作:ガーネット
注意!このSSには倫理的にかなりヤバイ内容が含まれています。
現実とフィクションの区別が出来ない方は読まないでください。
東京から遠く離れた、ある地方の住宅街。
時刻は既に深夜をまわり、多くの家庭が眠りにつき消灯されている中、カーテンの隙間から明かりがもれている一軒の家があった。
その中の一室では一人の男が机に向かって何かを作成しており、キュイーンと言う機械の動作音が響いている。
周囲には様々な電子機器が、中の部品を外されて転がっていた。
やがて動作音が止むと男が立ち上がる。
「出来た! これで"アレ"を実現出来るはずだ・・・後は・・・」
男は不気味な笑みを浮かべる。
その後、男は東京へと"ある物"を収集しに向かった・・・・・・
男が東京から戻ってから数週間後
ガチャッ
男の家の玄関が開き一人の少女が入ってくる。
「ただいま〜 ごめん、遅くなっちゃった。 今すぐ夕食作るね」
「おーぅ」
少女の呼びかけに、部屋で作業している男は軽く返事をする。
18,9歳くらいの赤く長い髪を片方で束ねたサイドポニーのその少女は、持っていたカバンを自室に置くと、エプロンを着けて台所へと向かう。
少女の名前は高瀬瑞希。
広い一軒家に一人暮らしだった男の元へ、数日前から同居して世話をしている。
それまではカップ麺かコンビニ弁当ばかりで不健康な食生活を送っていた男だが、彼女のおかげで大幅に改善されていた。
「そろそろか?」
台所から漂う美味しそうな香りにつられ、男が部屋から出てきた。
「うん、あとちょっとだから 準備して待ってて」
「了解」
そう返事をすると男は居間に炊飯器を運び、テーブルに食器を並べる。
そして、ちょうど並べ終わった頃に
「よし、出来た」
料理が完成し、瑞希がお鍋を持って居間へ入ってきた。
これが、瑞希が来てからのいつもの光景であった。
「あたしが出かける前から部屋に篭ってたけど、何やってたの?」
お鍋からお皿に料理を入れながら瑞希が尋ねる。
「お? 気になるか?」
「うん、ちょっとね」
「そうか・・・なら、ちょっと待っててくれ」
「え?あ、ちょっと〜」
まもなく夕食だと言うのに男は作っていた物を取りに部屋へと行ってしまった。
男が部屋から戻ると、瑞希がむくれていた。
「ご飯なんだから、後にしなさいよ」
「あ、スマンスマン。コレをいじってたんだ」
そう言うと男は手にした物を瑞希に見せる。
「これって・・・ただのリモコン?」
男が見せたのは小さなリモコンだった。
再生、停止、早送り、巻戻しのボタンがある事から、一見ビデオ用の様だがそれ以外にボタンは一切無く
とても長々といじるような物には見えなかった。
「こう見えてかなり凄いんだぜ、コレ。使って見せようか?」
そう尋ねられた瑞希はご飯をお茶碗に盛りながらあきれていた。
「凄くてもリモコンでしょ?
料理が冷めちゃうから後でね。はい、ごは・・・・・・・・・」
そう言いかけて瑞希の動きが突然止まる。
正座から少し腰を上げ、右腕を伸ばして男にお茶碗を差し出すポーズのまま瑞希は固まっていた。
「こうやってな、受信機をつけた生物を操作出来るんだ。今みたいに停止とかな」
よく見ると、彼女の肩には小さな機械が付いていた。
「さて、ちゃんと完全に止まってるかな?」
そう言うと男は瑞希の肩の受信機を外し、目の前で手を振る、お茶碗を取り上げる、ニーソックスを履いた足をくすぐる、
胸に抱きつく、横に倒すなどして、彼女が停止している事を確認した。
「しっかりと固まってるな。って、受信機外しちまったけど大丈夫かな?
