作:疾風
(チュンチュン)
とある街中の公園。
少し大きめの池がある他は,これといった特徴の無い公園である。
その池の前のベンチに,男が一人腰掛けている。
「フッフッハッハッ」
男の前方からスポーツウェアを着た女が走ってくる。
ジョギング中なのだろう,引き締まった体つきである。
(パチン!)
男が指を鳴らした。
その瞬間,女の足音が消えた。
女は片足を蹴り上げ,もう一方の足で大地を力一杯踏みしめたまま,まるで時間が止まったかのようにその動きを止めていた。
突然動きを止めた女。しかし男は全く驚くことなくベンチに腰掛けていた。
「今日は何があるのかな?」
母親と娘が歩いている。
「んーとね,んーとね」
娘は近隣の幼稚園の制服を着ている。
(パチン!)
男が指を鳴らすと同時に,二人の話し声が止んだ。
二人は互いの顔を見ながら,その動きを止めていた。
(ビュッ!)
一瞬,突風が吹きぬけ二人のスカートを捲り上げる。
母親はレースの,娘はクマさんプリントのショーツが露になるが,二人とも僅かも動くことなく,互いの顔を見つめていた。
太陽が高くなり,公園内の人が徐々に増えていく。
そして,時折男が指を鳴らす音が響く。
「何描く?」
「私あの木!」
(パチン!)
校外学習だったのだろう,座ってスケッチブックを持つ少女達が,
「あー,疲れた」
(パチン!)
外回りの仕事中だったのだろう,ピンクのスーツに身を包んだOLが,
「あっ,動いた!」
(パチン!)
ベンチに座っていた,マタニティドレスを着た妊婦が,
男が指を鳴らす度,その動きを止めていく。
女達が固まって動かない異様な状況の中,しかし周囲の人間達は全く意に介していない。
「あー,まってよー」
「やーだよー」
子供達が走ってくる。
(ドカッ!)
一人がスポーツウェアを着た女にぶつかった。
(バタン!)
女は倒れるが,子供はぶつかったこと自体に気づかず走り去っていった。
女は倒れて尚,ジョギングの姿勢を崩すこと無く佇んでいる。
(イチニ!イチニ!)
日が傾きかけた頃,近隣の学校のジャージを着た少女達がジョギングをしながら公園に入ってきた。
(パチン!)
男が指を鳴らす。
(ドカ!)
(ドカッ!)
突然少女達の中から激しい衝突音が聞こえる。
(イチニ!イチニ!)
少女達が走り去った後,ジョギングのフォームの固まった少女が数人,転がっていた。
全員,とても可愛らしい。
太陽が地平線に沈んだ後も,時折男が指を鳴らす音が聞こえる。
「今日のご飯何〜?」
「それは後でのお楽しみ」
(パチン!)
夕食の買い物帰りだろう,買い物袋を提げた母親とその娘が,
「早く帰ろー」
(パチン!)
塾の帰りだろう,かばんを持った少女が,
「あー,おなか減った」
(パチン!)
部活の帰りだろう,遠くの高校の制服を着た少女がその動きを止めた。
外灯が照らす公園の中,あちこちで女達がその動きを止め,固まっている。
(ガツン!)
男は池に視線を移すと,片足で地面を叩いた。
(ブクブク)
突然池の中央が泡立ち,その中から何かがせりあがってきた。
(ゴゴゴゴ)
円柱,それも二段式のものが現れた。
(ガコン)
円柱が動きを止め,その全景を現した。
(バッ!)
男が左手を上げる。
公園のあちこちで固まっている女達が宙に浮き,円柱の方へ移動していく。
女達は円柱の上空で二重の円を描くように並び,その動きを止めた。
外円には成熟した女達が,
内円には幼い少女達が並ぶ。
(スウゥー!)
男が大きく息を吸い込み始めた。
(ビュウ!)
男が吸い込んだ息を一気に解き放った。
(ビリビリ!)
女達の衣服が破れ始める。
(バババッ!)
スポーツウェアが,制服が,マタニティドレスが千切れ飛んでいく。
女達は一糸纏わぬ姿になり,その裸体を夜空に晒した。
幼い体,成熟した体,スレンダーな体,均整の取れた体,そして妊娠中の体等,様々な裸体が宙に浮いている。
(グッ!)
男が左手を握った。
姿勢がバラバラな女達が,その姿勢を変えていく。
(ググッ!)
両膝が曲がり,両脚の付け根が開いていく。
女達は皆,M字開脚と呼ばれるポーズを取った。
(ググッ!)
両脚の動きが止まると,次は両腕が動き始める。
外円の女達は両隣にいる女達とそれぞれ腕を組み,
内円の少女達は両隣の少女達とそれぞれ手を握っていく。
(バッ!)
男が左手を下げる。
その途端,宙に浮く女達が降下を始めた。
女達の裸体は先程の円柱へ降りていく。
外円の女達は外下段の円柱へ,
内円の少女達は内上段の円柱へ,それぞれ降り立ち鎮座した。
(グッ!)
男が左手を後ろに引く。
それと共に,円柱に鎮座していた女達がその色を変えた。
みずみずしく弾力に溢れた肌が,漆黒の髪が,そしてほのかに色づいた唇や胸の先端が一瞬で灰色に染まる。
寒空の下,冷たい円柱に鎮座していた女達は,一瞬で物言わぬ裸婦像となった。
(キュッ!)
男が,まるで透明な蛇口を捻るかのように右手を回した。
(シャー)
突然全ての裸婦像から水音が発せられた。
上段の裸婦像は股間から,
下段の裸婦像は股間と二つの胸の先端から,
それぞれ綺麗な放物線を描き,水が流れ出した。
公園の時計が十時を指した。
(シャッ!シャッ!)
突然水流にウェーブがかかる。
一回,二回……
(シャー)
それは二十二回続くと,何事も無かったかのように元の放物線に戻った。
(ガタン!)
男は突然立ち上がり,公園を去っていった。
(ワイワイ)
(ガヤガヤ)
とある街中の公園に,突然現れた裸婦像の噴水。
いつしかそれは名所となり,多くの人々の憩いの場となっていた。
(シャッ!シャッ!)
今日も裸婦像達は水を流し,時を刻んでいる。
そして,それはこれからも変わることはないだろう。