作:Shadow Man
村はずれの草むらで対峙するプレアデスシスターズとアリエス&クレイター。
数の上では6対2と有利なシスターズであったが、アルキオーネがぬいぐるみにされて人質となっていたので油断できない状態だった。
「アリエス、今のうちにアルキオーネを返してくれたらここは見逃してあげるわ。
さあ、大人しく渡しなさい。」
先に口を開いたのはシスターズのリーダーだった。
だが、アリエスも負けじと反論する。
「あら、あなた達こそ大人しく引き下がったらいかが?
それともこのぬいぐるみがバラバラになってもいいのかしら?」
「……くっ。じゃあ、この子と交換というのはどう?」
そう言ってアルビレオが持っていたコップを素早く奪った。
「ちょ、ちょっと冗談はやめてください!」
アルビレオは慌てて取り返す。そしてアリエスも即座に拒否する。
「そうね、冗談は程ほどにしたらどう?そんなどこの馬の骨とも知れない子と貴方たちの大事な姉妹を交換できる訳ないじゃない。」
それから双方にしばしの沈黙が走る。そして緊張した空気が辺りを支配した頃、アリエスたちの背後でガサガサという音が走る。
アリエスとクレイターは咄嗟に振り返って背後を見る。だが、野鳥が飛び立っただけだった。
その瞬間、シスターズの一人が高速で走り出すと、アリエスに接近して素早くぬいぐるみを奪い取った。
「!!」
アリエスは取り返そうと腕を伸ばすが、髪の毛に掠っただけで取り逃がしてしまう。
「よくやったわね、ケラエノ。」
「マイア姉さん、私からしてみればこんなこと朝飯前ですわ。」
ケラエノは頭を撫でてもらいながらぬいぐるみをマイアに渡す。
「クククク……」
そのとき不敵な笑みを浮かべたのはアリエスだった。
「そんなぬいぐるみを獲ったところでどうだと言うの?」
「あらあら、開き直りかしら?」
マイアは余裕の笑みを浮かべる。だが、その一瞬後、苦痛の表情に変化した。
ケラエノがマイアの腹にめがけて膝蹴りを決めていたのである。
「ぐ……どうしたの……ケラエノ……」
だが、ケラエノの方も自分が何をしたのか理解できていない顔をしていた。
しかもそのまま他の姉妹に対しても攻撃を仕掛ける。突然のことに驚いて何も出来ない彼女たちは防戦一方だった。
しかしアルビレオはすぐその秘密に気づいた。
「お姉さんたち、ケラエノさんは操られています!」
「坊や、意外と目が利くじゃない。そうよ、彼女は今、私の見えない糸で操られているわ。
だいいち、ケラエノが一瞬の隙を突いてぬいぐるみを獲りにくるのは計算のうちだったのよ。
そして貴方たちは見事にその罠にはまって接近した瞬間に私に糸をつけられて操られたわけよ。」
アリエスは勝ち誇った顔でさらに続けて喋る。
「それに、貴方たちが獲っていったのはただのぬいぐるみよ。本物は私の服の中にあるわ。」
「そ、そんな……」
ケラエノは天を仰いで嘆息した。
「こうなったらアリエスを接近戦で叩くわ!一旦全員散開!!」
マイアの指示であっという間に全員が散らばる。そしてクレイターとアリエスを囲むように広がった。
だが、アリエスも冷静に周りを見渡すとクレイターに何か指示を与える。そして自分はケラエノを自在に操ってマイアを攻撃させる。
一方でマイア以外のプレアデスシスターズは徐々に包囲を狭めながらアリエスに近づく。
『私はクレイターを殺るわ。メローペとタユゲテはケラエノを操っているアリエスを押さえて。』
シスターズのサブリーダー、ステロペが目で合図する。そして2人が先に動いてクレイターを牽制している間に彼女が魔法を放った。
「≪大地の槍よ、彼の者を貫け!≫アーススピア!」
すると地面から石の槍が飛び出し、一瞬のうちにクレイターを刺した。彼は避ける間もなく槍に貫かれて身体を持ち上げられてしまう。
それを見たメローぺは一気にアリエスに接近し、同時に両手に魔法のナイフを出現させて切りかかった。
だが、そのナイフがアリエスに届く前にメローペの動きが止まった。彼女の腕には黄金の槍――ではなく、ドリルのようなアリエスの髪の毛が刺さっていたのである。
「馬鹿ね。それで私の背後を取ったつもり?邪魔する子はしばらく動けないようにお仕置きしないとね!」
アリエスは後ろを向いたまま喋る。同時にさらに多数のドリルがメローペの腕に深く刺さる。
「あ、ああ、あああああーーー」
叫びながらメローペの身体が浮いていき、持ち上げられる。そして今度は刺された所から銀色の液体が噴き出し、あっという間に身体が銀色に包まれる。
さらにアリエスはそのメローペの身体を地面に叩きつけようとしたが、そこで突如バランスを崩して倒れてしまう。
