復讐と欲望と

作:幻影


 所々に草が生えている空き地と思える場所。
 その真ん中で、少年が顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら泣きわめいていた。
 その横の道を通りがかった1人の男性が、まじまじとその様子を見ていた。
 彼は紳士服をまとっていて、外見では仕事帰りのサラリーマンとも想定できるのだが、カバンもバッグも持ち歩いてはいなかった。
「どうしたんですか?」
 男性がゆっくりとした口調で少年に声をかけてきた。
 少年がうめきながらも男性のいる方に顔を向ける。
「あなたは・・?」
「私はジョーン。君があまりに辛そうにしているので、放っておけなくなりましてね。」
 ジョーンは少年に哀れみの視線を送っている。口元は小さく笑ってはいるが。
「よかったら私に話して頂けませんか?あなたに何が起こったのか。」
「う・・うん・・」
 少年は顔を濡らす涙を腕でぬぐい、ジョーンの顔を見ながら話し始めた。
「僕の名前はロック。ついさっきあの女が、僕が大切にしていたものを踏み壊したんだ。」
 そう言うとロックは、右手に握りしめていたものをジョーンに見せた。ダイヤの形をした水晶のペンダントのようだが、粉々にされていた。
「これは?」
「母さんの形見なんだ・・・」

 ロックの通っている高校は、国の中でも5本の指に入るほどの学力のある有名校である。
 しかし、その学校には他の生徒に嫌がらせをするエレナという3年生が在学していた。
 ふわりとした金髪をなびかせている彼女は、4人のとりまきを連れて、気の弱そうな生徒、気に入らない生徒に対して、私物に手を出したり人の秘密をバラしたりなど、いじめや嫌がらせを続けていた。
 抗議する人が出ると、知らぬ存ぜぬを貫き、挙句にはとりまきを使って暴力をふるい、その人に奴隷のような扱いを強いてくるのである。
 被害者やその関係者が先生や警察に助けを求めるが、話を聞くだけで何もしなかった。何故なら、エレナの父親は国内でも1、2を争うほど有力な政治家であり、彼によって職を失うことを恐れて、指をくわえて見ていることしかできないでいたのである。
 ロックもエレナたちの嫌がらせの被害にあっていた。憎しみの炎を燃やしながらも、その矛先をエレナに向けることができないでいた。

 ロックには、付き合って1年たつ女性(ひと)がいた。名前はアリア。幼さの残る可愛さを持っている紅い短髪の彼女は、ロックと同じクラスである。
 しかし今日、その関係はロックが予想だにしていなかった形で裏切られることになった。
 空き地にアリアに呼ばれてやってきたロックの前に、エレナとそのとりまきたちが現れた。
「ご苦労さまね、アリア。よくやってくれたわ。」
「はい、お姉さま。」
 アリアはエレナに近寄り、尾を振って喜んでいる飼い犬のように入り浸っている。実際、アリアとエレナは本当の姉妹というわけではないが。
 あまりに非情な出来事に、ロックは驚愕し、言葉を失っていた。
「驚いた、ロック?実はあたし、エレナお姉さまに憧れていたの。お姉さまがロックをいい遊び相手だと言っていたので、付き合うフリをしてあなたの秘密を探っていたの。」
「そ・・そんな・・そんなバカなこと・・」
 ロックは体を震わせ、混乱で顔を歪めている。そんな彼にエレナは笑みを見せながら近づいていく。
「アリアのおかげで私は退屈しなくて済んだわ。でも、もうあなたには飽きたのよ。私も、アリアも。」
 エレナのこの言葉が、混乱していたロックを憤怒させた。
「お前が・・お前がアリアをそそのかしたのか!?」
 怒ったロックは、エレナの頬に拳を打ち込んだ。笑みを浮かべていたエレナの表情が一瞬にして歪んだ。
 同時に、とりまきたちがロックを押さえつけ、草の生えた地面に押し付けた。
「このアマっ!」
「エレナさんになんてことを!」
 とりまきたちに押さえられ、ロックはうめき声を上げることしかできない。
 殴られた頬を手で押さえながら、エレナは歯軋りをする。
「ずい分と仕付けがなっていないようね。お仕置きをしないと。」
 口元だけに笑みを浮かべて、ロックの首にかかっていたペンダントを手に取った。
「綺麗なペンダントね。でもあなたにはあまり似合わないね。」
「やめろ!そのペンダントは・・ぐあっ!」
「おとなしくしてなさいよ!」
 ペンダントを取り上げたエレナに抗おうとしたロックだが、怒号を上げるとりまきたちに押さえつけられる。
 エレナは笑いながら見ていたペンダントを落とし、力を込めて踏みつけた。
 ペンダントの水晶が鈍い音を立てて粉々に砕けた。
「あっ!」
 眼の前で起きたことが信じられず、ロックは頭の中が真っ白になった。抗っていた体から力が抜け、とりまきたちもロックから離れた。
「安心なさい。あなたにはもう何もしないわ。これ以上は楽しめそうもないから。いくわよ、アリア。」
「はい、お姉さま。」
 エレナとアリアはロックに背を向け、そのまま立ち去っていく。
「これで分かったでしょう?」
「これに懲りてエレナさんに逆らわないことね!」
 とりまきたちもロックをあざ笑いながらエレナについていく。
 ロックは砕けたペンダントを握りしめ、エレナを呼び止めることもできず、うずくまったまま泣いていた。

