とある学校の合宿で≪前編≫

作:Shadow Man


 夏休み、山奥のテニスコートに合宿にきていた女子テニス部。その練習も最終日を迎えていた。
「さて、今日で合宿も終わりね。それでは今年も恒例の先輩後輩ガチンコ勝負をするわよ!」
 キャプテンの大きな声が響く。それを聞いた1年生は厳しい練習がこれで終わるとほっとした表情をし、2年生の先輩はほくそ笑んだ。
そしてキャプテンはくじ引きでダブルスの対戦相手を決めたが、1年生が一人余ってしまった。
「ありゃ。一人余っちゃったか……どうしよう?」
「じゃあ私たちが3人相手でいいかしら?」
「あ、舞に満、あなたたちが相手してくれるの?
うん、あなたたちなら3人相手でも問題ナッシングね。」
 こうして舞と満は1年生3人相手に変則勝負を行うこととなった。

――――10分後
「もうダメ〜」
「先輩、私たちじゃ敵いっこありません〜」
「ギブアップ〜」
 1年生は舞と満に圧倒されていた。
「あら?3人揃ってもまだまだね。」
「ま、いいわ。後が楽しみね。フフフ……」
 舞と満は不気味に微笑む。

「はい、皆勝負終わったー?」
 どこのコートも勝負がついたのを見たキャプテンの声がこだまする。
「今年も2年生が全勝かしらね。
じゃあ恒例の罰ゲーム行ってみよ〜!」
「えーー!聞いてないーーー!!」
 今度は1年生の叫び声がこだまする。
「だって言ってないし〜。でも、これもこのテニス部の伝統だから我慢してね。
私たちだって去年は罰ゲーム受けたんだから。」
 そしてキャプテンは新しいくじを持ってきた。
「はい、負けた1年生の代表はこのくじを引いてね。
それから、何が出ても文句言わないこと。」
 1年生の女子たちはそれを聞いて半分泣き顔になりながらくじを引く。
舞と満に負けた3人の1年生―真由と京子と夏子―は京子が代表してくじを引いた。
彼女の引いたくじには『背中流し』と書いてあった。
「あれ?これだけ?」
 その内容を見た京子は泣きそうな顔から安堵の表情に変わった。
しかし舞と満はそれを聞いて不気味な笑いを浮かべた。

「ちょっと寄り道して帰りましょうか。」
 舞と満は帰り際に1年生を呼びつけた。京子たちはさっきまでの気落ちした態度からうってかわって軽い足取りでついていく。
「実はね。私たちも去年はあなたたちと同じ罰ゲームだったのよ。」
「えっ、そうなんですか。大変でした?」
「う〜ん、私よりも満の方が大変だったかしら?ねっ。」
 だが、満は遠くを見る目つきをするだけで、空返事をするだけだった。
「……うーん、ある意味何もしないでいいから楽かもね。」
 舞の笑いも少々引きつっていたが、1年生たちはそれに気づかなかった。

 他愛もない話を続けて舞たちは泊まっている旅館に戻った。すると夏子が旅館の横手に見慣れない物を見つけた。
それは大きな箱のような機械であり、ちょうど他の2年生が使っている最中だった。
舞と満はそれを知ってか知らずか、一旦京子たちに服を着替えてくるように言いつけ、
自分たちは先に使っている先輩たちの方に向かった。
 その機械が気になった夏子は旅館に入るや否や京子にそのことを伝えてその機械を見に行こうと言った。
「あの……止めた方が……」
 二人は真由の静止を聞かず、窓からこっそりとその機械を覗く。それに対してあたふたする真由だったが、
結局止めるのを諦めて先に部屋に戻った。

 ちょうどその時、中では機械を動かし終わったところのようで、プシューッという蒸気を吐き出すような音がして、
機械の側面から水蒸気とも煙ともつかないものが出ていた。それが落ち着くと何やら布のようなものが出てきて、
操作していた先輩がそれを巻き取っていた。
「一体あれって何??」
「わかんないよ……」
「まさかあの機械を使って背中流すのかしら?!」
「いくらなんでもそんな大げさよ。」
「じゃあ、何なのよー」
「例えば、あの中に入って私たちをさっきの布のように潰して背中を流すとか……」
 夏子のその言葉に京子が一瞬凍りつく。
「いや……それはいくらなんでもありえないでしょ。」
「でも、さっき出てきた布、人間の顔に見えたような……」
「冗談はやめてよね、夏子。そんなわけないじゃない。」
 京子は冷や汗を流しながら答える。二人はとにかく怪しまれないように部屋に戻ると真由が先に着替えて待っていた。
「どうだった?」
 真由も気になっていたらしく京子に問いかける。
「う、うん……よくわかんないけど大した事ないんじゃない?それよりも真由、先に行っていいよ。」
「あ、そう?じゃあ、先に行ってるから早く来てね。」
 真由はそう言って部屋を出た。

