魔法のペン6

作:疾風


 男の家,その前に一台の車が止まる。
 車が車庫に入り,中から男と『人形』が出てくる。
 今日もまた,男は満員電車で気に入った女を人形にして持ち帰ったのだ。

 「よし,終わりだ」
 そう言った男の目の前には,正座をし,両腕を正面に突き出した全裸の『人形』があった。
 「『座椅子式按摩機』の完成だな」
 男は満足げに言った。
 男がそう言った時,突然ペンが光りだした。
 「ん,何だこれは」


 翌日の早朝,駅のプラットホームの端に男が立っていた。
 電車がプラットホームに入ってくる。
 早朝,そして先頭車両のせいか,目の前に止まった車両には誰も乗っていなかった。
 「無人か,ちょうどいいな」
 男はそう言うと,ペンを取り出し車両に素早く『回送車両』と書き,乗り込んだ。
 車内に入ると,男は車内のあちこちに文字を書き始めた。

 電車が終点に止まると男が車両から出てきた。
 男は『回送車両』の文字を消すと,今度は『女性専用車両』と書き,隣の車両に乗り込んだ。
 『女性専用車両』の中に書かれた文字。それは今まで男が書いtrきた文字と比べ,明らかに違うところがあった。
 文字の周りには,文字を囲うように円が描かれていた。

 停車駅ごとに,『女性専用車両』に女が入っていく。
 男はそれを,満足げに見ていた。

 電車が男が乗り込んだ駅に戻ってきた。
 車両から男が降り,最後尾となった車両の前に来る。
 男は『女性専用車両』の文字を消すと,今度は『風船』と書いた。
 書き終わると同時に『風船』は浮かびだす。
 男は『風船』に素早く糸をかけると,『風船』を持ちながら駅を出ていった。
 『風船』の内部に書かれた文字は,いつのまにか消えていた。

 男は家に帰ると,早速『風船』を庭へ持ってきた。
 庭,そして家の境界部分には,浅い穴が幾つも掘られている。
 男は『風船』を降ろすと,中のガスを抜き始めた。
 ガスが抜けると,今度は『風船』の女達を庭へ出し始めた。
 椅子に座った女。つり革につかまった女。壁に寄りかかった女。多くの女が庭に置かれる。
 女達は誰一人として微動だにせず,虚空を見つめている。
 通勤時間だったからだろう。皆若く,女子学生やОLばかりである。
 最後の一人を庭へ出すと,男は一人の女を抱える。
 庭の穴の一つの前に来ると,穴に女の足を入れ,その上に土をかぶせていく。
 それが終わると,今度は別の女を抱え,同じようにしていく。

 数時間後,男は庭と家の境界部分に掘られていた穴全てに女達を埋めた。
 つり革を掴んでいるショートカットのОL,壁に寄りかかった胸の大きな女子高生,座席に座っているツインテールの小学生,皆電車の中で取っていた格好のまま,足を土に埋められている。
 「さて,邪魔なものを取るか」
 そう言うと男は,女達の着ていたものを剥ぎ取っていく。
 全裸になった女達,その体には皆『植物』と書いてあった。
 「しっかり光合成しろよ」

 「殺風景だった庭も,これで彩りがでるな」
 男は植えられた『植物達』を見て,そう言った。
 「新しいペンの能力。十分以上文字に触れていると,直接体や服に書かれなくても文字が体に移るか。これは使えるな」
 そう言うと,男は視線を下へ移した。
 そこには穴が足りずに残った『植物』が数本が横たわっていた。
 「これは鉢植えにするか」
 男は鉢を探しに家に入っていった。
 庭には,数時間前まで人だった『植物達』だけが残された。

 
 春,男は庭を見ながら
 「やはり春は花見に限る。秋には果実の収穫が出来だろうし,楽しみが増えたな」
 と言った。
 庭の『植物達』は,かつて人であったことなど忘れたかのように色とりどりの花を咲かせていた。


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