作:幻影
BLOOD
ヴァンパイアの中でも最も能力の高いとされている
自分の血を媒体にすることで様々な力を自在に操ることができる
瞳の色が昼間は紅く夜は青くなるという特徴も持っている
世界は悪魔種族、ディアスの頂点に君臨する吸血鬼、ブラッドによって支配されていた。
ブラッドの新たな世界を創り上げた支配者、ブラックカオスが振りまいた因子によって、人間は彼と志しを同じとする吸血鬼と化してしまったのである。
しかし、ブラッドは力を使うと、自らの血を代償にすることになる。糧となる血を求めて、人々はまさに血で血を洗う争いを繰り返していた。
ここは、ブラッドの血塗られた楽園である。
人類の大半がブラッドと化してしまった中、人間の数は8000と28人にまで減少した。
ブラッドとの隔離を決定づけるため、人間はブラッドの支配が解かれるまで、苗字を持つことを禁止した。それは人間の信頼性を強く印象付けるためでもあった。
その少数のの人間の中で、希望を勝ち得るための組織が結成されていた。
GLORY。
栄光の意味を持つ名を付けられたこの組織は、対ブラッド用に訓練された特殊部隊である。
ブラッドの何百人かはGLORYによって撃退されたのだが、未だブラッドの支配は留まることはなかった。
「どうしてあたしを行かせてくれないんですか!?」
隊長席を叩きながら怒鳴り散らすトモ。その態度に落胆するリョウ。
トモはGLORYの前衛部隊の正式隊員の中で、最年少の16歳の金色の短髪をした少女である。
3年前に彼女が過ごしていた孤児院をブラックカオスが率いるブラッドに襲撃され、1人取り残された彼女を当時隊員だったリョウに保護されたのである。
彼女は幼さが残るものの、他の隊員に引けを取らない運動能力と戦闘技術を吸収していった。しかし彼女はブラッドを憎み、時おりリョウや上層部の命令に違反することもあった。
今日もある避難所を攻め込もうとしていたブラッドの迎撃ために、トモがリョウに直訴しようと隊長室に押し入ってきたのだが、リョウはそれを却下した。
各地にブラッド迎撃のため隊員たちを配備しているため、リョウはトモの無謀ともいえる先行を認めなかった。
「他の隊員が帰ってくるまで待て。単独行動は厳禁だ。わざわざ命を捨てることになるぞ。」
「ですが、このまま罪のない人々が、ブラッドによって駆逐されていくのを黙って見ているなんてできません!」
「落ち着け。感情的になっては、冷静さを失って、本来の力が発揮できんぞ。」
苛立ちを抱えたまま、トモは振り返ってドアに向かっていく。
「君の気持ちは分かる。仲間をブラッドにやられた君の悲しみは。ならばなおさら、命を粗末にするような、無謀なマネをするな。」
トモの気持ちを察しながら、あえて厳しい言葉を投げかけるリョウ。しかしトモは聞こうとはしない。
「あたしは1人でも行きます!苦しんでいる人たちを、1人でも助けるために!」
「トモ!」
リョウが呼び止めるのも聞かず、トモはそのまま隊長室を飛び出していった。
完全に呆れ果て、リョウは椅子に腰を下ろして深く吐息をつく。
「まったく。彼女の無鉄砲さにはハラハラされられっぱなしだ。だが、それがかえって我々に優位な利益をもたらすことも少なくないがな。」
リョウの顔には、なぜか朗らかな笑みが浮かび上がっていた。
不機嫌そうに隊長室をとびだしたトモは、主にGLORYの武器・道具の製造・管理を担当している源三博士の研究室を訪れた。室内は機械の部品の山でごった返していて、通るのも苦労を要するほどだった。
「じいちゃん!源三じいちゃん、どこ?」
室内に入ってきたトモは、部品の山に埋もれているだろう源三の姿を探し回った。すると、窓側の山から白髪が飛び出してきた。
「あっ、いたいた!源三じいちゃん!」
「おっ?おお、トモじゃないか!」
山から這い出てきた源三が、安堵の吐息を漏らすトモに近寄った。
「どうしたんじゃ、トモ?まさかワシに胸触らしてくれるんじゃなか・・ぐおっ!」
言い終わる前に、源三の顔にトモの拳が叩き込まれた。
「またそんなこと言ってる、このエロジジィ!」
後ろに振り返って赤面するトモ。顔面を押さえて痛がる源三。
