カタメルロワイヤル第2話「戦闘」

作:七月


思えばこの時点での私、ティアナ・ランスターは本当に幸運だったのだと思う。
最初の説明を受けている時も隣に座っていた遠坂凛が立ち上がっていなければ、仮面の人物に逆らいブロンズ像にされていたのは自分かもしれなかった。
与えられた武器も、2丁拳銃という普段私が使っていたものと同じ武器だった。
そして一度身を潜めて体や気持ちを休めるために森へと向かって歩いていた私は、自分がやられる前に、そんな一時の休憩を得ようなどとの甘い考えを捨てることができたのである。
一つの石像を発見することによって。


森の鬱蒼と木々の茂るなかにその石像は立っていた。
考えなくても分かる。これはつい先ほどまでは普通の少女だったものだろう。
長い緩やかな髪にセーラー服を身にまとい、
その表情は驚きに満ちており、何が起こったのか理解できないといったような表情で動きを止めている。
その近くには無造作に置かれた、つい先ほど支給された鞄が落ちていた。
おそらく自分と同じくまずは落ち着こうと思い、この森に身を潜め休んでいたのだろう。そして、その間に襲われた・・・
あらかじめ後をつけられていたのか、それとも不幸にも偶然発見されてしまったのかは分からない。
唯一ついえることは
「もう始まってるって事ね・・・」
この、狂ったゲームが。


まずは周りの気配を窺ってみるが幸い近くには誰もいないようだった。
なので私はとりあえずこの石像を調べてみようと思い、まずはその荷物をあさってみた。
中に入っていたのは小冊子だけだった。
この小冊子は先ほど武器と一緒に支給されたもので、この世界の簡単な地図とこのゲームのルールが書かれていた。
この世界には様々なエリアが存在し、まずは今私がいる森のエリア、それから山、神殿、砂漠、氷原などのエリアがあった。
さらにはルールとして先ほど説明されたものとは別に、アイテム、トラップ、モンスターの存在が示されていたがこれはおいおい説明するとする。
今重要なのは、この鞄をあさってみて武器がなくなっているということだ。
この時点でこの少女は他の参加者に襲われて石像にされたと確定できる。
「朝比奈・・・みくる・・・」
私は鞄に書いてあった名前を読み上げた。
どこかで見たと思ったら私と同じ部屋にいて、やけにおどおどしていた少女だった。
そして彼女は私の1つ前に呼ばれて出て行った。
つまりもし彼女が後をつけられていて襲われた場合、可能性として高いのは
「私の2つ前に出て行った少女・・・」
その少女が校舎の入り口で待ち伏せし、相手が気をぬいたところで襲ったのではないか?
特徴を思い出してみる。
確かピンク色の長いウェーブのかかった髪にマントを羽織っていた気の強そうな少女。
まだ確定とはいえないがその少女の外見を、私は気に留めておくことにした。
それにしても
「でかい胸ねえ・・・」
ついついこの石像になった少女の胸に目が言ってしまう。
だってありえないのだ。
サイズが!
服を着ている状態でもその大きさが一目で分かる。
自分もそんなにナイというわけではないのだがさすがにこれと比べるとかなり見劣りしてしまう。
「ちょっと触ってもいいかしら・・・」
周りをキョロキョロと見渡し誰もいないことを確認(いたらそもそも自分が無事ではないのだが)。
そしてその石像と化した少女の豊満な胸の手を伸ばしてみる。
当たり前だが石像なので硬かった。
それでもそのすべすべした手触りは何か心地よかった。
「な・・・なんか変な気持ちになってきた・・」
一体何を興奮しているんだろう・・私は・・・
そう思った瞬間少し強めに手に力が加わってしまい
「あっ!」
と声に出した時にはすでにその石像を倒してしまっていた。
ガシャーンと大きな音を立てて石の割れる音がした。
幸い少女の体は傷一つなかったが、石化していた衣服が砕け、少女の豊満な胸や柔らかそうな裸体があらわになってしまった。
「ああ!ごめんなさいごめんなさい!!」
必死で石像に向かって謝る私。
ああ・・なんだかものすごく情けないような気がしてきた・・・
女の子の石像を撫で繰り回して興奮してたとか・・・
挙句全裸にしてしまったとか・・・



