Schap ACT.12 assassin

作:幻影


 スキャップ暗殺部隊、ASEの1人と名乗ったアインスが、困惑するますみに氷の刃を向ける。
「さぁ、早くあなたのスキャップを出しなさい。さもないと、また他の人が凍りつくことになるよ。」
 鋭い視線とともに警告を言い放つアインス。しかしますみは困惑するばかりだった。
「どうしてもスキャップを解放する気にならないようね。だったら私の忠告が偽りでないことを証明しようか。」
 アインスがレストランの厨房に隠れている店員たちに眼を向ける。彼らを凍てつかせようと、氷月を振りかざす。
「待って!」
 そのとき、ますみがいきり立って叫ぶ。直後、アインスは上げていた氷月を再び下げる。
「やっとその気になったようね。」
 不敵な笑みを見せるアインス。迷いを振り切って、ますみが真剣な眼差しを向ける。
「でもひとつだけ。場所を変えさせてほしいの。」
 ますみの言葉を聞いて、アインスが再び不敵に笑う。
「いいわ。どこでも好きなところに案内してもらえる?」
 アインスがひとまず氷月を消失させる。
「それと、凍らせたみんなを解放して。あなたの狙いはあたしなんだから。」
「せっかく凍てつかせたんだけど・・まぁいいわ。5分後に解凍するように設定しておいたから。」
 アインスのこの言葉を信じて、ますみはレストランから外に出た。アインスもそれに続く。
 2人の姿が完全に見えなくなった頃、レストランや女子たちの凍結が解凍された。