「そう。母さんの形見を・・・」
 笑顔を作って聞いていたジョーンの表情は曇っていた。
「あいつのせいで、僕は大切なものさえ失った。許せないよ。でも、先生も警察も、あいつの父親に権力を握られて、何もできないでいる。」
「そうですか・・・分かりました。私が君の怒りを引き継いであげましょう。」
「えっ!?」
 今のジョーンの言葉が理解できず、ロックが疑問符を浮かべている。
「でもどうやって!?殺人はこの国では重罪だよ!」
 しかし、ジョーンは顔色ひとつ変えないまま、
「なら、誰にも解明できない、完全犯罪を行えばいいのです。心配せずに。私に任せてください。」
「でも僕、貧乏であんまりお金がなくて・・」
「いつもはお金をもらっているのですが、今回は無料でやりましょう。君のような悲しい人を見かけて通り過ぎることは、私の性分ではありませんので。」
「なんで、なんで僕のためにそこまで・・」
 ロックはジョーンがここまで想ってくれることにやるせなかった。
 ジョーンはロックに背を向けて話を続けた。
「実は私もね、女にひどい仕打ちを受けていましてね。」
「あなたも!?」
「母ですよ。父が亡くなってから態度が一変しまして、私への暴力が途絶えた日がないほどでしたよ。私から見て、女は愚かですよ。吐き気がするくらいにね。外見は野に咲く花のようなのに・・」
 憎しみで歪んでいたジョーンの表情を、背中を見せられていたロックはうかがうことができなかった。

 執事の運転する車で家に帰ってきたエレナ。執事やボディガードと別れて、自分の部屋でくつろいでいた。
「うっふふふ。あのロックの顔、見ものだったわね。」
 満面の笑みを浮かべながら、混乱したロックの顔を思い返していた。
 エレナは復習をするため、自分の机へと向かった。いくら楽な人生が約束されたも同然だといわれていても、ある程度の知識がなければ恥をかくと思っているからである。
 すると、机の上に1枚の手紙が置かれていることに気付くエレナ。
 広げて見てみると、エレナはその内容に眼を疑った。

エレナ・マイルスターさん、あなたの父、ゼアスさんを預かっています。無事に帰してほしいのでしたら、今日の午後9時、街外れの教会の前に来てください。誰かに知らせたら、父の命は保障しませんのでそのつもりで。あと、以下5名も全員連れてくることもお忘れなく。

