黄金神殿(前編)

作:狂男爵、偽


 ソレは、深い地の底で静かに眠っていたが、掘り起こされた。

「願い?そんなもの自分でなんとかしますわ、私は商談の話をしてるんですの、値を吊り上げたいのだったら、もう少しましな話をなさい。」

 その言葉が、ソレを現在所有する人の生き方だった。ソレはゆっくり力を蓄え、侮辱に対する復讐の機会を窺っていた。
 その日不運なことに、春奈達は水泳の合宿を兼ねて部長の別荘に来てしまっていた。中央に西洋風の全裸の男性の大理石像を設置した豪華なプールで、彼女達は一応競泳用水着に着替えはしたが、用事で部長が席を外したので好き勝手に寛いでいた。
 黒髪を腰まで伸ばした、均整の取れた体つきのおっとり気味の娘の春奈は、長いいすにのんびり寝そべっていた。肩まである黒髪を後ろで一本にくくったスレンダーの娘の秋は、泳ぎ疲れたので、プールの浅瀬に上がって、プールサイドの向かっていた。その後ろで、少々むっちりした体付きの巨乳でショートの娘の夏穂は、ただ一人黙々と彫像の周りをぐるぐる泳いでいた。夕べ一番食べた事とは無関係ではないのだろう。その様子を楽しそうに見つめていたツインテールのつるぺたで同年代より幼げな容姿の娘の冬香は、寂しげな笑みを浮かべて言ってしまった。

「あーあー、のんびり部活なんかしてられるのは、この夏休みまでか、私たちずっとこのままでいれたらいいのに。」

 真夏の太陽の光が反射したのか、プールの中央の男性の像の目が光ったようだった。その時きらきら光る埃のようなものが、プールの水に混じり始めた。その粉は、僅かずつ夏穂の体や、秋の足元の周りに現れていた。そして、何処からか飛んできた金色の蝶のようなものが燐粉のようなものを撒きながら、春奈や秋の背後に忍び寄っていた。
 ヒタリ、そのうちに一匹(?!)が白くて細い冬香の首の後ろに張り付いた。そいつはそのまま冬香の体に癒着するように、艶やかに輝く金色の染みになった。

「いやぁぁぁぁぁ。」

 冬香は全身が、凍り付くような寒気に襲われて悲鳴をおもわずあげた。冬香の手足は、力が入らずプールサイドに腰掛けた姿でもう動けなかった。

「どうしたの、冬香、大丈夫。」

 秋は心配そうに冬香に呼びかけた。冬香の顔色はかすかに青ざめていた。夏穂も立ち泳ぎになって、心配そうに冬香の様子を窺っていた。そして彼女達の周りの埃のようなものが急に視認できるほど増えた。そして夏穂のつま先や、秋の手足の指先から純金に侵食が始まった。

「つっ冷たい、何だよコリャ。」

 夏穂の手足の指先が全て、山吹色の輝きに包まれた。そして黄金の侵食は夏穂の手のひらや足の甲に広がってゆく。その変化と比例して、夏穂の手足の力が抜けて抜けて、体がその重みでゆっくり沈み始めた。

「夏穂いま助けるから。」

 秋は起き上がってきた春奈に冬香のことを目配せで、頼むと夏穂の方へ振り向いた。その瞬間、秋の足のつめの先の金色の染みは一気につま先に広がった。

 「あれ、動けない、なんで。」秋はおぼれている夏穂に真っ直ぐ手を伸ばしたまま、体が言うことを利かなくなった。その手の指先からも艶やかな黄金の輝きが放たれていた。

 「何これ、みんないったいどうしちゃったの。」

 春奈は冬香だけでなく、周りのみんなの様子がおかしい事に気が付いた。その視界にちいさな冬香のうなじが艶やかな純金の輝きに犯されているのが見えた。冬香はぴくりとも反応しなかった。

「みんな、冬香チャンの様子がとても変よ。」

 動揺のあまり変な日本語を叫んだ春奈は、プールの仲間のほうを見た。プールの浅い所で呆然と立ち尽くした秋の小麦色のスラリと伸びた足はふとももの半ばまで、艶やかな純金に変わっていた。プールの真ん中では、夏穂が苦痛の表情でゆっくり沈んでいく。最後の力を振り絞ったのだろうか、右手が、上に向かって伸ばされた。しかしその手はすでに何かをつかもうとした形で、肘まで黄金の彫刻に変わっていた。

「キャァァァァァ。」

 春奈の絹を裂くような悲鳴はすぐに途絶えた。おとなしそうな春奈の恐怖に染まった顔の大きく開いた口に、大量の金色に光る燐粉のようなものを纏った例の蝶が飛び込んだためだ。

「ぁぁぁぁぁ」

 凍りついた春奈は、自分が内側から、ゆっくりと冷たい金属に犯されてゆく感覚に恐怖した。その春奈の白い肌や体を包む紺色の水着にぽつぽつと小さな金色の染みがいくつも浮き出てきた。それは、ゆっくり広がり始めた。
 圧倒的な寒気に縛られた小さな冬香の体は、もうピクリとも言うことを聞かなかった。その背中をことさらゆっくりと紺色に水着ごと蝶の形の艶やかに輝く純金の染みが広がってゆく。幼げな冬香の顔は、悲しみに染まっていた。

