作:固めて放置
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっん。おねがいっもう許してえええええ」
白で覆われた空間に女子大生の喘ぎ声が響く。
彼女を白い寝台の上で一方的に蹂躙するのは、妖艶な雰囲気を漂わせた黒髪を伸ばした同性である。
「指が凄くイイようぅぅ。良いから早くいれてえぇぇぇぇぇぇ」
絶叫をあげる女性は黒髪の女性の指遣いによって翻弄され、既に幾度となく達せられていた。
しかし黒髪の女は相手の自ら秘所を押しつけ、挿入を求める嘆願を拒み続け、その周辺を焦らすように愛撫し、
やがてとどめとばかりにクリトリスを執拗に、しかし優しく攻めることで、悦楽に導いていた。
女子大生は限界とばかりに自らの指を秘所に運ぼうとするが、黒髪の女が手首を掴むとそのまま背後から組み伏せ、
それを許さない。
そんな狂宴も一時間ばかり続くと、女子大生の目もうつろになり、
これ以上責めても快楽よりは不快感の大きい、精神の狂う一歩寸前までになっていた。
黒髪の女は頃合いとばかりに彼女の身体を離すと、寝台から起き上がり指をぱちりと鳴らす。
何も無い頭上の空間に等身大の「鏡」が出現する。
鏡面に白い寝台の上で身を横たえる女子大生の裸身が映り込む。
彼女の体は全身から噴き出した汗で、ローションを全身に垂らしたかのように怪しくぬめり、
快楽の余韻に投げ出した体を時おりビクッとさせていた。
「ふふふ。最後の自分の艶姿。しっかりと目に焼き付けておくことね」
黒髪の女は優しい声で寝台の上の女子大生に語りかける。すっかり蕩けきった表情を浮かべる女子大生にそれが伝わったかどうかは分からない。
再び指を鳴らすと鏡からピンク色の光が放たれる。
光線が女子大生の身体を包む。
「ふぁぁぁこんどは何ですかぁぁぁ。ええちょっと待って。うわあああああああああん」
光線に包まれた彼女の身体が灰色に染まる。
その数秒の短い間にさっきまで寝台の上で受けていた快感の全てが彼女の身体を反芻し、
今まで経験した絶頂を超えた更なる法悦の高みへ彼女を連れ去る。
「ひゃぁぁぁぁああああああああああん」
そしてまだ成熟仕立ての10代の女の身体は、自分の身を襲う地獄の快楽に背を大きく反らした姿のまま石へと変わり、動きを止めていた。
得体の知れない力で女子大生を蹂躙し、終いにはその体を石へと変容させた黒髪の女性。彼女の正体は魔族である。
「魔族」・・・
ヒトの形をしながらヒトに在らざる彼らは生きる為に人間(或いは自分よりも弱い魔族)の精気を奪い、
精気を奪われた人間は結果的に石や鉱物、宝石などにその身を変化させられる事になる。
彼らによってその身を変容された者は、魂をその変容した体の中に封じ込められ、
死ぬことも狂う事も許されず、加害者である魔族が術をかけるときに望んだ感情に囚われ、その感情を永久に味わい続ける事になる。
産まれたての魔族には石化の際の恐怖や悲しみといった根源的な感情から産まれる精気を餌とする者も少なくないが、上級の魔族にはより質の良い精気を味わう事のできる
性から産まれる快楽の感情を好む者が多かった。
今石になった女子大生も魔族の作ったひずみの空間に囚われた犠牲者の一人であり、今は石の身体で終わる事のない絶頂を味わい続けている。
もし魔族やそれに類する能力の持ち主が石の身体に触れたのなら、ただ果てのない快楽のみを与えられ翻弄され続ける彼女の心を覗く事が出来るだろう。
このひずみと呼ばれる白い空間には他にも犠牲者のなれの果てである無数の若い女性の石像が並び、それらはいずれも淫靡な姿を晒している。
奥には西洋風の屋敷がたち、ひずみの空間の足元からは灰色の草木が生え、ここに住む魔族の犠牲者のなれの果てである石像はまるで庭園を飾る彫刻の様な扱いである。
その石像群の中に一つだけ今も動き続けている人影があった。