 その文面の下には、アリアととりまき4人の名前が書き記してあった。
 エレナは驚愕して、慌ててアリアたちに連絡をとった。

 陽が沈み、薄暗くなった林道。
 不安を秘めながらその道を歩くエレナは、教会の門の前に立っていたアリアを発見した。
「アリア!」
「あっ!お姉さま!」
「どうしたの?あなただけ?」
「はい。あたしが来たときは誰もいなくて・・」
「あの4人なら先に誘導しましたよ。」
 聞き覚えのない奇妙な声にはっとして、エレナとアリアは同時に振り向いた。そこには紳士服姿のジョーンが小さな笑いを浮かべていた。
「あなたが・・お父様はどこなの!?」
「あなたの父さんも彼女たちと一緒に場所にいますよ。ご案内します。ついて来て下さい。」
 そう言ってジョーンは振り返り、ゆっくりと歩き出した。
 彼のいうことが腑に落ちなかったエレナだが、父親のために仕方なく聞き入れることにし、アリアもついていく。
 しばらく歩いたジョーンたちは、林道の奥にある古びた建物にたどり着いた。
「ここにお父様が、みんながいるのね。」
 エレナが建物を見上げて小さく呟く。
 建物の扉に近づいたジョーンは、その横の画面に右腕を伸ばした。その腕には腕輪が付けられていて、それに画面が反応して扉が開く。その腕輪が扉の鍵なのだろう。
「さあ、中へどうぞ。」
 ジョーンの導きに促されて、エレナたちが先に建物に入り、ジョーンがその後に続いて扉を閉めると、扉の鍵が閉まる。オートロックになっているその扉は、ジョーンの腕輪以外で開くことはできないようである。
「こちらですよ。」
 ジョーンはエレナとアリアを誘導し、地下に続く階段を下りていく。
 地下は、重機械が置かれていた1階とは違い広々としていた。
 周囲には裸の女性が何人もいたが、誰も動きひとつ見せず、不気味な雰囲気を漂わせていた。
「お姉さま、何なんですか、ここ・・?」
「ちょっと、お父様はどこなの!?」
 不安を隠せないアリアと苛立って声を荒げるエレナ。
 ふと足を止めて振り返り、笑みを見せるジョーン。
「父さんはここですよ。」
 ジョーンが指し示した先には、壁にもたれかかって倒れていたエレナの父親の姿があった。
「お父様!」
 エレナが声を張り上げて近づこうとしたそのとき、父親の体が崩れた。山を形作っていた砂が風に吹かれてその形を失くすように。
「お、お父様・・・」
 何が起こったのか理解できず、エレナは口を手で押さえて混乱する。
 そのとき、ジョーンは笑みを見せて指を鳴らした。
 すると、天井があるにも関わらず、エレナの上から円柱型の巨大なガラスケースが落下し、彼女を閉じ込めた。
「えっ!?」
「お姉さま!・・これって・・」
 アリアが動揺しながら、閉じ込められたエレナに近づく。
 エレナが焦りながらもケースから出ようとするが、ケースはあまりに頑丈なため、抜け出ることができない。
「すみませんが、あなたは私の渇きを埋める役になってもらいます。」
「ちょっと、どういうことよ!?」
 エレナがケースの中で声を荒げる。
 そのとき、ケースの上部から透明な液体が霧状で噴出された。
 そして、エレナは息が詰まるような気分に襲われた。
「く・・ああ・・・」
「お姉さま!」
 あまりの苦しさにうめき声を上げるエレナ。アリアが悲痛の声を出して、なんとかエレナを助けようと必死にケースを揺り動かしている。
 いったんケースから手を離し、アリアが救出方法を考え直そうとしたとき、同じ型のケースが左右から半分ずつ接近し、アリアを閉じ込めた。
「わっ!しまった!」
「しばらくおとなしくしていて下さい。大丈夫です。彼女と同じ思いはまださせません。じっくりと楽しみたいですから。」
 苦痛がさらに増していき、悶え苦しむエレナ。
 そして、彼女の着ている服が濡れて破れていく紙のようにドロドロに溶け始めた。
「キャッ!何なのよ、コレ!?」
 動揺と苦痛を隠せないエレナを、ジョーンは小さく笑みを見せる。
「ふふふ、この動揺、この悲痛の叫び、乱れる心。これこそ私の渇きを潤す清水。この液は、服の繊維を破壊する溶解液と、人間の細胞を硬質化する凝固液を適度の分配で調合させたものです。激しい苦痛の後、時期に彼女のようになりますよ。」
 ジョーンが指し示した先をエレナとアリアが見ると、とりまき4人が全裸で棒立ちになっていた。
「あなたたち・・」
「彼女たちも苦痛の調べを奏でてくださいましたよ。私の渇きがまたひとつ埋まりました。」
 ジョーンの笑みが不気味さを増す。
「早く、私たちをここから出しなさい!」
 困惑しながら必死にケースを叩くエレナ。しかし、ケースはビクともしない。
「ムダですよ。このケースは最上級の核弾頭でも傷ひとつつかない強度なのですよ。もう私の快楽から逃れることはできませんよ。」
「く、くああぁぁーーー!!!」
 固まっていく体の激痛に、エレナは悲痛の叫びを上げる。
「そうです!プラスチック化する自分に苦しみなさい!わめきなさい!だんだんと死んでいくのです!その断末魔が、私の心を満たしていくのです。」
 ジョーンの悠然としていた表情が一変して、悪魔のような形相になっていた。
