作:幻影
和美にかけられた石化は、彼女の下半身に及んでいた。アスカは妖しい笑みを浮かべて、彼女の石化した秘所に舌を入れていた。
「どう?こうされるともっと気持ちよくなってくるでしょう?」
「いや・・・やめて・・・ジュンちゃん・・ジュンちゃん・・・」
語りかけるアスカに、和美は必死にジュンを呼んだ。その反応をアスカは楽しんでいた。
「安心なさい。ジュンもすぐに連れてくる。いいえ、ジュンのほうからこの楽園にやってくるわ。」
「あはぁぁぁ・・・ぃゃ・・・」
「そうよ。この感じよ。何とか否定の言葉をかけようとしてるけど、体はこうされることを望んでいる。それがあなたの楽園、あなたが心の奥にしまっていた欲情。」
「違う・・私は・・私はジュンちゃんを・・・」
「フフ、だから安心なさい。ジュンもあなたのそばにいさせてあげる。私のこの楽園の中で。」
アスカが和美の秘所から顔を離して立ち上がり、彼女の頬に優しく手を添える。困惑を隠せず虚ろになっていく悪魔の少女の顔。
そんな2人の姿を、和海はただ見守ることしかできなかった。
パキッ ピキッ
和美の石化が、アスカが触れている頬に達する。
「お、おーちゃん・・・」
和美が虚ろな視線を和海に向ける。石化の影響で、彼女の声と体は弱々しくなっていた。
「おーちゃん・・・どうか・・無事で・・いて・・・」
必死に振り絞る和美の声に、和海は困惑を隠せなかった。
ピキッ パキッ
やがて声を発していた唇も石になる。アスカは和美のその唇にゆっくりと口付けを交わす。
(ジュンちゃん・・・ジュンちゃん・・・)
フッ
アスカの与える欲情に囚われたまま、和美は完全なる石像と化した。悪魔の宿命を背負った少女は、神を名乗る女性の手の中に捕らわれてしまった。
「これで滝浦和美は私のものとなった。長田和海も私の手の中。あとはジュンだけ。」
アスカが和美から唇を、両手を離して微笑む。そして困惑で体を震わせている和海に振り向く。
「安心しなさい。あなたは天使に属する姿と力を持っている。石にしなくても私と共感できるはずよ。」
アスカはゆっくりと和海に近づいていく。そして指を彼女の額に当てると、震えていた彼女の体が動かなくなる。
「ど、どうしたの・・・体が・・動かない・・・!?」
和海の困惑がさらに広がる。自分の意思を保っても、思うように体を動かせない。
「少しあなたの神経を停止させたわ。これで抵抗されることなく、あなたの素肌を見ることができる。」
アスカは妖しく微笑み、和海の手足を縛る十字架の鎖をひとまずほどく。そして彼女の上着のボタンをゆっくりと外し始めた。
和海たちを助けに向かったたくみを見送ってから、夏子は施設内部に潜入していた。どこかにいるジュンを助けるためである。
デビルビースト計測器は、1つの大きな反応を示していた。夏子はそれがジュンのものだと信じて、廊下を駆け抜けていた。
施設内は混乱と沈黙に満たされていて、研究員といった人たちの姿がほとんど見られなかった。それを不審に思いつつ、夏子はさきを急いだ。
そして彼女は、瓦礫の散乱が見られる地下駐車場で足を止めた。計測器の反応はさらに強まっていた。
「この辺りにジュンがいる・・」
夏子は周囲を見渡し、慎重にジュンを探す。見ただけでは彼女の姿が見られない。どこかの瓦礫に埋もれている可能性が高い。