 街外れのコンビナート地帯にますみとアインスは来ていた。よくヒーロー番組の撮影で使われるようなところだとますみは思った。
 そんな童心を感じていたが、アインスと眼が合った瞬間、彼女はすぐに気持ちを現実に戻す。
「なるほど。この辺りはあまり人は来ない。他人に迷惑をかけたくないか、それとも誰かに自分の力を見られたくないか。どちらにしても都合がいい。」
 アインスが周囲を見回して、小さく微笑む。
「さぁ、あなたのお望みの場所まで移動してきたんだ。そろそろあなたのスキャップを見せてもらえるかな?」
「・・いいわ。見せてあげる、クラウンを。」
 ますみが決意と覚悟を決めて、意識を集中させる。すると彼女の横に、白い少年が姿を現す。
「なるほど。その少年があなたのスキャップというわけね。清楚で正直な眼差しの持ち主。でも、能力のほうはどうかしら?」
 アインスが不敵な笑みを浮かべて、右手をかざす。冷気を収束させて、氷月を再び具現化させる。
「私のスキャップ、氷月は、水で形成されているもの全てを凍てつかせることができる。基本的には氷の刃だけど、使い方を変えれば、こんなこともできるのよ。」
 アインスが氷月に力を注ぎ込む。するとその刀身が淡く光り出し、周囲に氷の粒が出現する。
 そして氷月の切っ先をますみたちに向けると、その氷の粒が彼女たちに向かって飛び込んできた。
「えっ!?」
 ますみとクラウンがとっさに横に跳躍して、氷のつぶてをかわす。つぶての群れはさらに突き進み、その先の貨物に突き刺さる。
 そのいくつかが貨物を貫通していた。
「うわぁ・・あんなもん当たったら、無事じゃすまないよぉ・・」
 穴だらけになった貨物を目の当たりにして、ますみが冷や汗をかく。
「今のは相手を凍りつかせる効果はないけど、それでもかなりの破壊力を備えている。普通の人間がまともに受ければ、ひとたまりもないことは分かっているわね?」
 アインスがさらに微笑んで、さらに氷月に力を入れ、氷のつぶてを生み出す。その群れを眼にして、ますみが息をのむ。
「ますみ、迂闊に動いたら危険だ。うまくよけて一気に詰め寄ろう!」
「うんっ!」
 クラウンの指示にますみが頷く。アインスが彼女たちに向けて、氷のつぶてを発射する。
 ますみたちは襲ってくるつぶてたちを駆け出してかわしながら、アインスとの距離を詰めていく。
「クラウン!」
 ますみは叫びながら、アインスに向かって飛びかかった。彼女の突進を受けて、アインスが一瞬怯む。
「クラウン、今だよ!氷月を!」
 ますみが指示を送ると、クラウンがアインスに向けて手をかざす。石化の力を氷月に与えて、アインスのスキャップを封じようと考えた。
「甘い。」
「えっ?」
 そのとき、アインスが不敵に笑い、ますみが眉をひそめる。氷月を地面に突き立てると、周囲に氷の壁が出現し、クラウンの力をさえぎった。
「そ、そんな・・」
「私の動きを押さえて氷月を狙ってくるとは、なかなかのもの。でも、これではまだ私の動きを封じたとはいえない。」
 アインスはそういって、ますみの腹部に氷月の柄を打ちつけた。
「うあっ!」
 打撃を受けて、ますみがうめいてその場に倒れる。
「ますみ!」
 クラウンがたまらずますみに駆け寄ろうとする。そこへアインスが氷月を振り抜き、冷気をまとった突風を放つ。
「しまった!」
 虚を突かれたクラウンが、その冷気に包まれる。氷月の効果を真正面から受けて、彼は氷に包まれてしまう。
「浅はかなものね。戦略を破られた途端、冷静さを失うなんて。結果、あっけなく終わることになってしまった。」
 アインスがひとつため息をついて、氷月の切っ先を凍てついたクラウンに向ける。
「少し早い気もするが、とどめを刺すとしようか。」
「ますみ!」
 そのとき、アインスに向けて冷たい風が吹き付けてくる。彼女のものではない。とっさに飛び上がってその冷風をかわす。
 貨物の上に着地して、冷風の来たほうに視線を向ける。そこにはユキとフブキの姿があった。
「ますみに何してるの、アインスさん!」
 ユキが鋭い視線とともに憤慨の声を向ける。しかしアインスは顔色を変えない。
「ほう。あなたも氷の力を持ったスキャップを扱うのか。しかもますみさんと同じ、人型のスキャップだ。」
 不敵な笑みを見せるアインス。自分と同じ効果を備えたスキャップと対面したことに喜びを感じていたのだ。
「今回はとりあえずここまでにしておく。あなたたち、名前は?」
「私?私は神尾ユキ。この子はフブキだよ。」
 アインスの問いかけを受けて、ユキが自己紹介をする。
「ユキさん、フブキさん、あなたたちとはいつか決着をつけることになりそうだ。同じ氷のスキャップである、あなたと私が。」
 そういってアインスは、握っていた氷月を床に突き立てる。彼女が力を抑えたことで、氷の刃は姿を消す。
 そして意識を向けると、氷漬けにされていたクラウンが解凍される。同時、ますみが落ち着きを取り戻す。
「とりあえずますみさんは解放するわ。こんなところで終わらせるのはもったいない気がしてきたから。」
 ますみ、クラウン、フブキ、ユキと視線を移してから、アインスは貨物から飛び降りて姿を消した。脅威ともいえる彼女に、ますみとユキは動揺を隠せなかった。

