作:幻影
大地が飛び去ったのを見送ったゆかりと紅葉は、さらに夜道を進んで、壁に手をかけながらゆっくりと歩く海奈を発見した。
「あっ!海奈さん!」
自分を呼ぶ声に海奈は顔を上げる。ゆかりたちの姿を眼にして安堵し、脱力して倒れこもうとしたところを、彼女たちに助けられた。
「海奈さん!海奈さん、しっかりしてください!」
ゆかりが海奈の傷ついた体を起こし、紅葉が必死に呼びかける。やがて海奈の閉じかけていた眼がうっすらと開く。
「ゆかりちゃん・・紅葉さん・・」
小さく呟く海奈の声に、ゆかりたちが安堵の吐息を漏らす。
「ゆかりちゃん、大地は、あの人は!?」
突然、海奈は思い出したように大地のことを訊ねた。ゆかりが沈痛な面持ちで、
「ごめんなさい、海奈さん・・あいつに、黒神の一族に、天乃が・・」
今にも泣き出しそうなゆかりの言葉に、海奈の顔も曇る。
紅葉は海奈に、事の経緯を話した。
黒神の一族の生き残り、涼平の企み。黒神復活への野望。そのためにみなみとひなたが石にされ、魂を奪われたこと。連れ去られた天乃を追って、大地が飛び出していったこと。
非情な現実が、紅葉の言葉を通じて海奈の心に突き刺さった。
「そう・・やはり、大地は・・」
海奈は虚ろな表情で小さく頷いた。
「あたしたちの力じゃ、どうにもならなかった。だから、あの人に頼るしかなかったの・・」
ゆかりの顔が悲しみに歪む。今にも泣き出しそうだった彼女を、海奈は優しく抱き寄せた。
「大丈夫よ。天乃は無事でいるわ。私はそう信じる。そして、あの人が必ず助けてくれると信じてる。」
泣きじゃくるゆかりの頭を優しく撫で、海奈は視線を紅葉に向ける。
「さぁ、とりあえず戻りましょう。傷の手当てをしないことには、何にもならないでしょ?」
海奈の促しに、ゆかりと紅葉は頷いて歩き出した。
天乃が眼を覚ましたのは、2つの炎が暗闇を照らしている祭壇だった。
「ここは・・な、何よ、コレ!?」
前に出ようとした天乃は、何かに押さえつけられる衝動に襲われた。彼女の背後にはガラス細工の壁があり、そこに手足がめり込んでいた。
「う、動けない・・!」
「気が付いたようだな。」
突然の声に天乃は眼前を凝視した。暗闇の中から、涼平が悠然とした態度で姿を現した。
「あ、アンタは・・・ここはどこなの!?コレはいったい何なのよ!?」
声を荒げる天乃に、涼平が不敵に笑う。
「ここは黒神の祭壇。今からお前の中にある力を呼び起こし、黒神復活の儀式を行う。」
「黒神復活!?」
「そう。前にも言ったが、黒神復活には、霊力の強い魂だけでは足りない。黒神の巫女の力が必要不可欠なんだ。今からお前の中にある黒神の力を引き出す。」
「冗談じゃない!アンタなんかの思い通りにはならないわよ!」
天乃が必死にもがくが、壁にめり込んだ手足では抵抗はできない。
「ムダだよ。私の呪縛によって、お前の手足はそのガラスの壁に埋め込まれてしまっている。私以上の力がなければ、到底抜け出ることはできないぞ。」
ムダに抗う天乃の姿を見て、悠然と笑う涼平。
「仲間を襲って、その力を引き出そうとしたが、引き出されたのは白神の力だけ。むき出しにされた怒りの力に意味はない。ならば、私の知る最高の方法で、今度こそ黒神の力を解放してやる。」
「最高の方法って・・」
「簡単なことだよ・・」
そう言って涼平は、不安を隠せない天乃に近づいていく。
