作：Shadow Man
「あー！！どうしてもうまく出来ない〜〜！！」
放課後の家庭科室に一人の女の子の声が響く。彼女の名はミランダ、チョコレートを作ろうと家庭科室で居残り特訓をしているところであった。
だが、短気な性格の彼女は何度やってもうまく作れず、テーブルの周りはいつの間にかチョコまみれになっていた。
そうしてミランダがいきり立っていると、彼女は突然後ろに寒気を感じた。
「ミランダちゃん、そんなに怒るといけないよ。」
「わっ！びっくりした〜。サラ、何か用？私は今忙しいのよ。」
しかしサラは答えずににっこりと微笑むと１本の杖をとりだした。
「はい、これを使ってみてね。じゃあ、バイバイ。」
そう言ってさっさと部屋を出て行った。
「え、あ？ちょっとサラ…？いつもながらあの子はよく判らない子ね…」
置き去りにされたミランダが受け取った杖には取扱説明書が付いていた。
「えーと、美味しいお菓子の作り方…？杖とどういう関係があるのかしら。」
ミランダは一通り説明書を読むとおもむろに杖を振りながら赤いボタンを押した。
すると杖の先から赤い色の光線が伸び、光の当たった失敗作のチョコレートが綺麗な形になった。
ミランダはそのチョコを食べてみたが、味の方も酷かったのでさらに杖を振りながら白いボタンを押した。
今度は白色の光線が現れ、チョコレートの見かけはそのままだったが、今度は味の方も美味しくなっていた。
こうしてミランダは杖の力で片思いの彼のために世界一美味しいチョコレートを作り上げた。
そしてバレンタイン当日の昼休み…
「あの…リーフくん、真心込めて作ったチョコレートです。受け取ってください！」
「え…？ああ、ありがとう。大事に食べるよ。」
「本当！ありがとう！！」
リーフがナンナからのチョコレートを受け取るのを見たミランダは、先を越された悔しさで思わずプレゼントの包みを破いてしまった。
そして昼一の授業に向かうためミランダは先に家庭科室へと移動した。
「あれ、ミランダ？今日は随分早いじゃない。どうしたのよ。」
家庭科室には同じクラスのタニアがいた。そしてその隣にはタニアからチョコレートを貰ってすっかり表情の緩んだ彼氏のオーシンがいた。
それを見たミランダはさらに嫉妬が高まった。そして怒りに任せて持っていた魔法の杖を振りながら黄色いボタンを押した。
するとタニアとオーシンの周りに一瞬のうちに巨大な氷が現れ、２人はその中に取り込まれてアイスキャンディーとなってしまった。
「全くあなたたちも見せ付けてくれる…せいぜい愛の力で氷を溶かしなさいよ。」
危ない目つきをしながらミランダはそう言い放った。そして皆にばれないように杖の赤いボタンを押してアイスキャンディーを普通の小ささにすると冷凍庫にしまった。
やがて家庭科室に生徒たちが入ってきた。
そしてミランダの憧れのリーフもナンナと一緒に入ってきた。
それを見たミランダは嫉妬の炎を燃え上がらせていたが、何も言わずにナンナの真後ろの座席に座った。
「あれ？タニアさんとオーシン君がいませんね。」
エーヴェル先生が２人のいないことを疑問に思い尋ねたが、ミランダは保健室に行っていると嘘をついて片付けた。
「じゃあ今日はケーキを作りましょうね。」
そうして全員が生クリームなどをかき混ぜ、ケーキ作りに没頭している最中、ミランダはこっそりと杖を取り出し、後ろに向け赤いボタンを押した。
するとナンナたちのかき混ぜていた生クリームが突然何十倍にも膨れ上がり、たちまちテーブルの上からクリームが溢れ出した。
「わわ…キャーッ！」
その叫び声とともに家庭科室中が大騒ぎになった。
その騒ぎの中ミランダはナンナの手を掴んで外へ出した…つもりだったが、掴んだのはナンナではなく隣の席にいたマリータであった。
