ガルヴォルスinデビルマンレディー 第2話「変身」

作:幻影


 ジュンと怪物の前に、悪魔に姿を変えたたくみが降り立った。怪物は、狙いをジュンからたくみに移していた。
 剣を構え、たくみは怪物に向かって飛びかかる。そこへ怪物が、口から白い液体を吐き出してきた。
 たくみは背中から翼を生やし、飛翔してこれをかわす。地面に降りかかった液体は、空気に触れて一気に固まっていく。
「そうか・・女性が蝋人形みたいに固まっちまったのは、あいつの吐き出す液を受けたからか。」
 地面の白い凝固に対してつぶやくたくみ。怪物の吐き出された体液は、夜の空気に冷やされて一気に固まってしまったのだ。
「けど、そんな動きじゃ、オレには全く問題ないぜ!」
 たくみは勝ち誇った笑みを浮かべて、手に持っていた剣を怪物目がけて投げつけた。槍のように放たれた剣は、怪物の右腕を切り裂いた。
「ウギャアアァァァ!!」
 鮮血を噴き出した怪物が絶叫を上げる。腕は切り落とされなかったものの、その痛みは激しい。
「くそぉ、外したか。」
 たくみは舌打ちして、体液に注意を払いながら怪物に詰め寄ろうとする。これに危機感を感じたのか、怪物はうめきながら木の木陰に入り込み、そのまま姿を消した。
 逃げられたことに納得がいかなかったが、戦いを終えて安堵するたくみ。その脱力で、彼の姿が悪魔から元の人間へと戻る。
 ふと視線を移すと、ジュンの姿も戻りつつあった。鎌を思わせる髪も、ふわりと下がっていく。
「ジュンさん・・・アンタ・・・」
 困惑に囚われながら、たくみは裸のまま沈痛の表情を浮かべているジュンを見つめていた。

 たくみの手を借りながら、ジュンは和海の待つ彼の部屋に戻ってきた。
「ジュンさん、たくみ、大丈夫?」
「ああ。敵はにがしちまったけどな。」
 和海の心配の声にたくみが頷く。
「襲われた女性は、多分、アイツを倒さないと元に戻りそうにないな。」
 たくみが窓から外を見つめながらつぶやく。和海はジュンの代わりの衣服を渡している最中だった。
「さて、いろいろ話してくれないかな。」
 たくみは振り返り、ジュンにたずねる。
「私にも、あなたたちに聞きたいことがあるわ。あなたも、デビルマンなの・・?」
 しかし逆にジュンが問いかけてきた。
「デビルマン?・・いや、あの姿はガルヴォルスっていってな・・」
「ガルヴォルス・・?」
「うん。ガルヴォルスは、誤った人の進化。たくみも、そして私も・・」
 頷いたのは和海だった。彼女の言葉にジュンが耳を疑う。
 すると和海は立ち上がり、両手を大きく広げた。すると彼女の背中から、まばゆい光を放ちながら翼が広がった。天使を思わせるような輝きのある翼である。
「お、長田さん・・・コレって・・・!?」
「私もガルヴォルスなんです・・・私の姿は天使なんですけどね。」
 驚愕するジュンに、和海は優しく微笑む。意識を和らげると、天使の翼は光を弱めて霧散した。
「ガルヴォルスは、人間の力を超えた存在だ。けど、死ぬと固まって、砂みたいになって完全に消えちまうんだ。骨も残らないで・・」
 たくみはジュンに、ガルヴォルスについて語った。
 それぞれが特徴的な能力を持っているため、ガルヴォルス同士における比較は断定できない。
「じゃ、そろそろ聞かせてくれないか?アンタのその姿は何なんだ?ガルヴォルスの気配とは違うし・・」
 今度はたくみがジュンに問いかけてきた。するとジュンは自分の手を見つめて答えた。
「あれは、デビルビースト・・・ガルヴォルスと同じ、人の進化よ。」
「デビルビースト?」
 戸惑いを隠せないジュンの言葉に、たくみと和海が眉をひそめる。
 デビルビーストは、欲望や憎悪など、人間の影の部分が肥大化し獣人化した人のことをいう。凶暴性に囚われた人間は、その本能の赴くままに動き、その牙と爪を光らせる。
 ジュンは飛鳥蘭と名乗る女性の導きによってビーストへの変身を遂げ、他のビーストを狩る者として借り出されていた。しかし彼女は次第に葛藤を強め、最後には蘭と決別、対立した。
 滝浦和美をはじめとしたたくさんの親しかった人を巻き込み失い、ジュンは1人生きてきたのである。
「そうか・・・それでタッキーも・・・」
 和海が悲しみのあまり、自分の胸を押さえる。ジュンの顔にも悲しみが映っていた。
「和美ちゃんも最後にはビーストになったわ。あの子、とても私に憧れを抱いていたから・・」
 ジュンはともに同じ時間を過ごした和美のことを思い出す。
 自分がビーストであることを知ったときは嫌悪されてしまったが、再び心を寄り添わせることができた。
 物悲しい笑みを浮かべている彼女を見つめて、たくみはひとつ息をついた。彼もいろいろ考えあぐねていた。
 進化の道は違えど、2人の心境は酷似している部分が多かった。人でなくなることへの恐怖。周囲が怯え離れていく不安。そして親しかった人の死。
 同じ境遇と悲しみを背負っていた。
「まぁ、とにかく、こうして会ったのも何かの縁だ。よろしくな、ジュンさん。」
 たくみは安堵して見せて、ジュンに手を差し伸べる。
「お互い、いろいろ頑張っていこうね。」
 和海も笑顔で手を差し出す。
「・・・ありがとう、2人とも・・・」
 ジュンは2人の手を握り、その暖かさを感じ取る。
 人からかけ離れた不安を抱えながら、それでも笑っていこうとするたくみと和海に、ジュンの打ちひしがれた心が和らいだのである。
(ガルヴォルスとデビルビーストか・・・)
 たくみはふと、胸中で思い返していた。
「どっちにしても、人間の進化系に変わりないか・・」
「えっ・・?」
 たくみの呟きに疑問の声をもらす和海。そのきょとんとした彼女の顔を気に留めず、たくみは安堵の吐息をついた。

