作:狂男爵、偽
酷く永い夢が終わろうとしていた。
回りを囲むコンクリートの瓦礫に遮られ、愛しい人の姿はもう見えなかった。
そして探しにいこうにも、体はずたずたに引き裂かれ五体満足で息をしているのが、不思議なくらいの状態で、一歩も動けそうに無い。
「−−−−−−−−」
嗚呼、--が呼んでいる。すでに赤い血にまみれ、体の覆う鱗もほとんどがはげて目も虚ろな異形の怪人はズルリと己の体液に足をとられそうになりながら立ち上がった。
途端、背後に刺すような殺気がして振り返ると、壊れた楽園の破片の中で立っていた少女が暖かい笑顔を浮かべながら、引き金を引いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ、はあぁっ、はあっはあっ、夢!?」
叫びながら目覚めた少年は、右肩にある暖かい感覚を感じて呟いた。
ガタン、ガタンと音を立てて窓の外の風景が流れていく。
その銀髪の少年を乗せた列車はいつの間にかあの暗い森の奥は過ぎていて、朝靄に覆われたビルの点在する朝の街中を走っていた。少年が見慣れない風景に見とれていると、寄りかかっていた大人し目のワンピースの少女がもぞりと目を覚ました。
「ふぁぁぁ、だめだよりオ、ここは施設じゃないんだから、ちゃんとまわりの迷惑を考えないと。」
肩口で切りそろえた髪を揺らして子猫のような潤んだ小さな瞳を擦り大きなあくびをしながら、少女は言った。
「でもこの街には敵がいないんだろ、ならそんなに警戒しなくてもいいんじゃない?」
つい自分より幼いくせにお姉さんぶる少女に、少年は反発して言い返した。
「はぁ〜、わかってないなぁ、ここはリオがいたところとはちがうんだから、もう敵とかそういうのはあんまりかんけいないの!」
「どう違うんだよ、俺達がいてにんげ…もごっもごっ…ってなにすんだよっ、ばかっ!」
あやうく自分達の正体がばれそうなことを口走ろうとした少年の口を、小さな手で塞いで少女は周りを見回した。周りの座席には、休日出勤のためか疲れたサラリーマンがうとうとしていたり、
朝錬に向かうのか長い何かを抱えた黒い学生服の女学生が窓を見ていたりして、自分達に注意を払っているひとがいないように見えたので、少女は少年に振り返った。
「あのねぇ、もう少し言い方に気をつけてよっ!ここじゃあ私達の正体がばれると大変なの!」
「分かってるって、壊したり暴れたりしちゃだめだってんだろ、大丈夫さ!」
「じゃあ、これはどういうことなの?」
少年の目の前に突き出した少女の小さな手のひらは、冷たい灰色に染まって固まっていた。
「ああごめんごめんすぐに元に……」
何かをしようと少女の表面が冷たい石に変わった手のひらに顔を近づけると、少年の銀髪が短く切りそろえた綺麗な顔が写る銀色の何かに遮られた。
「そこまでだ、怪奇バジリスク男、石化現行犯で任意同行を願おうか?」
声に振り向くと、先ほどの黒い学生服の女学生がいつの間にか少年と少女の座る座席の正面に回りこみ、刀を構えていた。
固めマン第一話「怪人襲来」
「だから、私たちのことをちゃんと役場に確認して!」
何度目かの訴えを少女は繰り返した。
日差しの入らない薄暗い密室のなか、スタンドライトを乗せた机の向こうで、中年の男性は同じ答えを返す。
「だからその役場の連中があんた達がこの街の近付いてきてるって警告してきたってなんども言ってるだろ、それにそいつらがもうじき迎えに来てくれるさ。」
「ありえないわね、怪人に自分から近寄ってくる役人なんて!」
当然の少女の答えに中年の男は得意げな笑みで返す。
「しかたねぇなぁ、もうそろそろ来てるころだから教えてやるけどさ、この街にはそういう変わり者の役人がいるのさ、あんたらの天敵ってやつがさ。」