〜私が、あんなこといったからなの、〜

 冬香の脳裏に遠い国の御伽噺が浮かんで消えた。そして、黄金の侵食は、冬香のちいさな肩や腰までその触手を伸ばし始めた。肩まであるツインテールも先から、じわじわ純金の彫刻に変わり始めた。

「誰か、誰か助けッッッ、ゴボゴボゴボ。」

 ゆっくりと夏穂のくるしげな顔は水の中に吸い込まれた。ショートの髪は半ばまで、金に変わったため、下向きのままだった。右手は上に上げたまま肩まで金の塊になった。左手は力なく水の中でゆれながら、山吹色の輝きに犯されていった。むっちりした両足は完全に文字通り濡れたように輝く黄金の彫刻と化した。その金化した足がプールの底についた。

「夏穂、夏穂、ごめん、ごめん。」

 秋は目の前の友人の危機に何も出来ずに、苦しんでいた。すでにすらりと伸びた足は、夏穂に向かって踏み出したまま艶やかに輝く黄金の彫刻に変わっていた。前に真っ直ぐ伸ばされた両手は肘まで黄金に犯されていた。背中の一本にまとめた髪は薄っすらと金の色に染まり始めていた。そして、ほっそりした紺の布に包まれた下腹部に純金の侵食が及ぶと、秋の目は白く霞み、白い顔色は赤く染まり熱い息が漏れ始めた。

「ぃゃ、ぃゃ、ぃゃ、ぃゃ、」

 春奈の弱弱しい拒否の呟きを、味わうように、体中にできた純金の染みはゆっくり春奈の白い肌や水着を蹂躙していた。恐怖に凍りついた、春奈の顔にも、金の斑点が現れはじめた。すでに白かった手足は黄金の染みに犯され尽くして、きらきら輝く純金の彫刻に変わっていた。均整のとれた体は、紺色の水着事、大半が艶やかに光る純金に侵食されていた。遠い出口では、なにか部長とメイドさん達が激しく言い争っていたが、だれも気が付かなかった。

〜わたし、こんなことのぞんだんじゃない、ちがうの、ちがうの〜

 冬香は、目の前の悲惨な光景を見せられながら、必死に叫んでいたが、驚きのまま凍りついた人形のような冬香の顔は何一つ動かなかった。春奈の小さな背中を征服した純金の染みは、細い手足に容赦ない触手を伸ばし始めた。そして春奈の紺の競泳水着に包まれたささやかな胸や下腹部に、まるで原生動物に飲み込まれるかのように、脇や肩から背中の純金の染みが広がってゆく。

〜空が遠い、わたしもう駄目かなあ〜

 夏穂のむっちりした手足からはってきた、艶やかな純金の輝きは、すでに、紺の水着ごと胸の豊かなふくらみや下腹部を侵食しつくして、絶望と諦めの混じった夏穂の表情を空ろな金の彫刻に半ばまで変えていた。すでに夏穂の大半の感覚は失われ、うつろな瞳が水面にゆらめく夏の太陽を写していた。そして、夏穂はプールの底できらきら輝く純金の少女の像になった。右手を真っ直ぐ上に伸ばして空を見上げた空ろな表情は未だに助けを求めているように見えた。

「ナツホ、ナツホ、ナツホ、ナツホ、ナツホ。」

 艶やかに輝く黄金と甘い快楽に体を犯された秋は、こわれたラジオのように夏穂の名前を繰り返し呟いていた。もう心を快楽に染められた秋は自分が、何を言っているのか、何をしようとしていたのか分からなかった。そして元は紺だった水着に包まれたスレンダーな秋の体を這い上がった純金の変化は、だらしなく快楽に染まった秋の顔を犯していった。夏の太陽に照らされて艶やかな輝きを放つ純金の秋の像。そのうつろな瞳には、真っ直ぐ伸ばした腕の先のゆれる水面の下で、変わり果てた夏穂の姿が映っていた。
 もう春奈は、呟くことすら、出来なかった。悲鳴をあげるために、大きく開かれた口の中は、全て濡れた黄金の輝きに犯されていた。
 春奈は恐怖に染まって絶叫した姿で、艶やかに輝く純金の塊に変わった。

〜みんな、ごめんね〜

 冬香は意識はそのまま、悲しみの涙を流している瞳をのぞいてちいさな体は水着ごと、プールサイドに腰掛けた姿で純金の彫像に変えられた。その黄金の冬香の幼げな顔に例の彫像にそっくりの全裸の男の顔が映った。

「さあ、望みどおり永遠の時を与えてやろう。」

 ソレは、恐怖に染まった冬香の目に直接一回ずつ口付けをした。
 ソレが、顔を離すと、冬香の瞳は意思の輝きを保ったまま、金に変わっているのが見えた。ソレは、そのまま黄金の彫刻に変えられた体の中で叫ぶ冬香の魂の哀願を無視して、いつの間にか隔壁で閉鎖された、更衣室の入り口の向かって悠然と歩き始めた。

続く


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