そして彼女の着ている巫女装束の白衣に手をかけ、それを力を込めて引き裂いた。
「イヤァァーーー!!!」
上半身をさらけ出され、天乃が顔を赤らめて大声を上げる。
「おいおい、そんなことで参っていたら、先が持たないよ。」
不敵に笑う涼平がまじまじと天乃を見つめ、彼女の胸に手を当てた。
「ちょっと、何を・・!?」
声を荒げる天乃の胸を、涼平が笑みを浮かべたまま揉み始めた。
「イヤァ!ちょっと、やめてよ!」
自分の体を弄ばれ天乃が嫌がるが、黒神の呪縛によってもがくことしかできなかった。
彼女の心境など気にも留めず、涼平はさらに天乃の胸を揉み解していく。
「どうだ?気持ちよくなるだろう。もっともっと心地よくなっていくんだ。」
「何言ってるのよ!こんなことされて、とっても嫌な気分よ!いいから早くその手を離してよ!」
嫌気が差して言い放つ天乃。しかし、涼平は彼女の言うことを聞かず、さらに胸を揉んでいく。
次に涼平は天乃の反対の胸を揉み始めた。
彼はこのような接触を行うことで彼女に快楽を与えようとしているつもりだったが、恥じらいを嫌う彼女には不快に感じさせるだけだった。
「お前もかなり強情のようだな。しかし、その意地がどこまで持つかな?こうして快感を与えることで、お前の心理状態をかき乱す。そうすれば力を抑え込んでいる心の歯止めが外れ、無意識のうちにその体の中にある黒神の力が解放されるだろう。」
涼平は悩ましい視線で見つめながら、天乃の胸をさらに撫でていく。完全に混乱してしまい、天乃は抗うことをせず、嫌な気分を感じながら涼平の行為を受けざるを得なくなっていた。
涼平は天乃の体に刻まれた、幼いときに付けられた縦傷を見つめ、彼女の胸の谷間に顔をうずめた。
「お前も幼いときからこんな傷を背負っていたんだな。いろいろ辛い思いをしてきたんだろうな。だが、それもこれで終わりだ。体の奥から湧き上がってくる快楽に浸るがいい。」
「イヤァ!やめてよ!早く私から離れてよ!ぁ・・ああ・・・」
離れるように何度も呼びかける天乃の叫びを聞き流し、涼平は彼女の肌に舌を伸ばした。
「イヤ・・ダメ・・ダメッ!」
天乃の体が激しく震える。
すると涼平は、彼女に対する異変を感じた。胸から顔を離し、彼女の帯に手をかけてほどき、袴を勢いよく下ろした。彼女の秘所がさらされ、そこから大量の愛液があふれ出ていた。
「おいおいおい、もう出てきちゃったのか。ずい分早いなぁ。」
涼平が呆れた態度をとりながら、天乃の秘所に手を伸ばした。
天乃にとっては生き地獄に等しく、声にならない叫びを上げた。
「やめて!お姉さま!」
「ムダだ。ここは地下だし、さらに特殊な結界を張っているんで、ここの声や気が外に漏れることはない。誰も助けには来ないよ。」
窮地の天乃に追い詰めるように、涼平が言いなだめる。
もはや彼女を助けてくれる人は誰もいない。ただ、涼平にされるがままである。
涼平は再び天乃の胸を揉み始めた。
彼女はもう抗いの叫びを上げる力はなく、小刻みに唇が震えていた。
眼の焦点が定まらなくなった彼女の表情を伺い、涼平は満面の笑みを浮かべた。
「いいぞ。もはや天乃の心は完全に崩壊した。たとえどこを触られたとしても、それに逆らう声さえ出ない。」
涼平の哄笑が祭壇にこだましていた。
「あ、あの、涼平さま・・」
そのとき、メイド服を着た女性が祭壇の部屋に入り込んできた。