自分の足元を見ると、地面から手が伸びて彼女の足を引っ張っていた。
「何奴!」
すると地面から少女が顔を出す。それはタユゲテであった。
「メローペを返してもらうわ!≪わが手よ、熱く燃えろ!≫ファイアーハンド!」
「熱っ!!」
タユゲテが掴んだところが熱で赤くなる。熱さに耐えかねたアリエスが足をばたつかせるが、タユゲテも必死に食らい付く。
そして絡み合ううちにメローペがアリエスの髪の毛の呪縛から解き放たれて地面に落下した。
「しめた!」
タユゲテはそれを見てメローペを拾いに動く。アリエスはそれを邪魔しようとするがステロペの魔法で妨害された。
タユゲテはメローペを救出すると再び地面に潜ろうとする。だが、その瞬間に彼女は違和感を感じた。
「これは!?」
地面がまるでガラスのように彼女の顔を映していた。そして彼女の後ろ――つまり上空にはクレイターの嫌な笑顔が見えていた。
しまった、と思う間もなくタユゲテは体の自由が奪われて動けなくなってしまう。
それを見たマイアはメローペを助けに行こうとするが、操られたケラエノに身体を押さえ込まれる。
「ククク……この私がそう簡単にやられると思っていたのですか?貴方たちのやり方など私たちはお見通しですよ。
さて、この愚か者たちを始末してあげましょうか。
≪全てを透過する身体となれ≫ガラスボディ!」
「あああ――」
地面に映った彼女の身体は徐々に透明に変わっていった。そして叫び声もどんどん小さくなっていく。
やがて周囲に沈黙が訪れた。
ガラスの大地の上に再び立ったクレイターは、目の前のメローペを抱いて助けようとしたままガラスになったタユゲテの姿を見てほくそ笑む。
一方、タユゲテたちが固められるのを見て何もできなかったステロペは歯軋りをして悔しがっていた。
「よくも、よくも――
≪全ての源よ、我に力を≫エンチャント・ボディ!」
そう言って自分自身に魔法をかける。それを見たマイアは押さえ込まれながらも叫んで止めようとする。
「止めなさい、ステロペ!」
だが、ステロペは忠告を聞かずにクレイターに突撃をかける。不意を突かれたクレイターはパンチを食らって歪んだ顔がさらに歪む。
さらに返す勢いでアリエスに足払いをかけるが、ガラスの地面で足を滑らせて倒れてしまう。
立ち上がって態勢を整えようとしたステロペだが、地面から手が離れず、立ち上がれなくなる。
「これは……しまった!」
自分の手を見ながらステロペは小さく叫ぶ。彼女の身体もまた地面に近いところからガラス化し始めていた。
「クク……甘いですね。しかし、この私を一発殴ったお返しはしてあげないと私の気が済まない。
貴方は特別に強く感じさせてあげましょう!」
そう言いながらクレイターはステロペの頭に手を乗せて強く押し込む。
ステロペはガラスの地面に全身を押し付けられると同時に徐々に身体の前面がガラスに変わっていく。
「ぐ……負けるものか……」
懸命にこらえる彼女だが、ピシピシッと音を立ててガラス化する。それに敵う術もなく彼女は苦しみながら身体が透明になっていく。
その姿をクレイターはそれを楽しむようにただ笑っていた。
やがてステロペの身体もまた地面に這いつくばった形で全身ガラス細工のような姿を晒した。
「さて、これでアンタだけになったね。」
落ち着いたところでアリエスはマイアを向いた。だが、当のマイアは既に完全に押さえ込まれている。
アリエスは金色の髪の毛を軽く振ると、マイアを押さえ込んでいるケラエノごとその髪で絡めとり自分の元に手繰り寄せる。
「これがあのプレアデスシスターズとはね……拍子抜けしたわ。」
アリエスはマイアに顔を近づけ、あごに手を当てて詰るように話しかける。
そしてマイアの頬を軽く舐める。
「フフ……じゃあ私はアンタを特別に可愛がってあげるわ。」
そう言いながらアリエスはマイアの首筋から服の内側へと髪の毛を挿入させる。
マイアはくすぐったさで笑いそうになるのを必死にこらえるが、そんな彼女の顔を見てアリエスはさらに多数の髪の毛でマイアの身体の各所に髪を絡める。
お互いに意地の張り合いとなったが、責めるアリエスの髪の毛が止まるはずもなく、マイアの息遣いだけが粗くなる。
そしてマイアは遂に快感に負け身体中の力が抜けていってしまう。それを見たアリエスは責めを止めるどころか逆に止めを差さんとばかりに全力をあげる。
「さあて、アンタも妹たちと同様に飾り物にしてあげるわ。
安心して。痛みとかはしないから……フフ。」
笑いながらアリエスはさらに激しく髪の毛を動かす。その責めにマイアの服は次々と脱げていくが、彼女はもはやそれを気にすることがきる状況ではなく、快楽に身を委ねるほかなかった。