そんな感じで自己嫌悪に陥っていたが、私は瞬時にあるものを感じ取った。
「殺気!」
確かに感じた。
もしかしてさっきの派手な音で感づかれたのか。
それは確かにこっちに向かって近づいてくる。
だが、気配の消し方が甘い!
「そこ!」
茂みに向かって銃弾を放つ。
それを回避しながら、敵は姿を現した。
思っていた通りの外見。
ピンク色の髪、マント。
手に持っていたのはボウガンのようなものだった。
「ふん私に気づくなんて、まあまあやるじゃない」
気配の消し方がだいぶ甘かったけど・・・
言ってもしょうがないので言葉には出さなかった。
「私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」
長い!
「まあルイズでいいわ」
ああ良かった。
こんな名前いちいち覚えられない。
「私は機動六課、スターズ4、ティアナ・ランスター
 この子をやったのはあなた?」
「ふふん、そうよ・・・って何で裸になってんの!?
 うわっでかっ!!なんかさっきよりもでかっ!!」
色々あったのよ・・・
そしてやっぱりそう思うでしょうね・・・
「うう・・・せっかく待ち伏せして石にしてやったのに、石になった後も私をむかつかせるなんて・・!!
でかい胸が何なのよ!あんなの脂肪の塊じゃない!」
なるほど、ルイズがこの子を狙ったのは胸がむかついたからと言うことらしい。
ルイズの胸を見てみると確かに差が良く分かる。
エベレストとホライズンだ。
「い・・・今・・・なんか失礼なこと考えたでしょ」
「あーもしかして胸のこと気にしてる?」
「う・・うるさいうるさいうるさーい」
相当気にしているようだ・・・
「はあ・・はあ・・・もう怒ったわ!!」
息を切らしながら、ルイズがボウガンを構えた。
「あんたもここで石にしてやるんだから!」
瞬間、ボウガンから何かのエネルギーの塊が発射された。
それは私のすぐ横をすさまじい速さで走り抜けて言った。
「速い・・・」
「きー!!使い慣れてないからなかなかあたりやしないわ!」
どうやらルイズはこの武器を使いこなせていないようだ。ならば
「接近戦でしとめる!」
ボウガンはリロードに時間がかかるし、接近戦には不向きだ。
対する私の拳銃はそこそこリロードが早いし接近戦でも十分に役に立つ。
「もう一発!」
ルイズが弾を発射すると同時に私は走り出した。
今度はちゃんと狙いどうりに飛んだようで私の体を貫く軌道で弾が飛んでくる。
が、
私はそれを少し横にずれることで交わす。
直線的な攻撃ほどよけやすいものはない。
「なっ!」
「遅い!!」
私は瞬時に間合いを詰め、ルイズへ向かって掌底を繰り出す。
まずは地に伏せさせる。そして銃で止めを刺せば・・・
「な〜んてね」
突如ルイズに笑みが浮かんだ。
ルイズの左手に握られているのは・・・
「鞭!?」
「正解!それっ!!」
瞬時にその鞭はまるで意思を持つかのようにティアナへと巻きついてきた。
「ははっ忘れていたようね。私はそこの子から奪った武器も持っているのよ。」
失念していた。
ルイズは武器を2つ持っていたのだ。
「残念ながらこの鞭自体には石化能力はないみたいだけど・・相手の動きを簡単にとめられるのよね。
そこをこのボウガンで射抜けば・・・」
カチャリとルイズはボウガンを構える。
「チェックメイトってやつよ。さあ何か言い残すことはある?」
ルイズは勝ちを確信しているようだった。
それもそのはず、こちらは身動きが取れないのだから。
「ルイズ・・・」
だが、動けなくてもできることはあるのだ。
「あなたが、こういう武器に疎くてよかったわ。」
ガン、と銃声がした。
ルイズは最初は意味が分からなかった。
ティアナの右腕は先ほど掌底を繰り出そうとしたため何も持っておらず、ティアナは直立姿勢で縛られているため、左腕の銃は地面へと向けられて固定されている。
だから銃を撃ったところでどうと言うことはない・・・はずなのだが。
「えっ?」
銃声の後、地面に弾はめり込んではいなかった。
それはちょうど自分の胸に・・・
「あ・・が・・・」
急激になんともいえない感覚が広がってきた。
撃たれた箇所から体が灰色へと変化していくのがわかる。
「兆弾って知ってる?」
ルイズの力が抜けたことにより、鞭による拘束から脱出しながら私は言った。
「この銃の弾はね、生物以外に当たると何回か跳ね返らせることができるの。今回は地面に反射させたってわけ。」
そういっている間にもルイズの石化は進んでいく。
胸から肩、腕、腰、膝。
その間、石化したところから衣服もボロボロに砕け散っていた。
「ちなみにこの銃なんだけど、右手のは普通に石化させるんだけど、左手のは衣服破壊効果つきらしいの。撃ったのは左だったから・・あんたすっぽんぽんね。」
「そん・・な・・・」
強気だった目にも涙が浮かび、そんな顔にまで石化が及んできた。
やがて口が固まり、耳が固まり、最後に目が灰色に包まれて、
ルイズは完全な石像になった。



「ふう・・」
これでようやく一息つけるだろうか。
私は2つの石像を見ながらため息をついた。
一つははち切れんばかりに胸の大きな石像
もう一つは対照的にあるのかないのかが分からないぐらいのつつしまやかな胸の石像
2つの石像の凹凸のコントラストに思わず私はクスリと笑ってしまった。
「さて、と・・・」
頭を切り替えなければ。
これからどうしようか
どうやらこの世界に安全な場所はないようだ。
ならば。
「仲間を探す・・・か・・・」
一人だとこの先限界があるだろう。
もしかしたら顔見知りもこの空間に飛ばされているかもしれないし、
幸い生き残れるのは4人といわれていたのでうまく交渉すれば、見ず知らずであろうとも仲間を作れないこともない。
そんなことを考えていた時、どうもルイズとの戦いが終わったばかりで気が緩んでいたのだろうか。
私は後ろに立つ気配に直前まで気がつけなかった。
それに気がついた時にはすでに何者かは私のすぐ後ろまで来ていた。
「っ!!」
瞬時に振り返り銃を向ける。
すると
「きゃあ」
相手の少女は見事に尻餅をついていた。
その様子に少し気が抜けてしまった。
「えーと・・あなたは・・・?」
尻餅をついた少女に問いかけた。
その少女はきらびやかな宝石のちりばめられた、青いドレスを身につけ、その長く、輝くような銀色の髪には金色のティアラを被っていた。
これはどっからどう見ても
「お姫・・様・・?」
その銀髪の少女は答える。
「ええ、私はフィーナ・ファム・アーシュライト。」
少女は凛とした態度で語る。
「月の王女です。」



いきなりの出会いだった。
そして私は、この月の王女と少しの間、共にこの世界を生き抜くこととなる。
そう、少しの間・・・



今回の被害者
朝比奈みくる:石化
ルイズ:石化

残り:97人

つづく


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