作:幻影
ここはとある大きな街のスラム街。いかにも物陰から凶悪犯が出てきそうな雰囲気だった。
人気のないその通りを1人歩く黒髪の青年がいた。
影山ユウキ。
彼は世間を騒がせている誘拐犯、シャドウである。
メデューサに仕えていた悪魔、ゴルゴン・シャドウと契約を交わし、その能力を得たのだった。性欲の暴走という代償を背負うことで。
その能力を駆使し、ユウキはシャドウとして予告状を出し、標的と定めた美女を連れ去っていった。そしてその美女を自分の作った空間で石化し、その体に触れて快楽を感じていた。
性欲の暴走という代償を、その石化の力を利用することで逆に自分の心を埋める糧としていた。
この日も、美女を求めてユウキはこの街に訪れていたのである。
「おい、そこのにいちゃん。」
そこへガラの悪い男が3人、ユウキの前に現れ取り囲んだ。しかしユウキは悠然とした態度を崩さなかった。
「どうしたんだい?何かオレに用?」
「ヘッ!分かりきったことを聞くんだな。」
ユウキの問いかけを男たちがあざ笑う。
「金目のものを全て置いていきな。でないと痛い目を見るぜ。」
「オレたちはこの街で最強最悪のチームだぜ。」
「逆らわないほうが身のためだぜ。」
勝ち誇った笑みを浮かべ、ユウキの顔を睨む男たち。
「なるほど。不良のよくやるやり口だね。」
「ほう。分かってるなら、ほら。」
男の1人が金を催促する。
そのとき、ユウキの体から黒い霧が吹き出した。
「何っ!?」
虚をつかれた男たちを霧が包み込んでいく。
やがて霧が治まり、男たちは気絶して倒れた。笑みを浮かべてユウキが男たちを見下ろす。
「あんまりこの姿で、人前で力を使いたくないんだけどね。」
少し呆れた様子でその場を立ち去るユウキ。黒い影がこの街で再び欲望を振りまこうとしていた。
スラム街を抜けると、そこは街の中心の広場だった。
薄暗い路地を抜けて、太陽の明るい光が飛び込み、ユウキは手を掲げて光をさえぎった。
「これで、ちゃんとした買い物ができそうだ。食事もしたいと思っていたし。」
ユウキは買い物できる場所、食事の取れる場所を探し求めた。
「何やってんの、そこで?」
そこへ1人の少女が声をかけてきた。少し広がりを感じさせる短い黒髪。気の強そうな表情の少女である。
「え?い、いや、どこか買い物ができる場所はないかと思ってね。」
「そう。だったら、近くに喫茶店があるから、軽くでよかったらそこでいい?」
少女の案内にユウキは頷いた。
「ところで、紹介がまだだったね。オレは影山ユウキ。きみは?」
「わたし、細川ライムよ。」
突然知り合った少女、ライムに案内されて、ユウキは近くの喫茶店に立ち寄った。そこで注文したサンドイッチとカフェオレを口にしていた。
「ふう。これで少しは大丈夫かな。」
満足して安堵の吐息をつくユウキ。その姿を見ていたライムが唖然としていた。
「おかしな人ね。軽い食事で満足できるなんて。」
「いやぁ、ホントに空腹だったから。」
照れ笑いするユウキに、苦笑を浮かべるライム。しかしその笑みが真剣な表情に変わる。
「ところで、さっきのアレ、何なの?」
「アレ?」
何を指摘されているのか分からず、ユウキが疑問符を浮かべる。
「アンタが不良に囲まれてたとき、アンタ、体から煙みたいなものを出してたのよね?」
「え?」
ライムの指摘を受け、ユウキはあえて屈託のない疑問の声を繕う。
実は不良を黒い霧で眠らせていたところを、彼女は見ていたのだ。そのことを不審に思い、ユウキに接したのだった。
「まさかアンタ、何かの事件の凶悪犯じゃ・・」
ライムが言いかけると、ユウキは席を立ち、財布からお札をテーブルに置いた。
「今回はオレのおごりだ。おつりも君がもらっていいよ。」
「ち、ちょっと待ちなさい!まだ話は・・!」
声を荒げて呼び止めようとするライム。そこへユウキが彼女の唇に指を当てる。
「夜にあの広場の奥のスラム街で待ってる。そこで話をしよう。」
