カタメルロワイヤル第14話「灼眼」

作:七月


(付けられている・・・)
神殿内部の廊下を歩いていた私は背後の気配に気がついていた。
背後に何者かがいる。そしてその何者かは先ほどから付かず離れずの位置で私の後を付けてきている。
(あの10人の誰かかしら・・・)
幸いこちらが相手に気づいているという事は悟られてはいないようだ。
なので、今は気付かないフリをして歩き続ける事にした。
(勝負をかけるなら・・・)
私は曲がり角を曲がると立ち止まり、即座に銃を構えた。
だんだんと気配が近づいてくる。
やがてそれは曲がり角までやってきて・・・
「ここっ!」
「っ!?」
私は相手が角を曲がった瞬間に相手の喉下に銃を突きつけた。
だが、相手は予想以上のスピードで反応し、その手に握っていた日本刀をこちらの喉元に付き突きつけてきた。
その相手は・・・
(子供!?)
およそ小学生くらいの背丈だったであろうか。
その少女はどこかの制服を着ており、その上から古びたマントを羽織っていた。
何より特徴的なのは、その長い髪と宝石のような目だ。
どちらも燃えるような赤。
まるで炎を具現化したような、そんな鮮やかさだった。
(こんな子・・・10人の中にいたっけ・・・?)
私はあの時の顔ぶれを思い出すが、こんな少女は見当たらなかった。
いや、ただ一人全身を布で隠していた少女がいたが、もしかして彼女だろうか?
「あなたは・・?」
私は少女に語りかける。
「そう言うあなたこそ何者よ・・・?」
少女もティアナに言った。
私は銃を向けたまま一歩下がりながら言う。
「私はティアナ・ランスター」
「私は・・」
少女も刀を私に向けたまま間合いを取ろうと一歩下がった。そこで、
カチッ
「ん?」
「え?」
少女の足元から、何かのスイッチが入る音。
バカンッ
と少女の足元の床が突然開いた。
「きゃあああっ!?」
落下していく少女。
私はその光景を唖然として見つめていた。
「う・・ぎぎ・・・」
見れば穴からは必死で床を掴む少女の手が見えた。
ギリギリで穴の淵を掴む事に成功したらしい。
ただし、少女の右手には依然として刀が握られている為、今彼女は左腕だけでその身を支えている状態だ。
(ど・・・どうしよう・・・)
選択肢その1:助ける
選択肢その2:無視
選択肢その3:蹴落とす
選択肢その4:脱ぐ
その4はどこぞのクソな作者が混ぜたクソ選択肢なのでクソ無視するとして・・・
私は少女の様子を見る。
見るからにもう限界らしく、力みすぎて顔が真っ赤になっていた。
「・・・・」
なんだかものすごくかわいそうに思えた私はスッと手を伸ばし、少女の腕を掴んで引き上げてあげた。
「はあ・・はあ・・・ありがとう・・・でも礼は言わないわ。」
もう言ってるんだけどなー。という突っ込みは置いておいて、どうやら何かと気難しい子なのだろうか。
「で・・とりあえず名前だけでも教えてくれない?」
最早武器を突きつけることも忘れて私は言う。
「・・・シャナよ。」
シャナ、と名乗る少女はぶっきらぼうに言った。
「えーと・・・あなたも万能薬争奪戦の参加者?」
「は?なによそれ?」
と、シャナは予想外の答えを返してきた。
「せっかく人気が無かったから休んでいたのに、気がついたらいきなり人の気配が増えているし・・・・一体何があったのよ!?」
シャナの発言から察するに、シャナは元々この神殿エリアにいて、しかも休んでいる最中で寝ていたのであの放送自体を聴いていなかったとのことだ。
(さて・・どうしようかしら・・・)
目の前の少女にどう対応すべきか、別に争奪戦の参加者というわけでもなく、戦意もあるわけではなさそうだ。
これからどうするかについての様々な選択肢が私の中に浮かんでくる。
当然その4はクソ無視した。



