ハーピー戦隊 ルルティアン

作:愚印


「ハルカさん、世のため人のために戦いましょう!!」
 私の素晴らしい提案を聞いて、ハルカさんはとても迷惑そうな顔をしています。そんな表情をされるとは心外です。彼女には、私の言葉が理解できかったのでしょうか?
 あっ、自己紹介が遅れましたが、私はハーピーのルルティアです。えっ?なんだか以前と性格や喋り方が違うって?気のせいだと思います。ええ、気のせいですとも。
 そんな些細なことは忘れることにして、私は今、ハーピーの未来を賭けて、ハルカさんを説得中なのです。
「どうしたんですか、急に?あなたの口からそんな言葉を聞くなんて…。豆腐の角で頭でもぶつけましたか?」
 ハルカさんたら、なんて失礼なことを言うんでしょう。私の頭は硬くて頑丈です。豆腐の角なんかには負けません。
 しかし、ここで怒っていては話が進みません。ハルカさんにも理解できるよう、噛み砕いて説明をすることにします。
「それでは説明します。今、我々ハーピーは、一般の方々に誤解されようとしています。確かに気分や趣味で、少女を凍らせたり、少女を石にしたり、少女を宝石にしたり、少女を…。まあ、いろいろな方法で少女を固めてきましたが、そんなことはちょっとした悪戯じゃないですか。それなのに、人間たちは私の姿を見た途端、『ルルティアが来たー。ルルティアが来たぞー。』と叫びます。『正義の味方』なんてのまで、襲い掛かってきます。これは私たちハーピーにとって、由々しき事態です。」
「それは、固めた後で関係者の記憶を消し忘れたルルティアが悪いんでしょう。満足感に浸って記憶操作を忘れるなんて、ハーピー失格ですよ。まったく、同じハーピーという理由で、あなたと間違われる私の気持ちにもなってください。」
 過去の失敗を非難するなんて、議論のすり替えです。私はもっと前向きな提案をしているのです。ハルカさんは何でわかってくれないんでしょうか。
「とにかく、ハーピー全体の信用を回復するために、私たちハーピーは正義のヒロインになる必要があるのです。汚名挽回、名誉返上するんです。」
 どうです。この理路整然とした説明。さすがにこれでは、ハルカさんも言い返せないことでしょう。
「色々と突っ込みどころが満載ですが、まあ、良いことをするみたいですので、今は聞き流すことにします。ところで、それとあなたのその格好と、どういう関係があるのですか?」
 どうやら私の格好が気に入らないようです。ハーピーを見かけで判断するなんて、ハルカさんも落ちたものです。
 私は今、羽をかたどった仮面をつけています。目の周りを覆う、燃えるような真っ赤な仮面です。
「正義のヒロインは正体を知られてはいけないのです。そんなの常識じゃないですか。真っ赤な仮面は私の正体を隠すだけでなく、私の性技じゃなくて、正義の心を表しているのです。」
「正義の心は結構ですけど、もしかして、それを私にもつけろというつもりではないでしょうね。」
 私は羽に忍ばせた青い仮面を取り出して、ハルカさんに差し出しました。
「当然、つけてもらいます。さあ、仮面を受け取って。ハーピー戦隊ルルティアン、サブリーダー、ブルーハルカ。当然、リーダーは私、ルルティアレッドです。」
 羽の色からルルティアパープルも考えたんですけど、語呂が悪いしパープリンって嫌な別名を付けられそうなのでやめました。
「だれがブルーハルカですか!!勝手に変な名前を付けないでください。とにかく、私はそんな仮面、絶対つけませんからね!!」
 すごい剣幕です。ハルカさん、本気で怒っているみたいです。…ショックです。ここまで拒絶されるとは思いませんでした。
「ハルカさんは、こういうの好きだと思ったのに…。」
「勝手に思わないでください。『羞恥プレイは素顔を晒すからこそ燃え上がる』と私は考えています。コスチュームプレイとしては上質ですが、顔を隠すなんて、そんな本末転倒なこと、私は絶対協力しませんからね。」


