作:くーろん
「・・・・・・・・・・・・ほらよ」
「あら、律輝さん――報告書ですね。お受け取りしますわ」
目まいで視界がブラックアウトしかけながらも、かろうじて報告書を手渡す俺。
それを淡々と、事務的対応で受け取るフレイラ。
「――兄妹合作での報告書、というのは本当に珍しいですわね。形式上は別に問題ないですけど・・・
あの、大丈夫ですか?」
「・・・正直、大丈夫じゃねえな」
・・・実の妹が、上のようなフェチ心と欲望にまみれた文章を書き連ねたんだ。
そいつを校正という名の指令で何度も読まされ、あげくに他人様の下に晒されるその場に立ち会う・・・
そんな兄の気持ちを、ちったあ察して欲しい。
「それにしましても・・・まさか『シランドミュージアム』が認可されるとは、私も思いませんでしたわ」
「・・・止めろ、その話は。これ以上目まいがひどくなったらぶっ倒れそうだ」
どうやら気持ちを察する気はないらしいな、このオペレーター様は・・・
「まあそうおっしゃらずに。
認証結果の報告を見ましたけど、各上層部には非常に好評だったらしいですわよ。
『素晴らしい出来栄えだ!』『これこそまさに芸術!』などなど。男性陣から特に絶賛されたらしいですわね」
倫理よりエロ根性が勝ったという事だ・・・どいつもこいつも・・・
俺か?・・・ああ見たよ。謁見の間にあった噴水とやらもな。
あれを見て思ったよ。「世の中狂ってる」って・・・
もうあれだな、世代の違いって奴かね。
ファミコン時代からこの仕事してる俺にとっては、とても理解できん世界だよ・・
念のため言っとくが、俺は人間年齢で言えば20前後に当たるんでな。おっさん扱いするなよ。
「その後いろいろ意見が出たようですけど・・・最終的に
『いまどき、ディレクターズカットじゃないSO3など、誰もやらんだろう』
という事で満場一致、という辺りが面白いと言いますか、いい加減と言いますか――」
後者だよ後者。
上の連中で、んな事考えそうな奴なんぞ何人も知ってるからな。
しかし・・・
あの世界の住人達が、とか、リアルの人間達がこんなの知ったら、とか少しくらい考えられんのかよ・・・
「時に・・・フレイラよ」
セルフサービスのお茶をすすりつつ、しばらくの間、来客用ソファでグッタリとしていた俺だったが。
だいぶ目まいも消えたところで身を起こすと、静かに、ゆっくりと、フレイラに話を切り出す。
「どうしました?」
「今回の仕事だが・・・報告書を読んで、改めて振り返ると一つ疑問が残ってな」
「疑問・・・と言いますと?」
またそっけなく、返答を返すフレイラ。
目は報告書に向けられたまま、こちらは見向きもしない。
「『何で俺があの世界に行ったのか』、という疑問だよ」
「あら・・・どうして疑問なのか、私には分かりませんが」
「ほう・・・分かりませんと来たか」
あくまでもしらを切りとおすつもりだな、こいつは。
まあいいだろう・・・じっくりと問い詰めてやる。
「妹2人が先に仕事をしていた中に、なぜか俺が狩り出された。ここまではまあいいだろう。
しかし、だ。
特例許可証が発令されていた、という情報が知らされなかったというのは大いに問題だよな。
なにせ、あいつらがあそこで何をしでかそうと何もできないんだからな。そもそも出向く意味がない」
俺をおとしめた罪人に、己が罪状を一つ一つ切り出していく。
こいつのせいで、俺はあの妹達の面倒を見る羽目になり、あげくに額を割るわ首の骨折るわ・・・
一度は死のふちまで行きかけたからな。
さあ・・・・どう償ってもらおうか・・・
「そしてこれは、とある1オペレーターのずさんな判断によって生み出された結果。つまりは――!」
「あ、律輝さん、ここ訂正です」
「――は?」
思わぬ切り替えしに、俺は面食らってしまった。
今の今まで報告書を見ていたフレイラが、「ここ」と示したそいつを俺に見せてきたのだ。
ついつい目を向けてしまった。そこは――
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「お・・・お・・・・・・おまえ・・・これ以上のエロ文章書けってのかっ!
