作:鮭フレーク
数十年前まで、ここ大葉島(おおばしま)町は、何の変哲もない普通のベッドタウンだった。
大都市に安易にアクセスできるという立地から人口は多かったが、観光名所と呼べるものは全くと言っていいほどない、
非常に地味な住宅街だった。
しかし、とある建設会社が大型のショッピングモールを建設する際に穴を掘ったところ、突如温泉が湧き出た。
それも一つや二つではない。ここは有数の温泉地だったのだ。
そして今、この街は「新しい温泉の名所」として、住宅街としても観光地としても栄えるに至っている。
驚くべき事に、この地域の小学校には、「温泉教室」が備え付けられている。
流石に露天風呂では無いが、それでも檜の木で拵えられた本格的な温泉だ。
そして、全校児童の殆どが入る事が出来るほど大きい。
児童達は低学年は第三土曜日一時間目、高学年は第三土曜日二時間目に、
オリエンテーションの一環としてこの温泉に入る為だ。
流石に性別は分けられるが、それでも3学年分の男子、女子が一斉に入る為、浴槽は基本的に大きい。
そしてその温泉は、なんと、「私立の女子小学校」にも備え付けられていた。
第三土曜日二時間目。
「温泉入浴の時間」の為、私立桜道(さくらみち)女子学院初等部の児童達は、脱衣場に集まっていた。
この脱衣場も、児童全員が入る事が出来るほどの大きさだ。
「にしても、変な話よねー。
私この地域に住んでないのに〜。」
「いいじゃんいいじゃん。気持ちいいんだし、勉強とか体育とかじゃないんだし。」
児童達は、この学校の制服を脱ぎながら談笑している。
温泉の時間の前の休み時間は殆ど着替えで終わってしまうが、その主たる理由は、「着替え中に会話する」からだ。
現にこの脱衣場にいる殆どの児童は、全裸どころかまだ制服すら完全に脱いでいない。
チャイムが鳴った後、大急ぎで脱衣し、バスタオル片手に脱衣場を走っていくのが、彼女達の行動パターンだ。
教師たちはそれを許可していないが、だからと言ってそれを怒ったりはしない。
1クラスならともかく、4年生から6年生の女子児童全員が着替えをするのに10分は少し短いと思っているからだ。
100人近くの児童達は、そんな教師に甘えているのか、非常にゆったりしたペースで脱衣を行っている。
しかし、今日のこの日、彼女達は全裸になり、気持ちのいい温泉に入る事は出来なかった。
始まりは、真ん中にいる一人の少女が、その動きをピタッと止めた事だった。
「んでね!
今度できたマクドナ―」
ポニーテールの少女は笑顔で、上着の下を持ち、丁度乳首が見えるか…と言うところで、ピタッと止まってしまった。
小学5年生の少女だ。活発で声も大きく、話好きな女子児童。しかし、今は喋りも、動きもしていない。
まるでビデオの一時停止を押されたかのようにして一瞬で静止した少女を見て、隣のボブカットの児童は、彼女を心配そうに見つめる。
しかし…
「どうしたの?まゆちゃ―」
ボブカットの女子小学生も、一時停止のボタンを押されたかのように、突如動きを止めてしまう。
心配そうにポニーテールの少女を見つめたまま、彼女も、石になってしまったかのように動かなくなった。
脱衣場を支配していた笑い声は、やがて心配する声や、困惑した声になるが…しかし、その声すらもすぐに途切れる。
少女達は服を脱ぐのを中断し、凍りついたかのように動かなくなっていく。
最後に「止まった」児童の言葉は、こうだった。
「……あれ?皆?
なんか寒くな―」
そして彼女も、言葉を最後まで発することなく、停止してしまった。
わずか30秒の間に、脱衣場の空気は一瞬にして変わった。
服を脱ぎかける事により発動する呪いが、この小学校の児童全員に掛けられていた。
呪いとは、自分を含め、周りにいる人間全ての身体を硬直させて、その体温、温度を急激に下げてしまうというものだ。
勿論、生きたままだ。
死んでしまっては意味が無い。
その証拠に、動けなくなった児童達の体が、ゆっくりと白く染まっている。
このまま数時間待てば、やがて児童達の体は青白い膜に包まれ、つららが垂れ下がるだろう。
パンツや乳首を見せたままの姿で動かなくなった女子児童達。
彼女達はこの後数週間行方不明になった後、後に何事も無かったかのように帰ってくる事になる。
しかし、今の少女達はそんな事を思うまでも無く、その小さな裸体をゆっくりと、凍らされていた……。