「ちょっと京子、何であんなふうに言うのよ。もし本当にあの機械が……」
 夏子が訝しげに訊ねるのを遮って京子が答える。
「いいのよ、先に真由を行かせて何もなければそれでいいじゃない。
私たちはこっそりと中から何が起こるのか見てからでもいいでしょ。」
 その言葉に夏子は納得して京子の作戦に乗る。


「まったく、何をしているのよ〜」
 真由だけが先に来て京子たちが来ないことに舞は不満顔だった。
「もういいんじゃない?先にこの子から始めたら。」
 満がぶっきらぼうに言う。
「そうね。どうせ一度に2人までしか出来ないんだし、下手に見られてショックを受けたりしたら後が大変だしね。
じゃあ満、2人が来てないか一応見てくれる?」
「はい、はい」
 満が無愛想な返事をして見廻っている間に、舞は真由に対してバスタオルだけを巻いて台の上に寝るように言いつけた。
真由は大人しくその通りにする。横になったところで満も戻ってきた。
「まだ二人は来ないようね。じゃあさっさと始めましょう。真由さん、両手をピシッと体の横につけてね。」
「はい。」
 真由がピシッと背筋を伸ばして両手を伸ばすと舞が機械のスイッチを入れる。すると軽い電流が真由の体を流れる。
「!?」
 真由は飛び起きそうになるが体が動かない。
「今ちょっと痺れたと思うけど大丈夫よ。そのままリラックスして待っててね。」
 そして次に舞はレバーを下げる。すると箱の蓋のようなものが真由に被さっていく。
「厚さはどのくらいがいいかなあ。2mmくらい?」
「それじゃあ厚すぎない?1mmくらいでいいんじゃない?」
『ちょ……ちょっと……何の話をしているの……』
 聞こえてくる会話に、全身が痺れながらも真由は必死に抗おうとする。
だが、指一つ動かせないまま蓋が彼女に覆いかぶさる。
「そろそろね。」
「ええ。」
「去年を思い出すわね。」
「思い出したくないわ。」
「満はまだあれがトラウマなのね。」
「当たり前よ。」
 2人がそんな会話をしている間にも蓋はどんどん真由を押し潰していく。真由は助けを求めて声を上げようとするが、
肺を潰されて声を出せない。しかしそれにもかかわらず息苦しくなく、また痛みも感じなかった。
だが、確実に真由の体の厚みはなくなっていた。

 そして外では満が機械に表示された厚さの数字を見て溜め息を一つ漏らす。
「この辺りでいいわね。」
 そう言ってレバーをあげる。すると機械はさっき京子たちが見たようにプシューという音を上げた。
そして中でコンベアが回る様な音がして、平べったい出口からタオルのようなものが吐き出される。
だがそれはタオルのような厚さに潰された人間―――真由だった。彼女の体は縦横の大きさは変わらずに
厚みだけが1mmほどになって、重さも着ていたタオル程度になったのである。
 舞はそのペラペラになった真由を半ば強引に引っ張り出すと両手に持ってしげしげと眺める。
「薄いし、軽いし、本当にタオルみたいね。私たちも去年はこんな風だったのかしら……」
 満もタオルのような感触の真由を撫でながらなにやら感慨にふける。

『私、これからどうなっちゃうの……』
 僅か1mmの厚さになったにもかかわらず、真由の意識はしっかりしていた。
しかし体を動かすことも声を出すことも出来ない彼女はまさにタオルそのものにしかみえなかった。
その真由の気持ちを知ってか知らずか舞が満に話しかける。
「満、これで『背中の流しっこ』しようね〜」
「他の二人はどうするのよ、舞」
「そうだけど、もう時間がないわ。タオルは一つあれば十分だし、あとで捕まえてお説教したらいいじゃない。」
「……舞、何か悪いこと考えてない?」
「さあね〜。」
 そう言って舞はタオルを折りたたんで風呂場へと向かう。
折りたたまれた真由は不安で心がいっぱいになったがどうすることも出来ず、ただされるがままであった。


 近くの部屋で、京子たちはその一部始終を覗いていた。
二人は声もなくしばらくお互いに目をあわすだけで、腰が抜けて動くことさえもできなかった。
 程なくして先に口を動かしたのは京子である。
「ち、ちょっ……と、あれ、見たわよね?」
「う……うん、タオルが真由みたいに……じゃない、真由がタオルにされて……あわわ……」
「と、とにかく逃げましょ!」
 這いつくばるような姿勢で京子が動き出す。
「ま、待って、京子〜」
 夏子も必死になって上半身の力だけで追いかける。そして何とか裏口までたどりついた。
「はぁ……はぁ……この先、どうするの?」
 京子に追いついた夏子がたずねる。
「そ、そんなこと言ったって、逃げるのに精一杯だったんだから何も考えてないわよ。
とにかくここは一晩どこかに隠れましょ。明日になったらどうせ皆帰るんだし。」
「それもそうね。そしたら、あの倉庫に隠れましょ。」
 夏子が指差した先にはしばらく使われてない倉庫があった。そして二人はそこに隠れてやり過ごすことにした。
『それにしても私たち、何でこんな目に……』
 心の中でそう思わずにいられなかった。


