魔法のペン1

作:疾風


 満員電車,それはありふれた日常の光景である。一人の男の前に背中を見せた女がいるのもそんな日常の一コマであった。そう,その時までは。
 男は突然小さなペンを持ち,女に何か小さな文字を書き始めた。女は自分の服に何かが書かれているのに気づいたが,反応する前にそれは終わった。

 すぐに周囲はざわめき始めた。しかしそれは男が女に文字を書いたことでは無かった。
 「おい,どうしてこんなところに人形があるんだ」「邪魔だ,何とかしろ!」
 周囲は疑問に思うことも無く今まで女だったものを人形と認識していた。そしてそれは女も同じだった。女は微動だにせず虚空を見つめている。周囲から何を言われても全く反応しない。それが冗談などでは無いことは,女に触れば解るだろう。女は呼吸一つせず,心臓も停止していた。いや,今女に心臓というものがあるのかもわからないのだ。

 電車が駅に到着した。先ほどの男が女を持って下車していく。しかし他の乗客達はそれを咎めようとはしない。それどころか,彼らの顔を見れば考えていることははすぐにわかる。
 「やっと邪魔なものが無くなった」「あの男の人,親切だなあ」
 先程男が女に書いた文字が見える。そこには『人形』と書いてあった。

 女を担ぐと男は駅を出る。近くに止めてある車に女を入れると,運転席に乗り車を発車させる。駅の近くには多くの人がいたが,だれもそれを不信に思うものはいなかった。

 しばらく走ると車は一軒の家の前に止まり,その家の車庫へ車を入れた。そう,ここは男の家であった。
 男は女を車から出し,家の中へ運ぶ。そして玄関から一番近い部屋に入り,先程のペンで電車の中で書いた文字に別の文字を付け足す。それが終わると男は女の下着を取り,自分の分身を荒々しく挿入する。
 始まってすぐ,女から喘ぎ声が出てきた。それも男の分身が硬さが増していく艶のある声で。同時に女の秘部から愛液が滴りだし,きつく締まりだした。
 女の服には『高性能愛人形』と書かれていた。
 
 「うっ!」
 しばらくして,男は分身から白濁液を女の中へ放出した。
 「中々良かったな。この締まり具合といい胸は小さいがいい体してる。腕も長いことだしこの女は椅子にするか」
 男はそう言うと女の首筋にペンで文字を書き始めた。

 文字を書き終えると女の体がひとりでに動いてゆく。まず両足のひざが90曲がり,ひざから上が床と水平になる。それが終わると腰がひざとは逆方向に曲がり床と垂直に戻る。肩から上が少し後ろにそれ,両腕が床へ向かう。僅かに床には届かないが,男が小さな台を持ってきて両手と床の間にかませる。
 女の動きが終わると別の変化が女におこる。先程まではやわらかかった女の体が一部の関節を残し動かなくなる。女は椅子と呼ばれる格好となった。
 そう,女の首筋に先程書かれた文字。それは『椅子』であった。
 「最後の仕上げだ」
 男はそう言うとカッターを取り出し,女の服にかけた。
 男は女の服を全て切り,全裸にした。

 男は椅子となった女を部屋の中の机の前に置くと,暫く考えるようなしぐさをとった。 
 「この部屋の椅子は出来たけど,机と椅子があってないな。よし,次は机を作るか」
 そう言うと男は部屋を出て行く。
 「汗もかいた事だし風呂にでも入るか」その言葉を最後に部屋の扉は閉められた。

 部屋には誰も居なくなった。そう,かつて人間の女であり,新たに部屋の家具となった椅子を残して。


 数日後,男が部屋に入り,女の前にあった机をどかし,新たな『机』を作り始めた。
 『机』が出来上がると,男は満足げに言った。
 「この椅子の家族が多くて助かった,おかげでいい机が出来た。やっぱりセットになる家具は血の繋がった家族を使うに限るな」
 『机』は三人の女で出来ていた。それは椅子が人間だった頃の家族。姉と妹,そして母とよばれたものだった。
 机になった家族,しかし女だった椅子は何事も無かったかのようにその場に佇んでいた。そう,『椅子』が勝手に動くことなどありえないのだから。


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