作:七月
「く……ああっ!」
その身に巨大な衝撃を受けて、箒の体が大きく弾き飛ばされた。
箒は空中でIS『紅椿』のウイングをフル展開。体を回転させ何とか空中にその身を押し届ける。
「何んだ……こいつはっ!」
今、箒がいるのは学園の闘技場、その上空。
そして目の前にいるのは謎の黒い機体。
突然現れたそれは、闘技場にてISの稼動模擬練習であった箒たちにいきなり襲い掛かって来たのだ。
不意をつかれながらも最初は箒、セルシア、鈴、シャルロット、そしてラウラの5人の少女は敵に対して何の遅れをとることも無く激闘を繰り広げていた。
だが……
「くっ……」
箒は空から闘技場の地面を見た。
そこには2体のIS。『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』と『シュヴァルツェア・レーゲン』の姿。
そして、それらを身に付けたまま石と化しているシャルロットとラウラの姿だ。
身に付けたISや服は所々が破損しており、一部にその裸体が露わになっている。
機械の鎧に包まれた2人の石像は無残にもこの戦いの敗者として闘技場に横たわる事となってしまっていたのだ。
そして……
「きゃあっ!」
「鈴っ!」
さらにひとつの悲鳴が箒の耳に届いた。見れば、黒い機体のすぐ近くにてIS『甲龍』を身に纏った鈴が黒い光に貫かれていた。
これだ。
敵がこの黒い光を放つようになって状況が一変したのだ。
5人の戦闘能力は敵に負けず劣らず……むしろ凌駕していると言っても良いくらいであったのだが、敵がこの黒い光を放ち、ラウラを一瞬で石に変えてしまってからは最早完全に敵の独壇場だった。
次いでシャルロットが光に貫かれ石と化し、たった今も鈴が……
「う……あ……」
パキ……パキパキッ……
鈴の肌が石へと変わっていく。それは瞬く間に全身へとおよび……
パキィ
完全に石像と化した鈴が落下していく。そして、地面に激突し轟音と共に砂煙が上がった。
「鈴……」
そこには空中で石にされた時と変わらぬ姿の鈴がいた。
落下の衝撃でISや服にはシャルロットやラウラ同様破損が見られたが、どうやら鈴本体は無事なようだった。
いや、石化している時点で無事ではないのだが……
「よくも鈴さんを!」
「セシリア、待……」
箒が呼びとどめるより先にセシリアが攻撃態勢をとる。
無数のビットに命令を出し、レーザーの一斉射出。さらにはその手に構えた大口径特殊レーザーライフル『スターライトMk-3』からのレーザー放出。
セシリア操るIS『ブルーティアーズ』の火力を集中砲火した。
だが、黒い機体はそれらを難なくかわしてみせる。
「そんなっ!」
さらにはそのレーザーの合間を縫うように一瞬でセシリアに肉薄し……
「っ!?」
ゴアッ
と、黒い機体からはなたれた漆黒の光がセシリアを貫いた。
「そん……な……」
光がセシリアを貫くと同時に今までの3人と同様の変化がセシリアに訪れる。
「体……が……」
体が固く、冷たく変化していく。
「石……に……」
灰色に……無機的に……
ピキィ
セシリアは石化してしまった。そのままセシリアはたまたま下を飛んでいた箒の元へと落下していく。
「くっ」
箒はそれを何とか両手で受け止めた。
このまま落下しても大丈夫だとは思うが、流石に目の前に落ちてきてそれを見過ごす事はできなかった。
受け止めたセシリアは最早人間の柔らかな体温を備えた体ではなく、冷たく固い石のそれへと変化してしまっていた。
「本当に……なんなんだこれは」
人が石になるなんてわけが分からない。
狼狽している箒の前へ、容赦なく黒い機体は近づいてくる。
「く……おおっ!」
箒は片手でセシリアの石像を抱えつつ、もう一方で刀を抜いた。
だが、当然そんな物で黒い光は防げない。黒い機体から放たれた光は容易に箒の体をも貫いた。
「あ……」
光に貫かれ、えもいわれぬ感覚が箒を襲う。
体の中から冷え切っていく感じ。体の芯から石へと変貌していく感じ。
(これが、石化……)
この瞬間、箒の頭の中に声が響いた。この声はどうやら敵が流し込んできているらしい。
(ISのエネルギー伝達を行っているのはナノマシンだ。この黒い光はそのナノマシンを狂わせる。本来伝達手段でしかないナノマシンに物質変換の命令を上書きするのだ。だから、この光に包まれたIS起動者はナノマシンの影響で石へと変換されてしまう。逆に言えばISを起動していない者には無意味だが、IS起動中の者でこの光に抗える物はいない! これこそが私のIS『封嘴鴉』の力だ!)
なるほど……と箒は思ったがそんな思考もすぐに消えていく。
石になっていくにつれて意識が薄れていっていたのだ。
パキ……パキ……
箒の体がじわじわと石化していく。そして……
「あ……」
ピキィ
箒は完全に石化してしまった。
石化した箒は浮遊の力をなくし、抱きかかえていたセシリアの石像と共に落下していく。
ドズン
地面に盛大に落下した2体の石像はそのまま地面に転がった。
闘技場には5体の少女の石像が並ぶ事となったのだ。
今、ISに身を包む5体の石像……だが……
ブンッ……
やがてISのエネルギーが切れると共にISが待機モードになり姿を消した。
機械の鎧が消え、生身にスーツの少女の石像だけが残される。
「おまけだ、これもプレゼントしてやろう」
そう言うと黒い機体は何か水のような物を撒き散らした。それは少女達石像にかかるとスーツだけが溶けてなくなっていく。
そして石の肌が露わになって言った。
箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ……
完全にスーツは溶けてしまい、彼女達の石と化した裸体が余すことなく披露された。
「ふははは、良い様だな!」
そう言い放つと黒い機体はどこへと飛んでいってしまった
後には5体の裸婦像が闘技場の真ん中に鎮座する。
石像になってしまった彼女達は誰一人として動き出すことは無い。
灰色の体でそこに佇んでいるだけであった……
やがて夕日が彼女達をてらす。
少女達の石像は赤焼けに染まっていった。
おわり