作:くーろん
「あらぁ?あらあらぁ、律輝さぁん。
どうしてぇ、部屋の隅っこでぇ、地面にぃ、手をついてぇ、うなだれちゃったりぃ、しているんですかぁ?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・黙っててくれ。
今、『人生とは何か?』という大切な命題を探求中だ・・・・」
酔いなんていきなり醒ますもんじゃない。
俺はこの時痛感した。
先ほどの、思い返すのもおぞましい己の行動が、シラフになった俺の脳内で鮮明に蘇り――
「う・・・あああああぁぁぁ!!」
ぶりかえった記憶に、たまらず俺は絶叫してしまう。
「なんてこった・・・俺は・・・おれ、俺はぁ!
こんなところで、しかも仕事中に・・・
なぜ、人生最大の生き恥を晒しちまったんだぁぁぁぁ!!!!!」
ただひたすら泣きたい。いやもうなりふり構わずこの場から逃げ出したい。
いっそこのまま人生逃避行して、この世界の片隅で細々と生きようか・・・ははっ、それもいいかもなあぁ・・・
「なぜそんなに落ち込んでいるのだ?うー」
そんな逃避行に気持ちが傾きかける俺に、近寄る影が一つ。
その影は俺に近づくと・・・どこかで聞いたことがある声で、そう問いかけてきた。
「ほっといてくれ!見ればわかるだろうが!
俺は・・・俺は人生最大の生き恥を晒しちまったんだ!!今さら慰めなど!!」
「生き恥?なぜうーのしたことが恥だというのだ?」
な・・・・に・・・?
「るーは偉大だ」
こちらの疑問をよそに、傍らに立つそいつは、そのまま語り続ける。
「人の一生の理など、るーの偉大さの前には、終わりなき永遠の一瞬でしかない。
ましてうーがさきほどしでかした出来事など、刹那の間にも満たないだろう。
うーはそんなあるかどうかも分からない事で悩むのか?るーには不思議でしょうがないぞ」
(こいつ・・・もしや、俺を・・・)
そうか・・・話しの中身は独特すぎてはいるが・・・俺を、慰めてくれてるんだな。
ぎこちなくはあったが・・・その心づかいが・・・嬉しかった。
「・・・ありがとうよ。なんだか気を使わせてしまったようだな」
一言礼でもいっとかないとな失礼だな。
そう思い、すっと立ち上がり顔を見上げ・・・・・・・ありゃ?
ええと髪は・・・ピンクなんて特徴的な色の、先っぽで跳ね上がったストレートヘアー、だな。
目は・・・どことなくつかみどころのない雰囲気をかもし出す、レッドパープルで。
着てる服はこの世界の学校指定のセーラー服、なんだが・・・なんつーか全然生徒らしさが感じられん。
いや・・・こんな感じに、1つ1つ確かめるように相手を見てるのはなんでかっていうと・・・
俺、この子と面識こそないが「知ってはいる」んだよなあ。あっはっは・・・
(いやいや!その本人ならさっき石像になってたのを直に見たじゃないか。まさかそんな――)
「るー」
・
・
・
・
「ぬ・・・ぬああぁぁあぁぁがぁぁぁぁ!」
間の抜けた返事に、おもわず彼女から後づさる。
こ、こいつは・・・間違いない!
両手を天に掲げたこんな電波なポーズ、ためらいもなくやる奴は1人しかいない!
この世界のヒロインの1人、「るー」の申し子ルーシー・マリア・ミソラ!
・・・いや、今だと「るーこ・きれいなそら」なんだっけか確か。
いやいや名前はこの際どっちだっていいんだよ。真に問題なのは――!!
「あんた!・・・確かあっちの台の上で、さっきの『るー』のポーズで固まってたよな?」
「その通りだぞ。うーもじっくりと見ていたではないか」
ああそうだよ、見てたさ・・・思い出したくも無いがな。
「だろ?だったらなぜ――」
「簡単な事だ、うー」
俺の問いに、さも当たり前といった表情でるーこが返答する。
「いい加減、固まっているのも飽きたので台から降りただけだ。
うー達が宴をしている間、こんなにも長い間固まっているだけというのは正直、退屈でたまらなかったぞ」
いやいやいや!そんな簡単な理由で片付けられる事じゃないし!!
