Schap ACT.16 decision

作:幻影


 氷月を構えたアインスが、ゆっくりとクラウンに近づいていく。石化の波動をはね返して遠くからでも優位に立つことが証明されたにも関わらず、彼女はあえて接近戦に持ち込もうとしていた。
「クラウン!」
 ますみが困惑を込めた叫びを上げる。クラウンは身構えてはいるが、打つ手が見当たらなかった。
「あなたの心の弱さを噛み締めつつ、自らのスキャップの効果を受けることね。石像になったら、私がかわいがってあげるから。」
 妖しい笑みをクラウンに向けるアインス。凍結させようと氷月を振り下ろす。
 そこへ幻が飛び出し、クラウンを抱えて氷月の冷気を回避する。
「幻ちゃん!」
 声を荒げるますみに、クラウンを連れてきた幻が駆け寄る。
「しっかりしろ、このたわけ者が!この少年がやられれば、お前は永久に動けなくなるんだぞ!」
「た、たわけ・・・またたわけって言った・・・バカって言ったほうがバカなんだぞー!」
 怒鳴る幻に言われて、ますみが抗議を上げる。すると幻は笑みを見せて、
「フッ、やっといつものお前に戻ったようだな、ますみ。」
「えっ・・?」
 意外な言葉をかけられて、ますみが唖然となる。頷いて幻は彼女とクラウンの腕をつかむ。
「ここはひとまず退くぞ!」
 幻はますみとクラウンを連れて、この場から駆け出した。それを妖しく見送るアインス。
「逃がしはしないわ。ゆっくりと追いかけてあげる。大丈夫。鳳くんは私が凍らせて、あなたのそばに置いてあげるから。」
 そう呟いてから、アインスも動き出した。

 ガードナーの銃口を向けられながらも、身構えを崩さない扇。レオナを倒すことだけを考えていながら、普段と変わらず冷静に相手の動きを見据えていた。
「やめろ、扇!お前1人で倒せるほど、トランプメンバーは甘くはない!」
「オレに指図すんじゃねぇよ。」
 叫ぶハルを一蹴する扇。
「たとえ相手がオレより力が上だろうと、そいつはナメたマネをしやがった。だから、オレはそいつをブッ潰す。邪魔すんじゃねぇよ。」
 そういって扇はレオナに向き直る。彼女は未だに不敵な笑みを浮かべている。
「言ってくれるじゃないか。なら、オレのガードナーの威力、見せ付けてやるぞ!」
 レオナがガードナーに意識を傾ける。銃砲の銃口から強烈な閃光が放たれる。飛び出した扇がこれを紙一重でかわし、ナックルを装備した拳を繰り出す。
 ガードナーはこれを飛び上がってかわし、反転して再び銃口を扇に向ける。しかしその直後に、扇が飛び上がって追撃をかける。
 砲撃と拳が衝突、2つの圧力が相殺される。その反動で、扇とガードナーが距離をとる。
「なかなかの力だ。ここまでくるとはな。」
「言っておくが、オレの力はまだまだこんなもんじゃねぇんだよ。」
 不敵な笑みを浮かべて、レオナと扇が言い合う。しかしレオナには余裕はなかった。
(なんて底力だ。オレと互角。いや、それ以上だ。このまま戦えば・・!)
 焦りを感じてレオナが胸中でうめく。彼女は優位に立っての勝利をしなければ納得できなかった。
 そのために彼女は、どんな手段でも使ってきた。今までも、そして今回も。
 そう危機感を覚えたレオナは、ガードナーとともに後退を始めた。
「おい、テメェ!逃げんのか!」
「オレが逃げるのが気に入らないなら、追いかけてくるんだな。」
 叫ぶ扇に、レオナは言い放って姿を消す。舌打ちする扇が、彼女を追いかけようとする。
「待て!」
 そこへハルが割り込み、彼を止める。
「邪魔すんじゃねぇ!そこをどけ!」
「行くな!これは明らかにワナだ!このまま行けば、不利に陥るのは眼に見えている!」
「それがどうした!アイツはオレがブッ潰す。そのことに変わりねぇ。」
 ハルの制止を振り切って、レオナを追いかける扇。彼を見かねて、ハルも後を追った。