まぁ、いいか。とりあえず、先に冷める前に飯食わねぇと・・・」
そう言うと男は、お茶碗を差し出すポーズのまま横に転がった瑞希を見ながら、一人だけで夕食を食べはじめた。
「うぅ・・・」
「おいおい・・・ゲホッ 大丈夫か・・・ゴホッ」
苦しそうにうなる瑞希に男が声を掛けるが、むしろ男の方が苦しそうである。
「あ、ご、ごめんね こんな状態なのにあたしが心配掛けちゃだめだよね」
この日は、男が熱を出して寝込んでいた。
そして、居間で夕食を食べた後、男の要望で膝枕をしている時に瑞希の方が疲労で寝てしまったのだった。
「あたしどれくらい寝てた?」
「30分ちょっとかな」
「わ、ご、ごめん・・・ちゃんと布団で寝ないといけないのに・・・
熱が上がってなければいいけど・・・」
そう言うと、瑞希は男の額に手を当てる。
「熱っ! 大変、熱上がっちゃった・・・」
「そんなに熱いのか?」
男は瑞希にわざとらしく聞き返すと、彼女の手を額から離れないように手で抑えた。
だが、彼女は上昇した男の体温に慌てており、この不審な行動には気付かなかった。
「凄い熱いわよ! どうしよう・・・この熱さだと病院行った方が良いような気がするけど、もう閉まっちゃってるし・・・」
「大丈夫、大丈夫。どうせ数日寝てたら熱なんて・・・ゲホッ・・・下がるって」
「何言ってんのよ! こんなにおでこが熱・・・あ、れ?寒・・・・・・」
瑞希は突如寒気を感じると同時にピキパキと音を立て動かなくなった。
「こんな良い人間アイスノンがあるんだから・・・ゲホッ すぐに良くなるって」
男が、抑えていた手を離すと、瑞希の手が青白く変化していた。
手だけではない。床に着いた赤く長いサイドポニーも、ニーソックスとスカートの間に見える絶対領域も
ぽかんと口を開けた顔も、彼女の身体すべてが青白くなっていた。
「君の夕食のお茶にこの・・・ゲホッ・・・エキスを混ぜておいたんだ。
あついと言えば言うほど飲んだ人が・・・ゴホッ・・・寒く感じるって言う効力があってな。
今みたいに言い過ぎると、たちまち凍っちまうんだ。しかも・・・グホッ・・・これの良い所は別の人が言っても効果があるって事・・・ゴホッ」
男が、凍りついた瑞希に語り掛けていると、額に当てられた手が熱で温まりぴくっぴくっと動き出した。
「凍ったとはいえ・・・ゲホッ・・・まだ温度は高めだったか・・・
熱い熱い熱い」
キーワードを男が連呼するとすぐに、動き出した手は再び凍りついた。
「今みたいに、冷凍庫に入れなくても熱いと言えば・・・ゲホッ・・・すぐに再凍結出来る。便利だろ?