 夜道を歩く2人の少女。茶色のショートヘアの少女が、長い黒髪の少女の肩を借りていた。
 この日2人は中学の同窓会に参加していた。酒をあまり飲まない黒髪と違い、茶髪はビールを飲み干して、泥酔して上機嫌になっていた。
「ちょっとぉ!しっかり歩きなさいよ、全く!」
「いやぁ、どうもすみましぇんねぇ〜。」
 叱り付けても有頂天のままで、黒髪はただただ呆れるしかなかった。
 そのとき、近くの木々の枝が大きく揺らめき、黒髪が驚きを見せる。
「んん?どうちたの?」
 茶髪が気の抜けた声で聞いてくる。
「えぇ、今、あの木が大きく動いたような・・・」
 黒髪が困惑しながら、揺れた木の1本を指差す。茶髪がそれをじっと見つめる。
「気のせいじゃないのぉ?あ、もちかちて、酔ってたりしてぇ・・エヘヘヘ・・・」
 酔っているのはお前だろ、と胸中でうめく黒髪。代わりに大きくため息をついた。
 そのとき、彼女たちの眼前に、巨大な影が降り立った。黒髪は何事かと視線をその影に向ける。
 そこにはトカゲを思わせる巨大な怪物がいた。怪物は右手から紅い血を流して、痛みに耐えながらうめいていた。
「イ、イヤァァァーーーー!!!」
 恐怖のあまり叫ぶ黒髪。その表紙で茶髪を横に突き飛ばす。
 怪物が黒髪に向かって、白い液体を口から吐き出した。その液が、悲鳴をあげる少女に降りかかる。
 液体は夜の冷たい空気に冷やされ、一気に固まった。黒髪の少女は胸のあたりで握り拳を作り、悲鳴をあげたまま、蝋人形のように固まってしまった。
「ちょっとぉ、いたいじゃないにょいょ〜!」
 そこへ茶髪が眼をつり上げて叫んでくる。しかし、未だに酔いの覚めない彼女の声に、黒髪の少女が答えるはずもなかった。
「ちょっとぉ〜、にゃにかたまってんのよ〜?」
 寝ぼけ眼のまま、茶髪は視線を蝋人形化した少女から、不気味にうめく怪物に移した。
「こりゃ、どうも。鼻息あらいですよぉ〜。」
 酔いが覚めることがないまま、怪物の吐き出された白い液が、茶髪の少女にも吐きかけられた。