 アインスから難を逃れたますみとユキ。近くの小さな公園で、一息つくことにした。
「大丈夫、ますみ?」
「う、うん。何とか・・」
 ユキの心配に、ますみは笑みを作って答える。
「でも、どうしてここに?」
「うん。近くを通ってたら街で何か騒ぎがあって、見に行ったらますみが外に出てきたから。」
 ユキの答えに、作っていた笑みさえ消したますみ。
「アインスさんが、スキャップだったなんて・・・でも、どうしてますみを・・?」
「分からない・・でもアインスさん、スキャップ暗殺部隊、ASEのメンバーだって・・」
「ASEだとっ!?」
 話し合っているますみとユキの前に、ハルが現れて声を荒げる。
「お前、ASEといったのか!?」
「ハ、ハルちゃん!?」
 迫ってくるハルに、ますみとユキが唖然となる。そんなことに構わず、ハルはさらに続ける。
「ASEは強力なスキャップを集めた集団だ。そのメンバーの1人が、お前の前に現れたというのか!?」
「ち、ちょっと待って、ハル!ますみもいろいろ困ってるみたいだから。」
 声を荒げていたところをユキに呼び止められ、ハルは我に返る。
「す、すまない・・だが、本当にお前が会ったのが、ASEだというのか?」
 ハルが落ち着いて、改めてますみに問いかける。
「うん。確かにスキャップ暗殺部隊、ASEのトランプメンバーだって名乗ってた・・・」
 それにますみが戸惑いを見せながら答える。しかし彼女はあえてそのメンバーがアインスであることはハルには伏せていた。
 アインスが自分を狙ってきたことを受け入れきれずにいるますみは、そのことを口にすることができなかった。もしも言ってしまえば、それを認めてしまうと思っていた。
「そうか・・まさかトランプメンバーが・・四天王に位置づけても過言ではないあのメンバーがやってくるとは・・」
 ハルはASEの登場に歯がゆさを感じた。
 Assasin Schap Enemies:ASE
 スキャップの力で支配をもたらしている、裏社会の中で強大な勢力を見せ付けている犯罪組織である。それらを統率しているのがマスターと呼ばれている人物。さらにその下には、ASEの中でも上位に上り詰めている4人のトランプメンバーが存在している。
 トランプメンバーは普段は他のメンバーを、スペード、クローバー、ハート、ダイヤといったトランプネームで呼び合っている。マスターとメンバー間以外で、彼らの本当の名を知っている者さえいないらしい。
「とにかく、何とかしなくちゃいけないなら、何とかしようよ。あのアイ・・」
「ユキちゃん!」
 真剣に述べていたユキの口を、ますみは慌てて手で塞ぐ。口を塞がれたユキの様子が慌しくなる。
 アインスの名前を出したくないますみ。彼女の慌てた様子を見て、ハルは呆れてため息をつく。
「ハァ・・もしトランプメンバーの1人がお前の顔見知りで、それを言いたくないのならそれでも構わない。だが私はためらわない。私に向かってきたら、私は戦う。」
「ハルちゃん・・・」
 ハルの言葉に戸惑いを見せるますみ。
「もしかしたらASEの中に、柚木町を石化したスキャップ、リリス・フェレスとメフィストがいるかもしれない。私の手で倒さなければならない。そう思っているんだ。」
 ハルはリリスへの復讐のために今を生きている。たとえ町や人々を元に戻せなくても、彼女の好き勝手にはさせたくない。それがハルの決意だった。
 ますみはそんなハルを止めることはできなかった。少なくとも、今のますみに彼女を止める力はないと思っていた。
「もしASEのメンバーと会ったなら、慎重に。危険だと思ったらスキャップを消してすぐに逃げろ。いいな。」
 ハルは念を押して立ち上がり、バイクに乗ってその場を去った。ますみとユキはASEのメンバーであるアインスに対し、困惑を隠せなかった。

 ASEのトランプメンバーが集まっているカフェバーにアインスは戻ってきていた。クローバーはその中の1つのテーブル席について、シフォンケーキを口にしていた。
「ターゲットに会ってきた。なかなかのスキャップを持っていた。」
「そうか。だが少し派手にやりすぎたみたいだな。」
「そうだな。マスターはお怒りなのだろうな。」
「いや、そうでもなかったようだぞ。いい余興が見れて、むしろご満悦の様子だったぞ。」
「そうか。それならいい。余興といえば、ターゲットに会った直後、スキャップを1人見つけた。」
「何?」
 アインスの言葉にクローバーが眉をひそめる。
「私と同じ氷の力を持った人型のスキャップだった。少し力を見た程度だから、力量は何とも言えないが・・」
「ほう?それでお前はぬけぬけと逃げてきたってワケか?」
 クローバーがあざ笑うと、アインスは少し呆れた様子を見せる。
「からかうな。楽しみはすぐに終わらせるとつまらないだろ。」
「からかっているのはどっちなんだか。まぁいいさ。楽しむのは結構だが、オレたちの仕事に支障をきたさない程度にな。」
「分かっている。」
 笑みをこぼすクローバー。アインスはきびすを返してバーから出ようとする。
「そういえば、オレも退屈だったんで、マスターに仕事をもらってきた。」
 ふと口にしたクローバーの言葉を聞いて、アインスが出入り口の前で足を止める。
「あるスキャップを連れてくるように言われてな。そこでオレは、今野(こんの)姉妹をそいつのところに送りつけた。」
「あの金と銀の姉妹を差し向けたのか?」
 眉をひそめるアインスに、クローバーが不敵に笑う。
「オレ以上に退屈を訴えていたのはあの2人だからな。噛ませてみるさ。」
「それで、お前のターゲットは誰なんだ?」
 アインスが問いかけると、クローバーは1枚の写真をテーブルに放った。
「京極扇さ・・」

