遊戯王デュエルモンスターズASFR 第一話 『闇のゲーム』

作:究極のD


―――デュエルモンスターズ

それはゲームデザイナー、ペガサス・J・クロフォードによって生み出されたカードゲームである
互いのプレイヤーは4000のライフと5枚を持ち
1ターンごとに交替で行動を行い、モンスターや魔法、罠を使用
最終的に、相手のライフかデッキを0にした方が勝ちというのが基本的なルールだ。
カードの種類も多く、戦術も奥が深い為、子供から大人まで数多くの人々の心に浸透しており
デュエルモンスターズを扱える者は、親しみを込めてデュエリストとよばれていた。
今や、世界的に人気なゲームの一つと言っても過言ではないだろう。


しかして、このゲームには裏の顔がある。
ペガサス氏が、古代エジプトの儀式を元に作成した故なのか
デュエルモンスターズは、闇の魔力と深く共震する事がある
ひとたび、ゲームに闇の魔力を持つアイテムを介せば
それは、命と命を賭けた決闘となる。

人はそれを忌み嫌って―――『闇のゲーム』と呼んだ



とある町のカードショップ、『鶴のカード屋』
店内にあるデュエルスペースので一組の少年少女がデュエルモンスターズで対戦をしていた。
少年の方は黒い髪に赤いバンダナをしている。名前は青木 海(あおき かい)。
もう一方の少女は、長い瑠璃色の髪をしており、少し幼さを残した風貌だ。名前は平泉 椎奈(ひらいずみ しいな)。
共に同じ中学に通い、同じクラスである故に仲が良く。よくこうして2人で対戦していた。

「モンスター1体を生け贄に捧げて、『ブラック・マジシャン・ガール』召喚!」
勢いよく宣言した椎奈は、腕に嵌めたデュエルディスク―――どこでもソリッドビジョン
のデュエルを楽しめる装置―――
その板のような部位にカードを1枚置く
と、電子音と共にディスクにカードが読み取られ、中央のレンズのような場所から光が溢れる
光の中から大きく投影されたカードが現れる
『はぁ〜い♪』
更にそのカードの中から、愛らしい姿の魔法少女が出て来る
露出の高い魔導着と、短い杖を携えた金髪の魔術師見習い。ブラック・マジシャン・ガール。
「カイに直接攻撃!『黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!』」
『ん!!』
椎奈の命令に軽く相槌を返し、その杖先に魔力を貯める
そして発生した桜色の炎を、海に向けて叩きつける
『ぇぇえいっ!!』
「うわっ!?」
桜色の爆発が海を襲い、ディスクから擬似的な衝撃を受ける
と、同時に
ディスクに付いているライフカウンターが減って行き―――やがて、0を示した

「やったぁ!あたしの勝ちぃ!」
「くそー、これで今日は負け越しか…」
負けて軽くショげる海
そこへ、店のカウンターにいた男性が声をかける
「はっはっは、惜しかったねぇカイ君。でも、面白いデュエルだったよ」
前掛けを着て、微笑みを浮かべている初老の男。
彼は鶴田 善(つるた よし)。『鶴のカード屋』の店長である
その一方で
椎奈が、カウンターに寄りかかっていた1人の女性へと駆け寄っていく
「冥姉ぇ!どうだった?」
「ああ、落ち着いたプレイングだったよ。よく頑張ったね」
腰まである長い黒髪と、落ち着いた雰囲気をした高校生相当の彼女は、逢真 冥(あいま めい)。
彼女は店の常連で、同時に海や椎奈の先輩である。
2人にデュエルモンスターズを教えたのも、彼女だった。

「あ、もう7時半か…長居しちゃったな」
ふと、ショげていた海が、店内の時計を見て呟く
時を忘れてデュエルをしていたせいで、外はもうすっかり夜になっていたのだ
「じゃあ店長、また明日来るぜ」
「ああ、待ってるよ」
「冥姉ぇも一緒に帰ろ?」
柔らかい笑顔でそう誘う椎奈。
しかし、冥は少し苦笑してから首を横に振った
「…ごめんなさい。今日はちょっと、店長と大事な話があるのよ」
「えー、今日のデュエルについて教えて貰おうと思ったのに…」
「仕方ないだろ椎奈。帰ろうぜ」
残念そうな声を漏らして、頬を膨らませる椎奈。
そんな彼女を海が宥めつつ、2人は店を後にした。