男のことばに少女はフーンとつまらなそうな返事をする。
なんだいその返事は、あっそうかお嬢チャンくらいの年の怪人はしらないのかもしれねぇなぁ、だがないるんだよ、怪人の脅威の力に対抗できる力を与えられて、俺達のために戦って……。」
「はいはい知ってるわよ、正義のヒーローとか名乗る目立ちたがり屋の馬鹿共でしょう、
リオの奴が憧れちゃってこまっているのよねぇー、」
「おいおい、ここにいる奴はテレビの作り事じゃねぇんだよ、実際俺達のために戦ってくれて…。」
「だから知ってるって、でも私達のいた施設に名前が響いてこないなんてとんだ潜りね、困ったわ全く。」
いちいち話を遮る少女に額に青筋を立てていた中年の男性は、聞き捨てなら無い少女の言葉に驚いて叫んだ。
「おいおいお前達は施設の脱走者かよ、じゃあつかまっても仕方ねえんじゃないか!」
「だから違うわよ、なんども言ってるでしょ、ちゃんと役場に私達のことを問い合わせて、
そしたらきっと……。」
少女の言葉は、突然響いた轟音に遮られた。
「おいおい勘弁してくれよ、まったくあんたのお兄ちゃんはとんだ分からず屋みたいだな。」
天井から埃が降り注ぐのに辟易しながら、中年の男性は愚痴った。
「馬鹿なこと言わないで、リオはとてもいい子よ、これはきっとあんたが今得意げにいってた馬鹿の仕業よ!」
「そうかもな、まあいいさ正義のヒーローの顔を拝みに行こうや、そうすればお嬢ちゃんも素直になるだろしな。」
その少し前。
「あの〜、いい加減この縄を解いてくれませんか、肩が凝っちゃって。」
薄暗い部屋で、人形のように整った容姿の銀髪の少年が木製の椅子に縄でぐるぐる巻きに縛られている。
人が見たら即通報する状況だが、取り囲む大の大人達は誰一人それを行わずただうっすらと恐怖さえ浮かべて少年を見張っていた。
「お前達怪人は人間にとっては脅威だ、怪奇バジリスク男、だからこうでもしないと
安心できない。」
ただ一人少年の正面に立つ黒い学生服の少女が、刀を少年ののど元に突きつけて告げる。
「それは分かってますって、だから大人しくしてるじゃないですか〜。」
「大人しくしてるのは変身できないからだろう、お前達怪人はいつもそうだ!」
「うう〜、変身したからって暴れるひとばかりじゃありませんよぉ〜。」
全く自分の話を聞こうとしない黒い学生服の少女に辟易しながら、リオは現状況を確認した。
自分を取り囲む数人の男女と体をきつく縛る縄。そして天井でカタカタと檻の中で暴れているイタチ、それらは少年が本気を出せば、大して脅威にならないことは分かっている、分かっているがしかし。
〜まいったなぁ、外の世界のものは勝手に壊したりとったりしちゃだめだって、ミサにいわれてるしなぁ〜
不意に顔をしかめた少年に黒い学生服の少女は、少年の頭上を指していった。
「変身しようとしても無駄だ、あのイタチがお前の力を弱めているからな。」
「ええ分かっています、ぼくじゃあ話にならないからリナに事情を聞いてください。」
怪人の癖に、物分りのいい様子に黒い学生服の少女は驚いて構えた刀をつい下げた。
「どうした怪人、観念したか、それとも隙をうかがっているのか。」
「いいえ、どちらでもありません、ここのことはよく分からないので困っているんです。」
「それは当然だ、お前は結社の偏狭な世界の中で生きてきたからな。」
「ええ気がついたらこんな身体にされていて、年下の女の子に弟扱いされて、その結社もこの間つぶされちゃいまして、白い建物に閉じ込められて四六時中僕を見てはぁはぁ言うおじさん達に体を触られて、今日やっと外に出てきたところなんですよぉ。」
事情を熱く語る少年の様子に多少引かないでもなかったが、黒い学生服の少女は殺気立った表情を心持緩めて少年に言った。
