作：粉々萌え
―１――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『おめでとうございます！』
携帯電話に一通のメールが届いた。これはそのメールの件名である。送信者は 『megami.●●●@●●●●●●●●』見知らぬアドレスである。それを開くと本文にはこう書かれて
いた。
『あなたは女神様に選ばれました！あなたの願いが一つだけ叶います！こちらにアクセスしてね！→ttp:●●●●●●●●/』
どうせ迷惑メールだろ…開くわけないじゃんよ…。こんなのに引っ掛かる奴マジでいんのかな……。
『ヴ――ッ！ヴ―――ッ！』
おっと。アユミから電話だ。
「もしもし。どうしたの？」
『カオリ！今日泊めて！！』
「……何また幽霊出たの？」
『そう！足音聞こえたのォ！！』
アユミの部屋には幽霊が出るらしいのだが、たまに私が泊まりに行っても何も起きない。アユミは一人の時にしか出ないんだと言うが、私自身（というかアユミ以外の誰も）が見ても聞いてもいない以上は本当なのかは判断がつかない。
でも私自身も一人暮らしで正直アユミが恋しいので……
「いいよ。おいで。」
結局断らないのだった。
―２――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やぁ。」
「やぁ。」
どちらからともなく軽く挨拶を交わし、カオリを私の部屋に招き入れた。
「カオリぃー怖かったぁぁー！」
「…そんな怖いんなら部屋出ちゃえば？」
「カオリ……私が部屋に来るの迷惑なの？」
「……いやぁ……そういうわけでは……」
このとおり、アユミは卑怯だ。言い分が見つからないので私は話題を変える。
「あっ、そういえばさ。今日また変なメール来たんだよー。」
「迷惑メール？」
「うん、多分ね。一つ願いが叶うよってやつ。」
気のせいか、アユミの表情が変わった気がした。
「ちょっと見せてよ。」
「は？……いいけど。」
アユミは私の携帯を受け取ると、やけに真剣な顔つきで携帯の画面を見てこう言った。
「これ……本物だよ。」
「え、本物って…何が……」
「だからこのメール。
本 当 に 願 い を 叶 え て く れ る って。」
何を言い出すかと思えば……
「そんなわけないでしょー。こんな怪しげなメールで願いなんか…」
「叶うよ。私の友達もそのメールで願いを叶えたもん、」
「……ふーん。どんな願いだったの？」
「彼氏を一生自分のものにしたのよ。」
「なんだー。じゃそれがそのメールの御利益とは限らないじゃん。実力かもよ(笑)」
私がそう茶化すと、アユミは神妙そうな顔つきになり…言った。
「実はその友達、死んじゃっててね……
代わりに別の子が願いを送ったら彼氏を連れて行っちゃったんだって。」
つまり……
「……それは……彼氏さんも、
死んじゃった……ってことかな……？」
アユミはコクンと頷いた。
―３――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あのときのアユミの表情を思い返すと、アユミの言ったことは恐らく嘘ではないだろう。その出来事が偶然であった可能性は否めないが、もし本当に願いが叶うのだとしたら………
私はメールに書かれていたURLに、携帯電話からアクセスしてみることにした。URLを入力し決定ボタンを押すと、背景が真っ赤なサイトに飛んだ。
どうやら個人情報を記入する項目はなく、『あなたのねがいをおくってね！』と書かれている下に記入欄があるだけであった。
……ところで私の願いって何だろう……
正直なところ好きな人がいるわけでもないし、特に叶えたい夢もない。
強いて言えば お金が欲しい かな………
私はたいした考えもなく
『お金が欲しいです』と送った。
するとすぐに『megami.●●●@●●●●●●●●』からメールが来た。
『おめでとうございます！
今夜、好きなだけお金が手に入りますよ！』
………なんか胡散臭い………
―４――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―BONUS GAME―
目が覚めると私はいつもとは違う世界にいた。
とはいえ、姿形は普段私のいる世界と全く同じである。だから私は最初は気付かなかった。
一日の生活を始めようとしたところで、私は気がついたのだ。まず時計（アナログ）を見ると10時を指していた。寝坊をしたのかと思ったが、カーテンを開けると外はまだ真っ暗であった。
つまり、まだ夜の10時だということだ。
しかし、私は昨日は午後10時に就寝した。さすがに24時間寝ていたことなどありえないから……
私は寝た瞬間に起きたということになる。
そしてそれから私は徐々に、世界の違和感に気付いていく。
まず二階の寝室を出て階段を下りてすぐのところに、お母さんが立っていた。夜だというのに普段着姿である。それもまぁ若干おかしいことだが、何より変なのはそんなことではない。
お母さんは立ったまま、全く動かないのである。それはまるで人形…いや、『像』というべきか。
私はそれを倒さぬように避けて家中を見た。他には誰もいないらしい。お父さんはまだ仕事だろうか。
私は玄関から外に出た。そこもまた無音の世界であった。動くものは私を除いてひとつもない。私以外のニンゲンは存在してはいるが、みな家の中のお母さんと同じように微動だにせず、像のようにただ直立しているだけである。音も、風も無い。世界は暗闇に包まれているが、動かないニンゲンたちははっきりと視界に映る。