さて、そろそろ眠くなったから・・・ゲホッ・・・寝ている間に溶けないよう、もっと冷やすぞ」
男はすうっと息を吸い込む。
「熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いゲホッ熱い熱い熱い熱い熱い熱いゴホッ熱い熱い熱い
熱い熱い熱いゲホッ熱い熱い熱い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「う、うーん・・・」
ソファに座って眠っていた瑞希が目を覚ます。
「あ、あれ?あたし・・・」
「どうした?」
横で座っていた男が声を掛ける。
「あ、そっか。あたし・・・一緒にアニメ見てて寝ちゃったんだっけ。」
目の前のテレビには、昔の、列車が変形するロボットのアニメが映っていた。
「おいおい、しっかりしろよ。寝ぼけて・・・」
「・・・和樹!!」
寝ぼけまなこでアニメを見ていた瑞希が突然飛び上がる。
「あ、あれ?」
「び、びっくりしたぁ。誰だよ、和樹って。」
男は突然の事に驚く。
「あれ、誰だっけ?」
自分が呼んだ人物は誰なのか、なぜ知らないのに呼んだのか、瑞希にはわからず困惑していた。
「やっぱり寝ぼけてるんだろ」
「そうかも・・・。あれ、服に違和感が・・・」
「そりゃ、寝てるときに何度も俺にもたれてきたからな。その時にずれたんだろ。
もう遅いし、風呂入って布団で寝た方が良いんじゃないか?」
「う、うん。そうする」
男に促され、瑞希は立ち上がるとお風呂場へ向かって行く。
(まさか、記憶があるとはな・・・ さっきアレを仕込んで正解だったかもな・・・)
そう男が呟く声に、瑞希が気付く事は無かった。
それからしばらくして
「きゃーーーっっ!!!」
突如、お風呂から瑞希の悲鳴が聞こえてきた。
(うまくいったか)
悲鳴を聞いた男はボソッと呟くと、お風呂場へと入った。
「た、助けて!」
そこには、しゃがみこんでお湯を掛けるポーズのまま首から下が凍りついた瑞希がいた。
彼女は寒さと、突然身動きが取れなくなった事による恐怖で震えており、ガチガチと歯が鳴る音が聞こえてくる。
「な、なんでこんなに寒いの!? なんで凍ってるの!? 確かにお湯を沸かしたはずなのに!」
「いや、確かにお湯だよ。若干熱くはしているけどね」
「え!? じ、じゃあどうして?」
男は、唯一動く首で必死にもがく彼女とは対象的にゆっくりと説明しはじめた。
「さっき服に違和感を感じたって言ったよな? 実はあれはコレを君の肌に塗ってたからなんだよ」
そう言うと男はポケットから一つの容器を取り出す。
その中にはクリームが入っていた。
「それは・・・?」
「これを塗ると、周囲の温度と体感温度があべこべになるんだ。だから、熱いお湯がとても冷たい水に感じる。
しかも、君にはかなり厚く塗ったから、このお風呂のお湯が-100度近くの冷たさに感じるはずだ。」
「え?そ、それじゃあ・・・」
「そう。つまり君は自分から凍りつくほどの水を掛けたって事。
それじゃ、仕上げに行こうかな」
「ひっ い、いや!助けて!」
「うーん・・・ もう助かるのは無理だと思うぜ。
冷凍倉庫に持って行ってしばらく放置すれば、あべこべに感じるから氷は溶けるだろうけど、
今度はクリームの効き目が切れて、また凍っちゃうだけだろうし」
「そ、そんな・・・」
絶望する瑞希を横目に、男は彼女が持っている洗面器を指を壊さないように慎重に取り上げると、湯船からお湯をすくいあげる。
そして、瑞希の頭へと勢いよく掛けた。
「さぁ、世にも珍しい温かい氷像の完成だ!」
「い、いやぁーーー・・・・・・・・」
ピキッパキッと氷の張る音を立てながら瑞希は完全に動かなくなった。
身体に張った氷からは白い煙が出ているが、それは冷気ではなく湯気である。
彼女は、常温で凍り続けてしかも温かいという非常に奇妙な氷のオブジェと化したのだった。
「・・・・・・・・・・・・はっ!」
瑞希が目を覚ますと、そこは自室のベッドであった。
「あ、あれ・・・夢?」
「・・・大丈夫か? 相当うなされてたみたいだが」
声のする方を見ると、男がドアを半分開けて覗きこんでいた。
「う、うん。大丈夫」
「そうか・・・なら良いんだが。
だったらそろそろ着替えた方が良いんじゃないか?もうお昼だし」