そして計測器の反応が最高値に達したところで、夏子は再び足を止める。
「もしかして、この中に・・」
夏子は眼に留まった瓦礫の山に手を伸ばした。慎重に石をどけて、ジュンを姿を探す。
そして石をどけていくと、その瓦礫から手が出てくる。夏子は危機を感じて後退する。
崩壊する瓦礫の山。吹き上がる砂煙。そこには1つの人影があった。その影にはかすかに鋭いものの光がきらめいた。
不動ジュンである。
「ジュン!」
夏子は慌ててジュンに駆け寄る。その直後、ジュンは脱力してその場に崩れ落ちる。
「ジュン!しっかりしなさい、ジュン!」
夏子がジュンの体を支える。ジュンは傷だらけで満身創痍だった。
「秋さん・・・」
ジュンが薄らいでいる意識を保ちながら、夏子の姿を確認する。緊張が解けて人間に姿が戻る。
「よかった・・ジュン、無事だったのね・・」
「秋さん・・・和美ちゃんは!?みんなはどうしました!?」
「滝浦さんたちは、連れ去られたわ・・・」
「連れ去られた・・・!?」
「たくみに頼まれて、あなたを探しに来たのよ。今、彼は長田さんを助けに向かってるけど、とても楽観視できる体には見えなかった・・」
困惑の表情を見せる2人。ジュンは傷ついた体に鞭を入れて、前に進もうとする。
「行かなくちゃ・・・行かないと和美ちゃんや、たくみくんが・・・」
「ダメよ、ジュン!あなたも疲れてるじゃない!」
和美たちを助けようとするジュンを呼び止める夏子。しかしジュンは聞こうとしない。
「それでも、和美ちゃんを助けなくちゃいけない・・・」
ジュンの眼に涙があふれる。
「和美ちゃんは、ビーストとなった私を最後まで信じてくれた。私と同じようになろうともした。だから、どうしても助けなくちゃいけない。もう2度と、あの子を失いたくないのよ・・」
ジュンはかつて、和美をビーストに殺されたことがある。その悲しみを彼女は今でも忘れてはいない。
せっかく帰ってきた。だから2度と失いたくない。離れたくない。ジュンの願いは一途だった。
彼女の気持ちを、夏子も痛いほど分かっていた。
「たとえこの体がバラバラになったとしても、私は行かなくちゃいけないのよ・・・」
ジュンはそういうと、全身に力を込めた。眼に不気味な輝きが宿り、彼女の姿が悪魔に変わる。
そして大きく翼を広げて、天井の亀裂から外に飛び出した。
「私には、ただ見守ることしかできないの・・・?」
その去りゆく姿を、夏子は見送ることしかできなかった。
「いいえ・・私にも、まだやれることが、やらなくちゃいけないことがあるはずよ・・!」
夏子は迷いを振り切り駆け出した。計測器でジュンの進むルートを確認しながら、和美たちの行方を追って車を走らせた。
和海は頬を赤らめて息を荒げていた。体の自由が利かないまま、アスカに着ているものを脱がされていた。
「ぅ・・・うく・・・」
恥じらいを感じてうめく和海。その姿と反応を、アスカ妖しく微笑みながら見つめていた。
「やはりあなたはけがれのない体をしているわね。天使の体・・フフフフ・・・」
「わ、私をどうするつもりなの・・・?」
「あなたは私と心と体を通わせるのよ。天使は神の使い。あなたは私に心身を預けるのよ。」
そういってアスカは和海の唇に自分の唇を重ねた。突然のことに和海は眼を見開いた。
(私の・・私の唇に・・・!?)
