作:haru
あの時の事は、一瞬で終わった事ではなく
新たなスタートの始まりでもあった・・・
桜が舞う四月、とある体育大学で入学式が行われていた。
高校時代に活躍したエリート学生や、一般入試で入った無名の学生等、
おそらくここから世界へ羽ばたく選手が出てくるかも知れない
金の卵達が大ホールに集まっていた。
そして、その学生達の中に、西本かなえがいた。
かなえは鴨橋高校出身で、高校3年生の時に初めて全国高校女子駅伝に出場、
エース区間の1区を走り、11位でタスキを渡したものの、
2区以降は徐々に順位を落とし、最後は47チ−ム中39位でゴールをした。
レース後は、志望の体育大学に向けて受験勉強をし、見事現役で大学に合格をして、
陸上生活を続ける事にした。
入学式から数日経った4月7日、大学の近くにあるアパートに
かなえが疲れながら帰って来た。大学には女子寮があるが
かなえはアパートに住む方を選んだ、
その理由は部屋の片隅にある一体の女性の石像が関係しているのだ。
実はこの石像は、かなえの友人で同じ高校に通ってた、好未という友人なのだ。
好未も全国高校女子駅伝を目指していたが、かなえと練習中に
コカトリスに遭遇し、走ってる姿のまま石にされてしまったのだ。
その後、かなえが所持していたが、大学の寮には大型の荷物が置けない為
やむなくアパートを借りて一緒に住む事にした。
一方のかなえは、連日レベルの高い大学の練習で、毎日疲れながら
帰ってきていたが、この体育大学は「個々の自由」がウリで、
化粧や髪型は自由という変わった規則があり、女子選手に大ウケなんだとか。
そのせいか、かなえもショートヘアからシャドウレディの髪型に
するなど、私生活も楽しんでいる為、それほど顔に疲れは出てなかった。
明日は日曜日で練習もない為、かなえは好未に「おやすみ」と言って早々と布団に入った。
・・・かなえは全てが真っ白の世界にいた、おそらく夢の中だろう・・
「ここは どこ・・・?」
右を見ても左を見ても白い世界で不安になっていると後ろから声がしてきた。
「ホホホ 怖がる事はありませんよ」
かなえが後ろを振り向くと、髪が白蛇の美しい女性が雲にのってきたのだ。
「あ・ あなたは誰ですか?」
「ホホホ 私はメデューサの善の方を仕切る、ゴッドメデューサという者ですわ」
あまりの神々しさに、かなえは驚きと惑ったが、しだいにかなえは
落ち着きを取り戻し、ゴッドメデューサの話しに耳を傾けた。
「かなえよ、そなたはこの半年の間、石にされた仲間の分まで
頑張り、そして自分自身に磨きをかける意志の強さを高く評価する。
よって特別におぬしの仲間を1日だけ命を授けよう、幸いにも明日は、めでたい花祭りだ。
今日の明け方から日付が変わるまでゆっくりと二人で楽しみなさい。」
そうゴッドメデューサが語った後、彼女はかなえの前をスーッと消えていった。
その瞬間、かなえは目を覚ました。ねぼけまなこに時計を見ると、
6時過ぎを指していた。
(まぁ〜だ6時ぃ〜っ!?)
時計を置き、横へ寝返りを打つと何か塊みたいなものが当たったように感じた。
異変に思い、目を覚まして横を見ると、なんと好未が布団の中で
目をつぶって寝ていたのだ。
(あの夢の事は本当だったの!?)
彼女は心の中で思わずそう思ってしまった、フッと部屋の反対側を
見ると確かに好未の像はなかった。
「ねぇっ! ちょっと!? 好未! 好未!」
電気をつけ、かなえは叫びながら好未を揺らして起こした。そして
「ん〜っっ だ〜れ〜? 起こすのは〜?」
好未が布団から起き上がると、かなえは好未の姿に驚いた。
夢の中で命を授けようと言ってたが、実際は元の人間に戻ってたのではなく、
動く石像だったのだ。
見た目は灰色だが、ちゃんとまばたきはするし、体も滑らかに動いている。
(えっ!? これってどういうこと?)
かなえに衝撃が走った、自分の頭の中では100%元に戻ると信じてただけに
しばらく真っ白になってたが、好未の一言ですぐに戻った。
「あれっ?かなえじゃない!ていうかここ学校の裏山じゃないじゃん、ここどこ?」
どうやら好未の記憶は石にされた裏山から先で止まっているようだ、
「あの、事情は後で話すから、一つ聞くけど、好未だよね・・
光川好未だよね!」
「かなえ、何変な事を聞いてるのよ。私は本物の光川好未よ」
「よかった・・・」
そう言うとかなえは、好未を思いっきり抱きしめ、
瞳からは止まらない位、涙がこぼれ落ちた。
「こっ こらっ 抱き過ぎだって」
好未はチョット照れながらも、かなえの気持ちをなだめようと
するが今の状態ではなす術がなかった。
「ねぇ、しばらくこのままでいさせて」
かなえの一言に好未はなだめるのをやめた。
「しょーがないわね・・ かなえの甘えぶりはまだ変わってないわね・・」
そして二人は再び布団に入って、また眠ってしまった。
けど、かなえの寝顔は今までにない笑顔で眠っていた。
日はスッカリ上り、半年ぶりに二人だけの時間を過ごした、
初出場した高校駅伝の事やキャンパスライフの事など、
与えられた時間を有効に使って、好未とのひとときを楽しんだ。
そして夜になり、時計の針は8時半を指していた。
部屋では、かなえと好未が並んで壁に座っている。
「なんか、あっという間に、終わっちゃったね」
かなえは好未に大学のユニフォームを差し出した
「これ、よかったら着ない? 実は今度のインカレに出場できるかもしれないの、
それで、好未の分までまた走ろうと思って・・」
好未はユニフォームを手に取り、少しキョトンとした。
「かなえ、そこまで私の事を考えてたの?」
「うん、だって好未がいたからここまで強くなれたんだし、
だから今度はかなえが、好未の分まで頑張るから」
「かなえ・・」
好未がしばらくして
「かなえ、私これからもかなえを応援するわ。また元に戻っちゃうけど、陰で懸命に応援してあげるから!」
「好未・・ ぐすっ ありがとう・・」
夜9時を過ぎて、二人は布団の中に入って寝る準備をした。
朝の時と同じように、並んで布団にもぐると好未はかなえに・・
「かなえ、また来年に会おうね」
と言った後、好未はかなえの唇にそっと口づけをした。
翌朝、いつもと同じ平日がやってきた、ただ違うのは昨日そばにいた
好未は布団の中にはいなくて、いつもの走ってる姿で、いつもの位置にいた。
そして昨日あげた大学のランシャツとランパンも着ていた
目覚まし代わりのタイマ−付CDラジカセのスイッチが入ると、
かなえは目を覚ました。
いつものように髪型を直して、後髪をゴムで留めてカバンを担ぐと
いつものように好未に
「好未、大学に行ってくるよ」
と一言いって玄関を出た。そして
部屋には消し忘れたラジオが渡辺美里の「さくらの花の咲く頃に」
が流れていた。