「ということはお前達は施設の脱走者か、ああまた秘密結社かと思っていたよ、だが運が悪かったな、もうすぐお迎えがくる。」
「だからちがうんですって、ミサがいうにはえーとなんだっけうら〜。」
少年の言葉を遮るように、大きな扉が轟音と共に跳ね飛んで少年のすぐ傍と通り過ぎて部屋の奥の壁にぶち当たった。
「はやく怪人からはなれろ、石にされちまうよ!」
叫びながら部屋に入ってきたのは全身レザーのバイクスーツのおんなだった。ヒーローにしては目つきがやたら悪いと、少年が思っているとソレが起こった。
「ひぃぃいぃぃっ、」「きゃぁぁぁぁ。」「いやぁぁぁ、」「くっ……っ………っっ……。」
短い悲鳴を挙げて、少年の周りを取り囲む人間が次々と石像と化していく。
「なっ、なんだ、いったい何が起こっている!?」
とっさにリオが人間離れした素早さで椅子ごと倒れ掛かって、かばった黒い学生服の少女が叫んだ。
「……っ、おねぇっ…、さんはぁっ、……いってたでしょっ……かい……じんは脅威だって。」
「ばかな、いままであの人は変身などしないでずっと生身で戦っていたんだぞ!お前はそれを知らないから?」
少年の肩越しに驚きと裏切りの悲しみにそまり石と化して立ち尽くす同僚の石像を見てなお、黒い学生服の少女は目の前の現実を認められないでいた。
「じゃあ、あれはいったいなっだっていうんです?」
少年が振り返った視線を追うと、レザーの女の背中に毒々しい色の羽毛に覆われた鳥のような翼が生え、薄闇の部屋の中、女の目が水色に光って見えた。
「見てしまっては生かしておくわけにはいかないねぇ、なぁにきにすることはないよ、こいつは丁度怪奇バジリスク男だ、濡れ衣を着せる相手にはことかかないよ。」
不気味な含み笑いをしながら歩いてくる女の威圧感に、黒い学生服の少女は椅子ごと覆いかぶさった少年の下から抜け出せないでいた。
そして、抜け出そうにも、少女にのしかかる少年が縛られたまま異常な力で押さえつけているため全く動けなかった。
「F22号あんたには施設への帰還指令が出てたはずだ、何でここにいる?」
「おやそれは聞いてなかったよ、だってあたいを四六時中監視してたあの女が何も喋らなくなったからねぇ……。」
いいながら女が重なるように倒れている少年と黒い学生服の少女の傍に辿り着いた。
そして、裏切りの悲しみを浮かべた少女とどこか達観したような笑みを浮かべた少年に女が毒々しい翼を広げ覆いかぶさろうとしたその時、部屋の入り口から声がした。
「はぁっ、なんでF22号がここにいんのよ、あんたの配置はここから西に百キロも向こうでしょうが?」
「だからあんたがわたしを追ってきた、ねぇそうでしょう……。」
「はぁー、なにいってんのぉ!何でわたしがF22号ごときでを追いかけてこなきゃらなないのっ?」
そんなやり取りを遮るように、少年が叫んだ。
「おっミサいいところに来た、こいつは悪い奴確定なんだし暴れてもいいんだよな。」
「駄目、F22号を鎮圧するだけにしなさい、あんたが暴れたら私達の居場所がなくなっちゃうでしょうが!」
「グルルルル、ワガッ…ダッ、ウグァァァァァァァァァ。」
「させるかぁー!」
不気味なうなり声が少年から漏れだして、小さな体が服の中で蠢きながら大きく鳴り出したので黒い学生服の少女は反射的に刀で切りつけて変身を遮ろうとした。だが、少年からわいた蒸気に黒い学生服の少女の体が包まれ、少女が動けなくなった。
「な……んだ、う……ごけ………な……くっ………。」
蒸気のなかで少女の黒い学生服と辺りに広がった長い髪は灰色に染まりながらパキパキと音を立てて冷たく固まり、少女の引き締まった手足は音も無くすぅーと指先から生気が失われて冷たい光沢に覆われて灰色の石に変わってゆく。
