ドレス姫 〜永遠への誘惑〜
作:幻影
私は金田マキ。ドレスデザイナーをしているの。
今日、私の服を着飾って、美に酔いしれるのはどなたでしょう・・・。
羽井千里、19才。
大学に通うために上京してきた平凡な女子大生である。
「どうしようかな・・・。」
ある日、千里は悩んでいた。
千里の通う大学の恒例行事である舞踏会に、千里は参加しようと思っていた。大きなイベントに参加して、自分の内気な性格を改めるためだった。
けれど、あまり裕福でない千里には、お古のドレスも、ドレスを買うお金も持ってはいない。このままでは舞踏会に参加できない。
「こまったなあ。どうしよう。どっかに安いお店ないかなあ。」
「何かお困りですか?」
「はい?」
そのとき千里に声をかけてきたのは、妖しげな笑みを浮かべている長髪の女性だった。どこにでも売っていそうなシャツ、スカートといった衣服を着ていたが、千里にとってはその姿はきれいに見えた。
「いい服ですね。」
「ふふ、そうでもないのよ。・・・もしかして、着るものに困っているとか?」
図星を言われ、思わず顔を赤らめてしまう千里。
「んっふふふふ、よかったら私が作って差し上げましょうか?」
「えっ?いいんですか?・・でも、私あまりお金持っていませんし。」
「いいんですよ。でも、少しお時間を頂けますか?」
「ええ、それならかまいません。」
「では、私の家のデザインルームへ。」
女性に誘われて、千里は歩き出す。
「そういえば、自己紹介していなかったですね。金田マキ、よろしく。」
「マ、マキさん?!ドレスデザイナーの中では世界でも折り紙付きだと評されている・・」
「それほどでもないですよ。私が考えたデザインが、皆さんが気に入っているだけですよ。」
「私、羽井千里です。よろしくお願いします。」
楽しく会話を交わしながら、2人はマキの自宅へとやってきた。
「うわあ、大きい・・・こんな大きい家、入った事ない・・・」
「ふふ、驚くのはこれからかもしれませんわよ。」
マキの案内で、千里はデザインルームに通された。そこには、多種多様のドレスと、それを身にまとったマネキン人形たちが並んでいた。
驚きとドレスへの魅力に満たされる千里。しばらく黙り込んでから、
「・・・もしかして、みんなマキさんが・・」
「そうですよ。中には皆さんの目に触れていないものもあるんですよ。別に失敗作というわけではなくて、私のただの自己満足なだけですけどね。」
そう言うとマキは、千里と一緒にデザインルームと反対の部屋に入った。そこは衣裳部屋のようで、ドレスをはじめ女性ものの衣服がハンガーに掛けられて収められていた。
「これも、マキさんが・・」
千里がまた感嘆の声を上げる。
「ええ。あなた、身長はどのくらい?」
「えっと・・149センチです。」
するとマキは「146〜150」と書かれたプレートの貼ってあるロッカーに案内した。どうやら、身長ごとに区分けされているようだ。
「さあ、どれでも好きなのを選んで下さい。」
「いえ、マキさんが選んで下さい。私、服のセンス少し悪いみたいで・・」
「ふふ、そう自分を悪く言わないほうがいいわよ。いいわ、選んであげる。」
千里にドレス選びを任されたマキは、たくさんのドレスの中から1つを取り出した。
それは、きれいなレモン色にピンクの花びらを飾った華やかなドレスだった。その魅力に、千里は夢の世界に引き込まれそうな気分になった。
「これなんてどうかしら?」
マキが千里に聞く。
「ええ、ホントにいいですね、このドレス。」
「ちょっと着てみましょうか?」
「は、はい!」
マキのドレスを試着して、千里はデザインルームの大鏡の前に立った。
「うわあ、すごい!私じゃないみたい・・・」
「んっふふふふ、とっても似合ってるわよ。」
「そうですか!?でも、ホントにもらってもいいんですか?」
一応、さらに念を押す千里。
「別にいいのよ。あなたにはずっとそのドレスを着ていてほしいからね。ずっと・・」
「えっ?」
振り返った千里は、マキの眼が不気味に赤く染まっているのを見た。まるで人間じゃないみたいな。その姿に千里は恐怖する。
「マキさん、いったい・・・?」
「ふふふふ、実はここにいるマネキンたち、もともとは本物の人間なの。」
「な、何を言って・・・」
そのとき、赤いマキの眼が強く輝くと、眼から放たれた怪光線が千里を襲った。マキの光線に包まれた千里の手足から力が抜ける。
そして光線を最初に受けた場所から、徐々に千里の体が変色していく。
(どうしたの?声が出ない。体が動かない。)
千里の不安をよそに変色は進行し、やがて千里の体全体を包んでいった。
「ふふふ、また私のコレクションが増えたわね。」
(コレクション?・・・これって・・・)
「私の声は聞こえているわね。千里さん、あなたは私の力でマネキン人形になったのよ。」
(ウソ!?マネキン!?)
千里の耳にはマキの声は聞こえていたが、千里は声を出せず、心の声もマキには届かない。
「きれいな花をきれいなまま留めておくおまじないよ。千里さん、その姿、とってもすばらしいわよ。」
マキは動かない千里を、立ち並ぶマネキンの中に置いた。そして口元に指を当てて笑みを浮かべる。
「満足でしょ?美しい一輪の花に生まれ変われたんですから。」
そう言い残して、マキはデザインルームを出て行った。
(イヤ、止めて!私このままでいたくない!こんなことまで望んでなんかいない!)
千里の心の声は、このデザインルームに空しく響くだけだった。
今日もいい仕事をしましたわ。
次の花は、あなたかもしれませんわ。ふふふふ・・・・
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