「涼平さま、お食事の用意が・・」
その声に、涼平は素早く振り返り、鋭い視線を向けながら光の灯った右手を伸ばした。
その直後、少し驚いたような表情のまま、メイドが一瞬にして石像に変わった。
涼平は伸ばした右手を引くと、彼女の石の体から光り輝く球が出現し、彼の手元に運ばれていく。彼女の魂が裸の姿で閉じ込めている水晶である。
「私は今、至福の喜びを堪能しているんだ。邪魔はしないでもらおうか。」
涼平は少し不機嫌そうな表情で、メイドの魂を生贄の水槽の中に落とし入れた。
そして放心状態の天乃に振り返り、悠然と見つめる。
「さて、続きをやろうか・・」
涼平は再び天乃に近寄り、彼女の体をできる限り抱き寄せた。度重なる彼の接触で心をやられ、天乃にはもはや抵抗する意思さえ残っていなかった。
彼女の肌を撫で回し、さらに胸を揉んでいく。しかし、未だに彼女にはいかんともしがたい不快感しか湧いてこなかった。
(どうして、こんなことされても何にもしないでいようとするの?なんで逆らおうとしないの?ダメ・・力が全然入らないよ・・もうアイツの思い通りになっちゃってるよ・・・助けて、お姉さま・・・)
虚ろな表情のまま、天乃は胸中で自分を嘆き、眼から涙を流す。これほど無力であり、1人の男に思うがままに振り回されている自分を呪い哀れむ。
しばらく抱擁を続けた後、涼平は天乃から体を離し、下部を見下ろした。
「さぁ、そろそろ仕上げといくか。」
涼平はしゃがみ、愛液のあふれた天乃の秘所に舌を伸ばした。
「イヤァァァーーーー!!!」
天乃は今までにない不快感に襲われた。
涼平は彼女の秘所からももにかけて流れ伝っている愛液を舐めてすくい取っている。愛液が彼の口の中に入り込んでいく。
天乃は不快の海に身を沈めながら、悲痛に顔を歪めている。そんな彼女が必死に閉じていた眼をうっすらと開けると、立ち上がり顔を近づけようとする涼平の姿だった。
(イヤ・・それだけはやめて!)
天乃の中に最悪の予感がよぎった。
涼平は口の中に愛液を含ませたまま、彼女に口付けを迫ってきていた。
やがて彼の唇が彼女の唇に重なるが、彼女は愛液を入れまいと必死に口を閉じた。
しかし涼平は、天乃の胸を揉み解し、彼女の抵抗を鈍らせた。
天乃は不快感についに口を開いた。そのわずかな隙間から、涼平は口の中の愛液を流し込んだ。
吐き出したい気分に陥った天乃だったが、涼平に口を塞がれ、ついに自分の愛液を飲み込んでしまった。
天乃の中に耐え難い嫌悪感と恐怖感が湧き上がり、自分がどうにかなりそうな心境に襲われた。
(さあ、これで十分だ!心の歯止めは完全に機能を失った!今こそ解放しろ!その体の中にある黒神の力を!)
眼を大きく見開いた天乃の体から、漆黒の霧があふれ出てきた。涼平は彼女の唇から、体から離れ、疲れ果てた彼女の姿を見据えた。彼女は虚ろな表情で壁に手足を埋め込まれた体を垂らし、魂の抜け殻のように脱力していた。
涼平は愛液の垂れた口を拭いながら、祭壇の上部を見上げた。天乃からあふれた黒い霧が立ち込め、祭壇の上部へと集まっていく。
「さあ、よみがえるがいい、黒神よ!この巫女の2つの神の力を糧にして、現世に復活を果たすんだ!」
両手を高らかと上げる涼平の歓喜の中、祭壇が激しい振動に襲われた。その上部の空間が歪み、やがて淡い光を宿した不気味な一つ目が出現した。
“我をよみがえらせたのは貴様か?”