 さて、大浴場に入ってきた舞と満、そこには同じように勝負に負けた後輩をタオルにした2年生の部員たちが
互いに背中を流し合っていた。
「舞、満、遅かったわね。」
「ごめんキャプテン、2人ほど逃げ出したみたいで、それで遅くなっちゃいました。」
「あら、今年もやっぱり脱走者が出たのね。」
 キャプテンは明らかに想定の範囲内という落ち着いた感じで返事をした。

 そして舞も手に持った真由タオルを広げると、いつもの普通のタオルと同じようにお湯に浸し石鹸をつける。
「真由さん、驚かせてごめんなさい。これも私たちのクラブの伝統なのよ。
私たちも去年同じ事をさせられたけど、ちゃんと終わったら元に戻してあげるから我慢してね。
でも、その前にちゃんと私たちの背中を流すお仕事を頑張って…って、流すのは私たちのほうだけど。」
 優しい物腰の言葉で舞が語りかける。しかし真由にとってはその言葉も慰めにはならなかった。
舞はタオルをわざと真由の顔の部分が直接背中に当たるように満の背中に付ける。
かすかに感じる人肌の感触に満は思わずアッと小さな声をあげる。
「やっぱりお肌のふれあいは気持ちいいんでしょ、満?」
 そう言いながらゆっくりと満の背中を流す。そしてできるだけ真由の肌の露出している部分を触れさせた。
その度に満が喘いでいる姿を見ていつも冷静な彼女がと、他の部員たちも注目する。
「ま、舞、もう交代よっ。」
「えーまだやりたいのにー。」
 肌触りと視線に耐えられなくなった満は舞からタオルをもぎ取って無理やり交代させた。
そして今度は満が仕返しとばかり撫でるように舞の背中を流す。だが、舞は慣れているのか全く声をあげない。
するといつになくムキになった満はタオルを舞の脇から胸の方に回す。それにはさすがに舞も驚き体を竦ませる。
「ちょっと、満……え!?」
 そう言い掛けた舞の口をタオルで塞ぐ満。しかも丁度真由の唇の部分が舞の口に当たっていた。
思わずキスした格好になった舞と真由を見た満は突如フラッシュバックを起こす。


――――
 1年前の合宿の最終日、ガチンコ勝負に負けた満と舞は先輩たちによってやはりタオルにされていた。
そして他の同級生同様、自分の体をもって友華先輩の背中を洗っていた。
「生意気な1年だけど、こうなると可愛いものよね。」
「でも、タオルになってもなんかまだ反抗的な目つきよね。
もうちょっとしっかりと使ってあげないといけないかしら?」
 目つきが悪いのは元々で決して反抗的でなかった満だが、冷静な性格が誤解を生んでいた。
そんなことを知らない友華はいつもの憂さ晴らしとばかりに満を苛める。
まず、普通なら背中だけを洗われて終わりのところを、友華の体の前面や股の間までも
これでもかというほど繰り返し擦られ、さらに何度も体を湯に浸されては絞られた。
その結果、タオルの部分はボロボロになり、ペタンコになった胸を露にしていた。
それにもかかわらず、朦朧としていながらも満の意識はまだ残っていた。それに気づいた友華は、
最早タオルというよりも単に薄っぺらくなったモノでしかない満を振り回したりした。

 そんなことをやっているうちに、弾みで友華は満から手を離してしまい満はあらぬ方向へ飛ばされる。
そして丁度湯船から上がろうとしてた友華の同級生の志穂の上に覆いかぶさる格好になった。
「きゃっ……」
 突然目の前を布のようなもので覆われて視界を塞がれた志穂はパニックになった。
ジタバタして足を滑らせた彼女は顔から床に激突してしまう。しかし志穂にとっては運のいいことだが
満にとっては最悪なことに満の体がクッションになって志穂と床の間に挟まれる。
「な、何よこれ?!」
 志穂はさらにもがき続けたがために完全に満と絡まってしまい、しかも志穂の唇と満の唇がくっついたまま
しばらく2人は全く身動き取れなくなってしまった。
――――――


――あの時は本気で泣きたかったわ。けど――
 満は1年前のことを思い出して感慨にふける。その隙に舞は満から真由を奪い取る。
「やっぱりあのときの味が忘れられないのね。」
 そう言って舞は逆に真由の唇を満に重ねる。
「ウッ……」
 満は舞の逆襲を予想していたが、避けなかった。そして口づけをしたまま優しくペラペラの体になった真由を撫でた。

 それを見た舞はただにっこり微笑んだ。

≪後編≫へ


戻る