 カナデの見舞いを終えて、ユキはますみと幻がいるだろう霜月学園に向かっていた。
 うまく話し合って分かり合ってくれるだろう。彼女はそんな願いを胸に秘めていた。
 その途中、彼女は1人の少女が立っているのを眼に留め、ふと足を止める。ふわりとした白髪の少女で、立ち止まったユキを見つめていた。
「お姉ちゃん、神尾ユキって人だよね?」
「えっ?そうだけど?」
「ホントはハートが狙ってるから手を出しちゃいけないんだよね。」
 少女のこの言葉で、ユキは緊迫する。ASEのトランプメンバーであると。
「でも今は遊び相手が決まってるんだよね。名前は確か・・片桐カナデ・・・」
「えっ!?」
 少女、ダイヤの言葉に驚愕するユキ。それをよそにダイヤは淡々と語りかける。
「お姉ちゃんの相手はハートがしてくれることになってるから、あたしはゆっくりとカナデって人と・・」
「待って!どうしてカナデちゃんを・・!」
 ユキが問いかけると、ダイヤは妖しい笑みを浮かべる。
「気付かなかったの、お姉ちゃん?あの人もスキャップなんだよ。」
 その言葉にユキが驚愕を覚える。カナデがスキャップであることに対してではなく、ASEに狙われていることに対して。
「強いスキャップだったら、あたしの友達にしようと思ってるの。でも、弱かったら、いっそのこと固めちゃうから。スキャップはあたしの水晶に入れられないからね。」
 そう告げて立ち去ろうとするダイヤ。そこへユキがたまらず、彼女の前に立ちはだかる。
「カナデちゃんには手を出させない。あの子は心臓の病気で苦しんでるのに、あなたたちのような悪いスキャップにいいようにされるなんて、とても耐えられないよ!」
 言い放ってダイヤの行く手をさえぎるユキ。しかしダイヤは無表情を変えずに口を開く。
「ハートには悪いけど、邪魔するからユキお姉ちゃんから遊んじゃうね。ホントに悪いのは、ユキお姉ちゃんのほうなんだから・・・」
 ダイヤが手をかざすと、その手のひらの上に1つのビー玉が出現した。
「これがあたしのスキャップ、チェリッシュ・エナジー。さぁ、お姉ちゃんもスキャップを出して、あたしと遊ぼうよ。」
 ダイヤがユキにスキャップを出すように求め、周囲に視線を巡らせた。そして周りを歩いている人たちに、チェリッシュ・エナジーの標的と定める。
「でないと、他の人たちと遊ぶから。」
 ビー玉から一条の光線が放たれ、近くを歩いていた少女に命中する。まるで銃で撃たれたような衝動に襲われた少女は、光線と同じ光に体が包まれる。
 その光から、水晶に閉じ込められた少女が現れる。水晶はダイヤの手元にやってくる。
「あたしと同じくらいの年かな?この中に入れるときれいだね。」
 水晶の中の少女を見て、ダイヤが微笑む。
「それじゃ、他の人とも一緒に遊ぶから。」
「待って!」
 たまりかねたユキが呼び止めるが、ダイヤは聞かずにビー玉を操作して、次々と人々を水晶に閉じ込めていく。
「フブキ!」
 ユキはついにフブキを呼び出す。白銀の着物の少女が姿を現す。
 それに気付いたダイヤが振り返り、フブキを見て笑みを見せる。
「それがユキお姉ちゃんのスキャップ。かわいいね。水晶の中に入れたくなっちゃうよ。」
 興味を示すダイヤが、ビー玉の狙いをフブキに向ける。きょとんとしていたフブキがそれを受けて、両手をかざして身構える。
「フブキ、ここは移動したほうがいいよ。周りを危険にしたくないからね。」
「でも、誰もいないところに子供を連れて行くのはいけないと思うんだけど・・」
 真剣に言うユキに、フブキはこの場の重い空気を崩すようなことを言ってくる。しかしユキは顔色を変えないようにする。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないよ。あの子はこれでもトランプメンバーの1人で、すごいスキャップらしいから。」
 いつにもまして真面目に言いかけてくるユキに、フブキもようやく真面目に振舞うことにする。
 ダイヤが自分たちに狙いを定めていると思いながら、ユキとフブキはこの場から駆け出した。彼女の思惑通り、ダイヤが追いかけてきた。
(そうよ。このままついてきて。あの川原なら、誰もいないはずだから。)
「こっちよ!ついてきて!」
 ダイヤがついてきているのを確認しながら、ユキとフブキは彼女を誘い込んでいった。