このっ!!目の前にいるこの俺にっ!!!!!!!」
どこかと思えば、優舞の奴がアリアスで女一人押し倒しかけた、あのくだりじゃねえかよ!!
――俺の怒鳴り声に何人かこっちを向き始めたが、んな事知った事か!!!
「そうは言われましても、やはり報告書は正確に書いていただかないと」
「そう言ってお前が突っ返したのはこれで5回目だったよな!!しかも!!すべて同じ場所を!!!
これはあれか?俺をエロ作家にでもしたて上げようっていうお前の陰謀か?!」
こいつ、報告書ってのに何を求めてやがる?!
あのな、一つ言わせてくれ。
あそこはな、最初は「優舞に気配悟られぬよう中華鍋を手に取り、振りかざした」くらいしか書いてなかったんだよ!
それを、そこのフレイラが「手の表現を詳しく」だの「息遣いを正確に」だの校正入れて来やがったんだ。
それにしたがって何度か書き直してるうち、いつの間にかあんな文章に・・・
ありえねえ。普通ありえねえよ。
それとも何かね、俺の知ってる報告書って奴の認識が間違ってるか?
「誤解ですわ律輝さん。私はあと、もう少し正確さが必要だと思ってるだけです。ですから――」
「もう少し正確さが・・・なことどうでもいいだろうがぁぁぁ!!!!!!!!!!!!
いいか!俺はもうこれ以上書かねえからな!!どうしてもっていうなら優舞にでも書かせやがれっ!!!!」
「優舞さんなら雪香さんといっしょに、シランドミュージアムの準備中じゃないですか」
「知るか!呼び出すなり直接出向くなり、そっちで勝手に処理しやがれ!!」
ぜえ・・・ぜえ・・・・
一通りまくしたてて息が切れてしまった・・・この辺で深呼吸・・・
「無茶言わないでください・・・・・・
仕方ありませんわね・・・まったく、向学心のない方は成長しませんわよ」
いらんわ!んな向学心なぞ。
「では、これは承認ということで・・・あら?これは・・・どうしようかしら・・・・」
報告書の件が解決したかと思ったら、ゴソゴソとフレイラが、何か書類を引っ張り出した。
そして、書類に目を通すとそのまま考え込む。
「なんだ?まだ何かあるか?」
「いえ、さきほどの件に関係する申請書なんですけど。申請者は・・・雪香さんですわね」
「雪香が?・・・捨てろ。俺が許可する」
「部外者は黙っててください。
内容は・・・シランド城内部、壁の一部にひび割れた場所があるそうなんですが、それを
『理性と野生、その狭間での葛藤の末に』
というタイトルで美術申請したいという事なんですけれど。受理しても――」
「ヤメロ」
生成No20352462 フリーズ状態のSO3世界を利用して作られた「シランドミュージアム」。
シランド城内を展覧場とした当ミュージアムは、状態変化において著名の、研究者音々羽氏によるもの。
最初訪れた方は、そのあまりの生々しい光景に一度はたじろぐかもしれない。
だがそれさえ克服すれば、その生々しさを美術作品として転化した出来に、あなたも魅了されることだろう。
メインスポットは謁見の間の「噴水」。
その美しさは、一度見ただけでは絶対に満足できないはずだ。何度も訪れることをオススメする。
なお、広大なフィールドを利用し、同研究者やその助手達の、実験サンプルが設置されているという噂も。
興味をもたれた方は、ハイキングがてら散策してみてはいかがだろうか。
(電界内 旅行情報誌「りるる」より抜粋)
END
※この物語はフィクションです。
作中に出てくるゲームは実在しますが、ゲームに直接関係するもの以外はすべて架空のものです。
まかり間違っても「GAME
OVERが不具合の原因になる」、「フリーズが相互干渉する」などといった現象は、絶対に発生しませんのでご注意ください。