石化だぞ?さっきまでこのるーこは石になってたんだぞ?
それが
「さて、ちーと暇になってきた事だし、ちょっくら元に戻って軽く一杯ひっかけてやっか」
みたいな軽い感覚で元に戻れるわけないだろうが!?
「おいお前等!これは一体どういう事なんだ?!」
こういう訳分からん状況は、同レベルで訳分からん奴に聞くにかぎる!
今度は音々羽先生’sに振り返ると、事の状況を聞きだそうと――
「まあるーこ様!よくこちらまで参られました。ささ、こちらにお座りを」
「あらあらぁ、るーこさぁん、はじめましてぇ。これはぁ、ますますぅ、華やかにぃ、なりますねぇ」
えーと・・・・・・・・・・・・何?
こんな非常事態の中繰り広げられる「とある花見の席での一風景」みたいなゆるゆるーとした状況は?
「遅いぞうー、いつまで待たせるのだ。
うー達がいつまでも誘いにこないので、るーが直々に出向いてきたのだぞ」
――るーこ嬢も、なんか当たり前のようにあっちに行っちまってるし。
「お前等!聞いてんのか!!何のんきに酒の席に誘って――」
「あらあらぁ、それはぁ、るーこさんにぃ、悪いことをぉ、しましたねぇ」
「申し訳ありませんでした、るーこ様。わたくしも買出しに出かけておりまして・・・
それにこのお2人が眠ってしまわれて、ついついお呼びするのが遅く――」
・・・・・・・・・(ブチィ!)
「ではここからはるーこ様も交えてという事で。ささ、るーこ様こちらに――」
「――楽しそうだな、お前等・・・なんなら俺の酒も飲んでもらおうか」
「まあ!それはぜひ――」
ドンッ!
ゆらりと奴等に近づいた俺は、緊張感のかけらも無い返答を、地に刃を刺し切り捨てる。
――エクスカリバー、ラグナロク、マサムネ、ムラマサ、アサシンダガー、ブラッドソード
はかいのつるぎ、まじんのおの、天空のつるぎ、地獄のサーベル、炎の剣、破壊のてっきゅう etc――
思いつく限りの武器をずらりと並べ・・・手に持つ獲物の刀身を一舐めし・・・
のんきに宴会になだれ込もうとしている奴等を、血に飢えた獣のごとき目で見下ろし・・・問う。
「ただし・・・俺の酒はちょいとばっかし赤黒くて、その上鉄の味がするんだが・・・それでもいいか?
ああ・・・別に無理にとは言わんぞ・・・その代わりに・・・俺の話に付き合ってもらえばいい。
さあて・・・この俺の酒を飲みたいという奴は・・・手を挙げろ」
フルフルフル
とりあえず今、返答のできそうな3人が・・・揃って首を振り、拒絶した。
「申し遅れました・・・わたくし、音々羽様の1番弟子でスイーパーをしております、沙綺(いさき)と申します」
巫女装束に身を包んだ沙綺・・・この一連の事件の犯人だ、が胸に手を沿え、しずしずと事の顛末を語り始める。
どうでもいいが、巫女装束なんて目立つ格好で買出しに出かけたのかこの人は・・・
なお残り2人だが、静かにするならば・・・と、結局宴を許可しといた。
ただし、るーこ嬢へ酒、それとコーラ(この子はコーラで酔うんだよ)を勧めるのは固く禁じたが。
他の2人はともかく、るーこは被害者なわけだし・・・たぶん、大目に見ることとした。
それとうちの妹達に関しては・・・
酒が回ったか、この野郎達は気持ちよくお眠りくださってますよ。音々羽先生の膝を枕にしてな。
「くすん・・・律輝のぉ・・・ばかぁ・・・」「お兄ちゃん・・・もっと下から覗かないと・・・」
・・・起こしてもややこしくなるだけなので、放置しとくとしよう。
「・・・わたくしがヒロインの方々を石に変え、ここに運んで参りました張本人である事を認めます」
「ふむ、素直でよろしい。
時に・・・なんで石に変えて周ってる間、『ほっかむりにサングラス&マスク』なんて目立つ格好してたんだ?」