「させないよ、この地を這う蜥蜴風情がぁぁぁ!」
女は、叫びながら毒々しい色の翼を大きく羽ばたかせ石化の羽根を沢山飛ばした。
だが、それらは少年を覆う蒸気のなかで塵と化した。
そして、すでに生気が失われた学生服の少女の目が冷たい石になり倒れた少女は裏切りの悲しみの表情をうつろな冷たい灰色に染められて、完全に石化した。
文字通り地面の押し倒された姿で石化された学生服姿の女剣士。広がったまま灰色の石と化した髪のせいでまるで床に貼り付けにされたように見える。
「おいおい副団長が石化されちまったぞ、おい嬢ちゃんあんたまさか裏切ったのか?」
先ほどミサをを尋問していたくたびれた中年が隠れていた物陰から叫んだ。
「心配しなくても大丈夫よ、あれは固まった相手を保護する防護壁のようなものよ、後遺症も百パーセントないわ。」
「つまりアイツは要人誘拐用に調整された怪人ってわけだな。」
的確な中年の指摘に返事をせずに、ミサは煙が治まりトカゲ人間のような姿を晒したリオに対して檄を飛ばした。
「とっととアイツをとっ捕まえて、それと聞きたいことがあるから殺しちゃ駄目よ。」
「ワガッダ、ヤッデミル。」
しゃがれた声で返事をしながら、トカゲ怪人はすぐ傍に立っていたレザーの女に掴みかかった。
「わたしにさわるでないよ、汚らわしい!!」
レザーの女は甲高く叫びながら、ばさばさと毒々しい色の翼を激しく羽ばたかせながら天井近くまで舞い上がった。
「モグヒョー、ドンダ、オデモドブ。」
しゃがれた声を出しながら、トカゲ人間はたったまま腰を床まで器用に落として奇声を上げながら、天井近くを飛ぶ羽根の生えた女に向かって飛び上がった。
「薄汚い蜥蜴風情がぁ、死になぁっ!」
まっすぐ自分に向かって跳躍してくる蜥蜴人間にむかって、皮のブーツから不気味に光る黄色い三本指の鳥の巨大な爪をだして掴みかかった。
「ガアアアアアアアア、イダイ、イダイ、ハナジデェェェ!」
鳥女の狙いが誤らずトカゲ人間の両肩にゾブリと爪が刺さり、トカゲ人間は無様に悶えた。
「あはははは、トカゲ風情が空中戦をしようなんてハナからむりだったのさ、てめぇの馬鹿さ加減を思い知りなぁ!」
そういって、少年と取り囲んでいた人間が変化させられた石像の一角に叩きつけようと、掴んだ足を振り子のように、揺らして背中の翼を力強く羽ばたかせた。
「リオ、逃げてぇー。」
叫びながら、少女は懐に隠した超小型強力ライトをつけた。
「フン、お見通しさ!!」
女は叫び返しながら、少女に向かって翼に生えた羽根を何本かミサイルみたいに目にも止まらない早さで飛ばした。
「馬鹿野郎、逃げろ!」
同時に、物陰に隠れていた中年もたまらず少女を庇おうと飛び出した。だが、中年が少女の元に辿り着いたと同時に石化羽根が二人を直撃した。
「きゃっ!」少女の短い悲鳴が聞こえて、床に着弾した石化羽根のために舞い上がった埃が二人の姿を隠した。
「ミナ、ミナ、ダイジョウブカ、ミナ、ヘンジシロ!」
蜥蜴人間の呼びかけもむなしく、埃がおさまると二人とも物言わぬ石像と化していた。
少女は飛んでくる羽根に怯えとっさに目を閉じた表情で冷たく凍りつき、顔を庇ってかざしたまま石と化した
細く小さな腕に刺さった石化羽根と内股にこわばったまま固まった細い足が少女の恐怖と苦痛を示していた。
「あはははは、無様だねぇ、怪人は変身しなきゃただのひとなのにねぇ。」
甲高く笑う鳥女と対照的にトカゲ人間は鳥女の足の爪に食いつかれた肩の瑕の痛みと、姉代わりの少女の石化したショックでぐったりと動かなくなった。
「アア、ミナー、ミナガー、ミナー。」
でかい図体をして情けない声で様子で泣くトカゲ人間に辟易しながら、この場に見聞きできる人間がいないことを確信した鳥女はさっきと様子を変えていった。