「何であなたなのよ！関係ないのは出てこないで！！」
ミランダの逆ギレにマリータは全く事情を飲み込めないまま、杖の力で体を砂糖菓子に変えられた。
そして改めてナンナを連れて来ようとした時、既に家庭科室は生クリームの中に埋まっていた。
「うわ…やりすぎたかしら？」
ミランダは再び杖を使って生クリームを元に戻そうと黒いボタンを押した。
すると杖の先から黒い光線が出て生クリームを包むと一瞬にして生クリームは消え去り、あとには真っ白になったクラスメートたちが呆然と立っていた。
その中に戻っていったミランダは皆の体が生クリームに包まれたまま動けなくなっていることに気づいた。
ミランダはこれ幸いとナンナだけ生クリームの呪縛をとき、まだ放心状態にあるナンナの耳元で囁いた。
「ナンナちゃ〜ん。リーフ君とラブラブみたいね〜。」
その声というよりも、耳元で息を吹きかけられてナンナはふと我に返った。
「え、ミランダさん、何？」
まだ事情を理解できないナンナに向かってミランダは杖を振りながら叫んだ。
「そんなあなたには、チョコになってリーフ君に食べられちゃいなさい！！」
杖から七色の光線が飛び出し、ナンナに命中した。
「？？何、何が起きたの？」
ナンナは光線が当たった部分から自分の身体が茶色く変色していることに気づいたが、その意味を理解できていなかった。
「可愛いナンナちゃんには特別に教えてあげるわ。あなたはね、身体がチョコレートに変わっているのよ。
そして、バレンタインの贈り物としてリーフ君にプレゼントしてあげる。彼のことだからきっと喜ぶわよね。」
「ちょ…ちょっと、冗談でしょ。ミランダさん。」
だが、冗談抜きでナンナの身体はチョコレートに変わっていた。
そしてミランダはチョコになった服の一部を削り取り、ナンナに食べさせた。
「……！！」
ナンナは本当にチョコレートに変わっていることを認識せざるを得なかった。
それから数分かけてナンナは全身がチョコレートと化していき、最後はミランダに対して助けを請うような姿で固まった。
そしてミランダはチョコレートになったナンナをラッピングした。
「さて、リーフ君にこれをプレゼントしてあげないと。しかしチョコレートとはいえ重いわね…」
ミランダはナンナを小さくして運ぼうと杖を振ろうとしたが、その杖がなかった。
慌てて周りを見渡したミランダはまたしても真後ろにサラがいるのを知った。
今度は口の周りに生クリームをたっぷりつけていた。
「ミランダちゃん、悪戯もほどほどにね。食べられたら元に戻せないじゃない。」
「…サラ、お願い。これだけは譲れないの。私のために杖を返して！」
「だめよ、それじゃあ私が味わえないから。」
そう言ってサラは杖を振った。七色の光線が今度はミランダに当たり、彼女の身体がチョコレートに変わり始めた。
「や、やめて…ごめん、サラ。許して…」
だが、サラは構わずに今度はナンナに向かって杖を振り、彼女のラッピングをといた。
「フフフ…だ・め」
そういいながらサラはナンナのチョコレートエプロンを食べだした。
「あなたももうすぐ食べてあげるから、楽しみに待っててね。」
「そんな〜お願い、何でも言うことを聞くから元に戻して〜〜」
ミランダは涙を流しながら頼み込んだが、その涙も流れ落ちる間にチョコレートになっていた。
サラはそんなミランダに構わずナンナのエプロンを食べつくしていた。
こうしてミランダはナンナのエプロンと上着が食べられるのを見ながら全身チョコレートと化した。
「これでみんな固まったわね。」
サラはほくそ笑んだ。そして生クリームで固められたほかのクラスメートたちも同じように服だけがサラに食べられてなくなっていた。