「・・・隠密行動の際にはこれが古来よりの正装、とお聞きしておりますが?」
「・・・後で聞いた奴の名を教えてくれ。しばき倒しておくから」
腰まで伸びる黒髪を1つに束ね、纏いし衣は巫女装束。
おまけに古風で柔らかな言葉やしぐさも相まって、この沙綺という人からは雅さかもし出す和風美人、
って感じでぱっと見まともな印象を受けるんだが・・・
世間知らずというか、頭のネジがどこか外れてるというか・・・
(まあどこか変なのはしゃあないか・・・あの先生のお付だもんなあ)
外見等の印象はともかく、今俺が確実に断言できるのはただ一つ。
この人は変人だ。間違いない。
「あの」音々羽先生のそばに仕えるなんて所業、まともな奴が到底続けられるはずがない。
事実、俺が今まで見たあの人の生徒や弟子の類は、どこか変な奴しか見たこたないからな。
うちの妹達がいい例だ。
・・・・・・
自分で言っといてなんだか悲しくなってきたよお兄さんは・・・
「で・・・なんでこんな事したんだ?」
「はて、なんで、とおっしゃいますと?」
いや、なぜそこで聞き返す。
「律輝様、古来の歌人はこう歌っております。
『世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし』――――と。
春の桜は愛でずにはいられなきもの。ならばわたくし達が桜石を愛でなければならぬのも必然。
そう・・・何故かと問われ、あえて答えるなら桜が、いえ春という季節があるからで――」
「古来の詩に歌われた日本の春の情緒と、貴様等の歪んだフェチ精神を同一視してんじゃねえぇぇ!!!!」
駄目だ!自分のやった事に、罪の意識をかけらほども感じてねえよこの人!!
ああくそ!こういった古語文を、こんな事に引用されるとムカつくわマジで!!
「あのなあ、自分のやった事が違法行為だという事をちったあ自覚して――」
「うるさいぞ、うー。宴の席で怒鳴り散らすなど、興ざめも甚だしいぞ」
俺の怒鳴り声に気分を害したらしいるーこが、そばまで来て横槍を入れてきた。
「いや、すまんがこれも仕事なんで我慢して――」
・・・いや、ここはるーこ嬢をたきつけてみるのはどうだろうか?俺なんかよりも話を聞いてくれるかもしれん。
「おいるーこ!お前からも何か言ってやれよ!このバカ共のせいであんた達は――」
「何を言う必要があるのだ、うー」
「・・・・は?」
理解できん、といった表情で俺を見つめるるーこ嬢。
・・・まさか酒かコーラでも飲まされて酔ってんじゃないだろうな?
「何って・・・お前さんはさっきそこの沙綺に石にされたあげく、台座に飾られ見世物にされたんだぞ!なのに――」
「なんだ、もしやうーは『石見』を知らないのか?」
「・・・・え?」
いやほら『石見』ったらそこの固めフェチどもが作り出した忌まわしき造語であって、たとえ宇宙人であっても一般の者が使う言葉ではなく――
「雪が融け、生命の息吹が聞こえるこの季節に、若い女達がその身を石に変え、その美しさを皆で愛でる。
『石見』とは古来より伝わる伝統行事ではないか。知らないとは学がなさすぎるぞ。うー」
・・・・・・はい?
「るーの星ではこの季節、毎年行われているぞ。
この星では、この季節のみ咲く花を愛でるという行事しかないようだが、この2つに本質的な違いはない。
それに何か言おうとするとは、うーには風情のかけらもないのか?」
な・・・・・・・・・
「なんじゃそりゃあぁぁぁぁぁ!!!!!!」
何なんだ、この「石見とはどの星でも当たり前に行われる行事ではないか、うー」みたいな状況は?
え?何?もしかして俺が非常識人扱い?はたまた誰かの陰謀?