「あぁん。いつまでもこんな事してちゃダメなのに、ヤメラレナイなんて。指がこんなに気持ちいいなんてえ」
高校の制服に身を包んだ少女。
彼女は先ほどの女子大生とはダンス部のOGと後輩にあたる関係であり、一緒にひずみに連れ去られ、先輩の女子大生が石に変えられる今に至るまで、
魔族の女によってかけられた催淫の術によって、制服姿のまま自慰を続けていた。
自分から快楽を得る術を断たれ、魔族の女に快楽を与え続けられた続けた先輩に対し、
後輩の方は先輩の痴態を見せつけられながら自分から快楽を得るのを強制させられたところが対照的である。
「そんな、先輩が石に・・・でもそんな貴女の姿も素敵ですぅぅ。はぁぁん、私もいきそうっ。アアッイクっ、いっちゃいますっ
ああああああん・・・・そんな、何でまた・・・凄くいいのにぃぃ。イキたいのにいいいいい」
しかし魔族のかけた術は、自慰を続ける女子高生に達する事を許しはしなかった。
最初は術の効果で耐えきれなさからおずおずと、切なげに始められた自涜行為も、
今では自分から快楽を求め、自らの秘所をこねくりまわし、もう片方の手で胸を鷲掴み、
地面をゴロゴロと転がり回りながら一心不乱に快楽を求め続けている。
さっきまではBカップだった胸もこの短い間の享楽に一回り大きくパンパンに膨らみ、乳首もギチギチに屹立していた。
その表情は快楽の到着点を求めて切なげに歪み、いつもは可愛らしい口元からは一筋涎が垂れ流れている。
本来ある位置から降ろされた下着は、ぐっしょりと濡れ、履いたままの靴にからまっていた。
魔族の女はそろそろ彼女も頃合いねとばかりに笑顔を見せながら少女に近づいた。
足を高く上げた仰向けの状態を取ろうとした少女が蹴った学生用カバンから荷物が転がり出る。
その中にあるビラの束、それが何となく気になった魔族の女は例えるなら大海を持っても余りある魔力をスプーン一匙分使って、自分の手に引き寄せる。
そのビラは本来女子高生が先輩たちに配ろうとしたものであった。
ビラに描かれたイベントの内容を見た女の眼が何か懐かしいものを見るかのように細められる。
「そう・・・今の私がいるのもあの時がきっかけなのね」
魔族の女は今はうつ伏せの状態でひたすらに自慰を続ける少女を尻目に追憶を始めるのであった。
明日春学園学園祭奇譚
「ふあああ」
読みかけのホビー雑誌を片手に持ち、もう片方の手で口に手を当て大きなあくびをするのは、
市立明日春学園に所属する2年生の男子、高原トシアキだ。
時は10月の後旬、夏の熱気はとうに去り、冬の訪れにはまだ早い、小春日和の穏やかな空気が
クラブで使っている教室の窓際の机に座る彼を心地よく包んだ。
彼の所属するのはシミュレーション部。その聞き慣れない名前のクラブは
れっきとした学校の正式なクラブとして登録してあり、学園で一番高齢の老教師が顧問を務めていた。
普段はシミュレーションと称して各種のボードゲームやカードで遊んだり、学園のパソコンをいじったり、
時には年甲斐もなくチャンバラごっこを始め、刃の当たった体の部位ごとに点数を決め、勝敗を競うなんて事もしていた。
先週は部員の一人の吉田の思いつきで、昔のアニメのワンシーンを教室の黒板の前で即興で演じていた。
だが今は普段場をしきっている部長も不在で、部室にいた数名の男子は特に集まって何かをすることも無く時間を潰していた。
学園は年に一度の学園祭を五日後に控えている事もあり、放課後遅くまで残り準備に励む生徒たちの熱気で溢れていた。
トシアキのいる窓から校庭を見下ろせば、学園祭当日に校門に飾るトーテムポールを造る実行委員たちの姿を見つける事が出来た。
トシアキたちのシミュレーション部はPCオタクの江原の持ちこんだフリーソフトで作った怪しげなシューティング・ゲーム
(上から降ってくる敵の顔が学園の教師たちに似ているのは気のせいだ)に、レトロなミュージックを組み合わせて展示する予定である。
