従順〜結末〜

作:ロス・クロス


あれから35年。男の会社は発展し、今や並ぶもののない超大企業となった。
男は数年前会長の座を退き、隠居生活を始めた。高原の一等地に別荘を建て、そこで余生を過ごすことにした。あの日採取した京子の卵子を使って子供を二人作った。その子供たちも彼の元を巣立っていった。京子を金属に変えたあの日、男は彼女を永遠の伴侶とすることを誓った。職を辞するとき、京子の意識を納めたディスクと彼女の体を一緒に別荘に持ってきた。今でもパソコンを起動すれば彼女と会話できる。
あのあと例の技術は完全な物となり、金属化した者を戻すことも可能になり、加工も個人差はあるが約2分でできるようになった。だが初期型で製造された京子は元に戻すことはできなかった。
他の企業もこの技術の提供を受け、発展していった。
一部では非難の声もあったのだが、契約時に本人に確認をとり、許可が降りてから使用するように義務付けられているのと精神波感知器と薬物センサーが搭載されたことにより、強制的に処理され、人身売買などに使われることはなかった。白衣は少しでも設計から変更点が見られた場合、装置を組むことができないように設計しており、装置を取り付ける際には全て自らの手で行った。組み終わると使用説明書のみを残して後は何も残さなかった。
組み立てるのも分解するのも特殊な器具が必要なため、ばらして中身を見ることもできない。徹底的に技術の漏えいを防いだため、ついに彼が死んでも悪用されることはなかった。
他の企業に行けば社長室に金属像が置かれているのを目にすることもある。大抵は人目につかない所に安置されるのだが、男のように自分のそ
ばで仕事をさせる者もいる。最近はケーブルで接続する必要もなく、場所を取らないので女子社員全てにこの処理を行い定時になれば蘇生するといった方式をとる会社もでてきた。ただ相変わらず服を着たままだと処理できないので対象は全裸のままである。そのために企業によっては専用の部屋を作る所も出てきた。
彼が一度ある会社に視察に行った際、丁度社員たちが処理されているところを見た。そして一言つぶやいたと当時一緒にいたYさんは語る。だがその内容はわからなかった。ただ表情からしてあまりいいことではなかったようだったと。
一度はこの技術を作ったあの白衣に賞が贈られるという計画があったのだが彼はそれを断った。その時彼はこう言った。
「私は別に他人に貢献したわけではないからこのような賞などはいらない。むしろ私は法律でこの技術の規制をしてほしいと思っている。」
その言葉は瞬く間に科学者の間に広がった。政治の上でも国会で現時点以上の技術の発展を禁止・抑制するための法律が制定された。
 白衣はやがて自分が病に冒されていることを知る。そして遺言として装置の処分方法を書き記した。そして最後にこう付け加えた。
「二度とこのような技術が生み出されないことと全ての装置の破棄を。それが私の最後の願いだ。」
その後、白衣が死ぬと各企業は遺言通り装置の破棄を開始した。
会長と呼ばれていた男は白衣が死ぬ2年前に亡くなっており、京子の体は本人と会長だった男の希望によりペンダントに加工された。原型作り、熔解、圧縮と全て白衣の手によって行われた。
全てをやり終えた白衣の死に顔はとても満足そうだったと後に葬儀に参列した者は言っていた。そしてこの技術は永遠に闇に葬られた。


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