同時刻、ティアナたちとは離れた場所ですでにサバイバルゲームは始まっていた。

薄暗い廊下を一人の女性が歩いている。
女性は長く赤い髪に白く大きな帽子を被り、赤いワンピースの上にはこちらもまた白く大きなマントを羽織っている。
名前はアティと言った。
もちろん、アティも治療薬争奪戦の参加者である。
元々好戦的な性格ではないが、仲間のためにこの争奪戦に参加しているのだ。
そんなアティがしばらく廊下を歩いていると
「あら。」
視線の先に一人の少女が見えた。
セーラー服にも似た衣装に身を包む少女。
そのピンク色の髪には紺色のカチューシャが挿されており、金色の二つの玉の付いた髪留めでぴょこんと纏められている。
その手にはやや大きめの西洋風の剣が握られていた。
少女の名はカノンノ。
争奪戦参加者の一人だった。
(どうしましょう・・・)
アティは葛藤していた。
敵を倒さなければやられるのは自分だ。
でも相手は子供・・・おそらくは学生くらいの年頃だろう。
家庭教師であるアティにとって、それは戦闘を躊躇させる大きな要因となっていたのだ。
そんな感じでアティが悶々としている間にカノンノはどんどん離れていってしまった。
(ってしまった!追いかけないと!)
アティは慌ててカノンノの後を追いかけた(もちろん気付かれないように。)
幸いな事にこの時アティが悩みこんでいたおかげで、アティはカノンノと戦う必要は無くなった。
なぜなら
「いやあああっ!」
「!?」
アティの耳に少女の悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴が聞こえたのはカノンノが歩いていった方角からだ。
アティもそこに向かって慎重に進んで言った。
するとそこには・・・
「そんな・・・」
きらきらと輝きを放つ黄金像。
黄金像と化したカノンノの姿だった。
カノンノは何かに驚いたようなポーズで固まっていた。
大きく見開いた目と口。表情からもカノンノにとって予想外の事態が起こったであろうことは明白だった。
つい先ほど元気に歩いている姿を見ていただけにアティは軽いショックを受けていた。
(もしかして誰かに襲われたのかしら・・・それとも・・・)
罠かしら、とアティは考える。
神殿エリアは罠が多いエリアだと聞く。
運悪くこの少女はそれを踏んでしまったのかもしれない。
(私も気をつけないと・・・)
アティはカノンノが掛かってしまったトラップの正体を探るべくカノンノの視線の先を追った。
それがいけなかったのだ。
アティの視線の先には大きな目を模った紋様があった。
その中心には大きな水晶のようなものがはめ込まれている。
(あれ・・・)
アティは気がついた。
なぜかその水晶から視線がそらせない。
(まさか・・・)
突然その水晶が輝きだした。
(“見る”ことで発動するトラップ!)
光がアティを包み込んだ。
「あああっ・・・」
光を浴びたアティのしだいに体が輝きを発していった。
そう、アティの体が黄金へと変化しているのだ。
紅く綺麗な髪も、白い帽子やマントも、一様に金色に染まっていく。
光に包まれたアティはやがて一切の動作が静止し、やがて金属特有の光沢を放ち始めた。
アティは、完全に黄金像になってしまった。
やがて光が止むとそこに残されたのは黄金の塊だけだった。
カノンノとアティの成れの果て。
静寂とうす暗闇の中に。二つの黄金像が並び立つ事となる・・・。