そもそもるーこがこんな発言してアクアプラス(ソフトメーカー)的には問題ないのかいやいや何俺はメーカーに余計な配慮をして・・・
・・・ぬあがぁぁぁぁぁぁ!!!!!訳わかんねぇぇぇぇ!!!!
「だが、確かにうーいさのやった事に、問題がなかったわけではないぞ」
めまぐるしく変化していく、常識と非常識の塗り変わりに翻弄される俺を完全に無視し、るーこの異世界な話は続く。
「・・・!わたくしに何か問題があると言うのですか?」
「うむ。るーはうーいさの願いを聞き入れ、石見の像となった。
だが、他のものは違うのではないか?」
「そ・・・それは・・・」
・・・そう!そうだよ!!
ナイスだるーこ!いい点をついてくれた!!
「例えばあのうータマの像」
タマ姉の石像を指差したるーこは、それを元に再び話し始める。
「見返り姿の像、確かにこれはうータマの魅力の一部を出ているかもしれない。
だが、目先の魅力に執着しすぎ、全体を見据えた魅力を引き出していないのではないか?」
「はっ・・・・!」
・・・オイ待て。
「うータマの大きな胸、気の強いツリ目の顔立ち、外見通りの気の強い性格と内に隠れたしおらしさ。
うーいさはこれら全てがこの像に凝縮されていると言えるのか?
確かに石見の像にとって『下から見上げる事を前提とした造形』は重要だが、それに固執しすぎてはいないか?
――初心者にありがちなミスを、うーいさはうータマにしてしまったのだぞ」
「は・・・ははははは・・・・」ああ・・・壊れてゆく・・・
元から不思議少女ではあったとはいえ、俺がゲーム上で見ていた「るーこ・きれいなそら」に対する情報が、ガラガラと崩壊していく・・・
「なんて、事・・・うかつでございました・・・」
地に両手をつき、ガクンと強くうなだれる沙綺・・・いや、愕然とするのはそこじゃなくてもっと別の――
「・・・わたくしは、目先に囚われすぎていたのですね・・・るーこ様!音々羽様!申し訳ございません!」
「いえいえぇ、私もぉ、注意不足ぅ、でしたぁ。沙綺さんだけのぉ、せいではぁ、ないですよぉ」
るーこの石見に対する厳しい指摘を受け、深くうな垂れる沙綺。
そんな彼女を、音々羽先生は優しく諭す。
・・・俺にはもう理解を超え、なんか完全に奇妙奇天烈にしか見えない展開が、そこでは静かに、だが熱く繰り広げられていた。
「分かればよいのだ、うーいさ。
石見を極めるには、長年の鍛錬と鋭き感性が欠かせない。それをすぐに得るなど無理というものだぞ。
今後はうーののと共に、高き極みへと上り詰めるがいい。
――春の夜はうららかでまだ長い。石見の本質は石像達と春の風情を楽しむもの。
さあ、あの席でいっしょに飲むぞ、うー達」
「よかったぁ、ですねぇ、沙綺さぁん」
「・・・はい!わたくし、精一杯お相手させていただきます!」
別世界の住人達が、己の未熟さを知り、次に進むべき道を見出す。
宇宙人と電霊、全く異なる種族の3人だが、今・・・心は一つとなった。
今宵は酒を酌み交わすのみ・・・3人は無言でうなずき、静かに座するのであった・・・
END
「って・・・待てや貴様らぁぁぁぁぁ!!!」
俺の事などまるで存在しないとでも言わんばかりに無視し、再度宴会に突入しようとする3人を慌てて止める。
「なんだ、うー。うーいさについてはもう話がついたではないか」
「あ・・・あんた達にはあんた達の風習事情があるんだろうがな・・・こっちにはこっちの事情ってもんがあるんだよ!」
目の前で繰り広げられている奇妙奇天烈な異空間の状況に、つい我を見失っていたが・・・
俺がここに来たのは、そこの沙綺をとっ捕まえにきたからなんだよ!・・・ああ危ねえ危ねえ・・・
「そんなのはぁ、別にぃ、後でもぉ、いいじゃないですかぁ、律輝さぁん」
「律輝様、せっかくるーこ様直々にお誘いいただいたというのに、それを無下になさるのは失礼に当たり――」
「その発端である貴様ら2人が何言ってやがる!ってかあんた等、自分達が違法行為してるって自覚がないのか!!」
こいつらはよぉ・・・まさか電霊内の規律や法規を理解してないんじゃないだろうな!