眼が不気味な声を上げて涼平に訊ねてきた。涼平は悠然と頷き、さらに歓喜の声を上げた。
「さぁ、黒神よ、私の中に入るがいい!その力、存分に使わせてやろう!」
涼平は満面の笑みを浮かべて、黒神を自らの体に受け入れようとしている。
“そうまでして力に執着するか・・よかろう。その肉体、我が力が宿す器としてくれる。”
黒神を形作る眼が再び黒い霧に戻り、涼平に向かって飛び込んできた。
煙は涼平の中に勢いをつけながら吸い込まれていく。黒神が自分の中に入り込み、涼平の笑みが狂気に満ちた哄笑に変わっていく。
そのとき、彼の背後で爆発と轟音が起こり、爆煙が吹き付けてきた。その騒音に煙を吸い切った涼平が振り返った。
その煙の中から現れたのは、鋭い視線で彼を睨みつける大地だった。天乃を追い求めて必死に駆け回っていた彼は、膨大な邪気の発動を感知し、この地下祭壇に侵入したのである。
「お前か、天乃を連れ去った黒神の者は?」
大地は鋭い口調を放ちながら、眼前にいる男の姿を凝視した。
しかし、そこにいるのは涼平ではなかった。彼の姿をしていたが、その心は完全に黒神と同調していた。
「いかにも。我はこの男の導きによってよみがえった黒神。この現世を滅ぼすため、我はこの男の肉体を駆り、持てる力を奮う。」
黒神が両手を広げ、周囲に瘴気を放つ。
水槽に集められた魂を封じ込めた数多くの水晶が浮かび上がり、黒神に向かって集まっていく。そして水晶は、上着一式を破り捨てた黒神の体の中に入り込んでいく。
「魂が、ヤツの体の中に入り込んでいく・・!?」
大地は驚愕しながらその光景を凝視する。魂を取り込んだ黒神が不気味な笑みを浮かべて大地を見据える。
「我をよみがえらせようとしたこの男によって集められた魂は、我が力として我の中に取り込んだ。もはやかつての我をしのぐに到った。今の貴様の力は、かつての我に及んでも、今の我には遠く及ばん!」
黒神は右手を突き出し、大地に向けて衝撃波を放った。大地は強烈な威圧に押され、吹き飛ばされて転倒する。
「ぐっ・・!」
うめき声を上げながら、大地は体を起こす。
そのとき、彼の視線に天乃の姿が映った。手足を拘束していたガラスの壁は黒神復活の振動によって粉々になり、彼女はうつ伏せにぐったりと倒れていた。
「天乃!」
黒神の威圧感に圧された体を起こし、大地は天乃を見据えた。
その姿を捉えた黒神が再び衝撃波を放った。大地は跳び上がってそれをかわし、そのまま天乃のところに着地する。
「天乃!天乃!」
大地が天乃に呼びかける。彼女は眼の焦点が合わず、放心状態に陥っていた。涼平によって、彼女の心は不快感で満たされていた。
大地は天乃を抱えて立ち上がり、振り返った黒神を睨みつける。
「この男も破廉恥な真似をしたものだ。その白神の巫女をこの上ないほどに弄びおって。だが、そのおかげで我が復活を果たせたのも事実。」
「黙れ・・!」
怒りを押し殺す大地の言葉を聞き流し、黒神がさらに話を続ける。
「その娘の心はこの男との接触によって完全に崩壊している。もはや生ける屍のごとし、生きながら死んでいるに等し。」
「黙れ!」
大地の怒りが霊気となって放出し、周囲に破裂音を轟かした。しかし、黒神は全く動じない。
「今すぐお前をこの手で葬ろうと思っているが、ここは退いておく。この娘はかつてオレが救えなかった赤ん坊だからな。これ以上生死の狭間に身を投じさせるわけにはいかんからな。」
そう言って大地は、黒神の動きをうかがいながら、天乃を抱えたまま徐々に移動していく。
彼は心の奥で昔の罪の意識を感じていた。
白神の一族の暗殺者たちによって、死の危険にさらされた赤ん坊。それを助けようと立ちはだかった大地。
しかし逆に、暗殺者とのいかんともしがたい力の差を見せ付けられ、大地は谷底に突き落とされ死の恐怖を体感した。その赤ん坊が、破滅を呼び起こす黒神復活の火種となっていることにも知らずに。
しかし大地の赤ん坊も九死に一生を得て、今も生きている。体に死の傷痕を宿しながら。
「だが、次に会うとき、お前はオレの手によって死を迎える。“消滅”という名の死を。」
そう言い残し、大地は天乃を連れて祭壇を飛び出した。
黒神は自分の両手を見つめ、自らが宿った肉体を確かめる。
「確かに貴様の言うとおり、次に会うときに必ず死が訪れるだろう。受け入れるのは私ではなく、貴様だがな。我が邪気と取り込んだ魂の霊力によって強化された力で貴様を葬り去り、この現世を地獄へと変えようぞ。我がよびがえった以上、貴様ら人間どもに安息が訪れることはない。我が瘴気に滅びの道を辿るがいい。」
黒神の哄笑が、炎が消えて漆黒に包まれた祭壇にこだまする。
白神の一族が恐れていた悪夢が、この現世で現実のものとなってしまった。
しかし、現代に生きる人々は、その出来事を知る由もない。霊力に長けた白神の一族だけが、そのことに気付き、行動を開始しようとしていた。
そして絶望の色を見せることなく、夜が明けた。