「これは・・!?」
 ただならぬ気配を感じたたくみが緊迫し、突然立ち上がる。彼の真剣な眼差しに、和海とジュンにも緊張が走る。
「ガルヴォルスじゃない!こいつはデビルビーストってヤツだ!」
「そうだね!しかも、さっき逃がしちゃったヤツだよ!」
 たくみと和海がそれぞれ気配を探る。ベランダに出て、たくみはさらに気配を探っていく。
「小さな通りのほうだ。今から行ってくる。」
「私も行くわ。」
 方角を確かめたたくみに、ジュンがゆっくりと立ち上がりながら声をかける。
「ダ、ダメですよ、ジュンさん!この体じゃ・・!」
 そんな彼女を和海が呼び止める。
「心配するなよ。あのくらいならオレだけで十分だ。和海はジュンさんを頼む。」
「分かったわ、たくみ。気をつけて。」
 小さく頷く和海に、たくみは握っている右手の親指だけを上に向けた。そして夜の街に振り返り、全身に力を込める。
 たくみの姿が悪魔に変わり、背中から翼が広がる。たくみはベランダから飛翔し、そのまま夜空を飛び出した。

 空を飛翔しながら、たくみは五感を研ぎ澄ました。
 ガルヴォルスは人の進化。普通の人間の能力をはるかに超えている。
 たくみの鋭い聴覚が、かすかに聞こえてくるビーストの息遣いを捉えた。
(あそこか!)
 たくみはきびすを返し、視界を移す。その先には手負いの怪物と、蝋人形のように白く固まった2人の少女の姿があった。
 一気に急降下しながら、具現化した剣を手にするたくみ。それを怪物目がけて振り下ろすが、怪物はそれを回避し、剣は地面をえぐるだけだった。
 立ち上がり、後方に下がった怪物を見据えるたくみ。ふと視線を移すと、怪物の体液によって固まった少女たちが飛び込んでくる。
「くそっ!」
 たくみは舌打ちして、再び怪物に飛びかかる。すると怪物が大きく口を開き、白い液を吐き出してきた。
 たくみはその液体を剣で切り裂く。その剣圧で液体は切り裂かれるが、剣はその液体の硬質化に巻き込まれる。
 しかしそれにかまわず、たくみはその剣の切っ先を怪物の体にそのまま突き刺した。
「ギエエェェェーーー!!!」
 怪物の絶叫が夜空に響き渡る。白く固まっていた刀身がさらに紅い鮮血に染まる。
 たくみが剣を引き抜くと、怪物は鮮血をまき散らしながら、仰向けに倒れる。白と赤に固まった剣を放り捨て、たくみは固まっている少女たちを見る。
 怪物の死によって、少女たちを取り巻いていた体液が溶け、中から生身の少女たちの姿が現れる。
「あれ・・わたし・・・」
「あらぁ・・いつのまにねちゃったのかにゃ〜・・・?」
 意識を取り戻し、困惑する2人の少女。しかし茶髪の少女は、未だに酔いが覚めてはいなかった。
 彼女たちの無事を確認し、たくみは安堵の吐息をついて悪魔から人間へと姿を戻す。
 しかし、その表情が少し曇る。
(それにしても、デビルビーストか・・・厄介なことになったかもな・・・)
 たくみは一抹の不安を抱えながら、泥酔している茶髪と肩を貸している黒髪に立ち去る姿を見送った。