音々羽先生と沙綺は2人して「うーん」とうなった後
「・・・何かぁ、悪いことをぉ、してましたでぇ、しょうかぁ?」
「わたくしにも何なのかさっぱり・・・律輝様、なぜそんなにお怒りになられているのですか?」
「きぃさぁまぁるあぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
天井を貫かんばかりの怒鳴り声を上げ・・・これで何度目なんだろうか・・・もう目まいすらしてきた。
だが今ここでぶっ倒れる訳にもいかん・・・何度も頭を振ると、大きく1歩踏みしめ2人を見据え――
「――もういい!お前等2人そこに直れ!正座だ正座!!
今からお前等がここでしてきたバカな行為の違法性について、みっちり聞かせてやるから覚悟しやがれ!!」
そもそも・・・プレイ中のゲーム世界に入るという事からして問題がある。
やってる事がどんなにその世界に貢献する事であろうとも、元々その世界に存在するはずのない俺達電霊は、世界にとっては異物でしかない。
ましてや今そこにいる沙綺がしたことなど・・・言うまでも無いだろう。
俺達電霊が本来出向く、GAME OVER世界やフリーズ世界はプレイヤーの手から離れた、言ってしまえば捨てられた世界。
そのため、その世界で多少好き勝手したとしても大目に見てもらえる。
どうせ何しようと、結局は消去してしまう世界でもあるわけだし。
うちの妹達&音々羽先生の行動が「多少」の範疇内なのかについては・・・ノーコメントとさせてくれ。 あれでも少しは可愛げのある妹達だし、片や権威ある先生様なんでな。
それに対し、プレイ中の世界で同じような事をした日には、確実にプレイ環境に影響が出てしまう。
小さいところでは処理スピードの低下。ひどい時にはゲームの停止――一般に「読み込み中」と呼ばれる現象がこれに当たる。
まあゲーム機も含めてリアル世界の電子頭脳って奴は、
CD等ROMに書かれていない内容を、ファジーに処理してくれるなんていう融通さは持ち合わせちゃいない。
ROMに書かれていない内容=読めない内容なわけで、まともな情報が来るまで「読み取れません」と突っぱねられ続け、結果「読み込み中」となる。
当然、今ここで起こってる馬鹿げた状況は、ゲーム「トゥハート2」のシナリオとしてROMに刻まれているはずがない。
もし入ってたとしたらアクアプラスの社会性を疑う。
そんなわけで、今はプレイヤーに迷惑をかけている状況なわけだが・・・1つ注意として
『ゲーム世界での時間経過=リアル世界での時間経過』
ではない、つまり時間差が存在するという事を挙げておく。。
この時間差、実はかなりのもので、今みたいな状況が1日や2日続いたとしても、リアル世界での時間経過は10秒にも満たない。
だからこそ、今みたいにこんな長ったらしい説明を、あの2人にくどくどしている訳だ。
じゃなきゃ有無を言わさず実力排除しているよ・・・世のプレイヤー達が何時間も読み込み中を待ってくれるってんなら話は別だがな。
「というわけで、お前等がいかにリアル世界へ影響を与えているかは理解できたと思うが」
「ですが律輝様。この世界にGAME OVERは実質存在いたしません。
それにエンディング後ですとシナリオ上、すでに春も終わりに近づいております故・・・
石見を催すためにはプレイ中の世界に入るのはいたしかたないかと」
「その『石見』を止めるという選択肢は浮かばないのか、お前達はよぉ・・・」
こいつ、自分に都合のいいことだけは分かってやがるな。
大抵の恋愛シミュレーションゲームにおいて、GAME OVERというのは存在しない。
「誰とも結ばれない」というのはバットエンドという1つの終焉であり、俺達が消去する世界には該当されない。
それを知っての発言なんだろうが・・・こいつらの自制心というスキルはゼロか?
