作:G5
ここで私の作戦を紹介しておこう。
あの装置はにとりに作って貰った"エネルギー拡散アンテナ"と"中継用のパラボラアンテナ"だ。
そしてそれに組み込まれているのはパチュリーに組んでもらった"物質と有機物を都合のいい形に合体させる波動を発生させる魔法陣"
これにより、このリモコンで波動を調整することで一気に幻想郷を混乱させる。
これを防ぐにはにとりが開発したこの"エネルギー遮断バッジ"を身につける必要がある。
私の計画ではこれでお師匠様の身動きを取ったあと、ゆっくりと前回の復讐を行うのだ。
あの新聞記者にはこの事件を独占で報道する権利を与えている。
もちろん首謀者はふせてだが。そして、
こうやって水晶玉にお師匠様を閉じ込めることに成功したのであった。
―― 永遠亭 外 ――
てゐは永琳入り水晶玉を永遠亭の外に持っていった。
「てゐ、私をどうするつもりですか」
「今に見てるがいいうさ、たっぷりと味あわせてあげるからさ」
フフフと不気味な笑いを浮かべながら、歩いてく。
水晶玉はさっきの小包に入れられていた。
模様はさっきと違っているが。
優曇華はその手に持っていた箱に同化してしまい、今は喋ることもできないただの箱である。
意識はあるのかもしれないが。
「着いたうさ」
そこは広い竹林の開けた一角だった。
「これからお師匠様にはこれになって貰ううさ」
永琳が指さした方向を見ると、腰くらいの高さの台の上に今私が入っているくらいの水晶玉があった。
「こ!? これは……!?」
中を見るとそこには氷の妖精が水晶玉の中で身動き一つせず固まっている。
表情は歪んでおり、苦痛に耐えているようにみえた。
「これは昨日実験がてらやった試作品、チルノを水晶に閉じ込めて、そしてこの薬を注いだのさ」
それは見覚えのない薬、少なくとも私が作ったものではない。
「これはパチュリーとにとりが協力して作った"結晶化液"これに触れた有機物は身体の組織をだんだんと
結晶に変えて行き、やがて身体の奥から完全な結晶人形になるのさ」
「な!?」
よく見ると氷の妖精はところどころを結晶のような角のあるカタチだった。
自分のこれからの運命に直面してさすがの永琳も戸惑いを隠せなかった。
「おしゃべりは終わり、そろそろ逝きましょうか」
「ちょっ!?」
反論する暇もなく、てゐは準備に取り掛かる。
薬は注射器のようなものに入っていた。
しかし、大きさは段違いで人用でないことは一目で分かった。
それを私の入ってる水晶玉の下から突きさし、じわじわと注入してくる。
靴が液体に触れる。
この液体の浸食スピードは意外に早く、靴をあっという間に結晶に変えると今度は私の足を浸食し始めた。
さっきの靴とは違い、生身の身体の方はスピードが遅くなった気がする。
「!? あぁあ! い、痛い!!……う、ぁはぁ!!」
液体の触れた場所に激痛が走り、思わず叫んでしまった。
「それは痛いでしょう? なんせ体組織が変化してるんだから」
なにくわぬ顔で水晶を除くてゐ、その顔にはもはや悪魔としか形容しがたい表情を浮かべ、
永琳の悶える姿に恍惚とした感情を隠せなかった。
それを知ってか永琳は最初の叫び以後、一回も悲鳴をあげずに堪えている。
「あなたが……喜ぶ、ことを、する必要なんて……ないですからね……」
「その強がり、いつまで言ってられますかね?」
てゐは注入のスピードをあげて、水晶の中を液体で満たしていく。
液体の粘度は水あめのようにドロドロとしていて、身体を結晶に変えられていなくても、
身動きできない状況だった。
そしてすでに液体は永琳の胸元まで侵入しており、腰から下は完全に結晶と化していた。
「……あなたが、いくら私にこんなことをしても、私があなたに、屈することなんて……ないわよ」
「ふん、いいわよ。あんたが苦悶する表情さえ見れればそれでいいのだから」
「安心していいわ、あんたが完全に結晶になるまで芯の方までは到達しない。だから、生きたまま最後の時間を味わいなさい」
「……」
永琳がそれを聞きいれたのかは分からない。
すでに液体の注入は終わっており、口元まで結晶と化していたのだから。
……やがて完成した永琳の結晶水晶玉を手に持ち、てゐはしげしげと中身を堪能する。
髪の毛の一本一本まで精巧に作られた結晶像。
足は少し内股気味に閉じ、腰をかがめ、手で両腕をへこむくらい力強く握りしめ顔は苦悶の表情で歪んだ。
必死に痛みに堪え、涙さえ最後の最後まで堪えたその作品はまさに最高傑作。
てゐの復讐としては最高の出来だった。
「やった、これでお師匠様に今までの分も含めて仕返しできた……」
てゐの心はどこか晴れやかだった。
大きなことをやり遂げた達成感で胸がいっぱいだった。
「おっと、まだ安心するのは早いんじゃないかい?」
「!?」
大きな気配を感じて、咄嗟に跳びのける。
魔符「スターダストレヴァリエ」
多くの星屑がまるで流星のように襲う。
水晶玉に気を取られていたせいで、避けるだけで精一杯った。
「あんた……どうして……」
てゐが疑問に思うのも当然だった。
本来なら幻想郷の地上にいる奴らは全員波動を浴びて、最低限動けなくなっているはず。
そこでてゐは気付く。私の目の前にいる人間、霧雨 魔理沙の胸元に私達と同じバッジが付いてることを。
「どうしてそのバッジをお前が持っているうさ!」
魔理沙は胸のバッジをチラッと見てニヤリと笑う。
「そうか、そういうことだったのか。フン、私は今までにとりのところにホワイトデーのお返しにいってたのさ」
「な、なんだって!?」
「そのお礼にって、もらったのさ。お礼にお礼で返されちゃ意味ないがせっかくだし貰っといたんだが……どうやら役にたったらしいな」
てゐにとってこれは計算外だった。
しかし、出会ってしまった以上、戦いは避けられない……
てゐは彼女が動く前に決断をしなければなかった。