「ミャミャミャ、追い詰めたミャ!」
ティアナたちやアティたちとはまた別の場所。
そこでもまた戦闘が起きていた。
「さあ覚悟するミャ!」
そう言って腕を突き出したのは青髪にネコミミが生えた少女。
メリクル・シャムロットだ。
そして彼女に相対するのは、茶色い短髪に、ブレザーやルーズソックスと言ったいかにも女子学生の格好をした少女。
御坂美琴だった。
美琴がいるのは通路の行き止まり。
逃げ道の一切無い袋小路だった。
「ふん・・・やれるモンならやってみなさいよ。」
そんな中でも美琴は強気な態度を崩さない。
ただまっすぐにメリクルを見据えていた。
「ふん・・お望みどおり。」
メリクルが武器であるクローを構えた。
「やってやるミャ!」
凄まじい速さで距離を詰めてくるメリクル。
そんなメリクルに対して美琴は静かに言った。
「気をつけなさい。そこ、でっかいトラップがあるから。」
「ミャ?」
カチッ
メリクルが何かスイッチを踏んだ。瞬間、
プシュー
「ミャミャアア!?」
地面から紫色のガスが噴出した。
勢いよく吹き出たガスはあっという間もメリクルをすっぽり覆ってしまった。
そして・・・
カラン、とガスの中から何かが転がってきた。
「ほーら言わんこっちゃない。」
美琴が転がってきたものに視線を向けた。
そこにいたのは黄金像と化したメリクルの姿だった。
メリクルは美琴に向かって走っている姿のままで固まってしまっていた。
バランスが悪くたっていられなかった為、ガスの中から転がり出てしまったのだろう。
「忠告してあげたのに、お馬鹿ね。」
美琴が黄金像となったメリクルの顔をつつきながら言った。
当然、黄金像になってしまったメリクルから反応が帰ってくる事は無い。
「あら、金ピカの招き猫みたいになっちゃったわね。」
あんまり福を呼べそうに無いけど。と美琴は言うと静かにその場を後にした。



「で、結局付いてくるわけ?」
「なによ、悪い?」
結局あの後私とシャナは一緒に行動することになっていた。
「私と一緒にいると他の争奪戦参加者に狙われるかもしれないわよ?」
「別に私が争奪戦に参加してないって言っても、全体としてのゲームでは相手にとって私は敵であることに変わりは無いわ。どっちにしろ狙われはするわよ。
むしろあそこであなたが私を助けた方が不自然だったわ。私を見捨てればそれで一人脱落してあなたが生き残る可能性は増えるのに。」
「アレはほら・・・なんかあっけなく罠にかかってたあなたがかわいそうに見えたから・・・」
「う・・・うるさいうるさい!忘れなさいー!」
「うわあ!刀を振り回すなぁ!」
ブンブンと無造作に刀を振り回すシャナを私は必死でなだめた。



その後私たちは何気ない話をしながらひたすらに通路を歩いた。
ゲームが始まった後のこと。私がここに来る事になった経緯など。
シャナは静かにその話に耳を傾けてくれていた。
「じゃあやっぱりあなたはその人を救う為にこの争奪戦に参加したのね。危険だってことは分かりきっていたのに。」
「ええ、そうなるわね。」
「そっか・・・」
シャナはそのまま口をつぐんだ。
やがてそのまましばらく歩くと
「ん?・・・これは・・?」
「どうしたの?・・・・ってなにこれ?」
T字路に差し掛かった私たち二人が揃って怪訝な視線を向ける先には、
『万能薬はこちら→』
と書かれた石版が真正面の壁に取り付けられていた。
「こ・・・これは・・」
「この上なく胡散臭いわね・・・」
これは果たして信じて右に行ってよいのだろうか・・・。いやでもあからさま過ぎる。でもあの運営なら何故かこのくらいやりかねないような気が・・・
こんな感じで、うーんうーんと頭を悩ませていると、
「ほら、こっちに万能薬あるみたいよ。」
「この看板、本当に当っているんですか・・・もしかして罠じゃあ・・・。」
不意に左の道から声が聞こえてきた。
「きっと大丈夫よ。・・・というわけであんた先に行って。」
「全然信用してないじゃないですか!?・・・って、ん?」
そんな会話をしながら、黒い髪に赤いリボンと巫女服の少女と、灰色の髪に黒いカチューシャ、身には緑色のブラウスとスカートを纏った少女二人組みの少女が左の道から姿を現した。
「・・・・」「・・・・」
「・・・・」「・・・・」
そんな少女達と私たちの視線がぶつかった。そして・・



次回に続く。

ティアナ:「ここで終わり!?」



今回の被害者
アティ:黄金化
カノンノ:黄金化
メリクル:黄金化


残り36人

つづく


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