店から歩くこと数十分
2人は高層マンションの前で別れる
親の都合から、海はこのマンションで一人暮らしをしている。
対する椎奈も一人暮らしをしていて、ちょうど隣のマンション。
自然と中学の登下校は一緒となり、2人の仲が良い一因となっていた。
「じゃあな、椎奈。また明日学校で」
「うん、またね〜」
手前のマンションの中へと入っていく海を見送り
椎奈も自分のマンションに帰ろうと踵を返した
―――その時。
「そこのデュエリストさん…」
「え?」
後ろから、澄んだ声が椎奈を呼び止める
振り向くと、1人の女性が立っている。
ほっそりとした体躯、端然な顔立ちとサラサラした銀の髪
淡い水色のブラウスに、紺色のスカートを履いて
そして、首には大粒の紫水晶に紐をかけた簡易なペンダントがかけてあった。
総合して、その容姿と装いはとても美しく
同性のしいなでさえ、暫しのあいだ見惚れてしまった程だ。
「クス。ごめんなさい、驚かせちゃったかしら?」
「あ、いえ…」
女性から再び声をかけられ、椎奈はハッとなる
それと同時に、いくつか疑問が浮かび上がってきた
「あの、なんで私がデュエリストってわかったんですか?」
「わかる人には一目瞭然よ。あなたの腕についているそれは飾りかしら?」
そう言われて、自身に腕に目を落とすと、『ああ』と納得する
デュエルディスク…店でデュエルした時から付けっぱなしだったようだ。
気付かなかったのも無理はない。
最近のデュエルディスクは展開時はともかく、収納状態だと少し大きな腕輪程度のサイズと重量しかない
時代毎によりコンパクトになってゆくのは、最新鋭機器の性であろう
「でも、これがデュエルディスクって知ってるって事は…あなたも?」
「御名答よ」
示すように翳された片腕には、自分と同じデュエルディスクが装着されていた
つまり、彼女もデュエリストであるという証―――
「名前も知らない初対面の私達が、こうして偶然に出逢ったのも何かの縁…どう?一勝負やっていかない?」
「うーん…」
しばらく、椎奈は考えこむ。
時刻は既に8時を廻ろうとしていおり、あまり中学生が出歩くべき時間ではない。
しかし、元より一人暮らしの彼女にとって、それは対した問題にならない
なにより、椎奈はこの女性自身に少し惹かれ初めていて
答えが出るのに、そう時間はかからなかった。
「わかりました。じゃあ一戦だけ」
「ええ…嬉しいわ」
この時、女性の顔に冷ややかな笑みが浮かべれた
その顔に一瞬、背筋がゾクリとなった椎奈だったが
女性は直ぐに元の朗らかな表情に戻り、椎奈もとりたて訝しむ事はしなかった。


マンションとマンションの間にある公園。
その端の方にある広場で2人は向き合った
「自己紹介が遅れたわね…私の名前は氷室 玲(ひむろ れい)」
「平泉 椎奈です。よろしくお願いします」
「ふふふ、よろしく、椎奈さん…」
互いにデュエル前の挨拶を行う
そしてデッキをディスクにセットし―――玲がある提案をする
「さてルールは通常通りだけど…ちょっとした趣向を凝らそうと思ってるの…」
「ちょっとした趣向?」
「今はまだ秘密よ、デュエルをすればいずれわかる…さぁ、始めましょう?」
「はい!」