「え!? う、うそ!? ごめん! それじゃ、着替えるからドア閉めて!」
今の時刻を知った瑞希が慌ててベッドから飛び降りる。
そしてクローゼットから服を取り出して着替え出す。
(こないだ、自分の変化に気付かせた状態でやったのはマズかったかもな・・・)
そう呟くと男は自室に戻り、一つの木箱を持ってきた。
そして、木箱の蓋をスライドさせると、瑞希の部屋のドアをこっそりと開けて中に入れる。
すると・・・
ウオォォーーーン
と言ううなり声が響き、そのすぐ後にドシンッと言う重たい物が倒れたような音がした。
音を聞いた男は、瑞希の部屋に入る。
その中では瑞希が、上着とニーソックスを着終わり、スカートを履こうとしているポーズのまま石になって転がっていた。
男は、床に置かれた木箱の蓋を閉じると、瑞希に近寄る。
(最近のは頻繁に悪夢を見る様になってるんだよなぁ・・・まさか、なぁ・・・)
そう呟く男の横では、自分の変化に気付かないまま固まった瑞希がパンツが丸見えの状態で、
安定していないのか、倒れた反動でゆらゆらといつまでも揺れていた。
「・・・・・・・・・また? もういやぁ・・・」
ここ数日、瑞希の寝起きは最悪だった。
同居している男に自分が固められる。
そんな悪夢を毎日の様に見ていたのだ。
「・・・また見たのか?」
「うん・・・・・・」
彼女を心配しているのは、夢の中で自分を固める張本人。
だが、そんな夢を見ても瑞希は、所詮夢であって現実とは違うと割り切って、男とは普通に接していた。
「日頃の家事で疲れてるんだろう。今日は俺が代わりにやるから、一日ごろごろしてな」
「うーん。それじゃ、甘えさせて貰うね」
「おう!」
数時間後。
「何見てるんだ? ・・・うげっ」
一通りの家事を終えた男が居間に入ると瑞希が魔法少女物のアニメを見ていた。
男は作品自体は知らなかったが主人公の少女の衣装には見覚えがあった。
「これ? カードマスターピーチって言うの」
そう返す彼女の顔はとても楽しそうだ。
「へ、へぇ。ちょっと一緒に見てみるか」
そういうと男は瑞希の横に座り、一緒に見始めた。
幸い、男の動揺に瑞希は気付いていなかった。
それから数十分後。
ピーチの本編が終わり、テレビにはエンディングが映っていた。
「な、なかなか凄い内容で面白かったな・・・。主人公の声も可愛いし」
「でしょ? でも、あの声どこかで聞いたことあるのよね・・・それが気になってて」
「他の番組で聞いたんだろ。声優なんていろんな所で声当ててるんだから」
「うーん・・・もっと身近な所だった気がするんだけど・・・」
「それより予告終わるぞ」
「あ、本当。それじゃ、切るね。 えーと、リモコンリモコン・・・」
瑞希はビデオのリモコンを見失い、辺りを見回していると
「ほら、これだろ」
と、男がリモコンを手渡す。
「ありがと」
彼女は礼を言ってリモコンをビデオデッキに向けて停止ボタンを押す。
ピッ
「・・・コレを使うのは2度目だな」
男がそう呟きながら、瑞希の背中についた受信機と左手に持ったリモコンを取り上げる。
しかし、瑞希は左腕を前に伸ばしたまま動かない。
リモコンは、以前男が瑞希を固めたあのリモコンだった。
彼女は気付かぬままに自分自身を固めてしまったのだ。
「まずいなぁ・・・夢だけじゃなく、こっちもか・・・」
男は悩みながら、動かない瑞希の頭をつつく。
「記憶が残ってるのか? そんなはずは無いんだが・・・ ん?」
ふと、テーブルの隅に置かれた雑誌に気付く。
雑誌のある1ページには、繰り返し読んだのか開き癖が付いていた。
「これは・・・やっぱり記憶が残っているようだな・・・
だが、これに夢中になれば夢の方は忘れられるかもしれないな。
逆に記憶が鮮明になる可能性も高そうだが、どっちを取るか・・・
よし、次が夢を見たら、コレをやらせてやろう」
そう決意すると、男は固まった瑞希を持ち上げてどこかへと運んで行った。
その開き癖の付いたページに載っていたのはカードマスターピーチのコスプレをしたモデルの写真だった。
「うっ・・・・・・うぅ・・・」
隣の瑞希の部屋から苦しそうな声が聞こえてくる。
「あちゃー。やっぱり夢に出ちまったか」
その声を聴いていた男が頭を抱える。
(なんでだろうなぁ・・・残るはず無いんだが・・・設計ミスったか?