GLORY内でも有数の発明家として知られている彼だが、綺麗な女性にセクハラ行為を求めるという悪いクセがあった。トモにその下心を見せては、必ず返り討ちにされる始末である。
「そんなことじゃなくて、ネプチューンの整備は終わったの?」
「おう、そのことか?それならとっくに終わってるぞ。」
そう言って源三は奥の棚の上段に置かれた棒と携帯電話を取り出した。
心の力をつかさどるブラッドの力を科学的に解明したブラッド・テクノロジーを結集させて開発されたのが、破邪の剣である。
破邪の剣は現在3本作り出されており、攻撃重視の「ウラヌス」、エネルギーの吸収、反射、無力化を備えている「プルート」、トモが持っている特殊効果を備えている「ネプチューン」がそれぞれ存在している。
破邪の剣は、普段は棒として保持するが、携帯電話をセットして番号を押して決定ボタンを押すことで、精神力を糧にしてエネルギーの武器となってその効果を発揮する。
1、2、3は剣、4、5、6は銃砲となり、それぞれ形態や能力が微妙に異なっている。そして7、8、9は特殊効果であり、その効果は剣によって効果が異なっている。0を押すとエネルギーの放出を一時停止する。
そして*、#を押した後で各番号を押すと、それぞれの番号の効果を通常を越えた威力で発動することができる。
携帯電話は専用の充電器はもちろん、太陽によるソーラーエネルギーからも充電でき、さらに棒にセットした状態でなら、使う人の精神力を電力に変換することで充電が可能となっている。
トモの使用するネプチューンの特殊能力は、鞭、盾、槍へと形状を変えられることである。
破邪の剣は、その能力による反動が大きいため、人間にはまず扱うkとができない。しかしそんな中で、GLORYの隊員の中で、トモだけがこの剣を扱うことができるのである。
彼女はブラッドではなく普通の人間である。GLORYでの身体検査でも人間であることが立証されている。
普通の人間であるはずのトモがなぜ破邪の剣を扱えるのかは、トモ自身にも疑問に感じていることだった。しかし、ブラッドに孤児院の仲間を手にかけられた彼女の、ブラッドに対する憎しみと、罪のない人々を守りたいという正義感が、そんな疑問を心の奥に追いやってしまうのである。
「もう、おじいちゃん、またHなことしないでよ!」
その騒ぎを聞きつけてか、源三の孫娘であるサエが室内に入り込んできた。
彼女は祖父である源三から、ブラッド・テクノロジーを始めとした科学技術ののうはうを教え込まれていた、15歳の水色の髪をした少女である。
彼女はトモに一途な憧れを抱いていて、そのことをリョウに放したら、彼はそのことを大胆発言として受け止めた。どんな逆境の中でも諦めず立ち向かっていくトモの姿に、サエは惹かれていたのであった。
「ごめんなさい、トモ。おじいちゃんがまたヘンなことしてきて・・」
サエは源三の行為を詫びて、トモに平謝りする。
「気にしないで。いつものことだから。」
いつものように、源三を撃退するトモであった。
「またブラッドが現れたんですか?」
「うん、南東3キロ先の避難所にね。」
「いつか私もトモと一緒に戦ってみたいです。」
意気込みを見せるサエの頭に、トモは優しく手を乗せる。
「もうちょっと、体力と訓練を積んだらね。じゃ、行ってくるね!」
トモは破邪の剣を手にとって、研究室を飛び出していった。
世界の中心に点在するカオスキャッスル。その地下室にブラックカオスはいた。
彼は1人の美しい女性を裸にし、胸を揉んだり腰や足を触ったりしていた。
「あ・・ぁぁ・・・カオスさま・・・」
女性が快感に身を沈めて、あえぎ声を漏らす。
彼女はカオスに心からの愛情を注いでいた。彼がそれを受け止めているかどうか関わらずに。
彼女の感情はカオスによって限りなく高ぶらされていた。そしてカオスは体を離し、女性から距離を置いた。
「これでお前の魂は限りなく高められた。生贄にするには十分なほどに。」
「えっ・・・?」
何を言っているのか分からず、女性が疑問符を浮かべる。カオスの抱擁された彼女の体は力が抜け落ちていた。
