固めて校長

作:haru


 ここは、とある町(東京ではない)にある私立三界高等学校。
広い敷地内に校舎は3つあり、「男子部」「女子部」「謎」と分けられていて
その校舎を囲うように中庭がある。

その中で、「女子部」の校舎の中の廊下で、赤井先生と青井先生が打ち合わせをしていた。

「もうすぐ文化祭だが、校長は何に早変わりするか解ったか?」

「いえ、まだです」

「そうか・・ 校長は直前まで秘密にしているからな・・」

校長が早変わりするというのは、実は良くあることで、何か事ある毎に物や人物に仮装して現れるのだ。
ちなみに「男爵校長」という名前の由来も、サルを捕まえられなかった責任をとって
一度、辞任をしたが、目の前で男爵特有のカールしてあるカツラをかぶって、
新任の挨拶をしたことからこの名前がきており、普段もこの格好で仕事をしているのだ。
そんな校長の事だから、当然文化祭の開会の言葉とかで、仮装して現れるに違いない。
そして、その登場シーンを更に引き立たせるのが、赤井先生と青井先生なのだ。
彼らは、校長の後ろで、仮装した物や人物に見合ったキャッチフレーズを必ず言うのが定番となっている。
その為か、ほとんどの場合は、おそらくアドリブで言っているので、二人も知る必要があったのだ。
しかし結局、校長が当日着る物も分からないまま、文化祭の日を迎えたのだ・・
 
 その日の朝、校長室で一人身支度をしている校長がいた。
棚の中から大きな箱を出し、中身の物をバァッと机の上に並べ。腕を組みながらジッと眺めていた。
しばらくして、「ウムッ」と大きくうなずき、いよいよ仮装にとりかかった。
まずは衣服から。着たのはギリシャ神話に出てくるような服で、
最後はカツラと、意外とシンプルな格好だったが、そのカツラの髪の部分は、
ぬいぐるみ生地で出来ている蛇になっている。
そう、今回のテーマは「メデューサ」なのだ。
一方その頃、赤井先生と青井先生は、校長室のドアの横でひっそりと待機していた。
これから出てくる校長の格好を見る為だ。
そして、校長が出てくると赤井先生と青井先生は一緒に挨拶をし、共に開会の挨拶をする体育館へと向かった。
三人で体育館へ向かって行く途中、青井先生の携帯電話が鳴り、取ると

「もしもし、 はい、 舞台の手伝いですか? はい、今すぐ向かいます」

「校長、すみません、チョット手伝いが入ってしまったんで先に向かいます。」

青井先生が話すと、校長はうなずき赤井先生と共に先に体育館へ行った。
校長は一人でゆっくりと体育館へと行ったその時、
突然、校長の頭を雷に撃たれたような衝撃が走った!

 はじめは背筋や手足がピーンと伸びたが、やがて頭はうなだれ腕もプラーンとぶら下がり、身体からは湯気が出ていて
まるで夢遊病者のように、フラフラしながらも、一歩ずつゆっくりと体育館へ進めていた。
生徒達は既に体育館に集まっていた為、廊下はガランとしていたが、その奥からカツッ カツッと走る音が聞こえてきた。
遅刻してきた芽野アリカが、急いで廊下を駆け抜けてきたのだ。
目の前に校長が見えたので、アリカは校長を抜こうとした時に

「校長先生、おはようございます!」

と挨拶をした瞬間、急に校長がグッと顔を上げ、目を「キランッ」と光らせながら鬼の形相でアリカを睨んだ。
その瞬間、アリカは校長の顔を見て「えっ?」と少し驚きの表情で見たが、そこからは
考える間もなく、そのままアリカは石像になり、
そのまま、数十メートル程勢いでいってしまった。
まるで、邪魔者を排除するかのようにアリカを固めた校長は、何事も無かったかのように再び体育館へ。

しばらくして、やっと校長が舞台裏へ着いた。
だが、その姿を見て、周りからは、明らかに異常に見えた。そこへ青井先生が

「校長、ご気分が悪いんですか? もしアレでしたらそこのイスで」

と校長に話しかけたが、校長はスッと手で青井を制止し、
「大丈夫だ」とアピールをした。
いよいよ、開会の時間が迫ってきていた。体育館には男子部、女子部、謎、の生徒がほぼ全員集まっていた。
舞台には青井先生が、司会で

「それでは、男爵校長より、開会の言葉を致します。」

青井先生が舞台に戻り、いよいよ校長も舞台前へ移動した。
さっきまでのフラフラ感はさほど無く、目の前の閉まっている緞帳の前をグッと見据えていて
どこかヤル気マンマンなオーラが漂っていた。
一方で、赤井先生と青井先生は密かにこれから言うキャッチフレーズを話し合っていた。
そしていよいよ

「それでは、男爵校長の入場です!!」

場内から音楽がかかり、スモークが噴射し、そしてスモークが消えた舞台の目の前に遂に校長が現れた!
その後ろには、赤井先生と青井先生が、それぞれのポーズをとりながら

「ルーキー登場か!? 男爵校長が!!」

「メデューサ校長に早変わり!!」

と現れたその直後、校長に憑いてた何かがフッと取れ、いつもの校長にもどったのだが、
目の前の光景を見て、そのまま呆然としてしまった。
そう、そこには数百人の石になった生徒達がそこにあった。
その多くはチョット驚いた顔の生徒や、中には指を指しながら隣の生徒に話す女子等の石像があった
もちろん後ろにいた赤井先生と青井先生もしばらく驚いた顔のまんまだった。
だが数分して、校長が一言、

「一応、これより文化祭を始めたいと思います」

こうして、日本で一番静かな文化祭は、スタートを切った。


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