和海の中に困惑が広がる。アスカはその反応を楽しみながら、さらに彼女の口の中に舌を入れて舐め回す。
和海は不快に思いたかった。しかしその気持ちとは裏腹に、感情と体がその行為を求めていた。
それに付け込まれているのか、アスカが和海の胸に手を当ててきた。そしてその胸をゆっくりと撫で回していく。
「あぅ・・・ぅぅぅ・・・」
徐々に心地よさを感じていく和海。しかしそれがたくみに対する気持ちの裏切りと思い、否定したくて仕方がなかった。
しかし、アスカの呪縛と十字架による拘束で、アスカの抱擁に抵抗することができないでいた。
(ダメ・・・そんなところ、たくみに見られたら・・・ガマン・・ガマンできない・・・)
感情の歯止めがついに利かなくなり、和海の秘所から愛液があふれ出た。気持ちが最高に高まり、性欲だけが今の彼女を支配していた。
「そう。我慢することはないわ。あなたの中にあるもの全てを、私に見せてごらんなさい。」
唇を離したアスカが、和海の下腹部に視線を向ける。そして身をかがめて、秘所に顔を近づけ舌を入れる。
「イヤアッ!」
強い刺激に襲われて、和海が悲鳴を上げる。アスカがそんな彼女の秘所からあふれてくる愛液を舌ですくい取る。
「イヤッ!やめて!たくみ!たくみぃ!」
必死に叫ぶ和海。ひとまず秘所から顔を離し、アスカが愛液のついた口元を拭う。
「これが天使の味・・そして神から与えられる洗礼・・・」
至福の喜びを感じ取るアスカ。和海は完全に脱力して、虚ろな表情になっていた。その眼からうっすらと涙を流して。
そのとき、ガラスが割れるような破裂音が、この楽園にこだました。アスカが振り向くと、そこには1人の悪魔が降り立っていた。
「不動たくみ・・・」
アスカが笑みを崩さずにたくみを見つめる。
たくみは大きく息をついていた。蓮との戦いで傷つき、和海たちの危機を悟って、満身創痍のままこの場にやってきていた。
その視線が和海の姿を捉える。アスカに心身を犯され、完全に脱力してしまっていた。
「和海・・・アンタが・・和海を・・!」
たくみの顔に怒りが浮かび上がる。その拍子で体が高潮し、傷口から血があふれる。
飛び出し、その悪魔の爪をアスカ目がけて振りかざす。その瞬間、アスカの笑みが強まる。
「なっ!?」
驚愕の声と同時に、たくみの動きが止まる。視線を移すと、彼の体を細長い何かが貫いていた。
背後を振り向くと、そこには1人の怪物がいた。蜂の姿をしたその怪物が、背後からたくみを針で刺したのだった。
「お、おま・・・がはっ!」
愕然となったたくみが、鮮血を吐きながらくず折れる。彼の胸を貫いていた蜂の針が引き抜かれ、その紅い血が滴り落ちる。
その光景を、和海も虚ろな視線で見つめていた。もうろうとした意識の中で、たくみが力尽きる様が彼女の眼に飛び込んできた。
「たく・・み・・・」
振り絞る声も弱々しかった。彼女の脳裏に、たくみの倒れる姿が確かに刻まれていた。
(イヤアァァァァーーー!!!)
和海の心の悲鳴がこだました。
(オレは・・ここで死ぬのか・・・)
前のめりに倒れたたくみが胸中で呟く。
(このまま何もできず・・和海さえ助けられないまま、死んでいくのか・・・)
おもむろに体を動かそうとするが、思うように動かない。
そんな彼の視線に、1人の青年の姿が飛び込んできた。優しさを放っている黒髪の青年。
かつてガルヴォルスと人間の共存を理想としていた飛鳥総一郎である。
(フッ・・まさか飛鳥が出迎えてくれるなんてな・・日ごろの行いがいいのか悪いのか・・・)
思わず不敵な笑みを浮かべるたくみ。
(それとも、オレの中にいるアイツが浮かび上がってるだけか・・死ぬときに、今までの思い出を走馬灯のように思い出すって聞いたことがある・・それなのかもな・・・)
たくみは死を受け入れようとしていた。彼はガルヴォルスの死を表す、肉体の凝固化、灰化を感じ取っていた。
「どうしたんだ?そんな顔は君らしくないよ、たくみ。」
その問いかけに、消えかかっていたたくみの意識が覚醒される。顔を上げると、眼前にいる飛鳥が微笑んでこちらを見ていた。