 たくみはそのまま帰宅し、和海とジュンの安堵を目の当たりにした。
 さらに介抱をしようとする和海に対し、ジュンはこれを断って自分の部屋に戻っていった。
 そしてたくみもベットに横になった。しかしなかなか寝付けない。
 デビルビースト。ガルヴォルス以外の人の進化の存在。さらなる悲しみと恐怖。そして、不安。
 様々な出来事と思いが、たくみに困惑を与えていた。
 しばらく考え込んでくると、たくみの視界に和海の姿が飛び込んできた。
「和海・・・?」
 たくみは戸惑いながら、体を起こす。和海は沈痛の面持ちで彼を見つめていた。
「まさか、タッキーが死んじゃったなんて・・・」
「和海・・・」
 和海の振り絞る言葉に、たくみは彼女の気持ちを察した。すると和海が悲しみをこらえきれず、たくみに寄り添ってきた。
「元気で・・・明るく頑張ってると、思ってたのに・・・」
「和海・・オレも大切な人を失っている・・・だから、お前の気持ちが・・痛いほど伝わってくるんだ・・・!」
「たくみ!」
 和海はたくみを抱きしめ、2人はそのままベットに横になる。
「今夜は・・一緒にいさせて・・・!」
「・・・今夜だけじゃなくても・・いつでもいいぜ・・・」
「うん・・ありがとう・・・」
 涙をこぼすたくみと和海。互いの思いを確かめ合いながら、2人は唇を重ねた。

 ジュンもなかなか眠れずにいた。小さなライトだけを付けたまま、深く考え込んでいた。
 同じ人の進化、ガルヴォルスの存在が、彼女の心を揺さぶっていた。
 また誰かが傷ついてしまうのだろうか。これからどんな日々が訪れるのだろうか。
(和美ちゃん・・・あなたと仲のよかった子が、今度は私の力になってくれるみたい・・・)
 戸惑いを隠せないジュンの脳裏には、自分を慕ってくれた和美の笑顔が浮かび上がっていた。

 ベットの上、シーツの中に身を包むたくみと和海。2人とも身につけていた衣服を脱ぎ捨て、互いの肌に触れ合っていた。
「あったかいなぁ・・・たくみ・・」
 和海がたくみの体に寄り添って、小さく息をつく。
「オレもだよ・・・和海のぬくもりが伝わってくる・・・」
 和海の胸を優しく撫でながら、たくみも笑みをこぼす。
 互いの体温、触れられて伝わる感触が、2人に快楽を与えていた。
「ねぇ、たくみ・・・」
「ん?」
「もっと私のことを知ってほしいの。」
 和海のこの言葉に、たくみが眉をひそめる。
「けど、和海・・・」
「いいの。私がそうしてほしいと思ってるだけだから・・・」
「そうか・・・」
 笑みを見せる和海に、たくみはひとつ息をのむ。
「それじゃ・・」
 たくみは覚悟を決めて身を起こし、一糸まとわぬ和海の秘所に顔を近づけた。
「んく・・・んん・・・」
 たくみの舌が入り、和海の中に快感が押し寄せてくる。
「たくみ・・・ぁはぁ・・・もっと・・もっとやって・・・!」
 頬を紅潮させて叫ぶ和海。そこでたくみが落ち着きのない呼吸をしながら顔を離す。
 彼女の秘所から、そして彼の口に愛液が滴っていた。
「悪いけど、オレのほうが参っちまいそうだ・・・」
 空元気な笑みを浮かべるたくみ。和海も続いて笑みをこぼす。
「ううん、ゴメンね。私のムリなお願いを聞いてくれて。また今度ね。」
「ああ・・・」
 たくみは頷いて、再び和海に寄り添う。互いの愛とぬくもりを感じ合いながら、2人は夜を過ごし、眠りについていった。


次回予告
第3話「姉妹」

街中をさまよう2人の少女。
デビルビーストの姉、彩夏(あやか)とガルヴォルスの妹、美優(みゆ)。
人々から降りかかる不条理の制裁。
妹を守るために耐え抜く彩夏。
そのとき、美優の持つ力が暴走を始める。

「私のお姉ちゃんをいじめないでよ!!!」

つづく


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