 この日も突っかかってきた不良を返り討ちにしていた扇。しかし腑に落ちない気分を振り切れず、彼は苛立っていた。
「チッ!胸くそワリィ・・!」
 愚痴をこぼしながら、彼は自分のバイクに乗る。そしてメットを被ろうとしたとき、彼は2つの視線を感じてバイクを降りる。
 路地を出て通りに出てみると、人々がざわつきを見せていた。中には逃げ惑う人もいた。
「おい!何があった!?」
 その中の1人を呼び止める扇。
「大変だ!2人の女が街の人や建物を金や銀に変えてるんだ!」
「あ?金と銀に、だと?」
 その言葉に扇が眉をひそめる。彼のつかんでいる手を振り切って、その人は逃げてしまった。
 扇は眼つきをさらに鋭くして、さらに騒ぎの中心地に進んでいく。そこには金色の人の像と銀色の人の像がそれぞれ数体並べられていた。
 そしてさらにその中心には2人の少女が立っていた。1人は金のツインテール、もう1人は銀のポニーテールをしていて、年は扇とさほど変わらないように見える。
 扇が鋭い視線を向けていると、彼女たちは振り向いて笑みを見せてきた。
「やっぱりひと騒ぎ起こしたらやってきたね。」
「うん。でもマスターやクローバーが怒っちゃうかな?」
「う〜ん。でもそのときはそのときということで。」
 喜怒哀楽の表情をコロコロと変えていく2人の少女たち。しかしそれを見据える扇の表情は変わらない。
「何だ、テメェらは?そいつらをこんなにしたのはテメェらか?」
 扇が2人の少女に低い声音で言い放つ。
「ンフフフ、そうだよ。この私、今野舞(こんのまい)と・・」
「あたし、今野萌(こんのめい)がやったんだよ。」
 金髪の少女、舞と銀髪の少女、萌が無邪気な笑みを見せる。
「京極扇、あなたを私たちASEのメンバーに入れたいと思ってるの。」
「だから、あたしたちと一緒にきてほしいな〜って。」
 子供染みた態度を続ける舞と萌。それが扇の感情を逆なでする。
「ケッ!オレをテメェらの仲間にしようってか?・・誰に向かってそんなこと言ってんだ?」
 扇が苛立ちをあらわにして、拳を強く握り締める。しかし舞と萌はその反応を楽しんでいるようだった。
「コイツらを元に戻してさっさと失せろ。でないと、テメェらをブッ潰す。」
 扇がその拳を舞と萌に向ける。彼のスキャップを、ナックルをいつでも発動できるように身構えながら。
「へぇ。クローバーの言ってたとおりだね。」
「指図や命令が大嫌いで、すぐに暴力に頼っちゃうんだよねぇ。」
 それでも言動を変えない舞たち。
「ガキみてぇな態度の次は、人を見透かしたことを言ってくるか・・・いちいちカンに障る小娘だ!」
 憤慨した扇がさらに強く拳を握り締める。その拳にはナックルが出現していた。
「へぇ。それがあなたのスキャップってわけね。どんな効果を持ってるか少し気になるけど・・」
「それは後に置いといて。とりあえず捕まえるか倒すかしとかないとね。」
 笑みを消さないまま、舞と萌が扇を見据える。それを受けて扇が不敵に笑う。
「おもしれぇじゃねぇかよ・・やれるもんならやってみろ!」

つづく

Schap キャラ紹介12:今野 舞
名前:今野 舞
よみがな:こんの まい

年齢:17
血液型:O
誕生日:9/8

Q:好きなことは?
「ゲームセンターによくある体感ゲームかな。」
Q:苦手なことは?
「退屈なのは苦手なのよね。」
Q:好きな食べ物は?
「いちごのショートケーキね。」
Q:好きな言葉は?
「夢は実現する。」
Q:好きな色は?
「金色」


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