
呼ばれたウサギ、優曇華・鈴仙・イナバは書物整理の途中だったようで、大量の本を抱えている。
「そう、いいわ。だったらあなたにお願いするわね。これを紅魔館のパチュリーに渡してくれないかしら?」
そういって渡されたのは、一冊の本だった。
「なんですかこれは?」
怪訝な表情をする優曇華に輝夜は
「あなたには関係ないわよ、急ぎじゃないから手が空いたらお願いね」
そのまま自室に戻っていく輝夜を見て優曇華は
「……暇なら自分で行けばいいのに……」
コソッとぼやきつつ、書物整理の仕事に戻るのであった。
―― 妖怪の山 ――
古風な山の山中を軽快なステップで駆ける白いウサギ。
因幡 てゐは目的地に向かって走っていた。
「確かこの近くだったはず……」
「フンフンフン〜♪」
河原の近くの小屋から上機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
今日も自分の研究に熱心な河童を見て、てゐはニヤリと笑った。
「今日も上機嫌だね、にとり」
「ん? あぁ君か! こんにちは」
喋りながらも手先は器用に手元の機械をいじっている。
「あいさつはいいよ、それよりこの前の件、考えてくれた?」
「あぁ、あれね。面白そうだし協力してもいいよ、ただし本当にあれをくれるんだろうね?」
「もちろん、そこは任せてもらっていいよ」
「じゃあ交渉成立だ」
ふたりともニヤリと口を広げて笑いあう。
「じゃあ後でまた連絡するからよろしく頼むよ」
「おっけ! 任せといて!」
そのままてゐは山を駆け下りて行く。
―― 永遠亭 ――
「ハァ、ハァ、急いで戻らないと怪しまれるうさね……」
竹林を走って戻る途中、歩いてくる人影を見かけ、立ち止まる。
(あれは……)
人影に近づき、そっと肩をたたく。
「優曇華、こんなところで何してるの?」
「うわぁ!? なんだてゐか……それはこっちのセリフだよ! 今までいったいどこで油売ってたのさ!」
「別にどこでなにしてようと私の勝手だよ」
「まったく、じゃあこれ」
「? なにこれ?」
てゐが渡されたのは一冊の本だった。
表紙は古ぼけてて色あせており、鮮やかな紺色だったであろうカバーもすっかり荒れ果てた大地のようにボロボロだった。
「なによこれ?」
「それは姫様がパチュリー様から借りてきた本よ。それをあなたに届けてもらいたかったのだろうけど、あなたがいないから私が届けることになったのよ」
「なんで私がわざわざ紅魔館になんて……!?」
そこでてゐはピーンと閃くと、優曇華には分からないようにニタリと笑う。
「まぁいいうさ。これをパチュリーに届ければいいうさね」
「あれ、あなたにしては素直じゃない」
「別にたまの気紛れだから気にしなくていいうさよ」
「……そ、じゃあお願いね」
優曇華はそのまま永遠亭の方に帰っていった。
「……ラッキーね、これでどうどうと彼女に会いに行ける」
てゐは不敵な笑顔を浮かべると、また走りだしていった。
―― 紅魔館 ――
スピースピー……
あいかわらずここの警備は手薄で本当に大丈夫なんだろうか……
「ちょっと門番さん、起きてくれないと困るうさ」
「んぁ……!? はい! すいません、サボってたわけでは決して……あれ?」
「……寝ぼけるのはいいから、ちょっと頼まれてくれない?」
「は、あなたは永遠亭の? なんでしょうか?」
とりあえずこの門番に頼み、パチュリーに取り繕ってくれるように頼んだところ、大丈夫だったようだ。
これで第一関門は突破。
「それで、あなたがこんなところに来るなんて珍しいわね、いったいなんの用?」
パチュリーは自分の机で本を広げていた。
てゐが来たことにはとくに関心を持たず、目線は本に向けられたままだ。
「ん、今日は姫様のお使いできたうさ」
そう言って持ってきた本をパチュリーへ渡す。
それを受け取って一度てゐの方へ眼を向ける。
「これはこの前貸した……そう、ありがとう。で、あなたの本当の要件は?」
!?
「あなたがこんなことのためにわざわざくるなんてないもの、なにかあるんでしょう?」
「……さすが鋭いわね、そうよ。私はあなたの力を借りるためにきたの」
「断るわ」
パチュリーは即答をして、読んでいた本にまた目を移す。
この反応は予測していたが、こんなにも即答されるとは思っていなかった。
「先月の異変、あなたが原因だっていうじゃない。私はあれの被害者よ、そんな私があなたの頼みを素直に聞くと思う?」
「それは分かってる……だったら……これならどうかな!!」
「!? そ、それは!!」
てゐが差し出したには一冊の本。
「もし協力してくれるのならこれをあげてもいいうさよ?」
「……何をすればいいの……」
――ニタリ――
「とりあえず私の計画に加わってほしいのよ」
「計画……?」
そこでてゐは今回の計画のあらましをパチュリーに説明する。
「……なるほどね、それで私とにとりの協力が必要なのね……」
パチュリーは少し考えると顔をあげて
「分かったわ、協力してあげる、そのかわりその本は頂くわ」
「どうぞ、これが成功したらちゃんとあげるわよ」
二人は固く握手を交わして、てゐは図書館を出て行った。
―― 紅魔館 門前 ――
てゐが紅魔館を後にすると、空から突風が吹き荒れる。
竜巻のような風が止むとそこには一人の天狗が立っていた。
「こんにちは〜。毎度おなじみ文々。新聞の記者、射命丸 文です!」
「いちいちテンション高い天狗うさね、何の用?」
天狗はニヤニヤと気持ち悪く笑いながら、口を開く。
「いえね、なんか面白そうな話をしていたのでお伺いに」
てゐは考える。
この天狗に計画を話してもいいものか、と。
いや、きっとこの天狗は私とにとりの会話からずっと追ってきたに違いない。
あそこは天狗のテリトリーだ、それもおかしくない。
だったら下手に隠すよりはこっちにとりいれた方がいいのでは?
「……あんた……たしか先月師匠にお仕置き食らってたわね? どう、仕返ししたくない?」
「!! ほぅ、それは実に興味深い。ぜひ、お話を……」
文は今回の計画を事細かにメモしながら聞き入った。
「なるほど、それはおもしろそうですね。分かりました。私はそれを全面的に後押ししますよ」
「フフ、ありがとう。じゃあ必要な時はお願いね」
「了解!」
そのまま天狗は大空へ飛び立っていった。
準備はちゃくちゃくと進んでいる。
兎の行動力と河童の科学力、そして魔法使いの知恵、今ここに魔兎河同盟が結成された。