固めデカ 〜メイド服は勘弁してください〜

作:HIRO


突然だが人生でもし最大の危機が訪れたときが来たときはどんな時か?
私なら断言できる、今だと言うことを
私は今、所長に直々に呼ばれこの所長室に来ている
そして今目の前にはいかにも高級そうな椅子に座った幼女がそこにいた
机に肘を置き、指を組んで口元に添えているその姿は偉そうに見えるが……残念ながら背が小さいためそんなに偉くは見えない
服装は黒のマントを羽織っており、その下の服装は白のワンピースとある意味痴愚はなく見合わせであった
彼女はヴィオナ・フィーゲルト――吸血鬼(ヴァンパイア)でありそして問題児だらけのここを統括する所長である
「突然だけが猫神 石華、貴様に頼みがある」
「は、はい!」
私はガラにもなく緊張して声が裏返った状態で言ってしまった
(所長が私に直々に頼むんだ……きっとものすごく面倒な事なんだろうな……)
「……私には今年15歳になる息子が居るのは知ってるよな」
「ああ、まあ……」
こんなと幼女が息子持ち? と不思議に思うが彼女の実年齢は1000歳以上、これで外見年齢15歳なのだから驚きである
「実はな、明日私の友人と一緒に茶会があるのだが……」
「え、えっとそれで……?」
「その日ちょうど私の息子の学校が休み何でね……その預かってもらえるか?」
「……あ、あの……なんでわたしに?」
当然の事で頭がパニクってはいたが普段からこう言ったことに慣れてしまった私は思わずつっこみを入れてしまった
「何、四児の父親で私の友人がな、『子育てというのは他人任せにした方が良い、環境によっては主役クラスになれるぞ』と言ってたんでな」
(……絶対子育てしてないって、絶対!)
「なら茶会欠席すれば……」
「そのメンツが『カリスマと正に世界を飛べる能力』、『腹心は死神、最近息子がグレ始めた、CV若本な伯爵』、『運命を操る程度の能力』だとしたら?」
うん、断るのは不可能だな
「そう言うわけだ、ちなみにコレに拒否権はない所長命令というヤツだ」
(ちょ!職権乱用!)
「解ったら返事は?」
「は、はい……」
……正直な事を言うと吸血鬼、それも所長の子を預かる……その事がどれだけリスキーな事か十分理解している
しかし断ればどんな仕打ちが待ってるか……ここに居る身としては十分理解している
場合によっては死ぬ方がマシと思わされる位酷いことになるかもしれない
そんなんなら預かっていた方がまだマシと言えるであろう
かくして私は彼女の息子を預ける事(育児放棄と呼ばない)になったのである

〜翌日〜
「……で、件の息子はあなたでOK?」
「あ、はい……私の名前はクリス・フィーゲルト、母親はヴィオナ・フィーゲルトです」
「なら良いんだけど……」
今私の目の前には一人の少年がいた
黒髪の短髪に親譲りの紅色の瞳をした、ごく普通な(この中では)少年
ただ一つ
「そのなんだ……その服装はなんだ?」
メイド服を来てる意外は
「……母が、友人からもらった物です、曰く『吸血鬼の側に置くのはやっぱり執事かメイドね〜』と」
「なんで着てるんだよ……」
「母が似合うって言ったんで……」
まあ実際に似合ってるんで文句が言えないのだが……
アレですか、こんな可愛い子女の子であるはずがないと言う理論ですか?
「いいじゃない〜、固める分には関係ないわ」
とそこに変態第一号の固狐が顔を見せた
(今絶対に合いたくないヤツがよりもよってこんなところで……!)
「……お前は出んで良い、出んで」
こいつなら誰であろうと固める例え所長の娘……いや息子でさえ固めの対象にしてしまう危険性がある
「なによ〜、あなたは私の相棒よここに居ても良いじゃない……ってあっ!」
当然、んな危険にきわまりない女のそばにおいておくのは危険なので
「ちょ……石華さん」
私は一目散に逃げたそれも、クリスを姫様だっこで抱えて
ああ、わかるわかる、なんでこんな運び方をしてるって言うんだろ
あれだ、運びやすいからとでも言っておこう、それ以上の意味は存在しない……多分
「逃がしませぬわ!」
と固狐のヤツ、懐からお札を出して投げつけてきやがった
多分アレはマヒ効果付きの札か、石化用のお札だろう
何にしても当たるわけにはいかない
「当たるかよ!」
私は猫人特有のフットワークを活かして華麗にそのお札を避けて部屋の入り口付近まで近寄る
「っ! 待ってよ〜」
んな事をほざいているがここで待つ私ではなくそのまま私は部屋から出て行った

〜廊下〜
「助かりました……」
「別に良いよ、コレも家の所長の頼みだから」
私達は現在、私の家へ向かうために廊下を走っている
ここが安全でない以上最早私の家に引き篭もって居た方がよほど安全である
出来ればこの方法はとりたくなかった
仮にも所長の息子、そんな人(?)を連れて引き篭もるなんてどんな噂を立てられるか解ったもんじゃない
しかしこのままここにいてもしクリスが被害にあった事を考えると……