 結局、ハルカさんは最後まで首を縦に振ることはありませんでした。ハーピー仲間では良識派で知られるハルカさんを仲間に引き込めなかった以上、他のハーピーに協力を求めるのは絶望的でしょう。仕方がないので、私は一人で町をパトロールすることにしました。正義を貫くということは、孤独を伴うものなのですね。
 キュルキュルク〜。
 すいません。お腹がなってしまいました。正義の味方は、緊張の連続ですから、お腹が空くのも早いようです。少し先にコンビニがありますね。あそこで、サンドイッチでも買うことにしましょうか。
 店に入ると、アルバイトらしき女性店員が、ギョッとしながら私の顔をまじまじと眺めてきました。正義の味方に対して、なんて失礼な態度でしょう。あっ、もしかして、この正義のマスクを問題にしているのでしょうか。これはフルフェイスのヘルメットじゃありませんよ。目元しか隠してないんですから。もっとよく見てもらいたいものです。店の奥から店長らしき女性が出てきました。店員が私の方を指差しています。店長は私の方へ目を走らせると、店員に何かを話し始めました。たぶん、私が正義の味方であることを説明したのでしょう。その後、店員がこちらを見ることは二度とありませんでした。
お昼時だからでしょうか。店の中は結構賑わっています。ファッション雑誌を立ち読みする女子校生二人組み。お弁当を選んでいるOLのお姉さん。お菓子売り場の前で賑やかに話をしている3人の少女。今日は女性客しかいないようですね。
 何はともあれ、腹ごしらえです。パンの棚でも覗いて見ましょう。
 私がお気に入りのハムサンドを買おうとすると、小学生高学年らしき少女が私にぶつかってきました。私のハムサンドが尻尾から転げ落ち、少女が腕に掛けた手提げ袋の中に吸い込まれていきました。少女はそれに気付いていないようです。このままレジを通過すれば、お金を払わないでハムサンドをゲットしちゃうんじゃ…。
「こ、これは…。」
 思わず口に出してしまいましたが、これは万引きに間違いありません。なんという卑劣な少女でしょう。正義の味方として、目の前で起きた悪を見逃すわけにはいきません。私は自慢の脚力できりもみジャンプをし、少女の前に降り立ちました。羽根を舞い散らせながら降り立つ姿は、我がごとながら神々しい美しさだと思います。アルバイト店員が、箒と塵取りをもってこっちに駆け寄ってくるのは、この際無視しましょう。
「私はハーピー戦隊ルルティアンのリーダー、ルルティアレッド。正義の名のもとに、あなたを倒します。」
 一晩掛けて考えたセリフも決まったことですし、続いてお仕置きです。
 少女は最初ビックリしていましたが、続いてキョロキョロと周りを見回し始めました。まるで、他人事ですね。この段階になっても罪を認めるつもりはないようです。許せません!!
「これで終わりです!!正義の心を一つに合わせ、今、必殺の!!必殺の…、必殺…、…。」
 ああ!!必殺技を考えていませんでした!!大体、ハルカさんが仲魔にならないからいけないんです。一緒に考えようと思っていたのに…。
 気まずい沈黙が店内に漂います。皆の視線が痛いです。なんとか、なんとかしないと…。
「アイスブレス!!」
 仕方がありません。私は、ちょっと溜息の混じったアイスブレスを吐き出すことにしました。
 コンビニ店内の温度が、一気にマイナス200度まで下がります。本当はマイナス300度まで下げることができるのですが、悪の組織ではないのでそこまではしません。私は正義のヒロインですから。
 私は羽毛とハーピー特有の体質でそれほど寒くありませんが、悪のしもべは冷気によってカチコチに凍ったようです。意識は残してあります。7日間はこのままですから、その間に十分反省してもらいましょう。店内の人間全員が凍りついたようですけど、正義の行いの前では多少の犠牲も仕方がありません。
 うーん。悪い少女ですが、冷気で動きを止められた様は、なんともかわいいです。暖かそうだった厚手のセーターも、ブレスで捲れあがったチェックのスカートも、その奥から覗く毛糸のパンツも、ガチガチの真っ白に凍り付いています。息が触れるだけで溶けそうな氷の結晶が、彼女の小さな身体に似合い過ぎて、ああ、たまりません。見ているだけで、生唾ものです。もう、私の羽でシャリシャリと撫でてあげたい。あれっ、ポカンと開いた口の中に、小さな氷柱が三本ほど覗いていますね。ちょっと折って、食べてみましょう。冷たく小さな氷柱が、口の中であっという間に溶けていきます。ちょっと、病み付きになりそうな食感です。
 あっ、いけない。今は正義の味方でした。敵を倒したら、すぐに立ち去らないといけないんでした。ちょっと惜しい気もしますが、早くしないとまた誤解されかねません。
 店から出るためにガラスの扉を開こうとしたのですが、押せども引けども動きません。完全に凍り付いています。これは私を困らせようという悪の陰謀でしょうか。しかたなく、私はガラスを蹴破り外へでました。
 頼りなげな冬の太陽が、私の華麗なる初仕事を祝福するように顔を覗かせています。私は僅かに目を細め、再び歩き始めました。
 戦いは、これで終わりではありません。この世界から悪を断つまで、私は、いえ、私たちハーピー戦隊ルルティアンは、戦いつづけるのです。


3日後。
「今日はパトロールに行かないのですか?」
「何の話をしているんですか、ハルカさん?これからは、くノ一、忍びの者ですよ。闇から闇へ駆け抜ける影…。すてきでしょう。」
「飽きたんですね…。こんどはくノ一ですか…。はあ…。」

おわり


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