「「デュエル!」」

同時にそう宣言すると、デュエルディスクが呼応する
中央部の液晶にライフを表す『4000』の数字が浮かび上がり
モンスターや魔法、罠を置く場所に光が灯り
それを合図にして、2人ともデッキから5枚カードを引き、手札とした。
「…先攻は椎奈さん、貴女に譲ります」
「じゃあお言葉に甘えまして、ドロー!」
一番最初にドローしたカードは…自分のデッキのエースカード『ブラック・マジシャン・ガール』
幸先が良いと、思わずほくそ笑む。
しかし、先攻1ターン目は相手に攻撃出来ないし、ブラック・マジシャン・ガールを召喚するには生け贄が一体必要
それならばと―――
「私は『サイバー・チュチュ』を攻撃表示で召喚!」
『…(ペコリ)』攻撃力:1000
椎名の出したカードから躍り出たバレリーナは
髪は桜色、青色のゴーグル越しにあどけない顔を覗かせており、赤と水色に色分けされた全身レオタードを着ている。
「続けてリバースカードを一枚セットして…ターン終了です」
椎名がチュチュの後ろに裏側の魔法か罠を一枚、仕掛ける
正体は罠カード、『炸裂装甲(リアクティブアーマー)』
攻撃してきた相手モンスター1体を破壊する。簡易かつ強力な、罠。
これでサイバー・チュチュを守り、次のターンにはマジシャン・ガールで一気に攻める算段だ


「では、私のターンね…ドロー」
静かな動作でカードを引く、玲
「……っ?」
その際、椎奈は不意に寒気を感じた
今の季節は夏、それなのに、まるで冬のように空気が冷たくなる
「き…霧!?」
と思っていたら、いつの間にか2人の辺りに濃い霧が掛かっていた
ソリッドビジョンではない。その冷たさは本物
「ふふふ、楽しい趣向の始まりよ…」
玲へと向き直ると、彼女は冷ややかに笑んでいる
先ほど一瞬だけ見せた、妖艶な微笑みを―――
「私は手札から、『ブリザード・ドラゴン』を召喚…」
『グギュァァァ!!』攻撃力:1800
雄叫びをあげて現れるのは、青い皮膚を持つワイバーン型の竜。
全身を冷気で纏っており、それがよりいっそう辺りの空気を冷たくする。
「さ…寒い…?ソリッドビジョンなのに…」
「当然よ。今の私達にとっては『現実』なんだからね」
「どういうこと…?」
「すぐにわかるわよ…手札から魔法カード『スタンピング・クラッシュ』を発動!」
セットされて即ソリッドビジョン化したそのカードから、
ブリザード・ドラゴンに力が注がれる
『グギュゥウゥ!!』
「このカードは、自分の場にドラゴン族がいる時に発動できるの…
竜の踏みつけによって魔法・罠カード一枚を破壊、なおかつ相手に500のダメージを与える!」
「!…除去とダメージを同時に行えるの!?」
「そういう事…行きなさい!ブリザード・ドラゴン!」
主の命に従い、ドラゴンは腕の皮膜を広げて飛び上がり、サイバー・チュチュの上を通り越す。
そして、その後ろに伏せられたカードの上に勢い良く着地することで、
『炸裂装甲』は発動することなく粉砕された。
「そして、500ポイントのダメージ!」
『グギュア―――ッ!!』
一瞬、ブリザード・ドラゴンが喉を大きく膨らませたかと思うと
椎奈に向けて、真っ白なブレスを吐きつける
「っあ!つ、冷たいっ!?」LP 3500
触れたブレスは、周りの冷気とは比にならない冷たさで、思わず目を閉じる。
まるで吹雪の山に放り出されたかのような感覚が襲ってきて。
しかも、椎奈の耳には『ピキピキ』と妙な音が聞こえた。
「十分よ。戻りなさいブリザード・ドラゴン」
『グギュ!』
ブレスを吐き終えたドラゴンは、行きと同じく皮膜を広げて玲の隣に舞い戻る
その合間に、やっと目を開いた椎奈は―――体の異変に気付く
「ぇ…?」
全身の、至る所が霜で覆われている
特に足は、粉砂糖をまぶしたように真っ白くコーティングされ
地面から全く離れなくなっていた
「嘘!?なにこれぇ!!」
動かそうとしても、しっかり固定されているかのように動かない
もはやソリッドビジョンと言えるレベルではない
所詮、映像は映像。普通ならこんなふうにプレイヤー行動が阻害されるわけがないのだから
「ふふふ。良いわ、その困惑した反応…ゾクゾクしちゃう」
「れ…玲さん!これはいっ…いったい!?」
椎奈は余りの寒さでガチガチ震えながら問い詰める
対する玲は、その微笑みをより妖艶にさせて、話す
「椎奈さん、闇のゲームって御存知?」
「っ…闇の…ゲーム…?」
聞いたことはあった。
闇の力で執り行われる禁断のゲームであり
対戦者は、命と命を賭けて戦わなくてはならない、ゲームとは名ばかりの死の儀式だと
「で…でも、闇のゲームなんてただの噂じゃ…それに闇のアイテムが必要だって…」
「残念ながら、それは真実……その証拠に、闇のアイテムならここにあるわ」
そう言いつつ玲は、首に掛けていたペンダントを手にとってみせた。
試合前、ただの紫水晶に見えたそれは…ドス黒く、変色していて
耳をすませば、微かに鼓動する音が聞こえた
「これはね…ある特殊な法で闇の魔力を結晶化させたもの…つまり闇そのものなの…媒介として十分な役割を果たすわ」
「!」
恐怖でが出ない。
非常識だとか非ィ科学だとか、言いたい事はいっぱいある。
しかしながら、恐怖と、何よりも氷の冷たさが、それを現実と認めざるを得なくさせていた。
「うふふふ…震えちゃう姿も可愛いわね、椎奈さん…なおさら弄くりたくなっちゃったわ」
「うっ…!」
「続けていくわよ!ブリザード・ドラゴンで攻撃!」
攻撃宣言が下されたことで、再び動き出す青い翼竜
体をのけぞらせながら、大きく息を吸い込む
喉が張ち切れそうなほどに大きく膨んで―――
『グブブ…ブフォォォォォ――――――ッ!!』
吐く。
圧倒的な量の白いブレスを吐く。
目標はサイバー・チュチュ
『っ…ぁああっ…!』
「サイバー・チュチュ!」
なすすべもなくブレスを浴びてしまうチュチュ
ブレスは椎奈のフィールドがホワイトアウトするほどに充満した―――