放課後を費やして製作した展示物で見物客に感銘を与えるよりは、第一印象の奇抜さのみで訪れた観客を驚かせる方針である。
ようするにコスト対効果重視だ。
「失礼します」
丁重に教室の扉をノックまでして中に入って来たのは、調理部に所属する2名の女子、3年の藤井マリナと2年の木坂アイだ。
どこかおっとりとした雰囲気で、制服のシャツの上に苺模様のエプロンを付けている方がマリナで、
溌剌とした、背中まで伸びる長い黒髪をたなびかせる水色のエプロンの少女がアイである。
トシアキとアイは同じクラスの関係でもある。
十数名の女生徒で構成される調理部は、料理を趣味とするどこか家庭的な女子たちの集まりで、
部活のある日の放課後は出来あがった料理の試食をしながら歓談に花を咲かせていた。
同じ文化部のよしみとして廊下を隔てて二つ離れた教室にいるシミュレーション部も、焼き立てのお菓子のお裾分けをもらったり、
時にはケーキパーティーのご相伴にあずかり、調理部の部員の女子だけではとても食べ切れないような量の
デコレートケーキを相手に格闘したりと、様々な恩恵を受けていた。
彼女たちの調理部は文化祭では調理室を丸ごと使ってカフェ形式のケーキショップをするらしく、
当日の準備でケーキを焼く練習をしたり、室内の飾り付けをしたりと大忙しであった。
学園祭当日は客をもてなす給仕の役を務める女の子はメイドエプロンを着たり、ウェイトレスの仮装をするとの噂である。
文化部の例外に漏れなく、彼女たちも女子たちの間で流行りの耽美系アニメや漫画の薫陶を受けていたが、
普段はとても着られないような扮装をするのに憧れる年頃でもあった。
そういった女の子にとっては今度の文化祭でのカフェは理由を付けて異装に身を包める絶好の機会でもあるのだ。
今彼女たちがやって来たのも練習で焼いたケーキを振る舞いに来た為である。
丁寧に紅茶のカップまで台車に乗せたお盆で運ばれて来ていた。
二人の女子が台車をドアの開閉口の段差の手前でうんしょと持ち上げようとする処を、
「俺がやるから」と入り口付近にいた吉田が代わりを務める。
美味しい処を獲られた。
「匂いがこちらまで広がってて申し訳ないです」とケーキの乗ったお皿を受け渡す時に恐縮そうに謝られたので、
別に気にする必要はないですよ、と気さくそうに答えて見せるが、女子からも人気のある部長の様にはサマになってない。
「部長さんはいらっしゃらないようですね」
そう言う3年のマリナが残念そうな顔をしているのをトシアキは見逃さなかった。
特に実績のない我らがシミュレーション部が、一部活として教師に目を付けられずやっていけるのも、品行方正で、
学園の方々に顔が利く部長のお陰である。
今部長が不在なのも、女生徒会長の「個人的な相談」を受けるべく生徒会室に赴いているからであった。
今年までは部長の仁徳によって男だらけのシミュレーション部と、女子の花園である調理部がそれなりに交流をしているものの、
部長の卒業した来年以降もそれが続いてくれるとは限らなかった。
それが少し残念な気もするトシアキである。
迫る文化祭の話題に2,3軽く会話を交わすと、彼女たちは調理室に戻って行った。
部長がいればもっと話も弾んでいただろう。調理部の部長でもあり、わざわざこちらまで訪れたマリナは少し残念そうであった。
「うんしょっと。中村さん入り口にぶつからないように気を付けてください。上が擦れちゃいそうですから斜めに倒しましょう」
校舎にシートで包まれた大きな物体を運び入れるのは2年C組の男女たちだ。
運動部の中には焼きそばやホットドックと云った屋台を開く部もあったが、屋台を開くための事前の「検査」を嫌がった女の子たちも多く、
(何故って?そりゃ高校生にもなってあの検査は恥ずかしいでしょ)そういった子達は仲の良いグループか、或いはクラスごとに集まって
何かの出し物をしようとしていた。