「でもぉ、私がぁ、オペレーターの人にぃ、話してみたらぁ、すんなりぃ、突入を許可してぇ、くれましたからぁ、つまりはぁ、OKという事でぇ――」
「やっぱりあんたも絡んでたのか!」
この音々羽先生、己の話を長い間聞いている者から気力を奪ってしまうという、とんでもないスキルを持っている。
しかも本人に全く自覚がないというのだからたちが悪い。
おそらく他愛ない会話だと思って聞きいったオペレーターが、足腰立たぬほどヘロヘロになったあげく、
この2人の移動許可を下してしまったに違いない。
「くっ!不甲斐ないオペレーターめ・・・ならば俺が今ここでみっちりと釘を・・・っておい!何しやがる!離しやがれ!!」
「いやでございます!音々羽様は何も、何も悪くはございません!」
音々羽先生に掴みかかろうとした俺を、沙綺が止めようと必死になって組み付く。
「全てはわたくしが悪いのです!ですからお止めくださいませ、お止めくださいませぇぇ!」
――5分後
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・分かった・・・あんただけを裁くって事で、ここは収める事としよう・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・分かって・・・いただけて・・・幸いでございます・・・」
息も荒くなった俺達は、上の通り俺が折れることで同意した。
もうな・・・俺ももう疲れきってるんだよ心身共に・・・さっさと帰りたいんだよ・・・だから察してくれよ、な・・・
「律輝様のおっしゃる通りでございますね・・・何であろうと罪は罪。
春の風流を堪能しようとと思い立った事とはいえ、その事実に間違いはございません。
その罪を償う覚悟は・・・できております」
こんな当たり前の事にたどり着くまで、なぜこんなに時間が・・・
ああ・・・酔いどれ中のこっぱずかしい行動に絶句して、どこか遠くへ逃避行しようと考えてた時が懐かしく感じるよ・・・
「まあ・・・そこまで覚悟ができてるなら話は早い。お前さんに対する罰則だが――」
「はい・・・律輝様・・・わたくしを・・・わたくしを固めてくださいませ!」
「・・・は?」
いや・・・確かに電界の罰則の中には「該当者を石等に固体化拘束する」というのがあるにはあるんだが。
「いや、そこまで重い刑罰にはならんって。せいぜい一定期間の電子情報世界移動の停止処分くらいで――」
「そんな!固めてくださらなければわたくしが納得でき――はっ!」
オイ・・・なぜそこで口をつぐむんだ?
「沙綺さんはぁ、固められぇ、フェチでもぉ、あるんですよぉ」
俺の中で湧き上がった疑惑に、横で見ていた音々羽先生があっさりと答えを出してくれた。
しかし固められフェチって・・・また変な趣向持ちが俺の前に1人増え・・・
「だからぁ、罰則でぇ、固められるのはぁ、彼女にとってぇ、一石二鳥なぁ、わけでしてぇ――」
「の、音々羽様!それ以上は――」
「ほっほーう・・・」
・・・つまりはそこまで計算の上だっというわけでございますかこのお人は。
「(この野郎・・・巫女装束が似合うやまとなでしこ風の和服美人だからって何でも許されると思うなよ。
今は疲れてるから何もしねえがな・・・いつかボコボコにしばき倒してやるから覚悟しやがれ・・・)」
あー怯えてる怯えてる・・・
――本来、心の中で言うべき事をついブツブツと口に出してしまったのは、疲れが溜まっていたせいだと理解いただきたい。
でも顔だけはスマイル浮かべてたんだぞ・・・思いっきり引きつってたと思うが。
「ん?ちょっと待て。
そんなに固められたいんだったら、そこの先生なり、うちの妹達にでも頼めば喜んでやるだろうが。なんで俺が――」
「それは・・・駄目です・・・」
こっちの素朴な疑問に、怯えがおさまった沙綺が静かに答える。