「思ったよりもチョコレート少ない。残念だなあ…」
ちょっぴり寂しげな顔をしたサラだったが、それでもお腹いっぱいになったのでミランダ以外の生徒＆エーヴェル先生を元に戻した。
元に戻ったみんなは下着姿になっていたのでまたもや大騒ぎになったが、サラは片手で持てるほどの大きさにしたミランダをラッピングするとそそくさと部屋を出た。
放課後…
「はー、今日はなんだか大変な一日だったなあ〜」
女の子から大量にチョコレートを貰ったリーフはチョコでいっぱいの紙袋だけでなく、他の男子からの嫉妬を背負いながら家路についた。
そして家に着くと、玄関先にリーフの背の丈と変わらない大きさの箱があるのを見つけた。
「うわっ、また凄いプレゼント…誰からだろ？」
箱に添えられていたカードには『ミランダより愛を込めて』と書かれていた。
「そういえばミランダさん、家庭科の授業から見なかったけどいつの間に…？」
疑問に思ったリーフだったが、とにかく玄関にこんなものを置いておけないので自分の部屋まで持ち込んだ。
そしてリーフは箱を開け、その中身を見て思わず鼻血を出してしまった。
中身はさっきサラが全身チョコレートに変えたミランダであったが、その服はすべて剥ぎ取られて裸になっていた。
さらに必死でお願いをしている格好のまま固められていたその姿はまるで全身で愛の告白をしているようにも見えた。
もちろん、この仕掛け人はサラである。彼女はミランダを小さくしたまま自宅まで運び、そこで元の大きさに戻して剥ぎ取った服はチョコレートのままサラが食べていた。
そして改めて箱に入れてリーフ宅の玄関に置いたのである。
それはともかくも、リーフはミランダのチョコレート像をどうしようかと悩んでいた。
裸のチョコ像をこのまま放置するわけにもいかず、箱に戻そうとしたらなぜか箱も壊れて組み立てられない。
仕方なくリーフは等身大のチョコを食べることにした。
どこから食べようか悩んだ挙句、リーフは思い切って乳首のあたりから舐めてみた。
味は思ったより甘くなく、それでいて癖になるような感じだった。
さらにリーフが舐めていくと、違和感を感じた。リーフが一旦引いて舐めた跡を見ると、茶色の中に赤い部分があるのを見つけた。
『ま、まさか…！』
リーフは今度はチョコを剥いてみた。すると剥がれたチョコの下に肌色の体が見えた。
さらにリーフが全身のチョコを剥ぎ取ると、その下に固まったままの裸のミランダがいた。
「ミ、ミランダさん…」
リーフは腰を抜かしそうな感じだった。
そしてミランダの方はというとしばらく固まったままだったが、やがて自分の置かれた事態に気づき赤面してその場にうずくまった。
しばらく気まずい空気が流れた後、リーフはミランダに服を貸し、何がどうなっているのかを聞いた。
それに対してミランダは今までのことを包み隠さず話した。
「そうだったんだ…ミランダさんも僕のことを好きだったんだね。」
ミランダは顔を真っ赤にして照れた。
「あの…、リーフくん……それでお願いが。」
「どうしたんだい？ミランダさん。」
「私と…、お付き合いしてください！」
「うん。」
思いもよらない返事にミランダは思わず立ち上がった。
「私でいいんですか？！」
「ああ。今日みたいな美味しいチョコレートを食べさせてくれるならいつでも。」
その言葉を聞いたミランダはまた別の意味で顔を赤くした。
「リーフくんの馬鹿あぁっ！！」
その一部始終を含みのある笑顔を浮かべながらサラは見ていた。
「あらあら…これは意外な結末だこと。
まあ、今日は楽しませてもらったし、今度はホワイトデーの日にマシュマロでも量産してもらおうかしら。フフ…」
ＴＨＥ ＥＮＤ？