「一度しかいわないからよく聞きな、あたいのボスがあんた達に会いたがっている、黙ってついてくるなら、
あの子も元に戻してやろうじゃないの?」
「オデムズカシイコト、ワカラナイ、ミナに聞かないと。」
「はっ、馬鹿は嫌いだね、一度痛い目に会わないとわからないからね!!」
女の言葉を聞いてトカゲ人間の様子が変わったことに気付かずに、もう一度翼を力強く羽ばたかせ、少年を包囲していたまま石化した男女の一角にトカゲ人間を叩きつけようとして、振り子のように足を振ろうとして自分の足が動かないことにはじめて気がついた。驚いて鳥女が見下ろすと、トカゲ人間の肩に突き刺さったまま巨大な鳥の足の爪は石と化していて、変化はレザーのパンツを履いた女の膝を超えて、太ももを制覇しつつあった。
「なにぃー!耐石化ワクチンが受けいるはずなのに、なぜだ!」
「それはっ、おばさんの、石化毒で作ってるんでしょ!残念…でした、僕の石化毒はっ。ミナがっ趣味で…勝手にっ、色々混ぜているから……効かないよ!」
しゃがれた声の振りをやめて、トカゲ人間は痛みに耐えながら石化毒に犯されて半ばからだの自由を失った鳥女の向きを変えて、石像のいないところへ向きを変えようとした。
「くっ…きさま、この……てい…どでっ、かっ……たつもり……かっ!」
鳥女は呻きながら、既に毒々しい色を失い半ばまで石と化した翼を動かしながら、せめて前科を作って施設から出れなくしてやろうと、床に倒れて石化された学生服の少女に向かって落ちるように、向きを変えた。足元から石化したのが災いしたことに気付いたトカゲ人間は、石と化した引き締まった下腹部から豊かな胸の頂へと石化の変化が広がる鳥女の体を下から見下ろしながら、叫んだ。
「なっ、おばさん、よけいなっ…つっ…ことしないでよ、あとでミナに、くぅ、怒られるー。」
「おもい、しれ、トカゲ、や、ろ、ぅ……。」
なおもがきながら、とり女の向きをかえようとするも痛みのため力が入らず、そのまま学生服の少女の上空に来てしまい、鳥女は苦しげな笑みのまま悪党顔が石化して羽ばたきがやんで落ちた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ。」
叫びながらも、トカゲ人間は痛みで朦朧とする意識をまとめて、足を大きく開いて学生服の少女の石像を踏まないように必死で避けようとした。
二たび、轟音が建物に響いた。
「へぇーリオ君やるじゃない、さすが男の子ね!」
ゆっくりと、自分の肩に食い込んだ鳥女の石像を床に下ろしたリオに忌まわしい声が来た。
「なんでお前がここにいるんだよ、確か念願の施設に就職できたんだから、もうここをにどとはなれることはありませんっていってたじゃないか?」
床に横たわり、小さな少年の姿になって石化した鳥女の爪から逃れたリオは嫌々声に振り向いた。
「それがね、横暴な上司の命令でこんな薄汚い街までとばされちゃったの、よかったねリオ君、私達一緒にいられるよ。」
いいながら、こつこつと足音を立てて迫るヒールに少年を戦慄を覚えた。
「そうか、じゃあそういうことで。」
いいながら痛みと疲労と恐怖で動けないからだに鞭打って、少年は必死にその女から逃れようともがいた。
「うふん、だめじゃない、はぁはぁはぁ、けが人はおとなしくしておかないと、ミ、サ、ちゃん、に、お、こ、ら、れ、ちゃう、ぞ!」
目の前で止まったヒールの間から見える石化した少女の像には、この女を止めることが出来ない。
そして、虫も殺さないような白く細い手と、かすかに赤く染まったその女の恥じらいを含んだ暖かい笑みと、
「さあ、リオ君、お手当てしましょうね。」
リオにとって事実上の死刑宣告に、絹を引き裂くような痛ましい少年の叫びが辺り一帯に響いた。