とにかく、夢を見ちまった以上、あれをやらせて気を紛らわせないと)
そう呟くと、男は夜中にもかかわらず作業をはじめた。
翌朝
「・・・おはよう」
瑞希が目を覚まし、部屋から出てきた。
かなりまいっているようだ。
「おはよう。大丈夫・・・じゃないな」
「うん・・・またあの夢見ちゃって・・・」
「あー、やっぱり。とりあえず、朝食は俺が代わりにやっとくよ。カップ麺だけどな」
「あ、ありがとう」
「それから、朝食が終わったら、ちょっと見てほしい物があるんだ。
もしかしたら気を紛らわすことが出来るかも」
「?」
「まぁ、楽しみにしてて」
朝食後
「それで、見てほしい物って?」
「これさ」
そう言って男が取り出したのは
ピンク色をした大きなフリルスカートの服と大きなリボンの付いた帽子、トラ柄の猫のぬいぐるみ、
そして先端に回転する星が付いたステッキだった。
「これ、もしかしてピーチ?」
「そう、カードマスターピーチの衣装。
君が見てた雑誌で、これが載ったページだけ何度も読んだ跡があったからもしかしてと思って。着てみるか?」
「うん!」
夢のせいで疲れた表情をしていた瑞希だったが、この衣装を見た途端とてもうれしそうな笑顔になった。
そして、男から衣装を受け取るとすぐに着替えに自室へと入って行った。
「凄い!大きさぴったり」
(そりゃ、本人から測ったからな・・・
しかし、凄い笑顔だったな・・・これで夢を完全に忘れるか、それとも記憶が鮮明になるか・・・)
そう男が呟いていると、着替えを終えた瑞希が部屋から出てきた。
「ど、どう? 似合うかな?」
「似合ってるよ。うん。凄く可愛い」
「よかった〜。これで和樹のブースで売り子・・・あれ?
和樹?売り子?あたし、何言ってるんだろう」
「お、おい。瑞希?」
「確か、最初は大志と芳賀さんに圧されて、この服作って・・・え?」
「おい!しっかりしろ!この服は今俺が渡したんだろう!」
「あ、そ、そうだったね ごめん。 あたし、どうしたんだろう・・・」
(あちゃー やっぱり逆効果だったか。まぁ、いい。こうなったら、あれを使うまでだ)
突然混乱しだした瑞希を見て男はボソッと呟くと、彼女に声を掛ける。
「と、とにかく 決めポーズとかしてみたらどうだ? 写真とってやるよ」
「え、あ、うん」
そういうと男は、自分の部屋からカメラを持ち出し、彼女に向ける。
「さぁ!」
「う、うん。・・・コホンッ」
瑞希は咳払いをすると、ステッキを持って構える。
初めてする筈なのだが、その様子は非常に落ち着いていた。
そして、動きを付けて決め台詞を叫ぶ。
「カードマスターピーーーーーチ!!!!