「だって・・・お3人方は女性ではありませんか・・・やはり固められるのなら殿方でありませんと」
・・・なぜそこで頬を染める。
「殿方が向けられる、欲望と性欲にまみれた瞳が・・・なんとも・・・
わたくしのこの身が別の物へと変わりゆく様を、そんなねめつくような目で・・・なめるように・・・じっくりと見つめられたら・・・ああ・・・
そして・・・固められた後、わたくしの体が・・・どのように・・・扱われるかを想像すれば・・・はぁうあ!!」
(こ・・・・・・・・)
こいつは・・・・・・・
1人その身を抱きしめ、体をクネクネとよじらせながら熱い吐息を漏らすこの巫女様を見て確信した。
――こいつは変人じゃない、変態だ、と。
もう勘弁してくれ・・・うちの妹達だけでも手一杯だってのに・・・
「うー・・・あー・・・、もうだったら固めてやるからそこに立ってろ。いいな?」
「はふぅいぃ・・・あ、律輝様・・・材質はあちらの石像と同じで・・・それと固める際には徐々に、お願いいたします・・・」
「あーはいはい分かったよ・・・」
適当にあいづち打って呪文の詠唱に取り掛かる。
――ほんとは俺、妹達に散々振り回されてるのもあって、自分では固め系状態変化魔法なんざ使いたくないんだがなあ・・・
「よいのか?うーいさ」
「はい、るーこ様・・・これもわたくしの罪を償うため。どうかそのまま見守ってくださいませ」
「分かった。ならば胸をはって受けろ。うーいさの勇姿はるーがしかと見てやるぞ」
るーこめ、黙って座って飲んでいればいいものを・・・
人が呪文唱えてる間に勝手にしゃしゃり出てきて、無駄に美しく収めようとしてんじゃねえよ。
「ブレイク!」「うっ!」
ほい、発動。FF系の石化魔法で十分だろ。
俺の呪文を受けた沙綺が、本人の希望通り徐々に足から石へと変わっていく。
「は・・・あぁ・・・」
――足首からふくらはぎへと石の侵食が進んで・・・いるのだろう。
同じように変わりつつある、袴の赤から桜色への変色具合から、その様子はなんとなく察することができた。
「はぁ・・・いい・・・たまりま、せん、この引き締まる感触・・・
ああ!もう足首まで!
あ・・・あ・・・駄目・・・まだ駄目・・・もっとゆっくり・・・あせりは禁物・・・です・・・」
・・・袴は全て桜色へと変わり・・・布地の柔らかさを失い、硬い石の質感を帯びる。
わずかな袴の隙間からは・・・同じように石へと変わったふとももがチラリと見えた。
「あ・・・はぅ!か、下半身が・・・固く・・・固く・・・
ひゃう!そ、そんな奥、までなんてそ、そんな・・・あぁ!でも!でもそれが、それがぁぁぁぁぁ!!!
はひゅう!も、もう駄目!い、イっちゃ――」
「やかましいわ!!もうとっとと固まっちまえ!!!」
未成年者(るーこ)がこの場にいるって事を自覚しやがれってんだ!
ってか、これ以上こいつを野放しにしてたら、ここの報告が18禁扱いにされてしまうわ!!!
即座に呪文を再構築し、石化スピードを最速に変える。
「そ、そんな律輝様!ごむたいな――」
不満を述べたその口ごと、一気に全身が桜色の艶やかさを帯びる。
「これは・・・」
完全に桜色の石像となり、淡く輝く沙綺にるーこが近づく。
「今にも倒れそうでギリギリの所を保っている、くだけた腰と足首。
はちきれんばかりの感情に呑まれ、たまらず身を激しくもだえ、両肩をぎゅっと抱きかかえたしぐさ。
潤んだ瞳と、今にも吐息が漏れてきそうに開かれた口。
己の感情をその身で包み隠さずあらわした姿――見事だぞ、うー。素晴らしい出来栄えだ」
・・・褒められて、これほど嬉しくない事もないな。
それとるーこ。頼むからもうこれ以上発言するの止めてくれ・・・2度とトゥハート2世界に来れなくなりそうだから。
ヒロイン達が石に変えられるというこの世界での事件は、当事者自らも同じく石になるという結末をもって、全てが解決した・・・・
と、これで終わるはずだったのだが・・・