作:haru
桜の花びらは散り尽くし、街に新緑が溢れ、連日30℃近くまで
気温が上がる7月の初め、国際総合競技場で、「全国学生陸上選手権」が行われていた。
全ての競技を終え、結果発表、そして閉会式を終えて、各々の大学の選手達は
入口近くの広場で反省会を行っていた。
その中の一角で、体育大学の反省会も行われていた。
男子と女子の選手達は全員手を後ろに置き、監督が話す今後の目標や来季への意気込みを真剣に聞いていた。
そして、その中に西本かなえもいた。
西本かなえは、大学進学後、練習でも上級生の選手に着くなど、
積極的に高い練習をこなし、メキメキと力をつけていき、
地区インカレでは、1年生ながら5000mと10000mに出場するなど、
早くも、ルーキー選手の風格を漂わせていた。
反省会を終え、選手達はそれぞれ寮やアパ−ト等へ帰っていきます。
かなえも、電車を乗り継ぎ、大学近くのアパートへ、
玄関のドアを開け、電気をつけ部屋に入ると、スポーツバッグを畳にドサッと置き、うつ伏せに倒れ込んだ。
「うぅ〜〜っ 好未ぃ〜っ 全然力が出せなかった〜〜っ・・」
かなえは残りわずかの力を振り絞り、畳を這うように石像の好未のそばに来て、蚊が鳴くような小さな声でつぶやいた。
無理もなかった、全国インカレでは5000mと10000mに出場したが、
オーバーワークによる疲労の蓄積が原因で、24位、27位と不本意な成績で終わってしまい、
やり場のない思いが、かなえを包んでいた。
しばらくして布団を敷き、寝る準備をしていた。
髪止めのヘアゴムを外し、シャワーを浴びて、パジャマに着替えて
布団に入ろうとすると、ふと、好未が目に入り、
「今日、疲れたから好未と寝よう」
と、好未を持ち上げ、布団の中へ。かなえもすぐに布団へ入り、
好未を向かい合わせに抱いて、眠りについた。
・・・一面真っ白の空間にかなえは一人佇んでいた。けど特に恐怖とかは感じなかった。
かなえは一度、この空間に来た覚えがあるからだ。
「また、ゴッドメデューサが来るの・・・?」
右も左も上も下も分からない空間に、かなえはキョロキョロと見ていると、
「か〜なえ〜〜っ・・・ 」
と、遠くでかなえを呼ぶ小さな声がした。
その声にかなえは、聞こえた方向にフッと振り向くと、遠くに小さく黒い点が見えていた。
やがて、その黒い点が徐々に大きくなっていき、駆けてく足音も聞こえてきた。
おそらく何かが来ていると思っていると、どんどんと近付いていきかなえの前にやってきた。
やってきたのは、そう! 動く石像の好未だった
「かなえ、久しぶり!」
好未は右手を差し出し、握手を求めた。それにかなえは応え、握手を交わすと、好未は
「あのね、寝る時私の石像と一緒に寝たでしょ? 実はこの間の花祭りから
一緒に寝ると、夢の中だけど私と一緒にいる事ができるの」
と説明してくれた。
それを聞いたかなえは、さっきまでの疲れた顔から一気に笑顔が戻ってきた。また好未に会えたからだ。
「せっかく来てくれたかから、夢の中でしかできないことをやってみない?」
と好未の質問に、かなえはチョット考えてしまった。すると
「そうだ! かなえも私みたいに石になってみない?」
その問いに、かなえは少し驚いてしまったが、せっかく夢の中の世界に来ているので
興味本位で首を前に傾けた。
「わかったわ、じゃ、目をつぶって・・」
かなえは目をつぶり、直立不動の姿勢で立っていた。
すると好未は、かなえを抱きしめ口元に近付き、そっと口づけを始めた。
(ん・・ 何か・・ 力が・・ 抜けてく・・・ もう・・ 固まって・・ き・ て・・ )
その頃、かなえはまず口元から段々と石に変わり始めて、少しづつ石化していた。
さらに抱いている背中からも石化は始まり、やがてお尻や胸も固まり、
かなえの意識がなくなってきた頃に、好未は唇を外した。そしてかなえは直立した状態で石像になった。
「・・ぇ ・・なえ 目をあけてごらん・・」
遠くで何かが聞こえていた・・ 私、生きてるの?・・ 石になってるの?・・
少しづつだけど、かなえに意識が戻り始めてるような気がしていた。
(目をあけて?・・ )
その声にかなえは、ゆっくりと目を開けてみた。すると目の前に好未がいて
「かなえ、手元か体を見てみ。ちゃんと石になってるわよ」
多少の疑問を抱えながら、かなえは腕や体を見てみた。
やがて、石と化した自分の姿に、驚きを見せ、好未に
「なんか、好未と同じ体になるのって不思議・・」
と話した。
おそらく、かなえにとって「石化」というのは、どういうのか分からず、好未の苦しみ等も分からなかったが
いざ、石になってみると、不思議とその思いとは違い、むしろ今までになかった新鮮さが、
かなえには感じられていた。そしてその思いは、好未も同じだと感じていた。
初めて見るその姿に、しばらく感動していると、好未が今度は
「その状態で久しぶりに一緒に走らない? 石だとね、走ってても疲れないよ」
かなえは、何も言わずそっとうなずいた。この際、夢の中だからもう、
好未と一緒に思いっきり過ごそうと、決めたのだ。
そして、高校以来の二人での、ランニングは始まった。
好未がコカトリスによって石にされた、あの日以来のランニングだ。
その走りは当時と全く変わらず、白い空間を快調なペースで走っていた。
しばらくして、かなえが好未を抜こうと、横に並んだその時、
かなえの左足が、好未の右足を掛けてしまい、二人とも転倒してしまった。
二人は、前に勢いよく転んでしまい、あおむけになっていた。
でも、二人は何かを思い出したかのように笑顔で笑っていた。
それは、二人が高校に入った頃、当時早かった好未に、かなえは付こうとすると、
よく足を引っ掛けて転倒し、好未に怒られていたのを思い出したのかもしれない。
二人の笑いが、おさまってきた頃、今度はかなえが、あおむけになってる好未の上に乗り、抱きしめると
「お願い、好未、しばらくこのままでいさせて・・ 」
上からの重みと、両手を使って抱いている為、好未は動けず、何もできないが、
(まっ これも夢だから・・)
と、二人だけの甘〜い時間をゆっくりと過ごす事にしました。
午前3時、かなえは幸せそうな顔をして、楽しそうな夢を見ながら眠りについていた。
もちろん好未の石像を抱きながら・・