大変お熱くなってますのでーーーー お気をつけ・・・」
パシャッ
男がシャッターを切った瞬間、決め台詞が途切れる。
「別にリモコンでも良かったんだがな。やっぱりコスプレならカメラだろ。 ってか何度聞いても変わった決め台詞だな・・・」
瑞希は、あのリモコンを使った時と同じようにその動きを止めていた。
「コスプレで固めるのも普段と印象が違ってなかなか良いな。そもそも俺にはこっちの方が馴染みがあるしな。
目的とは逆効果になっちまったが・・・」
そう言って男は瑞希に抱き付く。
しばらくそのままでいたが、満足した男は瑞希を抱き上げると彼女のベッドに放り投げた。
「こりゃ、本気で設計からやり直した方が良さそうだな。だが、その前に・・・」
男は瑞希の部屋を出て自室へと向かった。
部屋のベッドには残された瑞希が1体、決めポーズを付けたまま転がっていた。
「う、うぅ・・・」
最早、瑞希が悪夢にうなされることすらも、日常の光景となっていた。
そして、目を覚ました彼女がガバッと起き上がる。
「また固められる夢・・・」
悪夢のせいで充分な睡眠が取れず、精神も磨り減っていた瑞希は、寝起きにもかかわらず、疲れ切った表情をしている。
コンコン
部屋のドアからノックする音がした。
「入るぞ」
「あ、ちょっと待って。今から着替えるから」
「わかった・・・今日もか?」
「うん・・・」
「そうか。・・・着替え終わったら庭のハッチを開けて地下倉庫に来てくれ」
「え? なにそれ?」
「庭に出ればわかる」
そう言って男は瑞希の部屋から離れて行った。
「あ、ちょ、ちょっと〜」
突然、知らない地下倉庫があると聞かされ、瑞希は困惑していた。
着替え終わった彼女は半信半疑になりながらも庭に出た。
辺りを見回してみると、確かに、ハッチが草に埋もれるようにして存在している。
「こ、これかな・・・?」
そう言うと瑞希はハッチを開けて中へと踏み込む。
「うわ・・・真っ暗・・・」
地下室へ下る階段は明かりがついておらず、彼女は踏み外さないようにゆっくりと降りて行く。
そして、階段を下りきると、そこには真っ暗で何も見えないが、音の響きからかなり広い空間が存在する事がわかった。
「凄い・・・家の下にこんなところがあるなんて・・・」
瑞希がその存在に驚いていると、突然地下室の明かりが点く。
そして、彼女はそこで目に入った物で更に驚く事になった。
「え・・・こ、これみんな・・・あたし!?」
瑞希の目の前には、何十体もの彼女をかたどった像が並べられていた。
ある物は石像、ある物は本人がそのままポーズを取っているかのようにリアルな等身大フィギュア、
ある物はどうやって保存しているのか常温で形を維持し続ける氷像など、様々な材質の瑞希像が置かれていた。
「どうだ? どれも皆、可愛いだろ?」
大量に並んだ自身の像に瑞希が驚いていると、像の列の中から男が現れた。
「ね、ねぇ これ、どういうことなの!?」
「うーん、それじゃ、最初から話そうか」
そう言って男は独り、語りはじめる。
「あれは去年のビックサイトだった。
友人の付き合いでオタク系のイベントに行ってね。
そこで一人の少女を見かけたんだ。
名前は高瀬瑞希」
「な、何言って・・・あたしはそんな所行った事は・・・」
突然、男が記憶にない事を言い出し、瑞希は戸惑う。
「まぁ、黙って聞け。
・・・一目惚れだった。
一緒に暮らしたいと思った。
一緒に過ごして、何度も何度も固めたいとも思った。
もともと"裏"の集まりで入手した道具を使って女の子を固めるのが好きだったからな。
別に固める事に問題は無かった。元々レイヤーの女の子を友人と一緒に集めるのが目的だったから。
一人になったところを狙って、持って行った道具でカチンとやれば良いだけだ。
だが、俺の欲望を満たすには大きな問題があった。
同じ人間は一人しか存在しない。
何を当たり前の事をと思うかもしれないが、コレが重大だった。
なにしろ、一度固めてそのポーズが気に入っても、次の固めをやる為には一度解除しないといけないからな」
「あ、あんたが何言ってるのか全然わかんない!! 固め!? あれは夢であって、現実で起こる訳ないじゃない!」
男が繰り出す気持ちの悪い言葉の数々に瑞希は激怒し、広い地下空間に彼女の怒鳴り声が響き渡った。
「落ち着けって。お前も薄々感づいてるんじゃないか?