2年C組の手の空いている生徒たちは、クラスの中での人気も高い若山ヒロミの呼びかけで、C組の教室を使ってお化け屋敷をやる事にしていた。
彼女と仲の良い女子のグループが呼びかけに答え、メンバーに加わり、男子たちも高校生にもなってお化け屋敷なんて、と思いつつも、
お目当ての女子の気を引こうと彼女たちの手伝いを言われるままに行っていた。
彼らが今運んでいるのは3メートルになろうかという大きな鏡で、地元の廃物置き場に転がっていたのを女子の1人が偶然発見し、
地主の許可を得て一時的に借りる事にしたのだ。
お化け屋敷の舞台設計は一週間前からの急ごしらえと云う事もあって難航していたが、古い屋敷の調度物のような巨大な鏡は実に怪しい雰囲気を放ち、
これがあれば周りの自分たちの造ったハリボテも、まるで本物の様に観客の目に映るであろう。
そう考えると階段を使って校舎の3階まで大きな鏡を運ぶ彼らの足取りも力強いものになるのであった。
部長の木根が部室にやって来たのは調理部の女子たちが去ってから20分後の4時半過ぎごろである。
この季節になるとその位の時間でも既に外は薄暗くなっていた。
「こんちわっす」
「こんにちは。木根先輩」
部員が教室に入って来た部長に次々と挨拶をする。
真っすぐ降ろした短髪に銀縁の眼鏡。スラリとした長身は遠目からでもその存在を主張する。
「さっき調理部の女子たちがやって来てケーキを頂きました。一応部長の分も取っておいたッす」
日陰に置いていたとはいえ、常温で20分たったケーキを差し出すのもどうかと思う。
「そうか。いつも彼女たちにはお世話になっているがこちらからは何も返せず申し訳ないね。後で私が礼を言っていたと伝えておいてくれ」
言葉の上でこそ昵懇な気遣いを欠かさない人だが、どこか冷たい、慇懃無礼というよりは、人間全体に対する冷徹さの視線を
この人は見せるのは俺の気のせいだろうか、この目を向けられる度にトシアキは思わずにはいられなかった。
ただし、部長に対する周囲の評判は、あくまで正の方向のものばかりであり、憂いさも感じさせるその視線に気づいているのは、
俺だけかもしれない。そう付け加えて考える。
「生徒会長からの呼び出しっていったい何の用件だったんですか」
「ちょうどその話をしようとしていたところだ」
部員からの質問に答えると黒板の前に立つと、様に合った咳払いをし、自身に注目を集めさせる。
「諸君。新たな作戦を開始する」
その声に直前までだらけていた部員たちの背筋がシャキッと伸ばされる。
万年零細のシミュレーション部の裏の顔。
それはヒトの姿を取りながらヒトとは異なる種属、ひずみより這い出る魔族の脅威から人類を守る対抗組織の青少年部隊に属する作戦行動班だ。
普通の人間にすれば荒唐無稽にしか思えない話だが、現実に彼らシミュレーション部の男子は、週末には組織の有する敷地内で実地訓練を行い、
百戦錬磨の部長を先頭に一か月に数度出現する魔族と戦いを繰り広げているのであった。
過去にある事件をきっかけに組織と関わりを持ったトシアキも、入学後に部長からスカウトされシミュレーション部に入部する事を選んでいた。
現在では魔族との間に結ばれたある『契約』から戦いも小康状態になっていたが、そんな中開始される作戦とは一体何なのだろうか。
「現状では確定情報ではないので口頭のみで説明する」
いつもならば資料が配布され、スクリーンに映像が写し出されるのであるが、今日は部長の弁舌から開始された。
未確定情報にも拘らず、それ程急を要するという事だろうか。
「我らの市区内に新たな魔族が侵入したという情報が入った。既に市民の何人かがひずみに囚われた模様である。
現時点では学園内の被害者は確認されていない模様だが、我が学園は学園祭を目前とし、
生徒たちも祭りの期待に身を躍らせている最中だ。彼らの為にも学園祭を災禍無く遂行させるのが我らの新たな任務だ」
それが一連の事件の幕開けを告げる部長の短い演説であった。