ユウキは笑みを見せて、そのまま店を立ち去る。ライムはただ、彼の後ろ姿を見送るしかなかった。
(夜は最も闇が満ちる時間だ。果たして君はオレの扱う闇を払えるかな、ライムちゃん?いや、スパークガール。)
街の奥に進んでいくユウキの笑みはまだ消えていなかった。彼はマインドアイを使って、ライムの心を読んでいたのだ。
彼は、シャドウは次の標的を定めた。この街の黒い影を消す稲光に。
薄暗い闇の支配する夜の街。空はかすかに雲がかかっていたが、月は美しい輝きを放っていた。
その路地をゆっくりと歩くユウキ。彼は標的の到着を待ち望んでいた。
周囲は完全な暗黒に包まれていた。逃げ隠れるには最適の場所だった。
「さて、そろそろ来る頃だと思うけど。」
ユウキは周囲を見回した。彼の能力の1つであるマインドアイは、この暗闇でも透視することが可能である。
「現れたわね、凶悪犯!」
そこへ高らかな声が響き、ユウキが視線を上に向ける。月明かりに照らされたビルの1つの頂に、1つの人影があった。
特殊な繊維の服に身を包み、背には装備の詰め込まれたボックスを設置している1人の少女だった。
「やあ、君が来るのをオレは待っていたよ。」
ユウキが笑みを浮かべて、その少女を見上げる。彼女が彼の次の標的とされていた。
その直後、ユウキの姿に変化が起きた。シャツとジーンズを着込んだ服装から、黒ずくめの装束に変わる。髪の色も黒から白になる。
これがユウキが人前で主に能力を使用する姿。美女を連れ去る怪盗、シャドウである。
「やっぱりアンタだったのね、シャドウ!」
シャドウとしての姿を見せたユウキに少女が叫ぶ。
彼の犯行は徐々にその地域範囲を拡大していき、堂々と予告状を出してその通りに美女をさらっていくという大胆不敵なものだった。シャドウの存在を知らない人はほとんどいなかった。
「アンタは女の敵!このスパークガールが成敗してくれる!」
スパークガールと名乗った少女が身構え、ユウキをじっと見据える。しかしユウキは余裕の態度を崩さない。
「スパークガール。黒い影を消す稲光。しかし世間を騒がしている怪盗に挑戦するものの、衣服を引き裂かれて返り討ちにあっている。」
ユウキがスパークガールについて語りだす。彼はマインドアイで彼女の心を読んでいた。
「そして君は、オレと同じ石化の能力を持った連続誘拐犯に挑んだけど、逆に石にされて夜の街に放置された。」
「な、何を言ってるのよ、アンタ!?」
自分のことを指摘され苛立っていたスパークガールの表情が驚愕に染まる。
「でも、石化が解かれたとき、君やさらわれた美女たちはそのことに関しての記憶を消されている。分からないのもムリはないか。」
不敵な笑みを浮かべてひとつ吐息をつくユウキ。
「おかしなことばかり言わないで!アンタもこれで終わりよ!」
憤慨したスパークガールがビルから飛び降り、ユウキに向かって飛びかかった。普通に考えて、4階の建物から飛び降りればただではすまない。
しかし落下する彼女の体が、不自然に浮き上がった。そして彼女がユウキに向かって飛び蹴りを見舞う。
ユウキにはスパークガールの動きと、宙に浮かんでいる理由が見えていた。彼女は背中のボックスに仕込んでいるワイヤーを駆使している。よって、この超人的ともいえる機敏な動きを可能としていたのだ。
さらに攻撃を続けていくスパークガール。しかし、マインドアイを使用しているユウキに全てかわされていた。
「エレキロッド!」
スパークガールは、背負っているボックスから1本の棒を取り出した。その先端から電撃がほとばしった。
ユウキは振り下ろされた電撃の棒をかわす。だが、帯びた電気を受け、笑みを消す。かすかながら電撃の衝動を受けたのだ。
しかしユウキにはあまり応えてはいなかった。むしろその刺激さえも喜びに感じ取っていた。
やがて何度かスパークガールの攻撃をかわした後、ユウキは後退して間合いを取った。
(なんてヤツなの、アイツ!?この電撃を受けても全然平気だなんて・・・!)