 扇から逃走したと見せかけたレオナは、彼とハルがいなくなったところを見計らって、元の場所に戻ってきていた。
 彼女の狙いは、炭素凍結されている千尋。
「こうなれば、ヤツの妹を破壊して、この上ない屈辱を与えてくれる!」
 追い詰められて冷静さを失っていたレオナは、ガードナーの銃口を千尋に向ける。
 相手に絶対的な屈辱を与えることが、感情的になった彼女の勝利の喜びだった。
「待て!」
 そこへ声がかかり、レオナが驚愕を浮かべて振り返る。そこにはここを離れたはずのハルが立っていた。
「お前、アイツを追ってここを離れたはず!?」
「卑怯なお前のことだ。少しでも危なくなったら、また人質を取ろうと考えると思ったんだ。」
 声を荒げるレオナに、ハルが淡々と答える。その直後、扇が苛立ちながら姿を見せる。
「つくづくテメェはくだらねぇことをしやがる。」
 ナックルを装備した拳を強く握り締め、扇がレオナに向かって飛びかかる。
「お、おのれ!」
 業を煮やしたレオナは、ガードナーで前方の地面を撃ち抜く。轟音とともに地面がえぐれ、砂煙が巻き起こる。
「しまった!」
 毒づくハル。レオナが笑みを浮かべて、ガードナーの銃口を再び千尋に向ける。
「今度こそお前の妹を吹き飛ばしてやる!そうすればお前はかつてない屈辱に襲われ、オレに喜びを与えるんだ!」
 叫ぶレオナの意思を受けて、ガードナーが閃光を発射し、炭素凍結されている千尋に向かって伸びていく。
 しかし閃光は千尋に直撃する手前で弾かれて止まる。眉をひそめたレオナが眼を凝らすと、扇が割って入って、ナックルで閃光を止めていた。
「何っ!?」
「扇!」
 レオナとハルが声を荒げる。扇がナックルを駆使して、ガードナーの攻撃を止めようとしていた。
 しかしとっさのことで勢いをつけられなかった扇の拳。ナックルに亀裂が入る。
「もうよせ、扇!これ以上やったら、お前のスキャップは・・!」
 ハルがたまらず叫び、ラビィを呼び出す。
「こんなヤローに、いつまでもナメられてたまるか!」
 それでも扇は引き下がらず、ナックルを閃光に叩き込む。閃光は彼の力によって完全に弾き返される。
 その直後、炭素凍結された壁がひび割れ、埋め込まれていた生身の千尋が解放される。今の激突の衝撃か、競り負けたレオナの精神力が弱まったからなのか、彼女は炭素凍結から解放されたのだった。
「あれ・・私は・・・お兄ちゃん!」
 状況が飲み込めなかった千尋だったが、扇の後ろ姿を見て声を荒げる。
 そこへアインスに追いかけられているますみと幻が、ダイヤをおびき出していたユキが駆け込んできた。
「あれ?ハルちゃん、扇くん、ユキちゃん、千尋ちゃん?」
「何?」
 ますみの声に、幻も生返事をする。2人が逃げて、ユキがやってきた川原には、既にハル、扇、レオナの戦いが繰り広げられていた。
 彼らを気に留めて、不敵な笑みを浮かべる。彼が腕を下げると、ナックルが崩れ去る。
「扇・・・!?」
 その一瞬にハルは愕然となる。ガードナーの砲撃を受けきったために、ナックルは力を使い果たしてしまったのである。
 スキャップの破壊は、その効果が能力者自身にはね返るリスクを引き起こす。しかもその効果は永続的である。
「ケッ!だらしねぇとこを見せちまったな・・・」
 愚痴るように呟く扇。ナックルを破壊されたことで、彼の両足が金属に変質し始めた。
「扇!」
「お兄ちゃん!」
 ハルと千尋がたまらず叫ぶ。駆け寄ってきた妹を見下ろして、扇は笑みをこぼす。
「お兄ちゃん!ダメだよ、こんなの!」
 涙ながらに叫ぶ千尋。しかし扇の金属化は止まらず下半身から上半身に上ってきていた。
 体の硬質化。思うように動かせない束縛。人のあたたかさと金属の冷たさの混ざり合い。
 不快に感じるはずなのに、扇はそれほど苦にはしていなかった。
「ギャーギャーうるせぇよ。どうってことはねぇよ。」
「お兄ちゃん・・・!」