この周りに立ち並ぶ像が、お前の夢の中と同じ状況だって事に」
「う・・・ で、でも あたしは確かにここで動いてる! 固まってなんかいない!」
「そう。固まってなんかいない。"お前は"な」
「・・・え?」
「・・・話の続きをしよう。
この問題の解決方法は、"裏"の集まりにあった。
あそこには、直接人を固める道具だけ出なく、サポートする物まで用意されていた。
その中には、なんと人間のクローンを作り出す機械があったんだ」
「え・・・ く、クローン!?
あ・・・そんな・・・まさか・・・あ、あた・・・あたし・・・も・・・?」
男から飛び出す衝撃的な内容、そしてそこから容易に連想できる恐るべき事実に瑞希はガクガクと震えだす。
「俺はその機械に気付くと真っ先に購入した。髪の毛一本で簡単にクローンを生み出せるとんでもない物だった。
もっとも、そのまま使うと、産まれてくるのは姿はそのままだが、知能が幼児並という問題もあったがな。
そこは努力して他の機械などを組み合わせて、そのままの知能で産まれるように改造した。
・・・設計に失敗してたらしく、クローン元の記憶をかすかに引き継いで産まれるようになってしまったけどね」
「あ・・・それじゃあ、あの夢も、時々頭に浮かぶ知らない人の名前も・・・」
「本物の瑞希か、今までのクローンの記憶さ。
とにかく、この改造が終わった後、再びイベント会場へ行って本物の瑞希から髪の毛を一本、こっそり頂いてきた。
別に本人を固めて持って帰っても良かったが、
せっかくの機械があるんだから失踪事件として騒がせるのは無駄だと思って髪の毛で済ました。
こうして、俺の欲望を実現する準備は整い、
その後は瑞希のクローンを産み出しては好きな時に固め、また産み出しては固めてを繰り返して行った。
その結果が! ここにある99体の瑞希像だ!」
「ひ、ひぃっ・・・」
男から繰り出される狂気染みた言葉に怯え、瑞希はへたり込んでしまう。
「そして、君は記念すべき100体目の像となるんだ」
そう言って男は金色の杖のような物を取り出すと瑞希に向ける。
「い、いや・・・」
瑞希は逃げ出そうとするが、腰が抜けて立つ事が出来ない。
「さぁ、100体目に相応しい黄金像になれ!」
「いやぁーーーーーー・・・・・・」
ボンッ
突然瑞希の周りから煙が発生して包みこむと、彼女の悲鳴が途切れる。
やがて煙がはれて来ると、そこにあったのは
四つん這いのポーズで逃げ出そうとし、左手を前に突き出したポーズで黄金化した瑞希だった。
その表面は非常に美しく、地下室の明かりを反射して輝いている。
「このポーズなら、石化か硬直で椅子にした方が良かったかもな。だが、記念像は記念像だ」
そう言いながら男はキラキラと輝く瑞希に近づくと、彼女を持ち上げて運んで行く。
男がたどり着いた場所には、100体記念用に用意された台座があった。
そして、その上に瑞希を設置すると男はそれを眺めはじめる。
金色になり、周りの光景を反射する瑞希の身体には口元をゆがめて不気味に笑う男の顔が映っていた・・・・・・
数週間後、男の自室
そこでは再びキュイーンと言う機械の動作音が響いていた。
周囲には様々な電子機器が、中の部品を外されて転がっている。
やがて動作音が止むと男が立ち上がる。
「出来た! これで前のようにはならないはずだ。 さっそく・・・」
そう言って男は地下室の黄金の瑞希像から髪の毛を一本折って持ってくると、
金化を解除してその機械の中に入れる。
それから数時間後。
男が機械を操作すると、中から現れたのは全裸の瑞希だった。
男は不気味な笑みを浮かべて、彼女に呼びかける。
「おはよう。101番目の瑞希・・・」