驚異的ともいえるユウキの運動能力に毒づく。
ゴルゴン・シャドウの力を得たユウキの身体能力は、普通の人間のそれをはるかに超えている。いくらワイヤーや鍛錬で補われているとはいえ、常人がそれと渡り合うには困難なことだった。
(こうなったら、ちょっと危険だけど、これで何とかするしかない。)
スパークガールは、手に持った棒のメーターを操作した。エレキロッドの電撃の出力を調整するもので、これを最大にした。
再び飛び上がり、凄まじい電撃を帯びた棒を地面に突き立てる。するとその棒を中心に、激しく電流が地面を駆けていく。
このスラム街の地面は、舗装されてほとんど鉄製コンクリートになっていて、電気を通しやすくなっていた。地を這う電流の波が、容赦なくユウキを飲み込んでいく。
スパークガールが上空に飛び上がったのは、この電撃の巻き添えを食わないためだった。彼女の眼科で、ユウキは身動きが取れなくなっていたはずである。
「えっ!?」
しかしスパークガールは眼を疑った。
電撃に飲まれたユウキは平然と彼女を見上げ、さらにその姿が次第にぼやけていく。
「こんな大胆不敵な戦術を使ってくるとはね。でも、オレは捕まえられないよ。」
声が間近に聞こえ、スパークガールは驚愕しながら振り返った。その背後にはユウキの姿があった。
「ア、アンタ・・なんで!?」
「なんでって、簡単だよ。君と同じように飛び上がっただけだよ。ただ、素早すぎて残像がその場に残ってしまったけどね。」
スパークガールの問いかけにユウキは微笑を浮かべながら答える。そして動揺している彼女の肩をつかんだ。
彼女の困惑は広がるばかりだった。その最大の理由が、ユウキが宙に浮いていたからだった。彼女のようにワイヤーを使わず、彼は重力に逆らって浮き上がっていた。
「それどころか、逆にオレが君を捕まえてしまったよ。」
「うっ!しまった・・!」
肩をつかまれ、虚をつかれたスパークガール。振りほどこうとするが、つかむユウキの手の力が強く、逃れることができない。
「さて、今夜はここで君を手に入れるとしようか。」
彼女を捕らえたまま、ユウキはゆっくりと地上に降り立った。
「オレと彼の石化はほとんど同じ。これを受ければ、君はきっと思い出すよ。君のいう女の敵に全てを奪われる気分をね。」
不敵に笑うユウキが、不安を感じ始めるスパークガールをじっと見つめる。
カッ!
その彼の眼が光り出し、閃光がスパークガールを包む。
ドクンッ
強い胸の高鳴りを感じ、スパークガールは眼を見開いた。何が起こったのか分からず、開いた口がふさがらなかった。
「これで君はオレのものだよ。スパークガール、いや、細川ライムさん。」
「な、何を言って・・!?」
ピキッ ピキッ ピキッ
そのとき、ユウキの言葉に抗おうとしたスパークガールの衣服が突然剥がれ落ちた。その奥の肌は白く冷たくなり、ところどころにヒビが入っていた。
「な、何なの、コレ!?」
固まった左手を見つめ、スパークガールが驚愕する。
「どこから石化しようか迷ったけど、彼がしたのと同じようにしたほうがいいかなと思ってね。」
ユウキが衣服の剥がれていくスパークガールを見つめ、不敵に微笑む。
彼女は彼の石化によって、左手、左胸、尻、秘所があらわになっていた。
「ここなら安心して君をオブジェにできるよ。」
ユウキは周囲の暗闇に視線を巡らせ、再び石化していく少女に戻す。
このスラム街は人気がほとんどない。しかもユウキは周囲に黒い霧を発していた。催眠効果の含まれている霧の壁は、他者の侵入を完全に阻んでいた。
「か、体が、動かない・・・く、くそっ・・・!」
裸にされていくことから顔を赤らめ、うめくスパークガール。
パキッ
さらに石化は進行し、彼女の素肌をさらけ出していく。
ピキキッ パキッ
同時に、スパークガールの長く揺らめいている髪が徐々に崩れ落ちていく。
「どうだい?これで思い出してくるだろう?かつて君の身に降りかかった災難を。」
「これって・・まさか・・・!?」
スパークガールの瞳が小刻みに震える。深く忘れられていた記憶が、彼女の脳裏によみがえり襲いかかる。
1度は消されていた石化の記憶。だが、ユウキが同じ石化をかけたことによって、その記憶がよみがえったのだ。
「アンタが、女性たちをさらって、こうして石にして・・!?」
「アハハ。勘違いしないでほしいよ。」
問いかけてきたスパークガールにユウキは苦笑する。