たっぷり十数秒後、ようやく視界が晴れると
そこには、青白い氷像が、一体。
凍てつく氷の息で凍結させられた、サイバー・チュチュのなれの果ての姿
霜に着飾られ、氷の表皮に覆われたその肢体は、皮肉にも美しかった
しかしその美しさも、亀裂の入る音で儚く終わりを告げる
急速に凍らされた為に、内部から皹が入って行き
数瞬後、
『パキィ―――ン…』と甲高い音と共に、体が粉々になって崩れ落ちた
「チュチュ…あぅぅっ!?」LP 2700
戦闘ダメージでライフが削れた瞬間、再び激しい悪寒に襲われる
『まさか』と下を見れば、
足を覆う霜が上昇し、股の途中までを白く染め上げて行くところだった
「ええ…!?」
「言い忘れていたわ…この闇のゲームでは、お互いライフが削られる度に体が凍り付いて
いく…」
「そ、それって…もしライフが0になれば…」
「察しがいいのね。
そう、敗者は身も心も凍り付いて…美しい氷象になるの…」
「そんなっ!?」
「…ふふふ、さぁ続けましょう。闇のゲームは始まったばかりよ…!」



《続》






今日の最強カード達


『ブラック・マジシャン・ガール』 闇属性 魔法使い レベル6
 攻撃力 2000 守備力 1700
自分と相手の墓地にある「ブラック・マジシャン」と「マジシャン・オブ・ブラックカオス」の枚数だけ、攻撃力が300ポイントアップする。


『サイバー・チュチュ』 地属性 戦士族 レベル3
 攻撃力 1000 守備力 800
相手フィールド上に存在する全てのモンスターの攻撃力がこのカードの攻撃力よりも高い場合、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。



『ブリザード・ドラゴン』 水属性 ドラゴン族 レベル4
 攻撃力 1800 守備力 1000
相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択する。選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズまで攻撃宣言と表示形式の変更ができない。この効果は1ターンに1度しか使用できない。


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