カオスが女性に向けて右手を伸ばした。すると女性の体に激痛が走る。その痛みのあまり、思わず立ち上がってしまう女性だが、思うように足を進めることができない。
「体が・・動かなくなる・・」
次第に硬直していく女性の姿を見つめ、カオスが不気味な笑みを浮かべている。
「私の力は知っていると思うが、あらゆるものを凍結させる能力を備えている。今私がお前にかけているのは、お前の中にある炭素を始めとした空気を凍てつかせている。細胞が固まってきているんだ。相当の激痛のはずだ。」
カオスの指摘どおり、女性は自らの体の細胞が固まっていく激痛に苦しみ悶えていた。それを見てもカオスは笑みを消さない。
「しかしその痛みにも快感を覚えられるはずだよ。お前は私に全てを委ねたことで、体も魂も洗礼されたはずだ。」
「イヤッ!カオス様!」
カオスの送り込む力によって、女性は苦しみふらつく。
やがて女性は微妙な動きしか見せなくなっていた。その顔は虚ろな眼をした無表情。カオスに向けて伸ばそうとする手が小刻みに震える。カオスはさらに笑みを強める。
「そう、その顔だ。快楽に溺れたその表情を浮かべたとき、最高の心理状態に陥る。それこそ、栄えある人柱になるに相応しくなる。」
カオスは女性に向ける右手にさらなる力を込める。女性の背後に、四角い壁が出現して女性を取り込んでいく。
「さぁ、お前は邪神の力を呼び起こす生贄となるのだ!光栄に思うがいい。」
「カオ・・ス・・・さ・・・ま・・・」
カオスの力を放つ右手に輝きが宿る。固まっていく音が鳴り響き、女性は壁に埋め込まれた形で固まり動かなくなった。
右手を下ろし、カオスは固まった女性へと近づき、その頬に触れる。
「炭素凍結、カーボンフリーズは、固まってもなおわずかに意識が残る。だが身動きは全くできず、体の固まった激痛は治まることはなく、永遠に続くことになる。だが、それもまた幸せのはずだ。その刺激を快楽に変えれば、これほど喜ばしいことはない。それにその美しい体を永続的に維持できるのだ。私に全てを捧ぐつもりでいるなら、感謝の意を示していると思うが。」
(ぁぁ・・・カオス様・・・)
満面の笑みを浮かべるカオスに対し、女性は喜ばしい思いを胸中で呟く。
その周囲には、同じように作り出された壁に埋め込まれる形で固められた裸の女性たちが並べられていた。
「さあ、一気に突っ走るわよ!」
トモは専用超起動バイク、イーグルスマッシャーを駆って、ブラッドの襲撃に見舞われている避難所へと爆走していた。
イーグルスマッシャーは、源三が最大限まで改良を加えて馬力を上げた、最大時速1000キロを誇る超マシンである。
しかしそのスピードゆえ、反動が大きすぎるため、破邪の剣同様、扱えるのはGLORY内ではトモただ一人なのである。
トモはイーグルスマッシャーをフル活動させ、ついに避難所のある町の入り口が見える場所までたどり着いた。
「見えた!あそこね!」
逃げ惑う人々をかき分け、トモはさらに突き進んでいく。やがて人々がブラッドに襲われる様が眼に映った。
「やめなさい!」
トモはそのままの勢いで、数人のブラッドの集団に向かって突進した。2人は激突されて近くの家の壁に叩きつけられたが、残りは激突をかわしていた。
イーグルスマッシャーを止めて下りたトモが、倒れている老人に駆け寄る。
「大丈夫、おじいちゃん!?」
トモに起こされた老人は、慌てながらも頷く。
「さ、早く逃げて!」
老人を逃がしてから、トモはそれぞれ武器を具現化するブラッドたちに視線を向ける。
「オレたちブラッドにたった1人で立ち向かってくるなんてな。身の程知らずもいいとこだぜ。」
「これ以上アンタたちの好きにはさせない!ブラッドは全員あたしの敵だ!」
トモは声を張り上げて、ネプチューンの電源取り付け場所に携帯電話をセットした。携帯電話を開き、番号1を押して決定ボタンを押した。
すると、エネルギー発射口から光の刃が出現し、剣を形作った。攻守のバランスの取れた剣である。
「こいつ、破邪の剣を、ネプチューンを持ってるぜ!」
「そいつを奪って、ついでにその娘をブラッドにしていいなりにすりゃ、一石二鳥だぜ!」
意気込みを見せるブラッドの男たち。そこにトモがネプチューンを一閃して男たちをなぎ払う。