「オレがこの街に来たのは今日が初めて。それに、その誘拐犯はもう亡くなって、さらわれた女性たちも元に戻されてる。その事件の記憶は消されてるけどね。」
妖しい笑みを見せるユウキに、スパークガールは返す言葉が浮かばなかった。
「さて、これからじっくり楽しませてもらうよ。まぁ、いくら人目がないといっても、こんな街中で裸になるわけにはいかないけどね。」
ユウキはスパークガールの半壊している衣服の胸部を手で払い、石化していない右胸に触れ始めた。
「ちょっと、何やってんのよ!?」
「君のぬくもりを確かめるんだよ。それこそがオレがこの石化の力を得た1番の充実だと思うんだ。さぁ、君の全てを見せてもらうよ、スパークガール。いや、細川ライム。」
ユウキに胸を撫でられ、顔を赤らめるスパークガール、細川ライム。しかし、石化していく体は彼女の意思に反して言うことを聞かない。
「いいよ。やわらかくふくらみのある胸だ。思わず吸い付きたくなる気分だよ。」
「く・・くそ・・・!」
胸を揉まれていることに不快感を感じながら、ライムは右こめかみの辺りにセットしてある子機のスイッチを入れる。するとその射出口から小さな何かが飛び出す。
しかしユウキは視線を動かすことなく、それをつかんだ。
「えっ!?」
「君の考えていることはお見通しだよ。それ、標的を補足するレーダーだよね?オレには通じないよ。それに、オレの空間はこの世界と完全に隔離されてるから、レーダーは一切仕えないよ。」
ユウキに全てを見透かされ、唖然となるライム。その間にも、彼は彼女の胸を撫で続けていた。
やがてこみ上げてくる刺激に顔を歪めるようになる。
「どうだい。気持ちよくなってきただろ?動物である限り、この快楽をすばらしく思えてくるはずだよ。」
次第に快楽の海に身を沈めていくユウキ。しかしライムは彼から抗いたい気分を抱えていた。
「やめ・・て・・・私は・・こんなこと・・・」
「自分の正義のために否定したい気持ちは分かるよ。けど体は求めてしまっているよ。安心して。もう下半身は石になってる。だからあふれ出ることはなく、汚れることもない。」
必死に抗おうとするライムに快感が押し寄せる。しかし彼女の秘所は石化して、愛液があふれることはない。
その石の秘所にユウキは舌を入れ始めた。
「・・・な・・・ぁぁ・・・!」
体を駆け巡る刺激が大きくなり、ライムが絶叫を上げる。ただしその声は言葉になっていなかった。
「そうだよ。もっと感じてよ。拒絶することはない。体はちゃんと覚えているから。」
ユウキがライムに妖しく声をかけながら、彼女の秘所を舐め続けていく。ライムは大きく眼を見開き、考えがつかなくなり頭の中が真っ白になっていた。
しばらく舐めきった後、ユウキはライムの秘所から顔を離し立ち上がった。彼女は虚ろな表情になっていて、その正義は完全に揺らいでしまっていた。
「そろそろいいかな。あんまり怯えたり怖い顔をされたらお互いに困るからね。」
パキッ ピキッ
ユウキがじっとライムを見つめると、止まっていた石化が再び進行を始めた。彼女の柔肌を白く冷たい石に変えていく。
「ブーちゃん・・・これって・・・夢だよね・・・」
脱力していく中、ライムは自分が想っている青年に問いかけた。しかしその答えは返ってこない。
ピキッ パキッ
石化はライムの手足の先にまで達し、呟きをもらす唇をも包み込んだ。頬が固まり、ライムは悲痛のあまり眼に涙を浮かべる。
フッ
その涙がこぼれた瞬間、瞳にもヒビが入り、ライムは完全な石になった。石の頬に悲しみの涙がわずかに伝っていた。
「これでもう、君は完全にオレのものになったわけだ。」
ユウキは不敵に笑い、ライムの頬を流れる涙を拭う。
「正義の稲光も、オレの持つゴルゴンの石化の闇に包まれてしまったようだね。」
ユウキは裸の石像となったライムの体を優しく抱きしめた。石の体の感触を抱くことで感じる。
「でもこれで君は解放されたんだよ。このわだかまりの現実からね。これからは裸のオブジェとして、この自由を生きていくんだ。」
ライムを抱いたまま、ユウキは黒い霧を発した。霧は2人を包み込み、その姿を消した。
その日から、スパークガールはこの街から完全に姿を見せなくなった。
彼女も噂の美女さらい、シャドウにさらわれたという人も少なくない。
闇を消す稲光はもういない。欲情に駆られたシャドウに石化され連れ去られた。
彼女でさえ、石化の闇を消すことはできず、逆にその闇に包まれ全てを奪われた。
今、稲妻はほの暗い闇の中・・・