『あなた私の大事な息子を危ない目に……とりあえず一生石像として暮らす事ね』

あの人ならやりかねない、と言うかあの人なら絶対にする
「……にして何も……!?」
私が不意に足を進めると床が突然光り出す
私は素早くクリスを後ろに倒し自身も素早く後ろに下がった
「この程度の罠で私を捉えるつもり? 笑わせないで」
恐らく固狐のヤツが仕掛けたんだろうな……
(気を付けないとな……あいつああ見えて見境無いところがあるし)
「大丈夫? クリス」
「はい、大丈夫です……って、上……」
「へっ?」
私は思わず素っ頓狂な声を上げ頭上を見上げる
ガシャン
そんな私にプレゼントされたのは……石化薬入りのバケツだった
「……!?」
……たんまりと溜まった石化薬を全身に浴びてしまった私の動きは直ぐに停止した
先ほどの罠を避け、安堵しきってしまった情けない姿のまま
「石華……さん?」
我ながら恥ずかしい姿だと思う……だがそんな思考も直ぐ終わるだろう
いや、多分所長のヤツが私を固めちゃうから一生このまま……
「石になってる……?」
そうそう石に……っておい
(私の体が石に? 意識はまだあるって言うのに……まさか!)
「うふ? どう意識を保ったまま固められるのって?」
……私の後ろからよく見知った声がする……振り向けないのが残念だが恐らく固狐の野郎だろう
(まずい、逃げろクリス!)
私は心の中で叫んだ
逃げればまだ希望はある、少なくともこんなヤツに固められる事はない
だがそんな私の希望を打ち砕く用に彼女は言った
「ああ、心配しなくていいわよ〜ここから逃げれないから」
と彼女が言った瞬間、色んな色にあふれていた景色が突如白黒だけのモノクロな世界へと変わった
(……っ! 結界!?)
「結界はらせて頂いたわ、これでゆっくり固められるというものよ〜」
やられた!
彼女は固めるための獲物を逃がさないためにここに結界を張ったのだ
結界を解こうとしたら固められる、かといってこのままだと逃げ道がない
正に八方塞がりである
そんな彼女はクリスを追いつめるためクスクス笑いながらクリスに迫って行った
左手に石化薬を持ち、右手に石化用のお札をもって迫るその姿はどう見ても変態そのものであり
そんな変態が迫っているのに私は身動き一つ出来ないことに憤慨を感じていた
(クソ、どうすれば)
そして……当のクリスは……
「……固狐さん……」
逃げずに固狐の野郎を見つめていた
そう、見つめていた
「あら、可愛い娘……そんなに固められたいんだ……って少年だったわよね」
「……いや、固められるのはあんたの方みたいだぜ? 変態狐?」
(クリス?)
何か様子が違う……
彼女、いや彼の纏っている雰囲気が今までの物より遙かに暗く重いものに変わっていく
具体的に言えば表バ○ラが裏バ○ラに変わっていく瞬間、田○ゆかりが魔王モードで話している時と言えば解りやすいだろう
「何を言ってるの? もうすぐあなたは……ってあれ?」
と突然固狐の動きが止まる
……いやただ止めた訳ではなさそうだ
「嘘……からだが石に……?」
ヤツの腰から下あたりが灰色の侵略を受けている
「ど、どういう事よ……説明して!」
「いいぜ? 冥土の土産だ教えてやる……狂眼の瞳って知ってるか?」
クリスは残忍な笑みを浮かべて言った
……さっきとは最早別人の領域である
「狂眼の瞳……? もしかして……」
「そう、狂眼の瞳で見つめられた生物は石になる、今のテメエみていにな」
「……!?」
そうこうしている内に固狐の胸から下あたりまで固まっていく
「はぁはぁ……た、助けて……苦しい……」
ホントに苦しいのだろう、固狐の瞳からは涙が出ており、その吐く息も洗い物となっている
「……諦めろ、俺の狂眼の瞳は獲物を逃がすことは無いぜ? おとなしく固まりな」
そんな固狐にクリスは冷酷な言葉を浴びせる
同情の余地もないその言葉に私は
(ざまあ見ろって言うんだ)
と心の中で呟いた
「そ、そんな……う!?」
八方塞がりな彼女に更に追い打ちをかけるように腕の石化が始まった
「良いこと教えてやる……その石化は一週間ほどで戻る、ただし」
と、突然クリスは石となって固くなった固狐の胸を触った
「ひゃん! ちょ、感覚が……残ってる!?」
「と、この様に感覚を残してやる、まあ一週間の間俺の怒りを買ったことを後悔するんだな」
クリスはと殺場に居る豚を見つめる冷ややかな目で言い放った
「ま、待ってこんなのただの見せ物……ひ……あっ……」
彼女の石化が喉まで来てる証拠だろう、すでにまともな言葉出ていなかった
そして
「グ……が……あっ……」
彼女は瞳から涙を流し助けを求める表情をしたまま……石像に変わってしまった
普段と違い、弱気な表情をしおり両手に石化用のブツを持ったまま石化しているその姿はある種滑稽な姿である
普段の彼女の姿を知っている私はおかしくて思わず笑いそうになった……石化してるけど
「俺に刃向かうヤツはこうなるんだ……覚えていな……って……」
グラ……
一瞬クリスがふらついき
「やべえ……力使い過ぎた……少し寝る……とする……か……」
そのまま石化した私にもたれかかるように静かに眠ってしまった
残って居るのは石化した私と、同じく石化した固狐
そしてまるで天使のように眠るクリス
(……このままどうしよう……)
と石化した私は途方に暮れてしまった
結局、フィオナのヤツが見つけてくれるまで私はずっとこのままだったという……

〜エピローグ〜
翌日私はまた所長に呼ばれた
呼ばれた理由は昨日の事件の事
「……というわけです」
「うむ解った、あとは私が何とかする」
結局、固狐はあのまま一週間ここの玄関に放置と言う罰を受ける羽目になった
自業自得である
クリスの方はあの時の出来事を忘れてしまったらしく、その上ある種被害者だからおとがめ無し
そして私は……
「……ところで明日、また茶会を開く事になってな……」
結局クリスを危険に合わせた事に目を瞑る変わり、クリスの世話役に抜擢されてしまったのである
所長命令なので逆らうことは出来ないのだが……

……一つ言いたい
お願いだからメイド服は勘弁してください

続く


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