そこでアリエスはハッと一瞬気合を入れる。すると彼女の金色の髪の毛が根元からさらに強く輝き、先端へ伝達していく。
そしてマイアは金色の光に包まれ、乱れた着衣で快感に溺れた表情のまま全身が金色に変わる。同じようにケラエノも黄金に固められた。
「まったく、折角ガラスのオブジェを作ったのに黄金を乗っけたらバランスが悪いな……」
目の前にあるガラスと金で固められたプレアデスシスターズを見てクレイターがぽつりと漏らす。
しかしそれを聞き逃すアリエスではなかった。
「おや、誰に向かってそんな口を聞いているのかしら?」
「い、いや、別に私は趣味が悪いとかそう言っているわけではなく――」
そういい終わらないうちにクレイターはアリエスの平手打ちを食らってその場に倒れこんだ。
「ほんとに情けない男ね……そういえばまだ一人坊やが残っていたっけ。」
アリエスはアルビレオのことを思い出して再び目を前に向ける。すると彼は既に腰を抜かしてへたり込んでいた。
「坊や、あなたもこの姉妹同様飾ってあげるわ。綺麗なお姉さんと一緒になれるなんて最高よね。」
薄ら笑いを浮かべながらアリエスが近寄っていく。アルビレオはじりじりと下がっていくが追いつかれてしまう。
アリエスはアルビレオの足元まで接近すると髪の毛を振るい上げようとする。
そのときである。
「いまだ!」
アルビレオが叫んだ。その瞬間、アリエスの目の前に何かが被さって真っ暗になる。
一瞬戸惑った彼女だが、落ち着いてそれを振り払うとただの黒いマントだった。
「フン、驚かさないでよ。こんなもので――」
そういった直後にアリエスは背後の気配に気付いて振り返る。するとプレアデスシスターズが全員元の人間の姿をして立っていた。
「な、何故?!」
「甘かったわね、アリエス。そう簡単にやられる私たちじゃないわ!!
今度は貴方が固められる番よ。≪氷の粒よ、彼の者を包みたまえ≫アイス・ウォール!」
するとアリエスの周りに氷の壁が出来上がり、彼女をあっという間に包んでいく。だが、アリエスは完全に身体を包み込まれる前に
服を犠牲にして氷の壁から抜け出した。
『く……ここは撤退せねば。クレイター、恨むんじゃないよ。』
プレアデスシスターズのさらなる追撃魔法を避けながらアリエスは撤退していった。
「あーあ、逃げられちゃった。」
プレアデスシスターズの横でそう呟いたのはデネブであった。
「おやおや、偉そうなことを言うじゃない。デネブちゃん。あなたを助けたのは誰だったのかしら?」
マイアが苦笑いしながらデネブを見やる。
「でも、今度の作戦であなたたちを助けたのは私よ。」
「でもでも、この作戦を立てたのは私よ!」
やや口げんか調になる2人を止めたのはステロペだった。
「ちょっと2人とも、言い争いしない。それと姉さん、服をちゃんとしてよ。見ているこっちが恥ずかしいわ。」
「あら、ごめんなさい。」
マイアは乱れた着衣を直した。
――ところで、彼女たちの作戦とは以下の通りである
既にデネブは助けた直後に元に戻していた。そこで偽物をアルビレオに持たせ、本人は小さくなって戦いの舞台の回りに魔法陣をせっせと書いていた。
そしてプレアデスシスターズは自ら囮となってデネブのために時間稼ぎをしていたのである。
ちなみにデネブの描いた魔法陣は全ての状態変化魔法をキャンセルするというものであった。
「しかし随分大掛かりな作戦を立てたのね。私たちの実力ならあんな相手にそこまですることないじゃない。」
そう言ったのはアリエスの服から取り出されて元に戻ったアルキオーネであった。
「誰のせいでこんな作戦立てなきゃいけなくなったと思ってるのよ。
あなたを無事に取り戻すために私たちまで相手の罠に乗ってあげたんだからー。」
メローペが恨めしそうにアルキオーネに愚痴る。アルキオーネはそれに舌を出してごまかすだけだった。
「ところでこれからどうするの?デネブちゃん。」
「う〜ん、トレミー団を倒さないといけないし、マイアさんたちもあの人たちと戦うのなら一緒に行こうかなあー。」
「じゃあ、決まり。旅は大人数の方が楽しいに決まってるし、一緒に行きましょ。」
マイアはデネブの手を固く握って振る。デネブもそれに笑って応えた。
「ところで、こいつどうするの?」
ケラエノは気絶しているクレイターを指差して尋ねる。
マイアは少し考えた後、適当な壷を持ってこさせる。
「ま、殺しても死なない連中だし、こうやって捕まえては封印することにしましょ。」
そう言ってクレイターをそこに閉じ込めて封印させた。
そして賑やかなプレアデスシスターズを加え、デネブたちの旅は続く。