作:HAGE
………そして、10年の年月が過ぎ―――――
世界は、破壊の爪痕も殆ど影を潜めるほどにまで、復興していた。
国も、地形も、以前とは全く変わってしまったが…それでも、人々は蘇る世界と共に、日々を力強く生きていた。
他の国や地域へ侵略するような国や勢力もなく…中には復興に乗じて自利を企む者もいることはいるが、基本的に人も世界も健全に在った。
そして、それはモブリズにおいても例外ではなく…村は、以前よりも発展していた。
世界が引き裂かれ、故郷を失くし…家族や親戚を喪い…自分の身の拠所を失った者は多かった。
そんな人々の中で、良き心を持った者も少なからずおり…その更に何人かの者達が、モブリズの噂を風の便りで聞きつけたことで、後にモブリズに
歩み寄ることが、幾度もあった。
故郷を失い、他に当ても無い者…親や子を失い、悲しみに暮れていた者…自分と同じ子供達がいると知り、行きたくなった孤児…村にいるのは
子供達だけと聞き、居ても立ってもいられなくなった者…
人それぞれ事情は違えど、村の一員となって日々を助け合って暮らして生きていきたいと願う者は、後を絶たなかった。
最初の頃は、モブリズが悪党達に襲われた件もあって警戒的であった村の皆であったが…やがて打ち解けるのに、それ程の時は必要では無かった。
そしてお互いに力を出し合い、助け合い、様々な紆余曲折を経て10年経った今………村は飛躍的な発展を遂げていた。
人口も増え…家々も増え…地域産業も復活し更に新たなものが発達し…村は最早、町と言い換えても違和感無いほどにまで振興を果たしていた。
そして、そこに生きる人も皆…力強く輝いた目を持ちながら、日々を過ごしていた。
…だが、それは村の皆の力だけによる賜物ではない。
村の皆の力では成す術の無い危機に陥った時…ある、石の乙女が影で皆を幾度も救い続けてきたことも、大きな要因となっていた。
その乙女は、普段は見晴しの良い村の中央広場で眠っているが…村の誰かや村が危機に晒された時、石の身のまま、救いの手を差し伸べてきた。
村の皆はそんな乙女に多大なる感謝と尊敬の念を寄せ、しかし決して彼女に頼りきってばかりではいるまい、と強い心を持って日々を生きていた。
そしてそれは…村の外にいる者は知ることの無い、村の皆の内での伝説となっているのであった。
…そんなある日のこと。
「………この村も、変わったなぁ……。」
「ええ、本当に…。 あれから、随分変わったものね……。」
ある、子連れの夫婦がモブリズへと訪れており、村の変わり様に感嘆の声を漏らしていた。
歳は7年も離れてはいるが…激動の日々を共に生きてきた二人の間に在る絆は、何よりも固いものであった。
他にも、強い絆で結ばれた、掛け替えの無い戦友達が世界の彼方此方にいるのだが…中々会うことが出来ない。
あれから10年も経ったんだな………皆、元気でやっているだろうか―――――
そんな思いに耽りながら、彼らは中央広場へと足を進めた。
「ねえねえ! あそこに女の人の石像があるよ!
すっごくきれいな女の人だね!」
いつの間にか手から離れていた我が子の無邪気さに微笑みながら、二人は子が指差す、石の乙女に目を向けた。
その足元には大きな碑があり、「世界を救いし者の一人〜〜〜村の守り人ともなって、今もこの村を守り続けている…」と、その乙女についての
長い文章が刻まれている。
「……あれから、世界も…人も…俺達も……
いろんなものが変わっていったけど……」
「ふふ………彼女は本当に、変わっていないのね………。」
嘗ての頃と変わらない…自分達の大切な仲間でもあった乙女の姿を眺め、二人はそんな感慨に耽る。
勇ましさを感じ取れる居ずまいと、強さだけでなく優しさも感じさせる顔立ちのその乙女は、歳を取る事も無く以前と変わらぬままの姿に在った。
だが、決して只の石像になっていないことは、乙女が旅の際に愛用していた剣と盾と装備していることからも窺い知れる。
「ライトブリンガーに、英雄の盾か。 あ〜あ…。
あんな良い物、俺も一回で良いから、世界を救う旅の時に装備したかったよなぁ…。」
「こらこら。 貴方にはバリアントナイフがあるでしょ?
…それに、あの剣と盾は…
彼女にこそ、相応しい物だわ…。」
「同感だ………。」
あれから今に至るまで…彼女は村に住む皆を、ずっと守り続けている。
その愛を子供達だけには留めず…この村で日々を懸命に生きようとする人々が、本当に助けを必要とする時に、彼女は目を覚まし、
大いなる慈愛を以って救いを与える。
どれほどの時が過ぎ、あらゆるものが移ろいゆこうとも…愛する心、守りたいと願う気持ちは、石となった自身の内に、強く秘められている―――
「…これからも、ずっと……
この村に住む人々を、守り続けていくんだろうな…。」
「そうね……。
完全に、意識が眠りに付く………その時まで、彼女は守り続けていくのでしょう…。」
そう。
あらゆるものに、完全不変のものなどは在り得ない。
石化という、ある意味不老不死に通ずると言えるものをその身に受けてしまい、それでも尚、村の皆を守り続けていく彼女だが………
そんな彼女もいつか、本当の意味で石像となり…完全なる眠りに付くのだろう………。
…それでも、村に住む人々が努力を怠らず、慢心をせず、その日その日を強く、笑って生きていこうとする心を忘れない限り………
彼女が真の眠りに付いた後も、この村は安泰に在り続けるだろう―――
「その時まで、この村の皆を…
これからも、守っていてくれよ!
…… テ ィ ナ ! 」
「あれ? お父さん?
お父さん、このきれいな女の人と…知りあいなの?」
「んん? あ、ああ。
知り合いと言えばそうだし、話せば長くなるんだが………」
「どんな話なの? 聞かせてよ!」
「ふふふ……実はね、私もティナとは知り合いなのよ?」
「えー! 本当!?
お母さんも?」
「本当よ。
ねえ? ロック。」
「ああ、セリスの言う通りだ!
これは、話せば本当に長くなる、ドキドキワクワクの話だぞ!
まず最初にだなぁ……………」
嘗て自分達が経験した、波瀾と激動に満ちた数々の出来事を……今となっては忘れることは無い大切な思い出話として、ロックとセリスは
最愛の子に語り始めた―――――
…午後の太陽の恵みを一身に浴び…
…小鳥達の囀りを耳にして…
…爽やかなる風をその身に受けながら…
…強く優しき勇乙女は………今日も村と皆の平和を、微笑みと共に守り続けているのであった―――――
<エピローグ・終>