「これが別のものになっちまうってことかよ・・・やっぱ、いい気分じゃねぇよな・・・」
 泣きじゃくる千尋。小さく笑みをこぼす扇が、愕然としているハルに視線を向ける。
「何情けねぇツラしてんだよ。別に死んじまうわけじゃねぇんだろ。」
「バカを言うな!スキャップを破壊されたお前は、ずっと鉄になったままなんだぞ!」
「えっ!?」
 ハルの言葉に千尋がさらなる驚愕に襲われる。
「それじゃ、お兄ちゃんは・・・!」
 信じられないような顔を見せる千尋。しかし扇は自分の身に降りかかっている変化を気に留めていない様子を見せていた。
「おい、ますみって言ったか?」
 唐突に声をかけられて、ますみが一瞬きょとんとなる。
「テメェも何情けねぇツラしてんだよ。しっかりしねぇと、他の連中にしめしがつかねぇだろうが。」
「扇くん・・・」
 扇の言葉にますみの心が揺らぐ。
 人は時に迷う。しかし迷ってはいけないとき迷うことは許されない。
 そう。今は迷いを振り切って戦わなければならないときなのだ。
 上半身もほとんどが金属に変化してしまった体。扇は不敵な笑みを浮かべて、空を仰ぎ見る。
(いろいろすまなかったな・・・オレも誰かのために、体を張れたんだな・・・すまないな、ハル、千沙、千尋・・・)
 胸中で、自分の周りにいる人たちを思う扇。その人たちのために戦った自分を、彼は誇らしく思えた。
 笑みを浮かべたまま、彼は意識を失った。その直後、彼の顔を灰色の金属が包み込んでいった。
「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん!」
 兄の生が失われたのを目の当たりにして、千尋が泣き叫ぶ。変わり果てた彼にすがりつき、大粒の涙を流す。
 兄妹の悲痛の光景を見つめるハル、ますみ、ユキ、幻。ますみが幻に思いつめた面持ちを見せる。
「これがスキャップが壊されるってことだよ。その人の分身であるスキャップが壊されると、その効果がその人にかかるの。しかもその人でも解けない。」
 歯がゆさを感じながら、ますみが幻に説明する。それを実際に眼で見て、幻は困惑を浮かべていた。
 同時に、2人には覚悟と決意があった。今は迷うときではない。思いを胸に秘めた自分は、その意思とともに戦わなくてはならない。
 真剣な眼差しを向けて、ますみが幻に言いかけてきた。
「幻ちゃん、扇くんと千尋ちゃんをお願い。金属になってるけど、まだ生きてるから。」
「あぁ。分かった・・」
 ますみの言葉を聞いて、幻は頷いて駆け出した。固まった扇を抱えて、涙を拭う千尋を連れて、この場を離れる。
 それを見てますみがゆっくりと歩き出す。駆けつけたユキと動揺を浮かべているハルの横に立つ。
 彼女たち3人の前に、レオナ、アインス、ダイヤが立ちはだかる。
「ハルちゃん、ユキちゃん、あたしも戦うよ。みんなで戦おうよ。」
 ますみの真剣な言葉に、ハルもユキも戦う決意をする。
「あたしはもう迷わない。幻ちゃんが、みんなが信じてくれるから。」
「扇、お前の強さ、私が受け継いでやる。」
「カナデちゃんを守るために、私はあの子を。」
 決意の言葉を口にして、3人は意識を集中する。
「クラウン!」
「ラビィ!」
「フブキ!」
 3人の呼びかけで、クラウン、ラビィ、フブキが姿を現す。氷月を構えるアインス、チェリッシュ・エナジーを手にするダイヤ、ガードナーを操るレオナと対峙するのだった。

つづく

Schap キャラ紹介16:鳳 幻
名前:鳳 幻
よみがな:おおとり げん

年齢:16
血液型:A
誕生日:4/3

Q:好きなことは?
「稽古と特訓」
Q:苦手なことは?
「女と面と向かって話すと妙に緊張してしまう。」
Q:好きな食べ物は?
「好き嫌いはないが、強いて言うなら和食だ。」
Q:好きな言葉は?
「風林火山、一騎当千」
Q:好きな色は?
「紅と蒼」


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