モデル志願

作:おおばかなこ


ー聖ヨハネ女学院ー
全寮制、お嬢様学校

学院の中庭には池がある。
そこは生徒達の憩いの場であった。
ある時、少しさびしいので石像を置くことになった。
石像の製作者は最近、リアルな作品で話題になっている女流彫刻家のメグミ・セグチ・・・
そして、そのモデルを探しているという。

高等部二年の久美子・・・
彼女は自分の美にとても自信を持っていた。
そのためこの話を聞いたとたん「私、行ってみようかしら。」と言った。
ルームメイトの厚子が「え〜、メグミ・セグチのモデルってヌード審査もあるっていう話よ。一昨年卒業したいとこのお姉さんの友だちが雑誌の読者モデルとかやってたから行ってみたらヌード審査があったのであわてて断ったって言ってたもの。それに、モデルなんてやったら退学になってしまうかも・・・」と言うと、久美子は「ヌード審査が何よ。女同士じゃないのよ、温泉に行ったようなものよ。それに、この学院に置く石像のモデルを生徒がやってどこが悪いの。退学なら退学でけっこうよ。こんなお堅い学校うんざりですもの。」と、次の休日に外出届を出してメグミ・セグチの元を訪れた。

メグミ・セグチは久美子を見ると「あなたは自薦?それとも他薦?」とたずねた。
久美子が「自薦です」と答えると「そう、じゃ、ヌード審査にしましょうか。」と一番奥の部屋へと通された。
久美子がためらわずにヌードになるとメグミ・セグチは「あなたは自分の美に自信があるほう?」と再びたたずねた。
久美子が「はい、私は誰よりも美しいと思っています。」と答えるとメグミ・セグチは「あなたに決まりね。あなたを『石にする』ことにするわ。」と言った。
「本当ですか。私を使ってくれるんですか。」と久美子が言うと「そうよ。あなたを『石にする』のよ。タロットカードの星のカードのイメージに造る予定よ。」とメグミ・セグチは久美子に壺を持たせた。
そして、『こんな感じよ。」と久美子の両手足をひとなでした。
とたんに久美子は手足に違和感をおぼえた。
「?」と久美子が手足を見ると石になりかけている。
「何これ・・・」と言うと、メグミ・セグチは「だから言ってるでしょ。『あなたを石にする』って。」とにっこりしながら言った。
「あなた、メデューサの話を知っていて?メデューサの髪は蛇だったけどそうなる前はとても美しい女性だったの。そして、神よりも美しいと思ったので神の怒りをかってあんな姿にされたわ。それは恐ろしい姿で見た者は石になってしまったわ。私はその石になった人間よ。メデューサが退治されて呪縛が解けたらしいんだけど時空にゆがみでもあったのかしら・・・?気づいたらこんな不思議な力を持ってこの世界にいたわ。でもこの力、あなたのように自分は誰よりも美しいって人間にしか効果がないの。」と言い久美子の胴をなでた。
手足に続き胴も石となっていく。
顔を残し石となった久美子が「じゃ・・・じゃあ・・・い・・・今までの・・・作品は・・・」というとメグミ・セグチは「そうよ。石になった人間よ。」と言い久美子の顔をなでた。
顔は完全に石となる前に笑みを浮かべた形に整えられた。

石となった久美子は中庭の池に置かれた。
手にした壺は水道が引かれ池に水を注いでいる。

石像をみて生徒たちは「うわ〜きれい。久美子さんが石になったみたい。メグミ・セグチってすごいわね。」とたたえたり「だけど、久美子さんどうしたのかしら。あれから来ていないわ。」「やっぱり退学になってしまったんじゃないかしら。」とうわさしあったりした。
しかし、いつしかそんな話も話題にのぼらなくなった。

池の石像は今日も水を注いでいる。


戻る