その絶大な威力を目の当たりにして、まだ意識を保っているブラッドが驚愕を覚える。
「な、何なんだよ、この力はよ!?」
怯えながら言い放つ男。光の刃を消さないまま、トモが男を見下ろす。
「これが破邪の剣の威力だよ。いくらブラッドでも、この剣の威力には敵わないわよ。」
トモが剣の切っ先を起き上がれずにいる男の顔に向ける。
「こんな弱者に勝ち誇ってどうする?」
そのとき、トモの背後から声がかかる。トモが振り返ると、長身で体格の大きい男が立ちはだかっていた。
「アンタがこいつらの大将ってわけ?」
トモは剣の切っ先を大男に向ける。男が笑みを浮かべる。
「オレの名はゲン。この避難所の人間をブラッドとして覚醒させるための部隊の隊長だ。」
ゲンは背中に背負っていた大型の剣を引き抜いた。
トモとゲン。2人の持つ剣から覇気が放たれる。
「やあぁぁーーー!!!」
トモが叫びながら、ネプチューンを大きく振り上げた。ゲンは冷静にその動きを見切り、大剣を振りかざしてネプチューンを振り払った。
「えっ!?」
トモが振り向いた先で、弾かれたネプチューンが地面に突き刺さった。使う人の手元から離れ、精神力というエネルギー源を一時的に失っても、携帯電話のバッテリーやソーラーエネルギーによって、エネルギーの放出を維持することが可能となる。
振り向くトモの顔に、ゲンの大剣の切っ先が向けられる。
「終わりだ。人間の娘よ。」
ゲンの鋭い言葉に、トモは知らず知らずに死を覚悟していた。
「ちょっと待ちな。」
そんな彼女らに鋭い声が割り込んだ。トモとゲンが同時に振り向くと、1人の人が立っていた。紅い短髪にバンダナを付け、長身で細身の体をしていた。
「何だ、お前は?」
ゲンの問いかけに、その人物は鋭い視線を投げかけながら答えた。
「私はアヤ。お前たちブラッドを支配している、ブラックカオスを倒すために戦う者だ。」
アヤは腰につけていた棒を手に取った。そして懐から携帯電話も取り出した。
「あ、あれはっ!」
トモはアヤのその道具を見て驚く。アヤの持っていたそれは、世界に3つしか存在していない破邪の剣である。
「お前も破邪の剣の使い手か!?」
「そうだ。これは攻撃力の最も高い剣、ウラヌスだ。」
アヤは携帯電話をウラヌスにセットし、番号3、決定ボタンを続けて押した。精神力を糧にした光の刃が、えん曲を描いた大剣を形作った。
「その剣に打ち勝つには、それに負けないような大型の武器を使うのが得策だ。あとはその威力の差だ。」
アヤの指摘どおり、大型の武器の力をはね返すには、それをはね返す力を体に身に付けさせるか、同じような大型の武器を使うしかない。トモが出現させていた通常の型の剣では、ゲンの大型の剣に太刀打ちできなかったのは明らかだった。
「おもしろい。お前の腕、見せてもらうぞ。」
「私は手加減はできない。殺されても悪く思うな。」
「望むところ!」
ゲンは勢いをつけて、アヤに向かって大剣を振りかざして突進する。アヤは振り下ろされたその刃をウラヌスで受け止めた。
「こ、こいつ、できる・・!」
ウラヌスの力だけでなく、アヤの実力に脅威を感じていた。しかしアヤは平然としていた。
「その程度では、私が本気になれば。」
「何だとっ!?」
驚愕するゲンの大剣をなぎ払い、アヤはさらに大剣の刀身にウラヌスを振り下ろした。何度か叩かれた刀身が、大きな音を立てて折れる。
「バカな!?オレの剣を!」
「終わりだ。」
アヤはすぐさま携帯電話の番号1と決定ボタンを押し、ウラヌスの形態を変える。通常の剣へと形を変えたウラヌスで、アヤはゲンの腹部を貫いた。
紅い鮮血を吐いて、ゲンが不敵な笑みを見せる。
「この私を破るとは、見事だ・・お前と戦えたことを誇りに思うぞ・・・」
ウラヌスの光の刃が引き抜かれ、ゲンがアヤをたたえて、前のめりに倒れこみ、動かなくなる。
番号0を押して、ウラヌスの力を消失させるアヤ。その姿からトモは眼が離せなくなっていた。
「すごい・・・こんなにすごいなんて・・・」
トモはいつしかアヤに心を奪われていた。何者なのか分からないアヤに。
これが2人の運命の出会いだった。