あてもないが、私はとりあえずいつも通っている高校への道を進んだ。途中には動かないニンゲンたちが点々と設置されていた。中には見覚えのある顔もあったが、それが誰なのかは思い出せない。そのまま私は高校にたどり着いた。校庭には数個、制服を着たニンゲンがあるだけであまり多くはなかった。みな見知らぬ顔である。昇降口は開いており、容易に中に入ることができた。私は教室を目指して歩いて行く。
だが、途中に制服を着た数個のニンゲンがあり避けて通ることはできないらしい。私はその中のセーラー服を着たかわいらしいデザインのニンゲンを押して退けようとした。だがニンゲンはその形のせいでバランスが悪いらしく、簡単に倒れてしまった。
倒れたニンゲンは無残にも砕け散ってしまった。中は空洞らしく、まるで陶器のような破片が一面に飛び散る。そのときに私はあることに気がついた。
破片の中に金貨が一枚混じっている。それは純金製らしく、かなり価値がありそうだ。
もしかして他のニンゲンの中にも金貨が入っているのだろうか。私は先ほど破壊したニンゲンの隣にあったブレザーの素敵なデザインのニンゲンを倒してみた。するとそのニンゲンも粉みじんに砕け、中からは金貨が二枚出てきた。こちらの方が枚数が多いのはどういうわけだろうか。
それからその近くにあった気持ちの悪いデザインの人間を破壊してみたが、金貨は出なかった。私はそれが少し不服で苛立ちを感じたので、勢いで三個のニンゲンを破壊した。すると、一つ目のニンゲンからは一枚の金貨が、二つ目のからは三枚の金貨が得られた。しかし三つ目からは何も出てこなかった。
私は気がついた。私が好感をもったデザインの人間ほど出てくる金貨が多い。現に、今破壊したニンゲンもダサいデザインのものは金貨が出てこず、金貨が三枚出てきたニンゲンは非常に素敵なデザインであった。私はそのフロアのニンゲンをすべて破壊し終えたので、今度は自分の教室に向かうことにした。
教室に着くと、見知ったデザインのニンゲンがたくさんあり、それらは私にとって価値のありそうなものであった。
私はさっそく近くの椅子を持ち上げ、セーラー服姿の学級委員長の形をしたニンゲンに投げつけた。すると委員長はけたたましい音を立てて粉々に砕け散る。そのなかからは何と五枚もの金貨が出てきたのである。私は狂喜した。そして次々に大好きな友人たちをバリバリと粉砕していく。
私が得たのは合計100枚以上の金貨であった。
しかし私はそれで満足はしない。まだ、最も私にとって価値のあるニンゲンがその部屋に残っている。
ア ユ ミ だ。
教室の端の方に佇んでいるアユミのデザインのニンゲンからは、間違いなくいちばんの枚数の金貨が得られる。
これがさいごだ。
両手で椅子を持ち上げ、アユミに向けて思いきり振り下ろす。
―――ガッシャァァーン！！
アユミの像はいとも簡単に粉々に砕けた。アユミ色の破片は他の人間たちと同じように一面に飛び散り、瓦礫の山を成した。そしてそのなかから無数ともいうべき大量の金貨が川のように溢れ出る。それは間違いなく今まで集めた金貨を大きく上回るほどの量である。それほどまでにアユミは私にとって大きな存在なのだと実感した。
これにて私は満足し、この世界を後にする。
―５――――――――――――――――――――――――――――――――――――
暗闇の世界は、光に包まれた。
徐々にいつもの世界へと戻っていく。
静寂は破られ、立ったままのニンゲンは人間になって動き出す。
私は不思議な夢から覚めた。目覚めたのがいつもの自分の部屋であることを把握すると、なんとなくホッとするのであった。そして落ち着いて夢のことを思い返す。あの夢が私に教えてくれたこと…それは友達の大切さだった。また、見知らぬ者の無価値さもまた思い知ることになった。しかしそれは私にとっての価値にすぎず、他の者にとっては価値のある存在であり、逆に私にとって大切な存在も他の人にとっては無価値の場合もあるのである。当然私自身についても同じことがいえるだろう。
ともかくあの夢は……
………夢………？
…夢だったはず……
なのに……
目 ノ 前 ノ 金 貨 ノ 山 ハ 、イ ッ タ イ 何 ダ ロ ウ 。
『ゾクッ』と背筋に冷たいものが走った。
あの夢の記憶が走馬灯のように再生される。ニンゲンを倒して壊したときの音。感覚。ニンゲンを叩き壊したときの手ごたえ。砕け散るニンゲン。飛び散るニンゲン色の破片。無数の破片。
そしてアユミを叩き壊したときのあの感覚。けたたましいあの音。
―――ガッシャァーン！
闇が破られたあのとき……、
静寂は破られ、立ったままのニンゲンは人間になって動き出し、
私が破壊したニンゲンは人間になっても動き出さず、
破片は肉片となり、空洞だった空間は人間の中身を現し、赤い液を撒き散らす。
『うゎあぁぁぁぁあぁぁっ！！！』
私はあまりの恐ろしさに頭を抱えながら叫ぶ。脚がガクガクと震え、しゃがみこむと、何処からか聞こえてくる。
・・した。・・した。・・えが・・した。
こ・・た。
おまえがコロシタ。
おまえがみんなを殺シタ。学校の生徒もクラスのみんなも、アユミも
ミンナミンナ、オマエガ殺シタ！！！！
『いやぁぁぁぁぁああぁあぁああぁあっ！！』
―――ごしゃっ！！
私がサイゴに砕いたのは、
私自身の頭だった。
もちろん金貨は出てこなかった。
―GAME OVER―