作:幻影
今はハロウィン祭りの真っ最中。
街ではかぼちゃやお化けに見立てた飾りや出店が並び、賑わいを見せていた。
その中で、そのお化けに仮装した子供たちが、
「Trick
or treat!Trick or
treat!」
「お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ〜!」
といって家から家を駆け回っていた。
大人たちはあらかじめ用意しておいたお菓子を、その子供たちに渡していく。
ハロウィンの風習である。
ここはとある1件の家。
ここには3人の姉弟が住んでいた。
両親のいないこの家の家事をしている12歳の長女。彼女の3歳年下の弟。さらに1歳下の妹である。
「姉ちゃん、街じゃハロウィンパレードが始まってるよ。早くしないとここから離れていっちゃうよ。」
出かける支度をしている姉を弟が急かす。
「ちょっと待って。もうすぐ行くから。」
1階で待っている弟、妹に向かって、2階にいる姉の声が届く。姉はまだ、2階の戸締り等を完全には済ませてはいない。
弟はふてくされて再び椅子に座る。妹はパレードが待ちきれない様子で、窓から外を眺めている。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんまだぁ?」
「もうちょっと待ってろ。・・・っもう、姉ちゃんったら・・」
声を上げる妹をなだめつつ、ため息をつく弟。
そのとき、家のインターホンが鳴り響いた。
「誰かな?誰かな?」
出かけることに待ちきれなくなっていた妹が、玄関に走る。
「おい・・」
弟も少し呆れた面持ちで、妹の後に続く。
玄関の扉を開ける妹。
そこにはかぼちゃのお化けの被り物を頭に被った子供がいた。
しかもただのかぼちゃではなく、金色の皮のかぼちゃの被り物だった。
「うわぁ、きれい・・・」
その色合いに思わず見とれる妹。後ろの弟は、魅入られている妹にさらにため息をつく。
「お菓子ちょうだい。でないといたずらしちゃうよ。」
子供が妹と弟にお菓子を催促してきた。
「おいおい、そういうのは大人にねだるもんだぞ。子供のオレたちに言われてもなぁ・・」
その子供に対しても呆れる弟。すると子供の被っているかぼちゃがわずかに前に揺れる。
「そう・・お菓子くれないんだ・・・」
沈痛な声をもらす子供。しかし弟の態度は変わらない。
いたずらは単なる子供の遊び。同じ子供である彼もそう思っていた。
するとかぼちゃの頭が元の高さまで戻り、その暗い眼から光が発せられた。
「ちょっと、なに・・?」
「おい、お前・・・!?」
何が起こるのか分からないまま、弟と妹はその光に包まれた。
「ゴメンね、待たせちゃって。」
やるべきことを全て終えてきた姉が、急いで階段を下りてきた。すると玄関のほうで、金色の光が灯っているのに気付く。
「え?何だろう?」
気になりながら、姉は玄関を見る。
そこには弟と妹の後ろ姿があった。2人のその金の光に照らされていた。
しかしその直後、姉は眼を疑った。やがて光は治まったが、2人の色の変化は戻っていなかった。
完全な金に彩られた2人は、それから微動だにしなくなっていた。
「ちょっと・・どうしたの・・?」
不安を感じながら、姉は2人に近づいた。そして恐る恐る、弟の肩に手を伸ばす。触れられれば反応しないはずがない。
ところが、その弟からは、人間とは全く別の感触が伝わってきた。人の温かさがない。
「これって・・!?」
弟と妹は完全な金の像になっていた。さっきの光に魅入られたまま、光と同じ金に変色して固まってしまっていた。
恐怖した姉が振り向くと、そこには金のかぼちゃを被った子供が立っていた。
「きみ・・・何をしたの・・・?」
何とか笑みを作って姉はたずねた。被り物のため、子供の表情はうかがえない。
「お菓子くれないから、ちょっといたずらしちゃった。エヘヘ。」
「いたずらって・・どうなってるのよ、コレは!?」
恐怖のあまり思わず叫ぶ姉。しかし子供は気にしていない様子だった。
「見てのとおり、金になってるんだよ。こういうの、魔法っていうのかな?」
「魔法って・・・」
「ねぇ、お姉ちゃんお菓子ちょうだい。」
子供が今度は姉に向かってお菓子をねだる。
「お菓子くれないといたずらしちゃうよ。」
「わ、分かったわ。今、持ってくるから。」
子供に怯えた姉は、そそくさにキッチンに行き、あらかじめ用意してあったお菓子の箱を持ってきた。
あの子のいう魔法は、いたずらですむような些細なことではない。いうことを聞かないと、今度は自分が金の像にされてしまう。
作り笑顔を見せて、姉は子供に箱を差し出す。
「コレあげるから、この子たちを元に戻してね。お願いだから。」
悲痛のお願いをする姉。子供の無邪気な態度は変わらない。
「そうだね。お菓子もくれたし、あんまりいたずらしちゃうといけないもんね。」
子供の声には喜びが感じられた。姉は思わず安堵して胸をなでおろす。
「それじゃ、元に戻すね。」
そういう子供の眼が、再び金色の光を放つ。その光に引き込まれていく姉。
これで弟と妹が元に戻る。姉の期待はふくらんでいた。
ところが、そんな期待をしているうち、姉の意識が途切れた。
光が治まり、弟と妹が元に戻るはずだった。しかし、2人とも金の像のままだ。
そればかりか、2人の後ろに立っていた姉が、同じ金色に変色して固まっていた。
「あっ・・・」
それを見た子供が唖然となっていた。
今かけたのは、金化を解く魔法ではなく、金にする魔法だったのだ。間違って姉を金の像にしてしまった。
「あら〜・・間違っちゃった・・・」
気まずくなる子供。やや沈黙を置いて、
「まぁ、いいか。」
そういって子供は、お菓子の箱を持って、そのまま家から離れていってしまった。
家には、金の像にされた姉弟の姿だけが残されていた。
ゴールドパンプキン。
この街にはそんな噂やら伝説やらがあった。
子供たちがお化けの仮装をして、大人にお菓子をねだるという風習に紛れて、時折現れる金のかぼちゃの被り物をした子供。
その子はいたずらといって、訪ねた家の人たちを金の像に変えていた。これはただ脅かすつもりでやっているのだが、金化を解く魔法がなかなか成功しない欠点があった。
うまくいかず困り果てて、そのまま逃げていってしまうことが多々あった。
この事態に警察が動いたこともあったが、一切手がかりをつかんではいない。
ゴールドパンプキンは実在しているのか。それとも呪いを振りまくゴーストなのか。
そして次にどの街に現れるのか。
それはゴールドパンプキンしか分からない。
「お菓子をくれないといたずら(金に)しちゃうぞ〜!」