「君はそう簡単に諦める男じゃなかったはずだ。君は人間とガルヴォルスとの共存というオレの理想を受け継いでくれた。君は君のしたいことをまだやり遂げてない。」
飛鳥の言葉を受けて、たくみはいつしか立ち上がっていた。
「君はまだ、こんなところで死んでは、立ち止まってはいけない。それは君が1番よく分かっているはずだ。」
「そうだよ。」
飛鳥の言葉に同意したのは、彼のガールフレンド、柊美奈だった。
「あなたはお兄ちゃんと同じで、人情が強くて、そういうことに関して頑固なんだからね。」
そして彼女の兄、柊隆も姿を見せる。
「君は和海ちゃんを守りたいという願いを持っている。ならその願い、最後まで貫かないといけないよ。君は意思が強いと僕たちは思っているよ。」
「隆さん・・・」
隆の笑顔の言葉に、たくみは思わず声をもらした。そして、たくみの幼なじみ、橘ジュンも姿を見せた。
「ジュン・・・」
「たっくんはいつも私を助けてくれた。自分がそうしたいって身勝手な理由でね。そんな理由で和海さんも助けたいんでしょ?だったら迷ってないで前に進む。それがいつものたっくんだよね?」
親しくしてくれた人たちが、たくみに笑みを見せる。たくみも思わず笑みをこぼす。
「何だよ、みんな・・卑怯じゃねぇかよ・・・オレたちにばっかいろんなもの背負わせてよ・・・たまんねぇよ・・・」
やる気のない愚痴をあえてこぼすたくみ。それでも彼の心には、忘れかけていた決意がよみがえっていた。
「みんなの言うとおりだな・・・こんなところでくたばってる場合じゃねぇよな・・・」
不敵な笑みを浮かべて、たくみは足を前に進めた。
蜂の怪物に刺され倒れて動かなくなったたくみを、アスカは和海の胸を優しく撫でながら見下ろしていた。
「あなたは心臓を貫かれ、このまま息絶えていく。そしてガルヴォルス独特の死によって固まり、砂になって崩れていく。」
胸を撫で回していた手をたくみに向けるアスカ。
「そんな血みどろの悪魔は、この楽園にはふさわしくないわ。せめてここで朽ち果てなさい。そうすれば少しは救われるわ。悪魔となってしまったあなたの運命が・・」
妖しい笑みをたくみに見せるアスカ。彼女たちの眼の前で、彼が砂になって消えていくはずだった。
たくみの体がゆっくりと起き上がった。その光景に眼を疑ったアスカから笑みが消える。
「そんな・・・そんなことが・・・!?」
愕然となる彼女の眼前で、たくみは立ち上がった。胸を貫かれて致命傷を負ったはずの彼が、しっかりと立ち上がっていた。
「なぜ・・・あなたはこのまま死に至るはずなのに・・・!?」
思わず問いつめるアスカ。呼吸が荒くなっているたくみの顔には紋様が浮かび上がっていた。
「オレは悪魔・・・死んでも・・殺されても・・・何度でも地獄から這い上がる・・・!」
必死に声を振り絞るたくみの姿が悪魔に変わる。
「和海を返せ・・邪魔するつもりなら、オレはアンタを殺す・・・」
鋭い眼光をアスカに向けるたくみ。ゆっくりと足を前に出し、捕らわれの和海に近づいていく。
「私はこの楽園の神。たとえ悪魔でも、神に逆らうことがどういうことか・・」
「そんなくだらないこと、オレには関係ねぇ・・和海を助ける・・ただそれだけだ・・」
「そんなことで・・」
「どけ・・アンタを殺すことがどんな罪だろうと、オレは背負ってやる・・・!」
アスカを言い放ちながら退け、たくみは和海の前に立つ。そして彼女の手足を縛っている鎖を引きちぎり、その体を受け止める。
「和海、しっかりしろ!」
たくみが眼を閉じている和海に呼びかける。捕らわれの天使は、よみがえった悪魔に救われたのだった。
次回予告
第19話「悪魔」
死の淵からよみがえったたくみ。
しかし彼の体力は限界に達していた。
満身創痍に陥ったたくみと和海。
2人は互いを思う気持ちを抱えて、アスカの描いた楽園を脱出する。
そこで待っていたのは、苦悩を抱えた夏子だった。
「オレは悪魔だ。オレのしたいことのためなら、この爪で敵を切り裂く・・」