 やがてエレナは声を出さなくなり、体から力が抜けていった。ケースには液体の水滴が張り付き、彼女の服も液体に完全に溶かされ、濡れた素肌をさらしながら呆然と立ち尽くしていた。
「お姉さま、しっかりして!」
 アリアが呼びかけるが、エレナは全く反応しない。
「まあ、あの4人よりは長かったようですね。もう、いいでしょう。プラスチックのオブジェとして、これから眼の保養にさせてもらいますよ。」
 ケースの上部から青黒い霧が吹き出した。力なく立ち尽くしたエレナを霧が包む。
 そしてケースが消えて霧があふれ出し、そこから全身の素肌が青色に染まったエレナが姿を現した。
「お・・お姉さま・・?」
 アリアの不安の色が濃くなる。
「ムダです。もう彼女は生きてはいません。脳も心臓も、凝固液の効果で完全に固まり、命のともし火は消えてしまいました。」
「でも、どうして!?なんでお姉さまを・・」
「これは僕の復讐でもあるんだよ。」
 悲痛の訴えを叫ぶアリアの前に、部屋の隅に隠れていたロックが現れた。
「ロック!?なんであなたがここに!?」
「私が彼の話を聞いて、彼の代わりに復讐を行ったのです。苦痛と悲鳴という、私自身の快楽を収益として。」
 その問いに答えたのはジョーンだった。
「あなたは彼の心を踏みにじった。人の心を殺めることは、自分の命を殺めることにもつながるのですよ。」
「どうして・・あなたには関係のないことじゃない!」
「関係ありますよ。なぜなら、私も女に虐げられてきた人間ですから。」
 ジョーンの一変した表情に、アリアは怯える。
「最後に確認しますよ。彼女もよろしいのですか?」
 ジョーンがロックに問う。しばしの沈黙の後、
「いいよ。かまわない。アリアにも僕の苦しみを味わってもらわないと。」
「ちょっと、ロック、何考えてるの!?・・あっ!」
 アリアを閉じ込めたケースから、エレナを死に至らしめた液体が噴出された。
「い、痛い・・体中が痛い!」
 アリアの体に激痛が走る。まるで体が凍りつく、いや、体が氷そのものになるような感覚に襲われていたのだ。
「お願い!あたし、死にたくないよ!助けて!ここから出して!」
 衣服が溶けていく体を抱きしめて苦痛に耐え抜こうとするアリアの叫びが響き渡る。しかし、ジョーンは不気味な笑みをアリアに向ける。
「やめてあげません。私の心が埋まるまでは。彼がそれを拒否しない限りは。」
 苦痛が限界に達し、アリアがケースに倒れ掛かり、眼からは大量の涙が流れていた。しかし、涙は液体と入り混じってしまい、涙かどうかも判別できなくなっていた。
「お願い、ロック!やめさせて!あなたにしたことは謝るから!」
 涙ながらに叫ぶアリア。ロックは後ろを振り返り、小さく呟く。
「謝って済むなら、役に立たない警察や先生はいらないんだよ。」
 やがて感覚が麻痺し、アリアは何も感じなくなっていた。全裸の姿で、虚ろな眼差しをロックの後ろ姿に送る。
「やめて・・やめ・・て・・よ・・・」
 唇を震わせて必死に声を振り絞るアリア。しかし、その声はロックには届かなかった。
 力を失って棒立ちになったアリアに青黒い霧が吹きつけ、プラスチックのオブジェへと変えていく。
「少し残念ですね。今の彼女のは、苦痛の叫びというより、彼に対する後悔の叫びと言ったほうがいいようですね。」
 ジョーンがため息をついて、固まったエレナとアリアを見つめる。
「ロックくん、彼女たちをどうしますか?このまま私に預けてもいいですし、家に置き場があるなら引き渡しますよ。」
 ロックは無言のまま、青い素肌のエレナの前に近寄った。そして力を込めて彼女を押し倒す。
 強い力に押されたオブジェは、そのまま地面でバラバラになる。さらにロックは、エレナの顔を力強く踏みつけ、粉々に砕く。
「こんな性悪女、顔も見たくはない!」
 今まで自分を傷つけてきた悪女を破壊するロックが、その苛立ちをあらわにする。
「もったいないですね。彼女は見かけは美しい女性なのですがね。まあいいでしょう。代わりはいくらでもできますから。」
 その姿をみつめながら、ジョーンは呟く。
 怒りで息を荒げるロックが心を落ち着けてジョーンに聞く。
「ジョーンさん、アリアは僕が引き取りたいんだけど。あとの4人は、あなたの好きにしていいよ。」
「分かりました。こっそりあなたの家に送っておきましょう。そして彼女たちは闇取引の商品にいたしましょう。そこそこの利益にはなるでしょう。」
「ありがとう。それじゃ、僕は戻りますね。」
「くれぐれもこのことは内密にお願いしますよ。私と、君の未来のためにも。」
「分かってるよ。」
 ロックは小さく笑みを見せて部屋を出ようとする。
 そしてふとその足を止める。
「ところで、聞いてもいいかな?」
「何ですか?」
 ロックの声にジョーンが答える。
「どうして女をそこまで嫌ってるの?」
 ジョーンはため息をついてから、再び口を開いた。
「母に暴力を受け続けた私は、一時期女を見ることさえ恐怖するようになってました。そしていつの日か、つい頭に血が上ってしまいましてね、母の腹を包丁で刺したんですよ。」
 ジョーンの顔が憎悪で歪み始めた。
「本当ならそのとき怯えてしまうものですが、あのとき私は笑ってましたね。何の哀れみを見せないほどにあざ笑ってましたよ。望みが叶ったという感じです。」

