二次元の王子様

作:おおばかなこ


ー聖ヨハネ女学院ー
全寮制、お嬢様学校

この学院の広大な敷地には川が流れている。
その川の向こうには事実上男子部となる聖アンデレ学院がある。
川には橋が架けられているが、その両端には門があり普段は堅く閉じられている。
開かれるのはどちらかの創立祭のときである。

聖アンデレ学院は秋に創立祭が開かれる。
そして、もうすぐその日が来るので聖ヨハネ女学院の生徒達も楽しみのしていた。
そこここで話がはずんでいる。
今日も一組が話をしている。

「もうすぐ聖アンデレの創立祭ね。」そう言ったのはつかさである。
それを聞いてかおりが「門が開くから兄さんとも会えるわ。」と言った。
すると、「あら、かおりさん、彼氏じゃないの」と夕記が言った。
かおりは「しーっ、ないしょよ。両校とも男女交際禁止の校則があるんですから・・・」とさえぎった。
しかし、笑いながら「だけど、みんな守っていませんね。私だけではないですね。」といった。
つかさと夕記も「そうそう。」とうなづいた。

「男女交際禁止」この校則は高等部では密かにやぶる生徒が多くなってくる。
一番多いのは創立祭がきっかけである。
そうなるとかおりのように兄妹(あるいは姉弟)で両校にいるものが橋渡しとなる。
かおりはその役となっていた。
話の輪の中にいた相田優という子に「あ、優さん、創立祭には私の彼氏の友達を紹介するわ。ココの創立祭で優さんを見ていいなって思ってたらしいの」と声をかけた。
しかし、優は「かおりさん、私は・・・」と、ポケットからパスケースを出した。
それにはヒットしているマンガのキャラの切抜きが入っていた。
かおりは「あ〜あ、優さん、またそれ〜。もう高等部よ、卒業しましょうよ。」と言った。
優は「いいの、私は男の子がいないからココを選んだんだもの。」
と答えた。
そのとき、「そんなのがいいなんてばっかみたい。」という声がした。
そう言ったのはたまたま通りかかった美穂である。
つかさと夕記が「美穂さんこそ、優さんにやっかんでるんじゃないの。」とつっかえした。
そのつっかえしで美穂は去っていった。
実は、優は自分と好きなキャラとを空想し、小説にしてジュニア向けの雑誌に投稿したところ大賞を取り「もっと書かないか」と声をかけられ相田の「あ」と優の「ゆ」で「Ayu」のペンネームでぽちぽち活躍中だった。
この大賞を取ったことから美穂は意地悪をしかけてくるようになったのである。

そして創立祭の日が来た。
橋の両側の門が開きとても華やかな雰囲気だったが、優は少し外れたところにいた。
そのとき、一人の男子が声をかけてきた。
優は「人違いでしょう」と言ったがその男子はしつこく話しかけてきた。
我慢が出来なくなった優は「私、男の子が嫌いなんです。あっちへ行ってください。」と怒鳴った。
すると「あら〜、優さんつめたいんじゃなくて。」と言いながら美穂が現れた。
優が「美穂さん、あなた・・・」と言うと美穂は「だったらなによ。私は淋しくしている優さんのためにやったのよ。」といった。

美穂には双子の弟がいて聖アンデレにいた。
この双子はいつも意地の悪いことを考えていて、今回のことも弟と彼の友人と協力してやったことだった。

優の怒鳴り声を聞きつけ、かおりと兄、彼氏がやってきた。
かおりが「美穂さん」と言うと「私は優さんのためにやったのよ。」と同じように言うだけだった。
その時優が「もう、みんなきらいよ」といい校舎のほうへ走っていった。
そして更衣室へ飛び込んだ。
更衣室は何枚も鏡がありところどころ合わせ鏡になっていた。
優はその前へたつと吸い込まれるように鏡の道を歩き出した。
かおりが更衣室についたときには、優の姿は小さくなりやがて見えなくなるときだった。
かおりが「優さーん」と呼んだとき、一枚の紙が落ちてきた。
「?」とかおりが拾ってみるとそれはいつも優が持っていた切抜きだった。
しかし、その切抜きには優が好きなマンガのキャラと・・・となりに優の姿があった。

かおりはその切抜きを持ち帰り、時々「優さん戻ってきて。」と声をかけているという。

そして、次の年から創立祭の日、更衣室の鏡には優の漂う姿が見える・・・といううわさがとびまわった。


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