作:灰音穂香
僕はコカトリス…。
いつもこの泉の前で歌を唄っている。
聞いてくれる人は誰もいないだけ…。
誰かに僕の歌を聴かせたら石にしてしまうから…。
だから僕は何時も一人で唄う…。
でも…その日は何かが違った…。
“ガサリ”
泉の岸でいつものように歌を唄おうとしたところで、その女の子は会場に入って来た。
少女の髪は長く、耳は少し尖っていた。
そう…少女はエルフだった…。
道にでも迷ったのだろうか。
「お兄ちゃん、何をしているの?」
少女は尋ねた。
「歌を歌っていたんだよ。」っ
と僕は答えた。
「聞きたいな…」
少女はそう言った。
「でも…僕は」
「コカトリス…でしょ?」
彼女には僕がコカトリスである事が解っていたようだ。
そして…コカトリスの歌を聴けばどうなるかも…。
だから…
僕は歌を唄う…
少女を石にするために…。
「…♪」
僕が歌を歌い始めると同時に少女の体が足から石化していった。
僕がもし、歌を奏でる鳥ならば
君は僕の羽になり何処までも連れていってくれるだろう。
僕と君とは世界を巡り
終わる事なき旅をする…
歌を唄い終わるとそこに少女の姿は無く、変わりに少女の形をした石像があっただけ…。
僕はコカトリス…。
今日も歌を奏でる…。