 建物から離れ、自分の家に帰ってきたロックは、部屋の真ん中にたたずむアリアを発見する。
「やっと戻ってきたんだね。お帰り、アリア。」
 ロックは全裸姿のアリアを抱きしめ、その素肌に触れる。
「あのときは痛かっただろう。辛かっただろう。だけど、これは君のせいなんだよ。あんな女にしっぽを振って、僕を陥れたから。」
 ロックはアリアの胸の谷間に顔をうずめる。それでもアリアは何の反応も示さない。
「これでもう、僕と君は一緒だよ。こんなに冷たく固くなっちゃって、死んだことになってるけど、君はいつまでも生きてるよ。僕の心に。」
 ロックは無反応のアリアに口付けをした。両手を彼女の体に滑らせて快感を覚える。
「さあ、お互いの心を満たしていこう。その体をもてあそんであげる。」
 ロックはエレナの体を次々と触っていく。彼女が生きていたら、どんな反応を見せるのかを想像しながら。
「アリア・・アリア!・・ああ・・・」
 気分を絶頂に上らせながら、ロックの長い夜が始まる。

「さて、次の獲物を探すとしますか。もうじき国のトップに立てるのも近いですし。」
 ジョーン・ベルディ。
 エレナの父と並ぶ国内でも有力の政治家の表の顔を持っている彼だが、彼には別の顔があった。
 闇社会の大半を支配している覇者、ジョーン・ヒッポリトという別名を持っている。
 彼は女への虐待による快楽と利益への商品を求めて、今日も闇をうごめいている。


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